獣人と日々を歩む冒険者 ~清くも正しくもないが、信頼はある~ 【完結】 作:ごぼう大臣
「あー、くる日もくる日も暑くて嫌になるぜ」
「それになんだか蒸しておらんか? 今日は特に」
「雨になっちゃうかもしれませんね。夏は急に天気が変わりますから」
ところどころ雲がかかった夏の空の下を、ジゼル、ルナ、ナタリーの三人が話しながら連れだって歩く。鎧や武器を身につけ、いつでも仕事に行ける状態である。彼女らの前を歩くのはそのパートナーたち。うち一人であるクリスが、ナタリーらの会話を聞きながらつぶやいた。
「……やれやれ。なぜ仕事仲間だからって、ギルドからがん首そろえて出かけねばならん」
「別にいいじゃん。減るもんじゃなし」
「仲良き事は美しきかな、ですよ」
クリスの両隣でほほえむのが、アランとダニエルである。まるっきり打ち解けた顔で話す二人に、クリスは照れくさそうに眉をしかめて言った。
「馴れ合いは好きじゃないんだがな……」
「でも、女の子たちは嫌でもなさそうだぜ?」
小声でささやいてアランは後ろへ振り向き、クリスのダニエルにもそうするよう促す。すると女性たちが楽しげに話す声が聞こえてくる。
「お主ら、なかなか良い買い物をしたのう。見ただけでなんとなく分かるぞ」
「大本の理由は、暑くなってきたから買ったってだけなんだけどな」
「ルナちゃんも行く? 多少小さめでも、鎧のサイズとか合わせてもらえるかも」
「む……いやいや、最近は成長したせいかチェーンメイルがキツい気がするのう。その店にも目を通してみるか」
「大して変わったようには見えねえけどなぁ」
笑顔を見せないクリスとは対照的に、ジゼルら三人はにこやかに文字通りかしましい声をあげている。それを見たクリスは、やれやれと前に向き直った。
「……ま、邪険にする必要もないか」
「そうそう。どうせ俺らは同業者なんだし、親しくするに越した事は……」
アランがそう言いかけ、前を見た時であった。
「……ん?」
視線の先に、あるものを見つける。大人の二人連れで、男と女が一人ずつ。遠目ではあるが、鎧やマントなどを身につけているところからして、冒険者である事がうかがえた。
その二人は道の左右を見回しながら、なにやらソワソワと立ち往生している。
「なんじゃアレ?」
「見ない方々ですね」
女性陣もその姿に気づいて、アランたちの肩や背中ごしに目をこらす。すると、眺めていた二人がアランたちの姿に気づき、駆けよってきた。
「後ろ暗い事はなさそうだな。自分から寄ってきた」
クリスが警戒心のにじむ声でつぶやく。二人が近づくにつれ、その服装や容姿が少しずつ鮮明になってくる。
男性の方は、長い金髪を後ろで束ねた細身の青年だった。年は20歳手前ぐらいだろうか。質素な白シャツと唐草色のズボンを着て、丈の長いマントを羽織っている。マントは胸を留めて左右に広がり、武器を身につけている風ではなかったが、青年の碧眼はどこか緊張したようにかげっていた。
一方、女性の方は見た目23、24歳くらいで、黒く塗った金属製のアーマーと三叉状の槍を身につけている。鎧から露出した首から上を見るとかなりの色白で、白いロングヘアーを背中までたらしている。顔は笑みも何もない無表情で、白い肌もあいまってどこか近よりがたい印象を受ける。
……しかし、彼女のそんな印象よりも、アランたちはあるモノに目をうばわれた。
彼女の鎧の腰より下、黒い前垂れが前後から下半身を一部かくしている、その内側。
そこには、白い触手のようなモノが伸び、彼女の体を現に動かしていたのだ。作り物の気配は全くなく、その10本ほどの触手は根本から先まで残らず器用に脚の役割を果たしている。
人間ではない。獣人だ。アランたちは見た目だけでそう察した。
そんな二人はアランたちのすぐそばまで来ると、立ち止まって一瞬アランや他の五人に視線をめぐらせた。初対面の男女はどちらも笑顔がなく、ジゼルなどはいぶかしむように眉根をよせる。
一瞬のちに、金髪の青年の方が口を開いた。
「あの……すいません。冒険者の方ですか?」
「ええそうです。何か御用ですか?」
問われると、ダニエルが進み出てにこやかに応じる。そこでようやく青年はやや安心したのか、ホッと息をついて言った。
「ああ……すいません。この街に冒険者ギルドはありますでしょうか? 移籍するつもりで来たんですが、道に迷っちゃって……」
「なんだ、そんな事か」
そこでアランも表情をやわらげ、今来た道のりを指さして言った。
「この道をまっすぐ行けば着きますよ。俺らもちょうど歩いてきたところなんです」
その先にはややこしい建物も見当たらず、一本の広い街道が通っている。普通にそれを辿れば済むだろう……。案内(というほどの案内ではないが)したアランも他のメンバーもそう思っていた。
しかし、目の前の男女はそろって「えっ」と声をもらす。アランが目をしばたかせると、青年が女性を見て言った。
「リリィ……もしかして、また道まちがえた?」
「…………」
「僕たち、確かこの人たちが言うギルドの方角から来たよね?」
「…………」
色白の女性……リリィと呼ばれた彼女は男性からふっと目をそらす。その顔は相変わらず無表情だったが、目の奥には動揺の色があった。アランたちも首をかしげてそのなりゆきを見ていると、リリィは目をそらしたまま小声で言う。
「……どうせなら一回り、観光もしたいと思ったから」
「それ前の街に来た時も言ってなかった?」
「……ごめんケネス。謝るから」
リリィは男性――ケネスと言うらしい――に向き直り、平坦な声で言った。いちおう謝罪してはいるが、しれっとした顔で見つめられたケネスはかくんと肩を落とす。
「……まあいいけどさ」
ケネスは苦笑いしながら言って、アランたちの方をちらりと見る。気づいたアランは肩をすくめて周りに言った。
「こりゃ一緒について行った方がいいな」
「しょうがねえなぁ」
「しかし、全員が行く事もないだろう。そもそも仕事に出るところだったのだし」
「よければ僕らで行きましょうか?」
「待たんか。今回の依頼はのっぴきならんぞ。ワシらだけ中級じゃし急がにゃならん」
「そうなりますと……適任なのは」
六人であれこれと言い合ったのち、面々の視線はある人物に集まる。アランであった。
アランは目をしばたかせ、ポカンとして自身を指さす。
「え、俺?」
「お願いできませんか。初対面でも上手くやれそうですもん。僕らの時みたいに」
「そういえば、クリスさんと会った時もそんな感じでしたね」
「というか、馴れ馴れしかったというか」
「そうかねぇ……」
アランは生返事をして小さくうなる。いちおう、ダニエルたちとクリスたちを引き合わせた人物ではあるのだ。しかし今回はなんとなく雑用を押しつけられた感がある。
それを後押しするかのように、ジゼルが隣でつぶやいた。
「ヒマそうに見えるんじゃねえか? あまり仕事熱心じゃないしな」
「うるさいな」
アランはそう口をとがらせ、それからケネスとリリィの二人へ振り向き、愛想笑いをして歩みよる。
「えー失礼……とりあえず自己紹介しとこう。アラン・エローだ。こっちは相棒のジゼル」
「どうも」
「わざわざすいません。ご丁寧に」
軽い調子で名乗るアランとジゼル。対してケネスはきちんと一礼して言った。
「ラファルグです。ケネス・ラファルグ」
「……リリィ」
続けて一言、リリィが口だけを動かして名をあらためて伝える。にこりともしない彼女に、アランはやや気を遣うようにしてたずねる。
「リリィさんはやっぱり、その……なにかの獣人で?」
アランの視線は、白い触手が10本ほど生えた下半身に向いていた。リリィは気にもせず、短く答える。
「イカ」
「イカ!」
「……おかしい? でもウソじゃないから」
「や、悪い。初めて見たから。そうか、イカかぁ……」
アランが珍しげに見つめても、リリィは小首をかしげただけだった。
ケネスの方を見ると、リリィと話していた時にうかべた笑みは消え失せ、また元の緊張が目にあらわれだしていた。彼からすれば名前を知らないダニエル、ルナ、クリス、ナタリーの四人をちらちらと見て、居心地悪そうにしている。
「……………………」
そして、そろって無言。
アランとジゼルが、一瞬だけ視線をかわす。二人とも口には出さなかったが、内心では少し、やりにくそうな印象をいだいていた。
――
「……はい、これで手続きは終了です。身分証明書はなくすと再発行が大変ですので、くれぐれもお気をつけて」
「すいません。ありがとうございます」
「感謝します。手続きって毎回面倒だから」
……それから30分ほどのち、ケネスとリリィはギルド支部で移籍届けを出していた。窓口の受付嬢に、ケネスは堅苦しく頭を下げる。
その隣で、見守っていたアランとジゼルが声をかけた。
「これからよろしくな。ケネス、リリィ」
「どうだ? 前いた街と比べて、初めて見るものとかあるか?」
「……なにも。けどここじゃ、魚介類の獣人は珍しいみたい。ずっと見られてるから」
ジゼルの質問に、リリィが自分の足と周りからの視線を見比べて言う。人間サイズのイカの足を持つリリィは、ギルドにいる者たちから好奇の目で見られていた。
それを見て、ジゼルは苦笑いして言う。
「あー……まあすぐに慣れるさ。なんかあればルナやナタリーに相談すりゃいい」
「それって、さっきの一緒にいた……」
「そうそう。気のいいヤツらだし、頼りになるぜ」
「……そう。じゃあ覚えておくから」
ジゼルは明るい口調でそう言ったが、リリィは分かったのかどうなのか興味なさげな顔であった。ケネスの方を見ると、これまたもらった身分証明書の項目を細かく確かめたりして、リラックスする様子がない。
もしかして、俺がよほど信用ならないヤツにでも見えているのかな、などとアランが内心で苦笑していると、ケネスが証明書をしまい、唐突に口を開いた。
「そ、それでは僕らはこれで。失礼いたします」
「え、帰るの?」
「う……いけませんか?」
「いけないっつーか……やけにアッサリしてるなと思って。ここって見ての通り酒場もあるんだぜ?」
「…………」
まだ名前くらいしか知らないアランは、酒場をすすめながらケネスの顔を見る。表面的にうすく笑みをつくってはいるが、あまり関わり合いを持ちたくないのか視線はチラチラと出口の方を向く。そんな風に困った顔をしているケネスに、横からリリィがふっと口を出す。
「……あまり無愛想にしない方がいい」
「んんー……そう?」
「……前より長続きするかは分からないけど、お世話になるかもしれないから」
(……長続き?)
立ち去ろうとするケネスを、静かに引き留めるリリィ。そのやりとりに、ジゼルはふと引っかかりを覚える。
いったん間をおいて、ケネスは眉尻をうっすら下げつつもうなずいた。
「ではお言葉に甘えて。少しお話しさせてください」
「おういいとも。じゃ、さっさとテーブル行こう。ずっとここにいると邪魔になる」
「あまり気にしないであげて。この子、人付き合いが少し苦手なだけだから」
アランとジゼルが手近な席に座ると、リリィに背を押されながらケネスも席につく。「とりあえずエールでいいか?」とたずねたアランに周りがうなずくと、アランは職員の一人に注文を伝えた。
「こっちのエールが口に合うか分からんが、まあ皆で飲めば酒はうまいもんだ」
「なんかオッサンくせえ価値観だな」
「なんだよ、一人で飲んでも味気ないだろ。なあケネス」
「…………」
「ありゃ?」
ジゼルの嫌みに反発してアランは同意を求めたが、ケネスは目を伏せてしまった。アランが拍子抜けしていると、ケネスはマントの中から何かをゴソゴソと、窮屈そうに取り出した。
「なんだそれ?」
ケネスの手にあったものに、ジゼルが注目する。そこにあったのは、胸に抱ける程度の大きさの、小さなハープだった。ケネスは周りにそのハープを見られたくないかのように、音も立てずに椅子の片側に立てかける。
「……僕の武器です。大したものじゃないですよ」
「それ、初めて見るけど楽器だよな。ソイツで戦うのか?」
「ええ」
「どうやって?」
「魔法の一種ですよ。知りませんか?」
「えー、知らね」
「……そう」
意外そうにたずねるジゼルだが、ケネスは一言二言こたえるのみ。会話がとぎれたところで、リリィが口を開いた。
「……この子の魔法は、音楽とかけ合わせた珍しいものだから。マイナーだけど役に立つ」
「へぇー」
「そんなのあるんだ」
「この子は音楽が得意だから。ピッタリなんだ」
ジゼルやアランが感心した声をあげると、リリィは初めて柔らかく微笑んだ。
しかしその時、ケネスは反対に険のある声をあげる。
「黙ってよ。リリィ」
「あ……ごめん」
不意にあげられたその声に、アランとジゼルがおどろいて視線を向ける。するとケネスがすねたように眉根をよせ、そっぽを向いていた。アランが、おそるおそるたずねる。
「……どうしたんだよ。誉めてるんじゃねえか」
「別に、実際は大した事ないし」
「にしても、そんなにふくれっ面しなくてもいいだろ」
「……すいません」
ジゼルに言われ、ケネスはボソリと謝罪の言葉を口にする。しかしその表情はまるで悪いと思っていないようだった。
わずかに場が気まずくなる。その時、頼んだエールが運ばれてきた。
「お待たせしました。どうぞ」
「あ、きたきた。どうもー」
横から来たエールを全員に回し、アランはこれ幸いとばかりにリリィの方を見ると、さりげなく話題を転じた。
「そういや、リリィはどんな戦いかたするんだ? なんかフォークみたいな槍もってるけど」
「あ、これ?」
リリィは壁に立てかけた自身の黒塗りの槍を見る。そしてエールに口をつけてから言った。
「ずーっと遠くの、海辺の街で買った。だから潮に負けないように、サビ止めの加工がしてある」
「ふーん、なんか真っ黒でゴツく見えるな」
「別に見た目にはこだわっていないけど……やっぱり命がけだから。強そうなモノの方が使いたいから」
「分かるわ。武器もそうだけど、相棒も見た目より強さだよな。なあジゼル?」
「あ? 私の見た目がなんだって?」
「いや怒るなって。頼もしいなぁって話……よせ、たたくな!」
「お前な、酒を飲んでいようが失礼ぬかすな! ギルドの中だろうが私は容赦しねえぞ!」
「ちょ、冗談だって! やめろ!」
「……ふふっ」
騒ぎはじめるアランとジゼルを見て、リリィがおかしげに笑う。しかしそんな時、ジゼルの耳に妙な音がとどく。
(……ん?)
トン、トン、と指で弾くようなかすかな音。話し声のする屋内ではまず人には聞こえないだろうが、獣人であるジゼルは感づいた。視線を音の方向に向けると、ケネスが机を人さし指でたたいている。一度や二度ではなく何度も。一定ではなくリズムをとって。
トン、トトン、タンタン。指で消え入りそうな演奏をしながら、ケネスは目を閉じて宙を向いていた。
「ケネス?」
「――っは」
「どした、ボーッとして」
「あ、いえ……すいません。話を聞いてなくて」
ジゼルの声で我にかえったケネスはあわてて頭を下げる。ジゼルは特に怒っている様子もなかったが、ケネスのしぐさには何故か、いくらか怯えがあった。
その雰囲気にジゼルやアランがキョトンとしていると、ケネスは伏し目がちで小さく話しはじめる。
「すみません……とんだ失礼を」
「いや別に気にしてねえけど……ジゼル、こいつ何してたんだ?」
「なんか指でリズムとってたぜ。すごい集中して」
「へぇ、やっぱり音楽とかやってると色々考えるのか。新しい曲とか出来たら聞かせてくれよ」
「…………」
アランが興味を示すが、ケネスは居心地悪そうにフイッと横を向いてしまった。それを見てリリィが困ったように口を開く。
「……気にしなくていい。興味もってくれてるんじゃない」
「けど……曲を聞かせるのはあんまり……」
「無理に聞かせろなんて誰も思ってない。ただ出来たらいいなってだけ」
「……? おいおいどうした?」
アランはふと眉をひそめる。何気なくケネスに音楽の話をふっただけのはずが、なにやら雲行きがあやしい。ケネスは暗い面持ちになり、リリィとのやりとりを続ける。
「ああもう、またやっちゃった……。本当なら僕の方からも色々と話したらいいのに、一人で曲の事ばかり……」
「話ならすればいいじゃない。目の前にいるんだから」
「……むりやり話してもなぁ……」
会話をうながすリリィだが、ケネスは気が進まないのかエールの水面を見つめてうなだれる。
無言の時間が少し流れ、ジゼルがじれたように言う。
「なんか……ケネスはあれか? しゃべるよりも演奏したりする方が好きなタイプか?」
「……まあそうですね。曲もお聞かせできるほどではありませんけど」
「つれない事言うなよ。魔法と音楽のかけ合わせって珍しいんだろ? 一度くらい聞かせて……」
「それは、本当に聞きたいと思ってますか?」
「は?」
「僕に気をつかってくれていません? 本当は興味ないのに」
「それは……」
慣れない愛想をつかったジゼルであったが、ケネスの問いを受けて口ごもってしまう。ケネスの表情には少しずつ、緊張や怯えよりもいら立ちが濃くあらわれてきていた。
「……いえ、いいんです。そうして建前も言うのが普通なんですから」
「勝手に決めるなよ。何も言ってないだろ」
「なあケネス、そう怒るなよ。なんせ俺たち、お前らの事よく知らないからさ」
「…………」
アランがなだめるが、ケネスはすねたように目を合わせない。リリィがため息まじりに見つめる中、彼は独り言のようにつぶやいた。
「……知ったって結局は同じですよ。今までも、最後には一緒にやりにくくなってパーティーを抜けてきた。前いた街でも、その前でも……」
「みんな普通に見送ってくれたじゃない。ケネスが考えすぎなんだって」
リリィが言うが、ケネスは強く反発する。
「その考えすぎるところが抜けた原因じゃないか。僕なんて気づけば曲の事か、そうじゃなきゃ人間関係で悩んでばっかりで……!」
アランとジゼルが見つめるのをよそに、二人は言い争いをはじめる。そして終いには、ケネスは一人でこう結論を出した。
「……僕、やっぱりクズなんだよ。他人の事なんてまるで考えられないで、自分の事ばっかり」
「そんな事ない。ケネスみたいな人、探せばたくさんいるから。きっと」
「……知らないよ、そんなの」
会話のなりゆきに、アランとジゼルは思わず顔を見合わせた。最初は二人ともケネスらを無口で取っつきにくい程度にしか思っていなかったが、どうやら内心に穏やかでないものを抱えているようだ。
それが何かは分からないが、ケネスの言動に見える性格やリリィとの会話からして、面倒なものがありそうだった。
(……リスクから言えば、関わらないべきかもしれんが……)
アランは頭の中でしばし悩む。はたから見ればただ同業者というだけの、初対面のコンビ。普通なら、仕事で組まずにさえいれば厄介事にあう可能性もない。
ただし、ケネスとリリィの二人を見て、どうにも放っておけない気持ちがした。自己完結ぎみにふさぎこむ男と、ろくに慰めを聞き入れてもらえない女。
このまま放っておいたら、二人は破綻するか、ずるずると不幸になっていくのではあるまいか。二人の関係性を見て、アランはそんな予感がした。二人だけでは平穏を維持できないカップルというのは、実際にいる。
果たして自分の予感が当たっているか。アランはどうにかして、ケネスとリリィの事をくわしく知りたいと思った。少しずつでも親しくなり、いつかのクリスとナタリーのように、二人の仲をほぐしてやりたい。
アランはそう思って、口を開きかけた。ところがその矢先、ケネスが先に、一方的にこう告げた。
「……別れよう。リリィ」
「え?」
「今まで何度も助けてくれたけど……僕みたいなヤツに付き合わされるの、いいかげん辛いでしょ」
その言葉に、場が静まり返る。アランとジゼルはとまどい、リリィは困ったようにケネスを見返す。
その中で、ケネスはいっとう真剣な目つきで、パートナーのリリィを見つめていた。