獣人と日々を歩む冒険者 ~清くも正しくもないが、信頼はある~ 【完結】 作:ごぼう大臣
「うーん、つまらないニャア……」
「エマ?」
「どうした?」
ある日の昼下がり、宿屋のロビーでエマがついたため息に、アランとジゼルがそろって視線を向けた。
その時ちょうど、アランとジゼルはロビー脇に設けられたテーブル席で食事をとっていた。用事がなく部屋にいる客に時々、宿屋の両親らは料理をふるまってやる事がある。
雑穀の粥と、魚の干物を食べていた手を止め、エマの表情をうかがうアランたち。エマは尻尾をふりふりと動かし、腕組みしつつこう話す。
「あの二人だニャ。最近きた、ケネスとリリィ」
「あー、あの二人か。それが?」
「仲が発展してくれないんだニャー。いつ見ても普通の距離感で、それがつまらないニャ」
「仲?」
要領がつかめず首をかしげるジゼル。続けてアランが客室のドアを指さして言った。
「じゅうぶん仲良いと思うぞ。今日だって二人でいるし」
「
「にぶいニャー。私の言ってるのは、そういう事じゃないミャァ」
「というと?」
アランが聞くと、エマはキバをのぞかせてニヤリと笑い、ウインクしつつこう言った。
「男女が二人きりになれば、遅かれ早かれヤる事があるでしょうニャ」
そのセリフにジゼルは食べていた粥を噴き出しかけた。アランも虚をつかれたように言葉を失う。
それにかまわず、エマはテーブルの
「その顔、二人とも心当たりがあるミャ? ンフフ」
「いやお前、急に何を……」
「気にする事ないニャ~。少なくとも今回はケネスたちの話だから」
「今回は、って……」
気まずそうに顔を見合わせるアランとジゼル。対してエマは立ったままテーブルに腕をのせ、腰をぐ~っと突き上げてもたれかかる。ニヤニヤといたずらっぽい笑みをうかべるエマの頭ごしに、ピンと立ったしっぽの先がユラユラとご機嫌そうに揺れる。
そして視線を天井へ向けると、彼女は退屈そうにつぶやいた。
「何度ものぞいてみたけど、決定的瞬間がいっこうに見れないんだニャ」
「何度もって……常習犯なのかよお前」
「たいしたデバガメ根性だなぁ。いつかクビになるぞお前」
「そんなのリズがさせないもーん。私はクビどころか右腕だニャ」
アランたちがあきれるのも構わず、エマは背筋をのばすとその辺をくるくると回りだす。しかし少しして、奥の扉が開いて誰かが口を出した。
「エマ、何あそんでるの?」
「へっ……リ、リズ。ごめんだニャ。あはは」
リズであった。あわてて姿勢をただすエマにため息をついて、リズはこう続ける。
「悪いけど、ケネスさんたちも呼んできてくれない? 食事もいちおう用意してあるから」
「ニャ? なんでわざわざ?」
「お母さんが、たまにはアランさんたちと一緒にどうかって。席も空いてるし、いいでしょ」
「えー、リリィはともかくケネスに……?」
「忙しいワケじゃないでしょ? じゃ、お願いね」
なにやら面倒そうな顔をするエマだったが、リズはあっさりとドアを閉める。
すると一拍おいて、エマは髪の毛先をいじりながら言う。
「ケネスのヤツ、人がいるところだと居心地悪そうで面倒くさいんだよニャア……」
「あー、まあそれはあんまり言わない方が……」
「なんなら私だけでも部屋に引っ込んでいようか? 別にどうでもいいし」
苦笑するアランに、粥の残りをかきこんで頬づえをつくジゼル。するとエマはアゴに手を当てて少し考え、不意にパチンと手のひらを打った。
「そうだニャ! あれを使えば……」
エマの顔がみるみるハツラツとなっていく。その表情にアランたちがとまどっていると、エマは奥の扉の方へとスキップしていき、中の者にこう呼びかけた。
「リズー、こないだのワインまだ残ってたニャ?」
――
「ほらほら、もう少し飲むニャ。どうせ部屋はすぐそこなんだから」
「えっ……でもそう何度もいただいては」
「気にする事ないニャー。少し遅れた歓迎のしるしとでも思ってもらえば」
……それから10分ほどのち。ケネスとリリィは、アランたちと共にテーブルについていた。卓上にはアランたちか食べていたのと同じ粥と魚の干物があった。
それに加えて、ケネスらには新たに差し出されたものが一つあった。
「……いいの? こんなにワインもらって」
「大丈夫ニャー。どうせ安物だから」
「僕、エール以外は苦手なんですけど……」
そう、ワインである。エマが葡萄酒のビンから、コップに注いではケネスとリリィに差し出している。
部屋から普段着で連れ出された二人はそれぞれ、リリィは物珍しげに、ケネスはこわごわとワインを口に運ぶ。一人がコップを空にしたそばから、エマがすかさずワインを注いでいく。
「あ、もう十分なのに」
「そう言わずに。この味気に入ったニャ?」
「……まあね。地方によって味が変わるから、けっこう新鮮」
「よかったニャア。じゃ、もうちょいオマケで!」
「や、だから、もういいから」
愛想笑いするリリィのコップへ、エマはワインを継ぎ足すまでしてくる。それをそばで見ながら、アランが苦笑しつつ言った。
「おーいエマ。よかったら俺にも分けちゃくれないか」
「ダメだニャー。アランは酔ったらどんなオイタをしてくるか分からないニャン」
「……たしかに」
「いや、納得するのかよ」
うなずくジゼルに、アランがずっこける。同時に彼らは頭の中で、なぜエマがワインをもらってわざわざ勧めているのか疑問に思っていた。
(もしかしなくても、何かたくらんでるな……?)
ジゼルの顔に、疑念がにじみはじめる。
と、その時。黙って食事を続けていたケネスの席から、とつじょ陽気な声が聞こえてきた。
ふいに聞こえる、どこか調子外れの間のぬけた歌声。何事かとアランやジゼルが視線を向けると、ケネスが赤らんだ顔でコップを片手に歌っていた。
「なんだなんだ?」
「ごめん、酔っちゃったみたいだから」
リリィがすばやく立ち上がり、ケネスに肩を貸す。ケネスはなおも歌いながらフラフラと腰を上げた。
「酔ったら歌うのはまだ分かるが、随分いきなりだな」
「この子、普段から音楽の事ばかり考えてるから……あとは心配事と、私の事で、9割」
「あはは、変わったノロケだニャー」
「笑い事じゃないの。早く休ませないと」
「はいはい、お部屋はこっちだニャ~」
エマに導かれながら、酒の入った二人は肩を組んで左右に揺れながらついていく。無事に部屋まで入れ、ドアを閉めてからエマはくるりと振り返った。
「ふふ……」
「ん? エマ?」
「どした?」
エマは両手を背中側に回し、うきうきとした足取りでアランたちのテーブルへ近づいてくる。先ほどの歌で笑いそうになっていたアランとジゼルが、とまどいながらエマを見る。
すると、エマはにんまりと笑って、前屈みにアランたちを見つめながら言った。
「お二人さん。のぞきをしてみないかニャ?」
「は?」
言われた二人はそろって眉をひそめる。エマはその反応を予想してたかのように、さらに続けた。
「二人とも酔いが回っている今、いつもと違う光景が見られるかもしれないニャ。目撃するなら今がチャンスニャ」
「お前……その為にあんなにワインを」
「ふふふ、さあ? とにかく、せっかくの機会を見逃すか、どうするニャ?」
「機会って……」
狐のような目つきでささやいてくるエマに、アランは引きぎみで相づちを打つ。実のところ、彼はあまり興味がなかった。軽くからかう程度ならまだしも、のぞきなどやらかすくらいなら自分らでヤる程度の良識はある。
お前もそうだろう、という目つきで彼はジゼルの方を見る。ところが。
「うーむ……」
「……ジゼル?」
ジゼルはなにやら、腕組みをしてテーブルに目を落とし、考え込んでいた。時おり、思考の揺れをあらわすかのようにエマの顔をうかがう。
おいまさか。そう思ってアランが口を開きかけると、ジゼルがおもむろに立ち上がり、つぶやく。
「……まあ気になるわな」
「おい、ジゼル!?」
「私はまだ、ケネスを信用しきれてない。酔った時に出る本性は一見の価値がある」
「お前、とりあえずは二人の仲に口出ししないって言ったろ!?」
「まあ、それは言ったけどさ……」
ジゼルはばつが悪そうに頭をかき、肩をすくめて言った。
「やっぱりなんか……面白そうじゃん」
「お前、マジで見る気か?」
「いやいや! 肝心なとこは見ねーから! あくまでこう……雰囲気だけ確かめとく!」
「言っとくけど、のぞきはのぞきだぞ」
と、あれこれと言い合っていた二人だったが。
「二人とも~。早くしないといいトコ見逃しちゃうニャア」
「はいはい、今いく!」
「ちょ、おい……」
エマが呼びかけると、ジゼルはあっさりとついていく。その二人が外から回り込むつもりなのか屋外へと出ていくのを、アランは微妙な面持ちで見届けた。
……だが、しばらくして。
「……まあ、気にはなるかな。うん」
一人残されたアランは、そう小さくつぶやく。そしてジゼルたちの出ていった出口を見て、ごまかすように独り言を言う。
「ちょっと見るだけ。ちょっと見るだけ」
そして彼も、ジゼルとエマの後を追って忍び足で歩いていったのである。
――
「この辺りだニャ。壁の向こうに二人の部屋があるニャン」
「アラン、押すなよ。バレるだろ」
「悪い悪い。……しかし、三人も集まってひどい絵面だな」
……数分後。アラン、ジゼル、エマの三人は宿屋の裏庭に出て、ケネスたちの部屋のすぐ外側にいた。窓から頭が見えないように屈み、体を縮めてきゅうくつそうに三人でささやき合う。
「あの……何やってんスか?」
そんな三人へ、草むしりをしていたフェリクスが遠慮がちに声をかける。するとエマとジゼルがすばやく振り向き、そろって口元で人さし指を立てる。
「いいから、静かにしてろ! 今大事なトコなんだよ」
「バレたらまずいから、気にしない方がいいニャア」
「は、はあ……」
フェリクスはとまどった顔をしながらも、おとなしく草むしりに戻る。それからエマはアランの方へ視線を送り、ちゃっかりとした笑みで言う。
「私とジゼルは、壁越しでも音で何してるか分かっちゃうニャ。アランだけ窓からのぞくといいニャ」
「それ俺だけバレる確率高くないか?」
「嫌ならやめればいいミャ。ここまで来てもったいないとは思うけどニャー?」
「…………」
ケタケタ笑うエマを見て、アランはしぶしぶ窓の下側からのぞきこむ形で中を見る。他の二人はその両脇で壁に耳を押し当てた。
アランの目には、ベッドに寝そべって枕元の壁にハープを立てかけたケネス、そんな彼の足元のベッド脇に座っているリリィの姿がうつった。ケネスはリリィに見守られながら、天井を見つめて言う。
「なんか……ごめんね。急にさわいじゃって」
「別にいい。ずっと前にも似たような事あったでしょ」
「うん……テンション高くするの慣れてないから、お酒がはいると気分がコントロールできなくなるんだ」
「いいから休んでなよ。水か牛乳でももらってくる?」
「ううん、平気……」
今のところは、普通にケネスが寝ているだけである。ここから何かあるかとアランが期待していると、リリィが肩をすくめてこうケネスへ話しかける。
「にしても、歌が好きなのは変わらないのね」
「リリィより下手だけどね……。これでも頭の中では、よさげなメロディーや歌詞が浮かんでてんやわんやなんだよ」
「はたから見たら静かなのにねぇ。周りには全然そういうの打ち明けないんだから」
「打ち明けたところで大して興味もってもらえないよ。あー言いたい事も言えないこんな世の中じゃ」
「ポイズン……って、ケネスの場合は『言いたい事も言えない』んじゃなくて、『言えたとしても言いたくないけど、言わなくても
「あはは、それ言われたらもう……何も言えないや」
「まったく……」
深いため息をつくリリィ。それが気まずいのか、ケネスはくるりと壁の方へ寝返った。
そのやり取りに、ジゼルとエマがあきれた顔になる。
「……やっぱり面倒くせえな。アイツ」
「リリィの懐が深すぎて泣けてくるニャ」
「ムダ話すんなって。いま部屋が静かなんだから」
二人がささやき合うのをアランが静止する。一方、室内はしばし無言。ケネスは壁と立てかけたハープを見ながらずっと寝転んでいる。
するとリリィは座ったまま横へ移動し、上からケネスをのぞきこむようにして言う。
「……こっち向きなよ」
「……やだ」
「いいから向きなさいよ。壁見て楽しいの?」
「やだ、壁なら怒らないもん! 何も言わないもん!」
酔ってるせいか、ケネスの口調がいくらか幼く聞こえた。そのせいもあってか二人は半ば笑いながらじゃれ合うように揉み合いはじめた。
その様子を見ながら、アランは密かに期待をいだいた。これはひょっとするとひょっとするぞ、と。
そんな時。
「あ、ああもう! リリィも、ほら、酔ってたじゃない! ちゃんと休まなきゃ!」
そんなセリフをごまかすように言って、ケネスは勢いよく起き上がる。そしてハープを手に取ると、リリィの横に座ってハープの弦に手をかけた。
「しょうがないから、すぐに眠れるような曲を奏でてあげよう」
「あ、そうね。ありがとう。ちょうどいいわ」
「それじゃ、えーと……あれ、歌詞わすれた」
「曲だけじゃダメなの?」
「歌詞があると効果が上がるんだけど……まあいいや」
酒のせいか若干ボケたような言動の後、ケネスは一つ深呼吸をする。リリィが身をよせて耳をかたむけると同時に、ケネスが演奏とともに呪文をとなえた。
「
すると、ハープからゆったりとした、小さなささやき声の連なりのような曲が流れだした。聞いている者を見えない手でゆったりと抱くような、心が落ち着いてくる甘いメロディー。
「……おっと」
それを聞いていたアランも知らず知らずウトウトしだし、あわてて耳をふさいだ。たとえ睡眠のためでも戦闘にだって応用される魔法の一種。油断すればあっけなく意識を持っていかれてしまう。
そうなれば現在やっているのぞきはパーだ。
さいわい、魔法の効力に気づいてからはアランに眠気はやってこない。どうやら警戒すれば耐えられる程度の威力らしい。
なら問題ない。エマもジゼルも、のぞきの真っ最中にまさか油断はしないだろう。そう思ってアランは左右の二人へ視線を動かす。
ところが。
「…………」
「…………」
「え」
エマもジゼルも、アランが見た時にはうつむいてコクリコクリと船をこいでいた。耳が良いぶん、壁越しでも魔法があっさり効いてしまったのだろう。
まずい、とアランはとっさに二人を支えようとする。しかしそれも空しく、アランもジゼルも眠気にさそわれて前のめりになり、そろって壁に頭突きをかましてしまった。
ゴチン、と騒々しい音が二つ鳴る。直後、室内で奏でられていた音楽がピタリとやんだ。
やべ、とアランはあわてて窓から見られないように頭を下げる。しかしそこからどう逃げようかと考える間もなく、頭上の窓が開かれた。
「……何してるの? 三人とも」
「あの、いやぁ、話すと長くなる……」
見下ろしてくるリリィへ、アランは苦しい顔で答える。その両脇で、頭をぶつけたにも関わらずエマとジゼルはグースカと寝息を立てていた。
――
「……つまり、エマちゃんの誘いにのって私たちの部屋をのぞこうとしてたと」
「言い出しっぺはコイツだ。私は半分くらい乗り気じゃなかった」
「ジゼル、見苦しいぞ。あ、俺も途中まではそんな気はなかったんだけどな」
「ほんの出来心だニャ~! 許して~!」
……それから少しして、アラン、ジゼル、そしてエマの三人はロビーの真ん中に並んで正座させられていた。正面にはリリィが仁王立ちし、それほど感情豊かではないにしろ怒りを表情ににじませている。
「リ……リリィ。何もなかったんだしそう怒らなくても……」
その時、ロビーのすみで気まずそうにしていたケネスが口をはさんだ。しかしリリィは鋭い目をむけて答える。
「ダメよ。トラブルが起きないうちにキツく言うのが、むしろ周りのつとめ。甘やかしても良い事ない」
「それは……まあそうだけど」
「あなたもそう思うでしょう。リズちゃん」
「ん……その」
リリィはそう言って、カウンターに立って見ているリズへと振り向く。するとリズが答える前から、エマがすがるような声で言った。
「リズ~……」
「うっ……」
わざとらしく目に涙をうかべ、猫耳をぺたんと寝かせて助けをもとめるエマ。その表情にリズは一瞬だけ心を痛めたが、表情をひきしめてピシャリと言った。
「きちんと反省しなさい。その方があなたのためよ」
「えーっ!?」
そしてリズはくるりと背をむけ、奥の部屋へ引っ込んでいってしまった。残されたエマは先ほどまでの怯えかたがウソのように、すばやく腰を上げる。
「じょ、冗談じゃないニャ! 何されるか分かんないけど、さっさと退散――」
「えいっ」
エマが逃げようとした直後、リリィが口から何か黒いものを吹きつける。それは黒色のスプレーのように、エマの目元をよごした。
「ミャギャッ!? 何!? 見えないッ!?」
「イカスミ。ちょっとジッとしててね」
「ニャアーッ! いやぁーッ!!」
視界を奪われあわてだすエマの体を、リリィはイカ足を二、三本つかって絞めあげる。そして一本をソロソロとエマの顔へと近づけた。
そして、エマの頬にぺたりと着けた瞬間、エマが悲鳴をあげた。
「ひニャッ!? 何何何っ!? ヌルッてした! 今!!」
「さあ、何でしょう。できたら当ててみて」
「やっ離してッ……うわ、イカくさっ! リリィの足ニャアッ?! う、うぅ~~っ……」
ジタバタともがくエマの顔中に、リリィは容赦なくイカ足を押しつける。何が起きているのか見えないエマは半泣きになりながら顔をそむけて抵抗していた。
その様子を、アランやケネスは気まずそうに見つめていた。すると、ジゼルが急に背をむけて逃げだそうとする。
が。
「待ちなさい」
「のわっ!?」
リリィが足をのばし、ジゼルの足首を絡めとる。すっ転んでもがきながら、ジゼルは振り向いてさけんだ。
「勘弁してくれ! 私ホント、イカはダメなんだって! 毒だから!」
「じ、実は私もだニャー! イカを食べたら腰が抜けるんだニャ!」
「食べなきゃいい話じゃない。ホラ、口開けちゃダメよー?」
「ニャぶッ!? んん、ふ、太ッ……!?」
「ほら、ジゼルもこっち来て」
「ギャーッ! 離せーッ!!」
リリィはジゼルまでも近くに引き寄せ、二人とも拘束してイカ足を押しつけ続けた。
その間中に必死になって騒ぐ二人を見ながら、リリィは目を細め、口の端をつり上げて言った。
「しっかりガマンするのよ。逃げたらもっと続けるからね……」
その喧騒を見ながら、アランはこっそりとケネスヘ歩み寄り、苦笑いしながら耳打ちした。
「……なあ、リリィって本当はサディスト気味だったりしないか?」
「あ、あはは……あそこまでは、めったに怒らないんですけどね……」
ケネスは遠慮がちにそう答えた。それを受けてアランは苦笑いを深くし、二人で女性陣の騒ぎを眺めていた。
……後に、アランもリリィからイカ足で10回ほどビンタされる事となったのは、また別の話である。