獣人と日々を歩む冒険者 ~清くも正しくもないが、信頼はある~ 【完結】   作:ごぼう大臣

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彼女は、偏見の中で同族を探しに出かける 前編

 

「お前たち! 本当にあやしい獣人を見かけたりはしなかったかんだな!? 隠すとタダじゃおかんぞ!!」

 

「…………」

 

 ……ある朝、冒険者たちが集まるギルド支部内に威圧感のある声が響いた。

 

 声の主は、入り口に仁王立ちした、金属鎧に身をつつんで槍と剣をたずさえた男。彼らはこの国につかえる兵隊であり、ふだんは街の警備などをしている者たちである。後ろにはさらに二、三人ひかえている。

 いつもならそれぞれ依頼の手続きや仲間同士の情報共有などをしているギルドメンバーたちが、人間も獣人もそろってその兵隊を見つめている。

 

「なんだ、一体……あいさつも無しに」

 

「何も言わない方がいいぜ。口は災いの元だ」

 

「にしても、朝からうるさいヤツじゃの」

 

「事件でもあったのでしょうか……」

 

 見つめている冒険者たちの中には、アランとジゼル、そして他の仲間たちもいた。

 つまらなそうな顔をしているアランとジゼル。そしてルナ。一方、ダニエル、クリス、そしてナタリーの三人はやや緊張した面持ちで兵隊を見つめている。

 

 

 ……早朝、ギルドに人が集まりだして間もない頃であった。その兵隊は急にギルドに来るなり、開口一番に言ったのだ。

 

 『あやしい獣人を見ていないか』と。

 

 ギルドの冒険者たちはすぐには答えなかった。ただ、今のような警戒と忌避の目つきを一様に向けていた。

 

 そも、兵隊というものは国に身分を保障され、治安維持や非常時の戦力として数えられる存在である。その点、ろくな地位もない冒険者たち――とりわけ街に流れ着いて日銭をかせぐ獣人たち――に比べれば社会的な地位は明らかに上である。

 冒険者からすれば、時たま衝突するカレナ教の神官たちと似ている。

 

 人間も獣人も問わず、大多数の冒険者にとって関わりたくない存在であった。

 

「あの……何かあったんですか?」

 

 沈黙を破り、ダニエルがおそるおそる尋ねる。すると兵隊はため息をつき、冒険者たちを見回して言った。

 

「先日、隣の街で暴れていた盗賊どもがこの近辺で捕まった……。数にして10人ほど。今は我々で勾留している」

 

「それで……ここへは何故?」

 

「……実は、盗賊のメンバーに獣人の女が一人いてな。ソイツだけ取り逃がしてしまったんだ。近くで潜伏している可能性がある」

 

(……なるほどね)

 

 アランは内心でひそかに合点した。

 兵隊が冒険者ギルドをわざわざ訪ねる時は、たいてい面倒ごとを持ってくる。

 たとえば犯罪などが起きたさい、冒険者たちを疑う場合がある。冒険者の社会的な地位が低いのもあるが、主な原因は獣人たちがたくさん所属している事だった。

 どこからともなく、獣人の一人が不満の声をあげる。

 

「アタイらを疑ってるって言うの?」

 

「不満か? 同族の者がかくまっている可能性を考えるのは自然だろう」

 

「ふざけんな! 私らなんも知らねえよ!」

 

「とっとと帰りぃや自分。仕事の邪魔や!」

 

「そーだ、帰れ帰れ!!」

 

 ギルドの中がたちまちブーイングにあふれる。すると兵隊たちは顔を見合わせ、何かの紙を取り出した。先頭の兵隊がその紙をかかげ、ブーイングをかき消すほどの怒声をあげる。

 

「黙らんかッ!! 言っておくがな。我々も似顔絵を作成して手配するつもりだ。隠していると後悔するぞ!」

 

「似顔絵……って」

 

 アランは群衆のすき間から兵隊の手元へ目をこらす。そこには確かに細々とした文章とともに、ウサギらしき耳の生えた女性の顔が描かれた依頼書があった。

 そして、兵隊はその紙を持ってズカズカと群衆を割って進んだかと思うと、掲示板に貼られた依頼書の上に、その似顔絵つき依頼書をバンと貼りつける。

 

 一同がそちらへ注目すると、兵隊は依頼書を後ろ手に指して言った。

 

「お前ら冒険者どもの方にも、その逃げたヤツを探してもらう。身内の恥はお前らですすげ」

 

「身内ってなんだよ! 俺らは犯罪なんかしてねーぞ!」

 

「それに、もっと頼みかたってのがあるでしょ!?」

 

「あーもー、うるさい、うるさいッ!! 底辺どもが文句をいうな! とにかく用は伝えたぞ!!」

 

 憤慨する冒険者たちに兵隊はどなり返し、怒りのまなざしを向けられる中をまたズカズカと歩いて帰っていった。

 直後、残された者たちが、口々に先ほどの兵隊の悪口を言い出す。

 

「感じ悪ッ。なんだアレ」

 

「ほっとこうよ、あんなの」

 

 顔を見合わせてそう言いながら、ギルドメンバーの大半はそろぞろと支部を出ていく。そんな中、ジゼルは兵隊が貼っていった依頼書をしげしげと見つめていた。

 似顔絵の女性はウサギの耳を持ち、髪が長く、あどけない赤い目をしていた。罪人として描かれたにも関わらず、その顔つきは悪どさのない若者という印象だ

 

「……どうした、気になるか」

 

 気づいたアランが声をかけると、ジゼルは振り返らずに答える。

 

「……この女さ、本当にただの悪党なのかな」

 

「ん?」

 

「いや、例えば……無理やり連れ回されたりとか、してないかなって」

 

 その言葉に、そばにいたルナ、ダニエル、クリス、ナタリーがふっと視線をかわす。そしてまずアランが少し考えてから口を開いた。

 

「……さあなぁ。会った事もないし、なんとも」

 

「けど、こうして私らで捕まえろって言われたんだぜ? 放っておいたらお縄だ。もう罪人あつかいじゃねえか」

 

 ジゼルは不満げに仲間たちの顔を見回す。先ほどの兵隊の態度もあって、獣人に事情があるのではと考えてしまうのだろう。

 それは単なる同族びいきではなかった。聞いたダニエルは悩ましげに言う。

 

「確かに……獣人の方々が街に入るのは大変だと聞きますね」

 

「そうなのか? 私はたまたま親に連れてこられたけど……」

 

「今まで、近くの村まで移動するのも苦労したでしょう。働き口のある都会までとなると、長い距離を旅する事になります」

 

 ダニエルは深刻な顔でうなずく。すると近くのルナやナタリーも思い当たったように言う。

 

「そう言えばワシも……ずいぶん前になるが一人旅をしたのう。道をまちがえたりして苦労した」

 

「私もやりましたね……。でもルナちゃん、私たち飛べるんだから迷ったら空から行けば……」

 

「う、分かっとるわい! すぐに気づいたわ、そんなの!」

 

 キョトンとしたナタリーの問いに、ルナは恥ずかしげに答える。すると今度はクリスがまじめな顔で口を開いた。

 

「まあ、道中が殺伐としているのは間違いないな。言いたくはないが、国だって獣人が死ぬのは気にしていないだろうし」

 

「へっ、何があっても知ったこっちゃねえってか。ますますこの獣人を信じたくなるな」

 

「……放っておいた方が楽なんだ。いちいち見下している存在の事情を汲むよりはな。……嘆かわしい」

 

 ジゼルの気持ちに配慮しつつも、クリスの面持ちは暗かった。普段あまり口にしていなくても、獣人を取り巻く環境はやはり悲惨なのだ。

 彼らが浮かない顔で話していると、ふいにトゲのある言葉が浴びせられる。

 

「おい、そろそろどけよ」

 

「いつまでもそこにいたら、依頼書が読めねーだろ」

 

「ウチら、ずーっと待ってんねんで」

 

「あ、悪い悪い……」

 

 ギルドに残っていたメンバーたちが、掲示板の前で不満をもらす。アランがあわてて頭を下げていると、ジゼルは何のためらいもなく、先ほどまで見ていた依頼書をむしり取った。

 

「え、ジゼルさん!?」

 

「コイツは私がやる。今決めた」

 

 驚いた顔をするダニエルへそう宣言すると、ジゼルは一人でその依頼書を持ってカウンターへと歩きだした。

 アランたちがあわてて追うと、ジゼルはふと振り向き、アランへたずねる。

 

「……そういやコレ、なんて書いてあんの」

 

「え?」

 

「ほら、私……人間の文字よく知らねーから」

 

 ジゼルは頬を赤くして、アランへ依頼書を見せる。アランは苦笑いして書かれた文章を追い、答えた。

 

「……『逃亡した獣人について情報を渡すので、依頼を受けた者は兵隊の詰所へ来られたし』だとさ」

 

「わざわざ連中に会いに行くのか……」

 

 ジゼルはため息まじりにつぶやく。それを見たアランは後ろを振り向き、こう言いだした。

 

「なあダニエル、ルナ。今回ちょいと手伝ってもらえないか?」

 

「へ?」

 

「ワシらか?」

 

「ルナがいたら暗くなっても調べられるだろ。それに、二人じゃちょいと不安でな」

 

 アランがそう頼むと、ジゼルは沈んだ表情をいくらか柔らかくした。そんな彼女の肩を、アランはついでのように叩く。

 

「心配すんな。俺もついて行くから」

 

「…………」

 

 その言葉に、ジゼルはシュンとしながらうなずく。すると、今度はクリスが横からたずねた。

 

「お前たち、まさか今から行くのか? ずいぶん急だが……」

 

「今すぐだ! ウカウカしてたら捕まえるどころか、殺されちまうかもしれない!」

 

「む……」

 

 ジゼルが勢い込んで答え、クリスは思わずたじろぐ。獣人の罪人などどんな目にあってもおかしくない。そんな考えが彼女を焦らせていた。アランやダニエル、ルナもそれを察しているのか、何も言わなかった。

 クリスは小さく息をつくと、きびしい顔で口を開く。

 

「……言っておくが、国からすでに罪人とされているのを忘れるなよ。庇ったりすれば、お前らも危ないぞ」

 

「それは追ってるヤツが悪人だったらの話だろ? 今はまだ調べる段階だ」

 

「……お前、事によっては宿や近しい連中にも……」

 

 迷惑がかかる。そう言いかけて、クリスは言葉を切った。ジゼルの瞳に、見るからに力がこもっていたのだ。獣人の無実の可能性を、本当に信じている。

 クリスは目をしばし閉じ、くるりと背を向けた。

 

「……いったん、宿にもどろう。リズたちやケネスたちに、少し事情を話しておいた方がいいだろうし」

 

「クリスさん?」

 

「いざという時に、気構えができるようにな。万が一裁判やらの騒ぎになれば大変だ。……ナタリー、来てくれるか」

 

「はっ、はい」

 

 あわてるナタリーを連れ、クリスは外へ出ていく。その背中を見ながら、ジゼルはわずかに顔をくもらせた。

 まだ調べる段階。そう言ってしまった。下手をすれば周囲の人間も、アランや仲間たちも巻き込む。それを急に意識してしまい、ジゼルは緊張に目を伏せる。

 そんな彼女の背を、アランはぽんと叩く。顔を上げるジゼルへ、彼はほほえんで言った。

 

「さ、とにかく行こうぜ。まずは依頼の手続き済ませないと」

 

「……ああ」

 

 視線をめぐらせると、ダニエルもルナも頼もしげにうなずき、ジゼルを見ている。彼女は気を取り直し、こっそり深呼吸した。

 

 

――

 

 

「ウォルター隊長、例の冒険者どもをお連れしました」

 

「……貴様らが、依頼を受けた連中か」

 

 ……一時間ほどのち。アランたちは街の中心部にある、兵隊らの詰所をたずねた。入り口で武器をあずけたのち、いかつい鎧をまとった兵隊たちに案内され、執務室へと通された。奥の机で書類をかたづけている男が、アランたちをジロリとにらむ。

 

「…………」

 

 アランたちは四人とも口を開かない。無礼というワケではなく、無用な口をきかないようにと言われているのだ。獣人を引き連れた荒くれ者など、兵隊から見れば使い捨ての道具にすぎない。彼らの背後には、万が一に備えて何人かの兵隊が見張っている。

 

 執務室の机に座る男――ウォルターと呼ばれた――は、書類に走らせていたペンを止め、アランたちを用心深く見つめる。

 街の警備をあずかる隊長だというその男は大柄な体格で、骨ばった顔にアゴ髭をたくわえた四十代の男だった。彼は笑みの一つも見せないまま、四人に向かって口を開く。

 

「話は聞いているだろうが、街の近辺で盗賊一味の獣人が一人逃げた……。性別は女。種族はウサギ。今は行方知れずだ」

 

「…………」

 

「直接見た部下の証言によれば、背は高く、20手前ほどの年齢に見えたらしい。武器は持っておらず、盗賊と戦うドサクサにまぎれて逃げた、と」

 

 ウォルターは事務的にそう話す。するとアランが、話がときれた隙におそるおそる言った。

 

「あの……すみません」

 

「む?」

 

「その獣人って、盗賊の中でどんな立ち場にいたかとか……分かります?」

 

 ぎこちなくアランがたずねると、場に緊張が走る。黙って働くべき者が質問をした。それだけで冒険者は信頼もとい忠誠心がうたがわれるのだ。

 ジゼルはハッとしてアランを横目に見る。ダニエルやルナもとっさに姿勢をただした。

 ウォルターは眉をひそめていたが、アランをにらみつけてこう聞き返す。

 

「……なんだ? 賊どもと行動していた獣人の内情が、そこまで気になるか?」

 

「そうは言いましても……ただの仲間としては、妙じゃありません? 獣人の女の子が、たった一人なんて」

 

「その獣人は兵隊を見て逃げだした。どうせ食うに困って賊に加わっただけだろう」

 

「そんなの、決めつけじゃねえかよ!」

 

 ウォルターの物言いに、今度はジゼルが声をあげる。室内の緊張が深まると同時に、後ろにひかえた兵隊たちも身構える。

 そして、ウォルターが低い声で前置きした。

 

「……言っておくがな」

 

 目つきが鋭くなり、彼は続ける。

 

「我々はそもそも、冒険者をふくめた獣人を信用していない。人間の街にもぐり込み、無学な連中とつるんでいる」

 

「…………っ」

 

「ましてや、盗賊と一緒だった獣人などに情けをかけてやる気はない。そもそも人とは違う存在だというのに、異物として処理せねば危険だろう」

 

 ウォルターはあまりに冷徹な声で言った。それを聞いていたジゼルは拳をにぎり、表情に怒りをにじませる。ルナもムッと眉をつり上げた。

 その時、ダニエルがためらいがちにたずねた。

 

「あの……質問なのですが」

 

「なんだ?」

 

「例の獣人を見つけた際は……やはり生かして連れ帰った方がいいんですよね? まさか、殺していい……だなんて事は」

 

 もしかしたら殺す気かも知れない。そんな恐れで、ダニエルの口調が尻すぼみになる。

 ところが、ウォルターはそれを聞いてふと表情を変えると、やや興味深い様子でこうつぶやく。

 

「ふむ……拘束する余裕がないなら殺してもかまわないが……生かして持ち帰るのも悪くないな」

 

「……と言いますと?」

 

「生きている方が、どんな罪状があるか吐かせやすいだろう? 民衆にも、その獣人の愚かさが周知できるという事じゃないか」

 

 ウォルターの顔が、嫌みったらしく歪められる。ジゼルが思わず怒鳴りかけたが、それより早くウォルターはそっぽを向いてしゃべり続ける。

 

「さいわいこの街には大きな教会もある。人を集めて、大規模な裁判もできるだろう。公衆の面前で、神に懺悔してもらおうじゃないか」

 

「テメェ……それはどういう意味」

 

「ただの独り言さ。最近は獣人と馴れ合う市民も目につくから、ついな」

 

 いら立ったジゼルの言葉に、ウォルターはわざとらしく肩をすくめる。思わずジゼルは足を前に出し、詰め寄ろうとした。

 が、すんでのところでアランが肩をつかんで止めた。キバをむいて振り向くジゼルを目でなだめ、アランはさも何も思っていないかのように淡々と言った。

 

「……そろそろ行ってよろしいでしょうか。なるべく早くお役に立ちたいので」

 

「分かった。……ああ、そうそう」

 

 ウォルターはうなずきかけ、思い出したように告げる。

 

「その獣人を捕まえるにしろ殺すにしろ、門番に必ず引き渡せ。我々の方で処遇を決める」

 

「かしこまりました」

 

「万が一、市内に解き放たれたりしたら困るからな」

 

「…………」

 

 ニヤニヤしながら釘を刺すウォルター。アランは無言で一礼し、周りの仲間にも目で合図する。ウォルターも見張っていた兵士たちに命令した。

 

「出口まで連れていけ」

 

「はっ!」

 

 ……最後まで気まずい雰囲気のまま、アランたちは詰所を出る事となった。装備を返してもらい、詰所の敷地から離れたところに来て、ジゼルが一度だけ強く地団駄を踏んだ。

 

「クソッ! ムカつく野郎だ」

 

「まあまあ……言っても仕方がないですよ」

 

「にしても、軽く見ているのをあれだけ隠さないのも珍しいのう」

 

「…………」

 

 ダニエルは苦笑いしながらなだめるが、やはり獣人としては我慢ならないのかルナもしかめっ面だった。

 そんな中で、アランはめずらしく深刻な顔をして黙っていた。そして、ポツリとつぶやく。

 

「生かして帰れば裁判、死んだらそれまで、か……」

 

 そのつぶやきに、他の三人が自然と目を向ける。そして、内心で実は同じ事を考えているかのように、同時に顔をくもらせた。

 ジゼルが不安げにアランへ言う。

 

「なあ、裁判になったらすぐに死刑……なんて事はないよな?」

 

「…………」

 

「どんな事情があったかとか……なんか、情状酌量みたいな事くらいしてくれるよな? 問答無用で殺されたりしないよな?」

 

 ジゼルは弱気な調子で、答えないアランに向けて問い続けた。一度でも悪人と見られた獣人は、死ぬしかない。そんな残酷な現実が見えかくれし、彼女は必死に問いかけを続ける。

 『そんな事はない』。無意識に、そんな答えを求めて。

 

 しかし、アランの言葉は違っていた。

 

「……今は、考えるのはよそう」

 

「アラン……」

 

「まずは獣人を見つけるのに集中しようぜ。時間がないって言ったのはお前だろ」

 

 そうやってはぐらかし、アランは歩きだす。焦って追いかけるジゼルへ、彼は振り返って言った。

 

「……とにかく、生きているうちに見つけよう。死なせちまったら、もう最悪だ」

 

 最悪の事態だけは避けよう。そんな言っても仕方ない事を言って、アランはまた歩きだした。ダニエルも一瞬うつむいていたものの、すぐその後をついて行く。その背中をジゼルがくやしげに見つめていると、ルナが横から声をかける。

 

「悩んでもどうにもなるまい。どのみち放置するワケにはいかんじゃろ」

 

「ルナ……」

 

「ワシも信じとるよ。例の獣人は単なる悪人ではないと。それを確かめねばならんのじゃろ?」

 

「…………」

 

 気丈にほほえみかけるルナ。その顔を何秒も沈んだ表情で見つめていたジゼルだったが、やがてうなずいて歩きだした。

 

(そうとも……大丈夫。調べれば、きっと悪いヤツじゃないと分かる。多分……そうだ)

 

 何の確証もないが、ジゼルは会った事もない獣人の無実を信じていた。同じ獣人だから、そんなある種の偏見を持ったまま、ジゼルは仲間とともに街の外へ向かった。

 

 

――

 

 

 

 ……ジゼルたちがそうして街を出る、少し前あたりの出来事だった。

 

「あぐっ……があっ……!」

 

 街からほど近い森の中。ひと気のないその場所で、うめくような悲鳴が響いた。湿った土の上に、一人の旅人らしき服装の男が地を流して倒れている。

 それを傍らに立って見つめる、一人の人物がいた。

 

「ふふ……あはは……! 上手くいった……早くカネを取らないと」

 

 震えながら、そんな高揚した声をあげるのは若い女性だった。やせて背が高く、長い髪を持ち、頭からウサギの耳を生やした獣人。

 手に血のついたナイフを持った彼女は、死体のふところを漁りながらつぶやく。

 

「こうしなきゃ生きられないんだもん……。仕方ない。仕方ないよね……ふふっ」

 

 自己正当化する独り言をつぶやくその女は、口角を上げてにんまりと笑っていた。

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