獣人と日々を歩む冒険者 ~清くも正しくもないが、信頼はある~ 【完結】   作:ごぼう大臣

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彼はこうして、ぶっそうな一言を聞く

「この武器は東洋で生まれました。この国の発明品じゃありません。かつては輸入品に頼っていましたが、今やこちらで再現する時です」

 

「…………」

 

 ある日、カルロスは自分の店の商品を手に取ってペラペラと客にしゃべりかけていた。

 そこにあるのはやや湾曲した細身の刀や金属製の扇、また金属製の笛など、この国ではあまり見かけないタイプの武器たちだった。

 それらを自慢げに勧めるカルロスの話を目の前で聞いているのはクリスである。真剣な顔で耳を傾けながらも、その顔はどこか退屈そうだった。

 

「……防具を見るのは好きだ」

 

「防具の方がお好き! けっこう! ではますます好きになりますよ!」

 

 反面、カルロスは店内をさっさと移動して防具のコーナーへクリスを案内する。そしてある一つの鎧を指して言った。

 

「どうぞ。入荷したばかりの新商品です。風変わりでしょう? んああ仰らないで。材料はなんと植物の(つる)。でもレザーなんて見かけだけで、夏は熱いわ滑るわすぐヒビ割れるわ、ろくな事がない。耐久性もたっぷりありますよ。どんなひ弱な方でも大丈夫。どうぞ、触ってみてください。いい堅さでしょう? 余裕の感触だ。発想力が違いますよ」

 

 東洋で発明されたらしい、草を編んだような見た目の鎧を示しながら、カルロスはますます流暢に説明を続ける。それをクリスはひたすら黙って聞いていた。

 

「…………」

 

 それを少し離れて見守る、四人の人影があった。クリスの相棒ナタリー。そしてアランとジゼル、そして店の小僧のバジルである。

 先ほどから一言も言葉を発しないクリスを見ながら、アランは苦笑いしながら言う。

 

「あー、こりゃ当分ぬけ出せそうにないな」

 

「人の話を遮るとかしたくねえんだろうなぁ。真面目なヤツ」

 

「ああいうの、いつかサギに引っかかるぜ」

 

 隣のジゼルと一緒に、こっそり陰口をたたくアラン。するとナタリーがクスクス笑いながら言った。

 

「クリスさん、このお店が好きなんですよ。買い物よりお話がしたいんだと思います」

 

「なんだそれ?」

 

「皆さんの前では口に出しませんでしたけど……『カルロスの店が潰れてないかな』ってしょっちゅう心配してたんです。セールストークが上手くなって、むしろ安心してると思いますよ」

 

「そんなもんかね」

 

 うれしそうに話すナタリーに、ジゼルはなんだかなぁという顔をする。すると今度はバジルがニヤニヤしながらつぶやいた。

 

「けど店としては買ってくれなきゃ始まらないッキ。ここは一つ、おじさんも粘らないと」

 

「おいおい、頼むから無理やり売るのはやめてくれよー?」

 

「商売はそんなに甘くないッキ! 今月はね! 一日(いっぴ)からね! 飛ばしていきますよ!」

 

「はいはい、商売熱心な事で……」

 

「一番気になってるのは……値段だ」

 

「あ、お値段はですね。ざっと500万ゴールドから……あれ!? どこ行くんです!?」

 

 カルロスとクリスの話が長引くのを尻目に、アランは生暖かい目でバジルの意気込みを聞いていた。ついでにアランはからかい半分にバジルへ質問をぶつける。

 

「実際のところ経営はどうなのよ? 上向いてるのか?」

 

「もちろん順調だッキ! 僕がしょっちゅう呼び込みしてるおかげ!」

 

「へぇ。そりゃ良かったけど、あまり一人になると危ないぜ」

 

「お店のためなら怖くないッキ。それに昨日、興味もってくれたお客さんもいたッキよ!」

 

「ふぅん、本当に?」

 

「本当だッキ。……ふふ、足音で分かるッキよ!」

 

 首をかしげるアランの前でバジルは不意に戸口へ目を向けると、一直線に外へ出た。アランやジゼルが面食らっていると、外から壁越しに人懐っこい声が聞こえてくる。

 

「あ、来てくれたッキ! ……ええ、僕はこれからまた呼び込みに行くから、応援よろしくッキ!」

 

「へっ、マジで分かんの?」

 

 ジゼルが驚くのをよそに、バジルらしき子供の足音が遠ざかっていく。そして入れ替わりに、二人組の冒険者らしき若い男女が入ってきた。

 

「ホント働き者だよね~。あのネズミ君」

 

「地味だけど、商売となっちゃ大変なんだろうよ」

 

 そこにいたのは、皮と羊毛を組み合わせたお揃いの鎧を着た、人間と獣人の二人組だった。

 そのうち、ガッシリとりとした体格の人間の女性がカルロスを見るなり口を開いた。

 

「あ、オジサ~ン! 昨日のアレってまだ残ってる~?」

 

 明るく間の抜けた声でそう切り出す女性。うっすら日焼けした顔と茶髪のポニーテールが、またノリのよさそうな雰囲気を醸し出している。

 一方、カルロスは女性の声に気づくなりクリスを放り出して接客に駆けつけた。

 

「はいはい、もちろん残っておりますよ! こちらへどうぞ!」

 

「わーい、やったー!」

 

 カルロスに誘導され、女性はパタパタと示された商品棚に駆け寄る。するとその背中へ、パートナーらしき獣人の男性が言った。

 

「……バーバラ。たまたま見かけた店ですぐ買うのか? こちとらやっと中級になれたのに……」

 

 男性は、尻の上あたりから茶色い毛につつまれた長い尻尾がのびていた。アランはそれを見て、サルの獣人だと察した。背中には武器らしき1メートルほどの棒を背負っている。

 バーバラと呼ばれた女性は振り向き、商品を両手に持ったまま笑って答える。

 

「もー、ブラッドってばお堅すぎ! いーじゃん好きなもの使えば!」

 

「けどよ、まだまだ上級になれてすらいないのに、そんな事いってる場合じゃ……」

 

「あ、コレいーじゃん! 見て見てブラッド! ほら!」

 

「…………」

 

 ブラッドという獣人はバーバラのブレーキ役のような雰囲気だったが、珍しい商品に夢中になっているバーバラにはタジタジであった。カルロスもここぞとばかりに商品をすすめる中、置いてきぼりになっていたクリスへ、アランは近づいた。

 

「おいクリス、どうする? 今のうちに帰るか?」

 

「…………」

 

 笑いながらささやくアラン。しかしクリスは何も答えず、バーバラとブラッドの方を見つめていた。

 アランがいぶかしげにその顔をのぞきこむと、クリスはなにやら目を見開き、呆然としながらつぶやく。

 

「……あの二人……」

 

「? 知り合いか?」

 

「ああ……以前ナタリーと二人でいた時に、ちょっと」

 

 クリスはバーバラたちから目を離さず、独り言のように言った。アランがとまどいながらナタリーへ振り向くと、彼女もジゼルの隣で驚いたように立ちすくんでいた。

 よっぽどの事があったのだろうか。内心でそうアランが考えていると、バーバラの視線がふと、突っ立っているクリスに向いた。

 

「へっ?」

 

 目の合ったクリスが、間の抜けた声をあげる。それにつられてブラッドとカルロスもクリスの方を見た。

 その状況に、アランはかすかに緊張をおぼえる。先ほどクリスとバーバラたちに"よっぽどの事"があったのかと疑ったが、そのよっぽどが万が一ぶっそうなモノであったならこの場でいさかいが起きる可能性がある。

 いざとなったらまず店の外に誘導しよう、とアランがひそかに備えていると。

 

「んん~~??」

 

 バーバラはやにわに眉をしかめ、クリスの顔を無遠慮にのぞきこむ。思わずのけぞったクリスへ、バーバラは不意に顔をほころばせ、大声で言った。

 

「あーっ! あの時の死にかけてたお兄さん!!」

 

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