獣人と日々を歩む冒険者 ~清くも正しくもないが、信頼はある~ 【完結】   作:ごぼう大臣

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彼はこうして、ソフィアにある提案をする

 

「うぅ~さぶっ……」

 

「朝っぱらからこの気温はこたえるなぁ。とうとうあの悪夢の季節がやってきたか……」

 

「こちとらもう毛がほとんど生えかわってるよ」

 

 ある日の朝。街の近くの森を歩きながら、アランやジゼルは互いに顔を見合わせて愚痴をはいていた。原因は辺りをちらつく雪。まだ小さな粉雪ではあるが、すでに森の枯れ草の上に薄く白い層をつくっている。

 おまけに息も白くなり、アランはジゼルと比べてもしきりに両手を擦り合わせていた。そんな彼に、すぐ後ろから声をかける者がいる。

 

「アランさん。靴の中に唐辛子を入れたりしました? そうでなくても何か足に巻いたり」

 

「あー……やってねえな。いつも通りだ」

 

「準備が足りないのう。うかうかしてるとすぐに冬が来てしまうぞ」

 

 後ろを歩いていたのはダニエルとルナの二人。寒さに肩を震わせるアランへ、呆れた笑みを向けている。ダニエルは杖を器用に地面に射しつつ、周囲を見渡して言った。

 

「まあ、今回に限っては心配いらないでしょうけどね。季節の変わり目に、森を見回るというだけですし」

 

「そうさな。いざとなりゃジゼルの鼻に頼ればいいし」

 

「あー、こう寒いと鼻かぜが不安になってくるぜー」

 

「油断しすぎると良くないぞ、お主ら」

 

 あれこれ話しながら歩く四人。今回の彼らの仕事は冬にさしかかる森の見回り。以前にもやったような依頼であり、ほとんどの場合はただ歩いて回るだけとなる。

 しかしそんな簡単な仕事の最中、ジゼルは歩きながらふと後ろへ振り向き、トゲのある声をあげた。

 

「……で、いつまでついて来てるんだ?」

 

 その声に、アラン、ダニエル、ルナの三人も振り向く。その顔には別段驚きはなかった。彼らの数メートル後ろには、隠れもせずに後をついてくる二人の影がある。

 

「別にいいじゃん。いつまででもさ」

 

「アランさんの様子が気になるだけです。何も危害はくわえませんから、お気になさらず」

 

 そこにいたのは、ともに黒いローブを着た二人。見た目14歳ていどのカメレオンの獣人ソフィアと、体の白い蛇の獣人、クロエの二人組だった。互いに顔を見合わせて笑いながら、アランたちの後ろを何をするでもなくついてくる。

 ジゼルは歩を進めながら、それを警戒した目つきでしきりに見つめていた。一方でダニエルとルナは不思議そうな顔でクロエたちを見て問う。

 

「あの……お知り合いですか?」

 

「知り合いっつーか……絡まれてるというか」

 

「追い払うか? 必要ならワシらも手伝うぞ」

 

「いや、いいんだ。無駄に荒事を起こしたくはない」

 

 ジゼルは鬱陶しげな口ぶりだったが、一方でアランは拒絶するのは気が進まない風だった。ダニエルたちは戸惑った顔をしながら、警戒しつつ森を進んでいく。

 と、その時。

 

「あつっ……ぅ」

 

「ソフィア!」

 

 ふと、ソフィアが短くうめく声が聞こえた。アランたち四人が振り向くと、ソフィアが地面にひざまづいている。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

 それを見てダニエルが駆け寄る。が、ソフィアはぷいっと顔をそむけてしまった。

 

「別に。ちょっと足が冷たかっただけ」

 

「やはり冷えますわね。少し休んでも……」

 

「いらないよ。慣れてるし」

 

 ソフィアは口ではそう言ったものの、不快そうに顔をしかめていた。そこにルナもやってくると、彼女はソフィアの足を見てある事に気づく。

 

「なんじゃお主、靴を履いておらぬではないか!」

 

 その驚いた声に、アランやジゼルまでやってくる。そして、ソフィアが裸足である事に気づいた。

 アランが顔を上げると、クロエが気まずそうな顔をして言う。

 

「お金もないのに、なかなか新しいモノは手に入りませんわ。ましてや、靴なんて贅沢品」

 

「いらないってば。いちいち履いたり脱いだり面倒だし」

 

「でも、もう冬になりますし流石に……」

 

 クロエは心配そうに見つめるが、ソフィアはやせ我慢しているのか辛そうにしながらもいらないと言い続ける。すると、ルナがおもむろに靴を脱ぎ、ふわりと翼で浮かんで言った。

 

「……使うか? ワシの靴」

 

「は?」

 

「遠慮するでない。ワシは飛んで動いておればいいんじゃ」

 

 ソフィアは露骨に警戒するが、ルナは笑いながら自分の脱いだ靴を指さす。ソフィアがなおも渋っていると、ルナは腰に手を当ててさも呆れたように言う。

 

「早うせい。せっかく足のサイズも合いそうなんじゃから」

 

「いらないよ。会ったばかりのヤツからいきなり」

 

「もらえるモノはもらっておけ。他ならぬ持ち主が言っとるのに」

 

「…………」

 

 ルナが根気強くすすめるが、ソフィアはなかなか首を縦に振らない。するとルナはすぐそばのダニエルを指さして言った。

 

「寒さをナメない方がよいぞ。いつだったかこやつがシモヤケになった時は、指がかゆいかゆいとうるさくてのぅ」

 

「その話を今しなくても……」

 

「はは、まあ今では笑い話じゃろ。じゃがもし酷くなると笑えんぞ」

 

「…………」

 

 ダニエルに苦笑いされながら、ルナはなおも靴をすすめる。が、ソフィアはそれでも靴に足を通さなかった。

 しばらくして、ルナはため息まじりに微笑む。

 

「ったく、強情なヤツじゃの」

 

 あきらめ、靴を履きなおすルナ。するとアランがこう提案した。

 

「少し休憩するか。俺たちも歩きっぱなしなワケにはいかないし」

 

「え?」

 

「いいだろ。早いか遅いかだ」

 

 戸惑うジゼルへ、アランはさらにうながす。そしていまだに顔をしかめているソフィアをちらと見た。

 その様子に、ダニエルがうなずいて言う。

 

「ではそうしますか。ルナ、一緒に焚き木を集めましょう」

 

「がってんじゃ!」

 

 ルナはそう言うなり、近くに落ちている枯れ枝に一番に飛んでいく。秋の終わり頃というのもあり、周りには燃やせそうなものはたくさんあった。アランやジゼルも手近な枝を拾いはじめる。

 その光景を、ソフィアは渋面ながらもどこか照れたように眺めていた。クロエは隣でしみじみと笑みをうかべていた。

 

 少しして、アランたちの輪の真ん中に焚き木がこんもりと集まる。そこへダニエルが手をかざした。

 

弾ける火(ポップ・ファイア)!」

 

 焚き木にポッと火がともると、アランたちはそれを囲んで腰を下ろした。少し離れて見ているクロエとソフィアへ、ルナが振り向いて手招きする。

 

「こっちへ来たらどうじゃ。暖かいぞ」

 

「別に私は……」

 

「行きましょうよ、ソフィア。実は私も寒いのは苦手でして」

 

 いまだに渋るソフィアを、クロエが後押しする。すると二人はそろそろと輪に加わった。

 暖気に当たると、不機嫌だったソフィアもホッと表情をやわらげる。そして冷えた足を暖めたりなどしていると、ジゼルがふと口を開いた。

 

「そういや、お前らどうやって街を出たんだ? 見張りの兵士がいたはずだが」

 

 すると、クロエがどこか自慢げに言った。

 

「蛇の体をもってすれば、街の城壁を越えるなど造作もありませんわ」

 

「カメレオンもね」

 

 ソフィアも、にこりともしないが続けて答える。するとダニエルが首をかしげてたずねる。

 

「あの……そういえばお二人のお名前は?」

 

「ああ、申し上げておりませんでしたわね。私はクロエ。この子は……」

 

「ソフィア」

 

 少しは気を許したのか、ダニエルの問いにも二人はすんなり答える。するとダニエルは続けて言った。

 

「……お二人はそもそも、どうして僕らの後について来たんです? アランさんは何か……」

 

 事情を知らないか、と言外に言ってダニエルはアランの方を見る。しかしアランは苦笑いして首を横に振った。

 

「個人の事情だ。ちょっとしたしがらみがな……」

 

「大した事情じゃねえけどな。そこのクロエが割り切れてないだけだ」

 

「……ッ」

 

 ジゼルのつぶやきに、クロエがキッと視線を向ける。にわかに二人の間にピリついた空気が流れた。

 それを察してか、ルナが戸惑いの声をあげる。

 

「な、なんじゃ。お主らよほど仲が悪いのか」

 

「いや、そういうワケじゃないんだがな……」

 

 どう説明したものか、とアランも困った顔になる。するとクロエがしばらくしてため息をつき、ポツリとつぶやいた。

 

「……いえ、ジゼルさんの言う通りです。私はちょっと、個人的な感情を引きずっていますの」

 

 わりかし素直にそう言ったので、アランやジゼルがつい注目する。クロエは伏し目がちに、焚き火を見つめて言った。

 

「以前に色々あって、アランさんとは知り合いだったのですが……久しぶりに会うとアランさんはとっくに別の人間関係をつくっていて。それで昔の関係にちょっと未練がある……それだけですの」

 

「じゃ、こうしてついて回ってる理由は?」

 

「今どんな風に過ごしているか分かれば……もう私が知らない生活があるのだと知れれば、諦めがつくかと思ったんです」

 

 ジゼルが剣呑な口調で問うと、クロエはみるみる切ない表情になりながら言った。

 見知った人間が変わっている。よくある話ではあるが、長い間放浪して知り合いも少ないであろうクロエにとっては重大なのだろう。ジゼルの顔が、少しだけ後ろめたそうに変わる。ダニエルやルナも、事情は知らないまでも辛いものがあるのだろうと神妙な表情になった。

 少しだけ沈黙が流れてから、アランがボソリと口を開く。

 

「……なんか、諦めがついたらまたどっかに行っちまいそうな口振りだな」

 

「それは……だって」

 

「行くあてがない旅なんて危ないぞ。ましてやこれから寒くなるっていうのに」

 

 アランの言葉に、ダニエルやルナがぎょっとクロエたちに顔を向ける。獣人だけで行く、あてのない旅。そんな言葉を聞いては無関心でおれない。

 

「待て待て。旅ってお主ら二人だけか? いくらなんでも無謀じゃぞ」

 

「せっかく街の近くにいるんですから、とりあえず住んだらどうです?」

 

「けど……私たちは冒険者でもありませんし、街にいる資格が」

 

「そんなの兵隊の目を盗めばなんとでもなる。俺が言うのもなんだが、ややこしい感情はいったん置いとけよ」

 

「…………」

 

 ダニエルにルナ、そしてアランもそろってクロエを説得する。沈んでいたクロエの表情も、かすかにだが思案するそぶりを見せはじめた。

 しかし、そんな時。

 

「耳貸さない方がいいよ」

 

 不意に、トゲのある口調でソフィアが言った。その声色に、他の全員の視線が集まる。

 その目を鬱陶しげに見返して、ソフィアはこう続ける。

 

「人間のつくった仕組みの中にいても、獣人が幸せになれるワケないじゃん。あちこち旅でもしてるしかないよ」

 

「おい、どういう意味だそりゃ」

 

「お姉様もさ。そこのアランって人が好きならとっとと連れ去っちゃいなよ。そうすると思ってたから応援してたのに」

 

 ジゼルが反発するが、ソフィアは無視してクロエに話しかける。クロエが悩ましげな表情でいると、いら立たしげにソフィアはジゼルたちをにらむや続ける。

 

「冒険者とかいうのになって人間と獣人がくっついたって、上手くいくワケないよ。どうせ人間が乗り換えるか、獣人が一人だけ生き残るか……いいとこ共倒れでしょ」

 

「ソフィア、お前……」

 

 ソフィアの言葉にアランが口をはさんだが、彼はすぐに口をつぐんだ。ソフィアの目はギラリとするどく、口元がこわばり、悲壮感が顔にありありと浮かんでいた。少なくともふざけて言っている風ではない。

 アランが気圧されていると、そんな彼をソフィアはにらんで言い放つ。

 

「アンタもさ、そのジゼルって人といつか上手くいかなくなるよ。街がそもそも獣人を使い潰すように出来てるんだから」

 

「…………」

 

「今のうちに、お姉様とくっついた方がいいんじゃない? 根なし草の生活も気楽でいいよ」

 

 ソフィアはそう鼻で笑い、また小憎らしい笑顔になった。しかしそれが作り笑いなのは、他の全員に一目で分かった。

 するとアランはふと思案顔になり、さも気楽そうにこう言った。

 

「悪いがそうはいかないな。俺は今の生活が気に入ってるんだ」

 

「……その気持ちがいつまで続くかな」

 

「さあな。だがそう悲観するほどでもない。手本にできそうなヤツらがいる」

 

 そう言って、アランはダニエルの方を見た。気づいたダニエルが目をしばたかせる。

 

「え、僕らですか?」

 

「おう。俺の知る中じゃ一番取っつきやすいコンビだぞ」

 

「や、そんな。照れるな……」

 

「なんじゃ、もっと胸を張れ。ワシは今の暮らしに満足しておるぞ」

 

 苦笑するダニエルの背を、ルナがバンと叩く。そしてソフィアを見ながら立ち上がって言った。

 

「お主も何やら大変な事があったんじゃろうが、他人の関係にまで口出しせん方がよいぞ」

 

「何よ、エラソーに」

 

「ワシは、人間と仲のよい獣人なんぞいくらでも見てきたわ。年長者として偏見は正さねばならん」

 

「……年長、者?」

 

「じかに接してみると印象も変わるぞ。冒険者の先輩たちなぞ、ワシをやたら可愛い可愛いと言って良くしてくれたもんじゃ」

 

「それ見た目のせいなんじゃ……」

 

 ルナのちんちくりんな体格を見つめ、釈然としない様子のソフィア。するとクロエがソフィアの頭をなで、痛ましい口調で言う。

 

「あまり言わないであげてくたさいまし。なにぶんこの子は、色んな経験をする余裕もなかったんですから」

 

「何よ、お姉様まで」

 

「ソフィア。あなたもあんまり私情をぶつけるのはおよしなさい。一言二言で納得してもらえるなんて、あなたも思っていないでしょう?」

 

「私情って、お姉様も他人の事言えないじゃん!」

 

 いさめるクロエだったが、ソフィアは勢いよく立ち上がって逆上する。周囲の者は驚いたが、ソフィアはかまわず歯がみして言った。

 

「いくら暮らしに満足してるとか言っても、いつかはそう単純な話じゃなくなるって言うのに……」

 

「どういう事だよ。お前はさっきから何を怒ってんだ?」

 

 ソフィアからにじみ出る怒りに、ジゼルが問いかける。するとソフィアは振り向くや唐突に言った。

 

「アンタらさ、子供つくる予定ある?」

 

「……は? 子供?」

 

「とぼけないでよ。いつかはそういう話が出るじゃん」

 

 ソフィアの言葉にアランたちは戸惑い、それから気まずそうな顔をする。対してソフィアはまるでつまらなそうな、無機質な表情で返答を待っていた。

 少しして、アランが考えながら口を開く。

 

「……今のところ予定はないが、なんで子供の話が出てくるのか興味あるな。お前はなんでそれを気にする?」

 

「さあね。けど、大事な問題じゃん? 獣人と人間でそういう事になって、それから上手くいくと思う?」

 

「人によるんじゃないか」

 

「そうやって話を終わらそうとするの、卑怯者の証拠だよ」

 

 ソフィアはことさら否定的な口調で子供の話題を続ける。目つきは今までにないほど不愉快そうに細められていた。

 その目を見て、アランはソフィアがつきまとう理由をうっすら察した。クロエの未練とは別に、人間と獣人が深い仲になり、ゆくゆくは血をつなぐのが嫌なのだ。理由までは分からないが、さしずめ家族問題あたりだろう。

 

 以前にクロエが言っていた。ソフィアは孤児だと。ならば両親に何らかの確執があるかもしれない。その上で人間と獣人の関係に言及するとしたら……。

 アランは頭の中で推理を続けていく。彼が無言でいると、クロエがソフィアをたしなめた。

 

「おやめなさい、ソフィア。あまりそういう問題に立ち入るべきではありませんわ」

 

「そういう問題って、どういう問題よ」

 

「それは……」

 

「とにかく、ルナだっけ? アンタも別れるなら今のうちだよ。デキちゃったらもう遅いんだから」

 

「余計なお世話じゃい。第一、何故そんなに突っかかるんじゃ」

 

「悩み事でもあるんですか? 良かったら少し話してみたら……」

 

「話すワケないでしょ、バーカ!」

 

 だんだんとソフィアの口調はヒートアップし、ルナたちと言い争いまでしだす。そのままでは不味いと思ったアランは、大きな声をあげて制止した。

 

「待て待て。いったん落ち着け。ここでケンカしても不毛だろうよ」

 

「じゃ、どこでケンカしたらいいっての?」

 

「落ち着けっての。まずクロエとソフィアで違う事を悩んでるから、その点を整理しないと」

 

 名前を呼ばれ、クロエ、ソフィア、そして他の面々がアランの方を向く。アランは咳ばらいして話しだした。

 

「まず、クロエはまだ俺の事が気になってる。これがまず一点」

 

「お主、まさか乙女心を弄んだりしとらんじゃろうな」

 

「大丈夫だって……。で、ソフィアとしては、街で獣人と人間が暮らすのなんかやめた方がいいと」

 

「そーだよ。不幸になるのが目に見えてるから」

 

「ふむ……それら二点を鑑みるとだ」

 

 そこまで言ってアランは少し間をおく。

 

「もったいぶらずにさっさと言えよ」

 

「分かってる。まあダメ元で言うか……」

 

 じれったそうにするジゼルへ、アランはうなずきながら答える。その口振りは何やら思いきった提案をしそうだった。

 そして、彼は顔を上げてこんな事を言った。

 

「これからも俺たちの仕事について来る……ってのはどうだ?」

 

「なに?」

 

 ジゼルが眉根をよせる。他の面々も要領を得ないようで首をかしげた。

 アランはそれらを見回してこう説明する。

 

「まず、クロエの願望はどうにかなるだろ? 俺がどんな仕事してるか、今日みたいに見れるからな」

 

「じゃ、ソフィアは?」

 

「それは、俺とジゼルや他の連中の普段の様子を見せれば偏見が抜けるだろうと思ってな」

 

「そっか。サンプルが増えれば、皆けっこう幸せだって分かってもらえるかもしれませんね」

 

「ああ。ありのままを見せるのが結局一番いい」

 

 感心するダニエルに、アランはうなずき返す。そんな彼らにジゼルは難しい顔で言った。

 

「上手くいくかね。そんなの」

 

「何もしないよりマシさ。それにコイツらが目に届かない場所に行ったら、お前も不安じゃないか?」

 

「う……」

 

「猛獣も魔物もいる寒空の下じゃ、いつ死ぬか分からないし。いくら気に食わない相手でも割り切れないだろ」

 

 悩ましげにジゼルの目がおよぐ。そして視線はソフィアにいった。

 ジゼルにとってソフィアはケラケラ笑いながら斬りかかってきた輩であり、彼女の慕うクロエは鬱陶しい立場の女である。だがそれはそれとして、10代半ばの少女が、それも孤児らしい子供が知らない場所で死ぬとなると、なんとも後味の悪いものがある。

 ジゼルが険しい顔で唸っていると、アランが独り言のようにつぶやいた。

 

「俺も一人ではなかったけど、元は孤児だからさあ。ジゼルにゃ迷惑かもしれないが、放っておけないんだよな」

 

「……はあ、しょうがねえな」

 

「え、勝手に決めないでよ!?」

 

 ジゼルはため息をついて納得するが、今度はソフィアが反発する。するとルナが横からいさめた。

 

「言う通りにした方がよいぞ。今でもついて回っとるんじゃし、そうデメリットはないじゃろ?」

 

「でも……私はそんなについて行きたいワケじゃ……」

 

「何もせず風来坊しとるよりはいいと思うがの。なんならワシについて来るか?」

 

「はあ? 行くワケないし!」

 

 からかって誘うルナへ、ソフィアはムキになって拒否する。それを見て少し笑いながら、クロエがやんわりと言った。

 

「あまり意地を張らない方がいいですわ。気が進まないかもしれませんが、この方たちはそうとう親切にしてくれているんですから」

 

「そうかなぁ……」

 

「そうとも、素直に受け取っておけ。子供に優しくするのは年長者のつとめじゃ」

 

「うっさいわ合法ロリ。大人ぶってさ」

 

「合法……? なんじゃそれ」

 

「ルナ、気にしなくていいですよ」

 

 ダニエルが苦笑いする。そこでアランが立ち上がり、伸びをして言った。

 

「じゃ、見回りの続きといくか。早くしないと日が暮れる」

 

「お前らはまだついて来るのか?」

 

「私はご一緒しようかと……ソフィアもいいですか?」

 

「……別に、いいけど」

 

 照れくさそうに言うソフィアを見て、アランたちは微笑ましげに顔を見合わせた。

 それから彼らは妙な知り合いとともに仕事を再開したのだった。

 

「…………」

 

 ちらつく雪の下。最後尾を歩いていたソフィアは白い息を吐いてふと顔を上げ、前を歩くアランとジゼル、そしてダニエルとルナをしげしげと見つめていた。そして彼らがまったく自然に連れ立って歩いているのを見て、むずがゆいような、不思議な気持ちでいた。

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