獣人と日々を歩む冒険者 ~清くも正しくもないが、信頼はある~ 【完結】   作:ごぼう大臣

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彼らはついに、漁村に足を踏み入れる 前編

 

「わー、近くまで来るとやっぱ潮くさっ」

 

「人少ねえな。本当に田舎だ」

 

「まあ平和そうだとも言えるぜ。都会の人ごみとは大違いだ」

 

「私もこんなのどかな場所は久々ですわ」

 

 青く澄みきった昼の空の下、海岸近くに広がる漁村の姿を見ながら、アランたちは口々に感想を述べていた。

 一週間ほど前、彼らはいつもの冒険者ギルドである依頼を受けた。住んでいるルベーマ市から遠く離れた漁村、ゲロス村に出没するという海賊の捕縛である。そのために、アランたちはろくに整備されていない道をはるばるここまで歩いてきたのだ。

 

 とりあえず目的地に到着した六人は、初めて見る村をめいめいキョロキョロと見回した。

 大海原をのぞむ海岸近くの平野に、小さな木造の家々がポツポツ建っている。それらはお世辞にも立派とはいえず、モノによっては壁の一部が朽ち、色あせていた。潮風が毎日当たるせいか、木材の表面がところどころ湿気(しけ)て見える。

 

 漁をやる時間帯ではないのか、海に船の姿はなく、港に木造の小舟がズラリと並べてある。その近くには魚の養殖に使う生簀が造られ、数人の大人があれこれと世話をしている。

 と、その近くを二、三人の子供が笑いながら駆けていった。

 

「おお、どこでも子供は可愛いもんだな」

 

 アランがつぶやくと同時に、彼は子供たちと目が合う。すると何気なくアランは手を振ってみせた。

 しかし、子供たちはアランを見るやいなや、戸惑ったような顔を見合わせて逃げていってしまった。

 

「あれ?」

 

 怖がるようなその反応に苦笑するアラン。すると横からジゼルが茶々を入れる。

 

「不審者あつかいだな、オッサン」

 

「なんだよ、可愛いと思っただけなのに」

 

「きっとよその人に慣れていないんですよ。ましてや僕ら、武器を持っていますし」

 

 口をとがらせるアランへ、ケネスがフォローを入れる。一方でリリィが辺りを見渡しながら言った。

 

「とりあえず、この村の村長さんを探しましょうよ。何日かはこの村にご厄介になるでしょうし」

 

「おっとそうだな。それじゃ取り急ぎ……」

 

「ちょっと待ってよ、アラン」

 

 リリィに言われて動き出そうとするアランだったが、今度はソフィアが口をはさむ。あわてて振り向くと、ソフィアは警戒したように村に視線をめぐらせて言った。

 

「そっちは依頼を受けて来たからいいけどさ、私とお姉様は仕事でも何でもないじゃない」

 

「そっか、お前ら二人はアポ取ってないのか」

 

「つか、お前らは勝手について来たんだろ」

 

「うるさいなー。とにかく、今の私らは怪しい流れ者って事になってんの」

 

 鼻を鳴らすジゼルをにらみ、ソフィアは着ていたローブのフードを深くかぶる。そして声を幾分ひそめて言った。

 

「出来ればどこか、人目につかない場所に隠れてた方がいいかも。特にお姉様はお店から逃げてきた身だし……」

 

「……こんな田舎でも気をつけなければなりませんの?」

 

「でも確かに、万が一ってのがあるぜ。特にお前、体が真っ白で目立つし」

 

「ふむ……そうですわね」

 

 クロエは少し窮屈そうに眉をひそめるが、ソフィアやジゼルの言葉に考え直すそぶりを見せる。そして一つうなずき、自信ありげに言った。

 

「心配ご無用ですわ! こんな事もあろうかと、持ち歩いていたモノがありますの!」

 

「何かあんのか?」

 

「これですわ!」

 

 首をかしげる面々に、クロエは懐から何かを取り出し、見せつけるように掲げる。四人の視線がそこに集中し……。

 

「え」

 

 それから、ほぼ同時に顔をしかめる。クロエの手にあったのは、蝶の形をした目元につけるタイプのマスクだった。あからさまに人目をひく、おそらく特殊な店でしか使われないそれを腕を振って見せつけながら、クロエは胸を張って言う。

 

「いやー念のため持ち出しておいて良かったですわ。放浪するとなれば顔を隠さなければならない場面も出てきますものね。備えあれば憂いなしとはよく言ったもの……」

 

「いやお姉様……それはやめて」

 

「えっ」

 

「やめてマジで。ダサいから。超次元的にダサい」

 

「そ、ソフィア!? 一応これ、私のお気に入りで……」

 

 ドン引きした表情で言うソフィアへ、クロエは息をのんでうろたえる。しかしすぐに、アランふくめ他のメンバーからも口々に声があがる。

 

「クロエ、悪い事は言わんからそれはやめとけ。な?」

 

「アランさんまで……。似合っていませんでしたか? これ……」

 

「似合うかどうかの問題じゃないと思うぜ」

 

「なんというか、仮装なら問題ないと思いますが……」

 

「変装としては失格ね。変態なら合格かも」

 

「バカにしないでいただけてッ!?」

 

 方々から悪く言われ、クロエは尻尾をピシリと地面に打ちつけて怒る。そうして村の入り口に突っ立ったまま一同がグダグタと話していた、そんな時である。

 

「おーい、お客さんかい?」

 

 不意に、男の低い声が一同にかけられる。振り向くと、見た目40代半ば程度の背の高い男がアランたちを見ている。黒くシミのついた長袖と長ズボンに手袋を身につけ、その下からガッシリとした肩や胸板が浮き出ている。

 その汚れた格好とたくましい体格から、アランたちは人目で漁師だと察した。彼らが答える暇もなく、その漁師はズカズカとアランたちへ歩み寄っていく。

 

「見ない顔だなぁ。旅人か? この村にはなーんにも無いぜ?」

 

「あー、いや。そのですね……」

 

「獣人の方まで連れて大所帯だな。本当に何の用だい?」

 

 黒い短髪を生やしていかつい顔をしたその漁師は、無精髭をいじりながら笑って話しかけてくる。アランはとりあえず警戒はされていないと判断し、咳ばらいして一歩前に出る。

 

「はじめまして。私たちこういう者で」

 

 そう前置きし、アランはギルドで受け取った依頼書を渡した。この村で仕事があると書かれたその紙を、漁師は眉をしかめて凝視する。

 

「ん~……ゲロス村……? ってここか」

 

「そうです。この村に海賊が出ると聞きまして、力をお貸ししようとやって来たしだいです」

 

「という事は、あんたらが"冒険者"ってヤツかい?」

 

「いかにも。戦いならそれなりに経験がありますから、まかせて……」

 

「何だそうだったのか! ありがたい。よく来てくれた!」

 

 途中で事情を呑み込んだのか、漁師はいきなり表情を輝かせたかと思うとアランのセリフをさえぎり、一方的に手を取って熱い握手をかわした。ぶんぶんと腕を振られてアランが戸惑っていると、漁師はジゼルや他の面々へ視線を移す。

 

「そうか、冒険なんて言うからもっとゴツい連中かと思ったが……なかなかベッピンさんがそろってるじゃないか」

 

「初対面で馴れ馴れしいな。もうちょっと距離考えろよ」

 

「ジゼルちゃん、照れてる?」

 

「バカ言え」

 

「……まんざら悪い気はしませんわね」

 

「私は冒険者じゃないんだけどなぁ……」

 

 にこやかに誉め言葉を口にする漁師。それに対して女性陣はやや戸惑いつつも嫌がりはしなかった。

 漁師はそんな反応に満足したのか、ハッハッハと快活に笑った。

 

 そこで、黙っていたケネスがおそるおそる口を開く。

 

「あの……村長さんに会いに行くという話は」

 

「あ、そうだったな」

 

 アランは思い出したような顔でつぶやき、漁師の方へ振り向いてたずねる。

 

「あのー、すみませんがこの村の村長さんはどちらにいらっしゃいますか」

 

「村長?」

 

「はい。顔合わせと、詳しい事情を聞いたりしなければなりませんから」

 

 アランはていねいな口調で漁師に説明する。が、漁師は何故かキョトンとした顔でアランの顔を見つめ返していた。

 視線が合ったまま一、二秒。もしや会わせてもらえないのか、とアランが危惧したその時。漁師がだしぬけに「ああ!」と叫んでうなずき、笑いながら言った。

 

「なるほどそういう事か! だったら良かった。手間が省けたよ兄ちゃんたち」

 

「……と言いますと?」

 

「俺がその村長! ガストンっていうんだ。よろしくな!」

 

 親指で自身を指し示し、漁師ことガストンは胸を張る。一方、それを聞いたアランは面食らった顔をして相手を見直した。後ろにいたジゼルやケネス、リリィ、クロエ、ソフィアもそろってガストンをしげしげと見つめた。

 彼らの経験上、村長というのは50歳か60歳そこらの老人がやっている事が多かった。それに比べて40代程度に見えるガストンはあまりに若い。

 アランやジゼルたちの驚きと疑いの視線が、いっせいにガストンへ降り注ぐ。しかし当のガストンはまるで気づかず、くるりと背を向けて振り返り、こう言った。

 

「ま、立ち話もなんだから家に来なよ! 狭くて汚いが、お茶くらいは出すぜ!」

 

 そしてガストンは前へ向き直ると、アランたちがついて来るかも確かめず、一人でズンズンと歩いて行ってしまった。

 それを見たアランとジゼルは、自然と顔を見合わせる。クロエやソフィアの身分を疑われなかったのはラッキーだが、その反面ガストンの言動や行動はあまりにアバウトすぎた。依頼書を見ただけでアッサリ信用して歓迎するさまは、いつか騙されそうな不安を感じさせる。

 ジゼルはちらとクロエとソフィアの方を見て、アランへたずねる。

 

「……行くか? 全員で」

 

「まあ、いいんじゃね? コソコソ隠れる必要もないみたいだし」

 

「なんか不安だなぁ……」

 

 ジゼルが周りに聞こえるのもはばからずため息をつく。その時、遠くまで歩いていたガストンが振り返って手を振る。

 

「おーい、どうしたんだ? 早く来いよ」

 

「あ、今行きます!」

 

 とっさに返事をして、アランは後ろにいる連中の顔を見る。皆それぞれジゼルと同じようにどことなく不安な顔をしていたが、リリィが苦笑しつつも口を開く。

 

「行きましょう。仕事を終わらせて帰ればいいのだし」

 

「だな。全員それでいいか?」

 

「は、はい!」

 

「私は仕事で来たんじゃないんだけどなー」

 

「ソフィア、ここまで来たらご一緒しましょう。その方が怪しまれずに済みますわ」

 

「ちぇーっ」

 

 面倒そうにするソフィアを、クロエがうながす。それを見届けたアランはジゼルの顔をもう一度うかがった。その視線に気づいたジゼルが、ぶっきらぼうに言う。

 

「さっさと行こうぜ」

 

「よし、じゃあ気合い入れて行くか!」

 

 アランはそう周りに呼びかけると、遠くで待っているガストンの方へと駆け出した。

 

 

――

 

 

「さあどうぞ。狭い家だが、座るくらいは出来るさ」

 

「お邪魔しまーす」

 

 ……少しして、アランたちは案内されたガストンの家に足を踏み入れた。木の壁に藁を積んだ屋根、という他の一軒家と何も変わらないその家は、人が10人も手を繋げば端から端まで届いてしまいそうな狭さだった。部屋の仕切りもなく、囲炉裏を中心に小さなかまどや寝床らしき毛布が小ぢんまりと設置されている。

 

「ふーん、田舎にはこういう家もあるんだ」

 

「ソフィア、あまりキョロキョロしては失礼ですわ」

 

 物珍しげに辺りを見回すソフィアを、クロエがたしなめる。しかしクロエもどこか新鮮そうにこっそり視線を動かしていた。

 その室内は、囲炉裏を見下ろす天井から魚の干物がヒモでぶら下がり、部屋の隅には乾燥した海草を包んだものが簀巻きにして置かれている。漁業を生業とする場所でなければ見られない光景だ。

 

「ほら、娘さん方もこっちに来て座って」

 

「あ……失礼いたしました。ありがたいですわ」

 

 ガストンは囲炉裏のそばに敷いたボロ布にソフィアとクロエを招く。アランたちは行儀よくそこに座っていたが、ソフィアは若干嫌そうな顔をしていた。

 ともあれ一同が窮屈ながらも輪になって座ると、上座にあぐらをかいたガストンが口を開く。

 

「いやぁ、以前は親父が村長やってたんだけどさぁ。こないだポックリ逝っちまって。そんで俺が急遽引き継いだってワケ」

 

「は、はぁ……」

 

 いきなり不幸の話をされてアランたちは困った顔になるが、ガストンはまるで気にしていない風だった。アランは気を取り直して話を切り出す。

 

「あの……さっそく本題なんですが、この辺に海賊が出るとか」

 

「お、そーなんだよ。まあ見かけるのはせいぜい30人くらいのグループなんだが、それでも漁師仲間がよく絡まれてな。漁の途中で船を沈められそうになったりしてさ」

 

「30人か……手口は?」

 

「いくつかの小さな船で散らばって来る。まあ俺らの漁船も小さいんだが、だから気がついたら一隻おそわれてる、なんて事もあってな」

 

「ふむ……じゃあ乗り物は似たようなモンで、乗ってる人が戦力差につながると」

 

 アランはつぶやきながら部屋の仲間たちを見回す。

 ジゼル、ケネス、リリィ。クロエとソフィアをふくめても戦力は6人。これでただの漁師たちをそれぞれ散らばった状態で守りきれるかどうか。

 海に対してアドバンテージがあるのは、せいぜいリリィくらいだろう。空を飛べるナタリーにでも来てもらうべきだったか……。

 少し考え足らずだったかな……とアランが内心で思っていると。

 

「呑気に言ってるけどよ、海賊に襲われてるなら被害もバカになんねーんじゃねえか?」

 

「確かに……犠牲者も出るだろうし、場合によっては私たちだけじゃ対処できないかも」

 

「ああ、それは大丈夫だ。今のところ、連中は俺らの獲った魚を横取りしたりしてるだけだ」

 

「え、そんなレベルなのか」

 

 ジゼルやリリィが口をはさむが、ガストンはあわてる様子もなく答える。そして眉をひそめるジゼルを見てこう続けた。

 

「ヤツらの目的は金とかそんなモンじゃない。元からこの村は貧しいからな。もっと別のものだ」

 

「なんですか、その別のものって」

 

「それはな……」

 

 ケネスが問うと、ガストンは声をひそめて身を乗り出す。他の者たちは自然と彼の口元に注目する。

 しかし、その直後。

 

「親父! スーったらまた浜でボーッとしてたんだけど!!」

 

 突然、高い少女の声とともに入り口の扉がバタンと開けられる。皆が思わず振り向くと、戸口には十代半ばほどに見える女の子が二人立っていた。

 その二人のうち、先ほど叫んだ少女が戸を開けた姿勢でもう一人を引っ張っりつつなおも続ける。

 

「もー、親父からも何か言ってよー。ただでさえ毎日大変なのにサボりなんて……ってお客さん?」

 

「……ヴァネッサ。もう少し行儀よくしろよ。女がはしたないぞ」

 

「あ、あはは。ごめんごめん! 親父しかいないと思ったから!」

 

 ヴァネッサと呼ばれた少女はパッと両手を広げ、大げさに振りながら苦笑いする。ショートの黒髪の上にバンダナを巻き、半袖のシャツに長ズボンという格好で、肌はうっすら日焼けし、体格も若い女性にしてはガッシリして見えた。

 一見少年にも見えるヴァネッサへ、ガストンはこう言った。

 

「それと……スザンナを放してやれ。もういいだろ」

 

「あっ……ごめん」

 

「…………」

 

 言われたヴァネッサは腕をつかんでいたもう一人の少女……スザンナからハッとして手を離す。そしてあわてて頭を下げたが、相手は何も言わない。

 背中で両手を組み無言でうつむいているスザンナ。こちらも家族と同じような黒髪であるが、姉のように短くせずに肩より下まで伸ばしたセミロングだった。前髪も長く、うつむいた彼女の目元はすっかり隠れてしまっていた。

 服装も同じようなシャツに長ズボンという地味なものながら、袖からのぞく地肌は真っ白だった。体格もほっそりとし、ヴァネッサと比べて弱々しく見える。

 その対照的な二人を、ガストンは腕で示しながらアランたちへ紹介する。

 

「こちらは俺の娘だ。日焼けした方が姉のヴァネッサ。もう一人が妹のスザンナ」

 

「ああ、はじめまして」

 

「よろしくね」

 

「すみません、黙ってお邪魔して」

 

 座ったままにこやかに礼をする面々。そしてアランが代表するかのように立ち上がり、姉妹の方へ歩み寄る。

 

「俺たち、他の街の冒険者でな。流れ者じゃなく仕事で来たから安心してくれ」

 

「別に警戒してないよ。よろしく」

 

 アランが右手を差し出すと、ヴァネッサは快く握手に応じる。アランはスザンナの方にも手を出したが、スザンナは取らなかった。

 

「スー、失礼だよ」

 

「……はぁい」

 

 ヴァネッサにたしなめられ、スザンナはやっと握手に応じる。その時にしぶしぶした返事が、アランたちの初めて聞くスザンナの声だった。

 挨拶が済んだところで、ヴァネッサが首をかしげてガストンへたずねる。

 

「ところでこの人たち呼んだのって……やっぱりあの海賊連中がらみ?」

 

「その通り。さすがに俺たちじゃ手に負えないからな。プロの方々に任せるとしよう」

 

「マジで!? やったー! 最近困ってたんだー本当に」

 

 ヴァネッサはパアッと顔を輝かせ、囲炉裏のそばのジゼルたちの方へ駆け寄る。そして近くに膝をついて身を乗り出すと、期待したまなざしでまくし立てる。

 

「いやぁ来てくれてありがとー! アイツら漁のたびにしつっこく邪魔してきてさ。サクッと凝らしめちゃってよ。ね?」

 

「お、おう……まあ、仕事だしちゃんとやるさ」

 

「なんかそんな目で見られると、肩の荷が重いですね……」

 

「気負いすぎだってケネス。皆がついてるから」

 

 ヴァネッサの勢いに多少戸惑いつつも、ジゼル、ケネス、リリィあたりは仕事を引き受けるとあらためて約束する。それを見ながらソフィアがクロエの方を見てつぶやいた。

 

「……私らも頭数に入ってるのかな」

 

「このさい手伝ってあげましょうよ。村長さんも冒険者として受け入れてくださっているのですから」

 

「しょーがないなぁ……」

 

 面倒くさそうにしながらも、ソフィアもクロエに促される形でうなずく。全員が仕事に前向きなのを確認し、アランはそばで黙っているスザンナの方を見て言う。

 

「安心してくれ。どんなに手ごわいヤツらでも、この村は必ず守ってやる」

 

 胸をドンとたたいて意気込んでみせるアラン。しかしスザンナはそれをちらと見て、どうでもよさそうに目をそらして言った。

 

「……別に」

 

「へ?」

 

「こんな村、どうなったって……」

 

 何やら投げやりなつぶやきに、アランは思わず眉をひそめる。その時、彼の背後でガストンが腰を上げ、威勢よく言った。

 

「よーし、そろそろ飯の支度するか! ヴァネッサ、スザンナ。手伝ってくれ」

 

「はいはい。親父も一人で料理できるようになれよなー」

 

「勘違いすんな。今日は人数が多いから手を貸してもらうんだ」

 

 嫌みを言うヴァネッサに、ガストンがわざとらしくむくれる。それをジゼルや他の面々は微笑ましげに見つめていた。

 その様子に、アランも気を取り直すようにスザンナへ声をかける。

 

「手伝ってくれとさ。さ、こんな所に突っ立ってないで」

 

 そう言って動くように促すアランだったが、スザンナはなかなか行こうとしない。数秒してようやく足を踏み出すと、彼女はアランとすれ違い様にボソリとつぶやいた。

 

「見られて恥ずかしいよ。こんな村」

 

「?」

 

「なんでよりによって私の家に、都会の人が……」

 

 再びの投げやりな、そしていら立った口調。アランはついスザンナの顔を見たが、独り言のつもりだったのか彼女はさっさとガストンの方へ歩いていってしまった。

 隅の台所でスザンナ、ヴァネッサ、ガストンの三人が並んで支度する背中を、アランが気がかりそうに見つめていると。

 

「おい何してんだよ。さっさと座れって」

 

「せっかく用意してくださるのですから、席について待つのが礼儀ですわ」

 

「それとも食べないのー?」

 

「ああいや、食うよ。今行く」

 

 スザンナの独り言を知らないジゼルたちがアランを急かす。その声に彼はあわてて囲炉裏のそばへ戻った。

 ……しかし彼の内心では、先ほどのスザンナの言葉や態度が、どうにも引っかかったままだった。

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