獣人と日々を歩む冒険者 ~清くも正しくもないが、信頼はある~ 【完結】   作:ごぼう大臣

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彼らはついに、ゴブリンと戦う

 

 ……日がとっぷりと沈んでしばらく経つ頃、村の人々は残らず灯りを落とし、静かに寝入っていた。

 村もその周辺も、聞こえるのは虫の声ぐらいで、真っ暗な景色に目立つような生き物は見当たらない。

 

 そんな時、村のそばの森で、外周部の茂みの一部がざわざわと動いた。そして陰から、四、五人の小人のようなモノたちが次々に顔を出す。

 そこにいたのは、小さな緑色の体躯に盾や剣をたずさえた魔物、ゴブリンの群れだった。ニヤニヤしながら数十メートル先の村をみつめ、今夜も畑の野菜をもらおうと顔を見合せる。

 

 しかし、彼らがそうして意気揚々と森から駆け出そうとした、その時だった。

 

「ギャアアァッ!??」

 

 突如として地面からロープを結んだ網が持ち上がり、ゴブリンたちを一網打尽に吊り上げた。ゴブリンたちは一斉にすっとんきょうな悲鳴をあげ、網の中でじたばたと体をよじらせる。偶然のがれた二、三人が、あわてて森の奥へと逃げていった。

 

 そこには、木の枝にロープを結わえ、ある地点に来ると土に隠した網が跳ね上がって捕らえるしかけがあったのだった。

 つかまったゴブリンたちが首だけを動かしてその存在に気づくと同時に、少し離れた茂みから四人ほどの影が姿をあらわす。

 

「やっぱりな。この道を通ると思ったんだ。足の匂いが残ってたからな」

 

「さすが。鼻が利くと本当に頼りになる」

 

 最初に出てきたのはジゼルとアランだった。互いにしてやったりという笑みを浮かべ、うなずき合っている。

 その後ろからまた二人、身長差のあるコンビがついてくる。背の高い方が控えめな口調でアランたちをいさめる。

 

「お二人とも。喜ぶのはいいですが、まだ仕事は終わっていませんよ」

 

「せっかく夜になったんじゃ。これしきで終いじゃつまらんわい」

 

 ダニエルとルナだった。ダニエルはローブ姿で杖を持ち、ルナはコウモリの翼を広げてチェーンメイルを着込み、腰には細い剣をたずさえている。

 

「あ、悪い」

 

 アランとジゼルは真面目な顔を作り直すと、いまだワナの中でもがいているゴブリンたちを見た。

 

「……こんな風に一方的に殺すってのもなんだかな」

 

「そう言うなよ。どのみちやる事は同じなんだ」

 

 眉をひそめるジゼルの横で、アランが剣を抜く。すると背後から、ルナが割って入った。

 

「気が進まぬならワシがやる。いちおうランクは上じゃからな」

 

 そう言って、ルナは腰の鞘から細いレイピアを抜くと、網のすき間からゴブリンへ突き立てた。ギャッ、と鳴いてゴブリンが一匹息絶える。

 それに倣い、アランも剣をドスドスと突き刺す。そうして、網の中のゴブリンたちは抵抗もできずに息をひきとった。

 それを確かめ、アランが胸の前で手を組む。それを見て、ジゼルも面倒そうに倣った。

 

「……どうか安らかに。こっちも放っておくわけにいかないからな」

 

「恨まないでくれよ。こうしないと金が入らねえんだ」

 

 祈りをささげるアランとジゼル。それを見て、ルナが意外そうに口をはさむ。

 

「そんな奴らにまで祈りをささげるのか。お主らは」

 

「なんだ、皆そうなんじゃないのか? アランお前、やらなくていいならさせるなよ」

 

「いやぁ、教会の孤児院にいたからなぁ。クセになってんのさ。あはは」

 

 ジト目で見てくるジゼルを、アランは笑って軽く流す。すると、横で小さく咳ばらいするのが聞こえた。

 

「……ここまでは計画通りですね」

 

「おっと、そうだな」

 

 固い口調で言ったのはダニエルだった。彼はゴブリンたちの残りが逃げていった方角をにらみ、振り向いて言う。

 

「早く追いかけましょう。もたもたしてると根城から逃げられちゃいます」

 

「おう。……ジゼル、頼めるか」

 

「いちいち聞くなよ。分かってるさ」

 

 アランへぶっきらぼうな返事をし、ジゼルはスンスンと鼻を効かせる。そして灯りもない森の中へと飛び込むと、匂いに導かれるようにすいすい進んでいった。

 

「……やはり、目に頼る僕ら(人間)とは違いますね」

 

「ああ、さっさと行こう。アイツその気になりゃ一人で奥まで行っちまうぞ」

 

 感心するダニエルを、アランがうながす。するとその前に躍り出るように、ルナが間を割って先へ走り出した。

 

「待てジゼル! お主だけ先へは行かせんぞ、一番はワシじゃ!」

 

「あっ……こら、ルナ!」

 

 ダニエルが止めようとするのもつかの間、ルナはあっという間に木々の中へ駆け込み、遠くなってしまった。翼が背中をおおっている分、金髪の頭がぼうっと浮かんで見える。

 

「うかうかしてられませんね。僕らも行かないと!」

 

「分かってる!」

 

 残った二人もあわてて駆け出す。しかしジゼルもルナも獣人の身体能力のせいか、後ろの人間たちなど意に介さぬという勢いで森の中を駆けていく。

 せまい獣道に足元がおぼつかなくなりながら、アランは半分あきれたような口振りで言った。

 

「にしても……ジゼルはともかく、ルナもガタイのわりに速いなオイ」

 

「なんでも一番になりたがるんですよ。もし目立っても大丈夫だったら、また空を飛んで先に行くでしょう」

 

「へぇ、そりゃ元気のいいことで……のわっ!?」

 

 走りながらつぶやいていた矢先、アランは目の前に太い木の枝があったのに気がついた。あわてて首をかしげて避けると、側頭部を枝がゴリゴリと擦る。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「おう……しかし、ルナもよくあんなスムーズに走れんな。ジゼルは鼻があるから分かるが」

 

 痛む頭をおさえつつ、はるか先を行く獣人たちを見つめるアラン。ダニエルは苦笑いしつつ、ルナを見ながら口を開いた。

 

「……ルナは、コウモリの血のおかげで特殊な能力があるんです。なんでも超音波でモノの場所が分かるとか……」

 

「超音波?」

 

「ええ、額から出る波長で暗闇も平気なんだって、以前言っていました」

 

ダニエルはそう説明して、隣へ向き直る。半信半疑という表情のアランと並んで走りながら、こう続けた。

 

「……居場所をつかんだら、灯りを出して戦いに移ります。その時はお願いしますよ」

 

「けど灯りって……そんな手間かけられるのか?」

 

「安心してください。僕は魔法使いですよ?」

 

 眉をひそめるアランへ、ダニエルが任せておけとばかりにはにかむ。その時、二人は前へと向き直り、ふと足を止めた。

 すぐそこで、ジゼルとルナが茂みの陰にしゃがみ、前方を見据えている。ジゼルはアランたちに気づくと、姿勢を低くしろとジェスチャーして口をとがらせる。

 

「遅いぞ、お前ら」

 

「そっちが早いんだよ……。で、住みかは分かったのか?」

 

「見てみい。アレがそうじゃ」

 

 ルナがアゴをしゃくり、茂みの向こうを示す。その10メートルほど先には草木におおわれ、小山がぽっかりと口を開けたような洞窟があった。夜闇の中で見ると、冷たい風が吹き抜けてくるような不気味な気配がする。

 

「……なんか別の世界にでも繋がってそうな……つか、逃げられてないよな?」

 

「心配いらん。空から見た限りじゃ、向こう側は行き止まりになっとる」

 

「うかつに近づいたら、こっちも襲われるけどな……四人そろったし、もう行くか」

 

 顔をこわばらせるアランを一瞥し、カギ爪を装備するジゼル。すると、不意にダニエルがローブの下から何かを取り出した。

 

「まあそう焦らずに。いいモノがありますよ」

 

「いいモノ?」

 

 ジゼルが首をかしげると、ダニエルは一本の太い棒を手にし、そのへんの小枝を拾い集めた。そしてまたローブの下から包帯を取り出すと、棒に小枝をくくりつける。続けてローブの下から今度は何かの液体が入ったビンを取り出し、中身を棒と包帯に空けると、トロリとした液体が染み込んだ。

 その様子をまじまじと見つめながら、アランとジゼルが口を開く。

 

「これ……油か? 匂いからして」

 

「ええ、松明(たいまつ)を作ろうかと」

 

「お前のローブ、何でも出てくるな。これが魔法か?」

 

「まさか、準備のたまものですよ。僕の魔法はこんな風に――」

 

 言葉を途中で切り、ダニエルは松明に残った手をかざす。直後、ぽつりとこんな呪文をとなえる。

 

弾ける火(ポップ・ファイア)

 

 その瞬間、彼の手のひらに赤い紋章が浮かび上がり、松明の先にポンッと火がともる。それを見て、アランとジゼルは二人で目を見張った。

 

「うお、熱っ!?」

 

「な、なんだ? これが魔法?」

 

「はい。いちばん威力が低いものですけど」

 

 驚いた顔で問われ、ダニエルははにかんで答える。ルナはそばでまぶしげに目を細めている。

 しかしその時、アランが何かに気づき、ピクリと洞窟の方を見た。

 

「……しっ」

 

「……っ?」

 

 口元に指を当て、黙るようにと示す。三人が表情を引き締める中で、静かに剣を抜くと、洞窟の方角をジッとにらむ。

 そして、音も立てずに飛び出すと、胸まで埋まる背の高い草をすり抜け、剣を振るった。

 

「ギャアァーッ!」

 

 耳をつんざくような悲鳴とともに、草がばさりと斬り払われる。そしてゴブリンの血でそまった剣先が月下にかざされる。

 ジゼル、ダニエル、ルナは緊張した顔でその場所を注視する。するとアランが振り返り、大きな声でさけんだ。

 

「火で気づかれたみたいだ! 気を付け――」

 

「ふんっ!」

 

 アランが言い終わる前に、彼に向かって飛び出してきたゴブリンへとカギ爪を見舞うジゼル。首もとを裂かれ、小さな体が草むらに沈む。

 

「おぉ、助かったぜ」

 

「出ていくなら一人で始末つけろよ。格好つけたかったか?」

 

「先陣を切ったと言ってくれ。仲間に近寄らせるワケにいかないだろ」

 

「匂いはまだ残ってるぞ。まだその辺に……」

 

 ジゼルが言いかけた時、すぐそばに風のように何かが飛び込み、ドスンと重い音がする。

 

「ふふ、こっちも負けていられん」

 

「ルナ……」

 

「空から見れば、相手の位置も丸見えじゃ」

 

 ジゼルがすぐ横を振り向くと、ルナがゴブリンを押さえつけ、喉にレイピアを突き刺しているところだった。飛んできたのか黒い翼をいっぱいに広げている。

 

「さて、と……」

 

 翼をたたみ、ルナは後ろを振り返る。その先には、両手に松明と杖を持ち、辺りを警戒しながら少しずつ近づいてくるダニエルの姿があった。緊迫した面持ちの彼へ、ルナはからかい半分に声をかける。

 

「松明を落とすなよ。火事になるぞ」

 

「あ……は、はい」

 

 ダニエルはあわててうなずく。そしてルナに連れられてアランたちの元へ急いだ。

 

「すみません、急な出来事にはどうも弱くて……」

 

「念入りなわりには危なっかしいな。中級にもなってよ」

 

「よく依頼をより好みしとったからのう。まあそれでも半分はワシのおかげじゃがな。ははは」

 

 眉をひそめるジゼルに、自分の自慢話をしだすルナ。ダニエルはそれに苦笑いしながら、それでも雑念を払うように首を横に振る。

 

「……けど、そう都合よく安全な依頼なんて無いですから」

 

「そうとも。こっからが正念場なんだから、頼りにしてるぜ」

 

 アランがダニエルの肩をたたく。そして四人は目の前の洞窟をあらためて見据えた。

 岩に囲まれた入り口から先には黒々とした闇が広がり、寒々しい静けさが漏れている。

 その奥には、まだまだゴブリンたちが息をひそめているのだ。そしておそらく、オークも。

 

「じゃ、行くか!」

 

 アランが景気のよい声をあげ、剣をかかげる。それに続いてジゼルたちも、一斉に足を前に踏み出した。

 

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