獣人と日々を歩む冒険者 ~清くも正しくもないが、信頼はある~ 【完結】   作:ごぼう大臣

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ついにオークと相対する

 

 ……襲ってきたゴブリンたちを蹴散らし、ついにその魔物たちの住みかへ突入しようという時。

 ふと、先頭にいたアランが振り向き、かがんで声をひそめ、こんな事を言った。

 

「……ちょっと、ならび順を考えておくか」

 

「こんな時になんだよ。そんなんしてる場合か?」

 

 アランに倣ってかがんだメンバーの中で、すぐ後ろのジゼルがじれったそうにたずねる。アランはそれに苦笑しつつ、なだめるような口調で言う。

 

「まあまあ、万が一を考えてだ。今回は人数もいるしな……。まずジゼル、先頭いってくれ」

 

「は? なんで私が」

 

「こう暗いんじゃ、お前の鼻に頼らざるを得ないんだよ。お前にしかできない役目だ」

 

「……ふーん、まあいいけどよ」

 

 お前にしかできない。そう言われてジゼルはほんの少し頬をゆるめる。するとアランがダニエルから松明をさっと引ったくり、ジゼルへとよこす。

 

「うおっまぶし! 急に何すんだ!」

 

「何って、松明もってくれよ。先頭の役目だ」

 

「……あらかじめ言っとけよ、驚かせやがって」

 

「で、二番目は俺だ。きっちりサポートさせてもらうぜ」

 

「尻さわったりしてくんなよ」

 

「よせやい、人聞きの悪い」

 

 軽い調子で言い返して、アランは後ろで微妙な視線を向けてくるダニエルたちへ振り返り、こう勧めた。

 

「……えーと、そんじゃダニエルは三番目に並んでくれ。しんがりがルナ、でいいか?」

 

「えー、ワシは最後尾か? 先頭に近くないとやる気が出んぞ」

 

「ルナ、後づめというのは想像以上に大事な役割なんですよ。背中はみな、注意がおろそかになりますから」

 

「……本当か? ごまかしてないか?」

 

「まさか、ウソなどつきませんよ。僕とあなたの仲じゃないですか」

 

「……ま、いいじゃろ。大事ならば仕方ない」

 

「少なくともアランには任せられねえな」

 

「水を差すなっての。せっかく話がまとまったんだから……」

 

 アランが少し不満げになったものの、四人は言われた通りの順番になる。そして一度だけたがいに顔を見合せると、目の前の洞窟へと進んでいった。

 

――

 

 ……洞窟へ一歩足を踏み入れると、雰囲気がいっきに変わった。そよそよと肌にあたっていた夜風がさえぎられ、かわりにムッとした湿気が体にまとわりつく。洞窟内の土と砂利と、苔と水気とさまざまなモノの匂いが充満し、その先に不穏な何かを予感させる。

 

「……けっこう広いな」

 

 松明で照らしてみると、そこには結構な空間があった。横幅が5メートルから10メートル以上にも広がり、円のように広がった空間の向こうには、大きく穴のあいた岩壁とその先にあるもう一つの空間がうっすら見える。

 

「気をつけろよ。どこに敵がいるか分からないからな」

 

 アランが剣をかまえ、今日一番の慎重な声で言う。洞窟の中は大きな岩や(くぼ)みなどがそこかしこにあり、ゴブリンが隠れるには十分だった。

 暗闇で不覚をとっては命取りになる。一行は気を引きしめてゆっくりと歩を進めていた。

 その時。

 

「右だ!!」

 

 突然、ジゼルが大声を発した。その刹那、彼女の言った通り右の暗がりから一匹のゴブリンが飛び出し、四人に飛びかかる。

 

「おっと!」

 

 とっさにアランが躍り出て、ゴブリンを一刀のもとに斬り伏せる。それを皮切りに、ジゼルが次々に指示を出しはじめた。

 

「次、左!」

 

「そいっ!」

 

「前!」

 

「おらっ!」

 

「右ちょい後ろ!」

 

「せいっ!」

 

 ジゼルの指示に合わせ、アランは素早いフットワークであらゆる方面からくるゴブリンたちを斬り捨てる。六匹ほどそうした後、アランが息を切らせてジゼルへ言った。

 

「いや、お前も戦えよ!」

 

「私は松明で片手がふさがってるからよ。代わりにお前が……っと」

 

 ヘラヘラしながら肩をすくめたジゼルだったが、目の前に飛び出してきたゴブリンへ松明を押しつける。そして苦しそうに倒れたところで、首筋にカギ爪を突き立てた。

 

「……ほれ、この通り戦いにくいからさ」

 

「どの通りがこの通りだ、十分だよ」

 

 肩をすくめるジゼルへ、アランがぼやく。そのさまを、ダニエルは気を張りながら見つめていた。

 

「……やっぱり、ぶっつけ本番で戦える人はすごいや……」

 

 緊張しつつも、前の二人から視線は離れない。そんな時、彼の背後でダンッと誰かが駆け出してくる音がした。

 

「グオオォッ!!」

 

「なっ!?」

 

 不意をつき、後ろから一匹のゴブリンが剣をかまえて飛びかかる。ダニエルはとっさに身構えたが、気づくのが遅れて応戦には間に合わない。

 

「ほいっと」

 

 しかしそこで、ルナがゴブリンを食い止めた。叫んだ敵の胸元へ、勢いよくレイピアをお見舞いする。

 死骸がどさりと地に落ちると、驚いて動かずにいるダニエルへ振り向き、ルナは牙を見せてニッと笑う。

 

「何を呆けておる。ワシがいるのを忘れたか?」

 

「あ……いえ、ありがとうございます」

 

 自分とは正反対に余裕ありげなパートナーへ、ダニエルは小さく頭を下げる。しかし胸中では、感謝とともに役に立てていないという申し訳なさが湧いていた。

 そんな風に、彼が気まずい思いでアランたちへ背を向けていると。

 

「待て、この野郎!」

 

 その背後にいたうちの一人、ジゼルの怒鳴り声が聞こえた。驚いてダニエルが振り向くと、二匹のゴブリンが奥へとつながる穴へ一目散に逃げていくところだった。

 アランとジゼルが追いかけるが、距離からして追いつけなさそうだとダニエルは直感した。彼はそこから直感的に杖を向け、逃げるゴブリンたちへ呪文をとなえた。

 

炎の矢(ファイア・アロー)!!」

 

 瞬間、杖の先端から先に紋章が浮き上がり、ひと抱えほどの炎の塊がゴブリンへ向けて発射される。それはまさしく矢のように尖った形になって飛び、一直線に敵へと向かう。

 しかし。

 

「あっちぃっ!?」

 

 それがジゼルの鼻先をかすめ、彼女が大声をあげる。そして肝心のゴブリンには紙一重で当たらず、炎の矢は地面に火柱をあげる。ゴブリンはそのすきに奥へと逃げ去ってしまった。

 

「あっ……」

 

 気まずそうにうめくダニエル。洞窟内に燃えるものが無いせいか、火はくすぶりつつも自然に消えていく。ただそれよりまずい事が起こった。魔法がかすめたジゼルが、つい松明を落としてしまったのだ。それは運悪く水たまりに落下し、一瞬にして火が消えてしまう。

 

 かくして、洞窟内は暗闇に包まれた。ジゼルやルナが鋭い感覚で仲間の位置を把握し、首根っこあるいは腕をつかまえて一つところへ引っ張っていく。

 

「ダニエル、お前なんだってあんな所で横やり入れるんだよ! おかげで真っ暗じゃねえか!」

 

「す、すみません……一体ぐらい僕も倒さなきゃと思って……」

 

「まったく、杖を使えば威力も上がるんじゃから、気をつけにゃいかんじゃろうに」

 

「肝心な時にあせりやがって……」

 

「まあまあジゼル。悪気があったワケじゃ無いんだしさ」

 

「うっせえ、あと変なとこ触んな!」

 

「いや、暗くてよく見えないんだって」

 

 四人の話し声が洞窟に反響する。特にジゼルは敵を取り逃がしたせいかイライラをつのらせている。

 アランが一つせきばらいをして、真面目な声になって言った。

 

「……とにかくだ。まだ依頼は続いている。そしてケガしたワケでもない。くだらないケンカはやめようぜ」

 

「む……」

 

「ジゼル、念のため向こうの匂いをさぐってくれるか。奴らも何か用意してくるかも……」

 

 アランがそう言いかけた、その時。

 

「ギャアアアアアァーーーッ!!」

 

「っ!?」

 

 突如、洞窟の奥から耳をつんざくような悲鳴が鳴り響く。顔を突き合わせていた四人も一様に表情をこわばらせ、その方角を凝視する。

 暗闇の奥に、うっすら見える岩壁の穴。その中からの悲鳴がやむと、辺りはまたしぃんと静まり返った。四人はしばし無言でいたが、ジゼルが意を決したように前へ出て鼻を利かせる。

 

「……どうだ?」

 

「……血の匂いがする。ゴブリンの血だ」

 

「奥からか? 俺らが倒したヤツじゃなくて?」

 

「奥からだよ。理由は分からねえが……」

 

 洞窟内部からの悲鳴に続いて、ただよってきた血の匂い……。ごくり、とダニエルが唾を呑み込む。全員がうっすらと不気味な気配を感じ取っていた。

 

「お主ら、怖がるでない!」

 

 すると、しんがりにいたルナがさっと前に進み出る。そしてレイピアを前方へ向けると、頼もしげな口調で言った。

 

「ワシならば敵の居場所も分かる。この真正面で突っ立っておるわ」

 

「だからって、考えなしに進むのは……」

 

「立ち止まっているヒマはあるまい! どのみち襲撃はバレておるのじゃ!」

 

 ダニエルが口を挟むのをさえぎり、ルナは大きく翼を広げる。その勢いにアランやジゼルが思わず体をかばったすきに、ルナは敵がいるという洞窟の先へと風を切って飛んでいった。

 

「手柄を立てさせてもらうぞ、魔族の悪党よ!」

 

 そう叫んで、彼女は前方の岩壁の穴へと突入する。ドスッ、という鈍い音がかすかに聞こえて一瞬……静寂がおとずれた。

 

「……っ?」

 

 残った三人に緊張が走る。攻撃をしかけたはずのルナは、声の一つも出さない。

 嫌な予感がしたダニエルが、とっさにローブをぬいで地面に投げ捨て、手をかざす。そしてほとんど叫ぶように呪文をとなえた。

 

弾ける火(ポップ・ファイア)!」

 

 とたん、ローブに音を立てて火がつく。彼はとっさに火を頼りに、突っ込んでいったパートナーを探した。アランとジゼルも同じ方角を同時ににらむ。

 そして、次の瞬間に息をのんだ。

 

 轟音を洞窟じゅうに反響させ、岩壁が粉々にくだかれる。そして中から、岩と一緒になってルナが吹き飛ばされたかと思うと、レイピアを手放して地面に転がった。

 

「ルナ!」

 

ダニエルは叫ぶなりパートナーのそばへと駆け寄る。しかし直後に顔をあげ、視界に映ったものを見つめて、言葉を失った。

 2メートル、いや3メートルにも届こうかという巨大な背丈。肌は薄暗い洞窟内にまぎれてしまいそうな濃い緑色で、体はでっぷりとした肥満体。四肢はその体を支えるためか丸太のように太く、それを骨ごと両断できそうな斧をたずさえている。

 野太い首の上では、顔が豚のようにいかつく、凶暴そうなキバを生やしていた。

 

「オーク……」

 

 初めて目の当たりにした怪物の名を、ダニエルはかすれた声でつぶやく。そんな彼を守るかのように、アランとジゼルが武器をかまえてオークへと飛び出す。

 

「せいやっ!」

 

「オラァッ!!」

 

 それぞれが全力で剣を振るい、あるいはツメを突き出す。しかしオークは一向にこたえる様子がなく、風が起こりそうな勢いで横凪ぎに斧を振るう。

 ジゼルはすばやく反応してかわすが、アランは腹の鎧に少し、傷をつけてしまった。

 

「ぐっ……!」

 

 低くうめき、アランは目の前の相手を見据える。脂肪と筋肉をまとったオークの肉体。しかし攻撃が通じない理由は、ほかにもあった。

 オークの腹を覆うようにして、ゴブリンの死体がくくりつけてあったのだ。その二体ほどの死体はあわれに頭を割られ、動かない肉盾と化している。

 

(なるほどね……さっきの悲鳴はこいつらか)

 

 妙に冷静に納得して、アランはジゼルへと目くばせする。そして背後にいるダニエルたちに声だけで伝えた。

 

「二人とも、いったん下がってろ。俺らで時間かせいでおくから」

 

「え……でも」

 

「ルナの手当てをしてやってくれよ。私なら匂いで察して、少しはもたせられる」

 

「包帯がまだ残ってたろ?」

 

 ジゼルも一緒になって説得するが、ダニエルは煮え切らない様子でルナをかかえ、その場にうずくまっている。その間にも、オークは緩慢な動きで四人に近づいてくる。それを緊迫した表情で見つめる、ジゼルとアラン。

 ダニエルは唇をかみ、腕の中のルナを見た。チェーンメイルを切り裂かれ、中からは血がにじんでいる。深い傷ではないが、彼女の小さな体のせいで痛々しく見えた。

 

「……っ……」

 

 ダニエルは混乱しそうになる頭で必死に考えた。言われた通りに撤退すべきか。二人が下がれと言っているのだから、せめてパートナーにこれ以上ケガはさせないよう、逃げも想定しておくべきだろうか。

 そうだ。……この仕事が安全じゃないのは、誰しもが最初から分かっている事じゃないか。撤退した後に二人がどうなるかは分からないが、言う通りにした結果なのだから恨みはすまい。たとえ手当てが終わった頃には、逃げるしかなくなっていたとしても――。

 目の前に迫るオークの姿を見ながら、ダニエルの思考は全力で生存を優先しはじめる。しかしそんな時、彼の腕をルナがぎゅっとつかんだ。

 

「……え?」

 

 我に返って下を見ると、ルナがジッと見つめてくるのと目が合った。口から血をたらし、苦悶に顔をこわばらせてはいるが、力のこもった目で勝ち気に笑っている。

 まだやれる、と言いたげな目つき。それを見たダニエルの脳内に、アランから言われた言葉がよみがえる。

 

『いざって時には勇気も必要さ。馬鹿みたいな選択でもな』

 

 それを頭の中で反芻すると、彼はルナに向けてすばやく何かを耳打ちする。そして顔を上げると、オークと対峙しているアランとジゼルにむかって大声で言った。

 

「お二人とも、下がって!」

 

「は? なんだ急に!」

 

「いいですから! 僕に考えが――」

 

 突然のダニエルの言葉に、二人は困惑した顔で振り返る。その時、オークが斧をぐいと上に振りかぶった。

 

「っ危ねえ!」

 

 アランがとっさにジゼルを突き飛ばす。その刹那、オークの斧が勢いよく振り下ろされた。

 

「ぐおぉっ!?」

 

 間一髪、アランは剣の腹で斧を受け止める。しかしやはり重量差のせいか、彼はひざまずいてバンザイの姿勢で剣をささえ、全身をふるわせている。

 その姿を見て、緊迫した表情のジゼルがダニエルへと叫ぶ。

 

「おい、本当に考えがあるんだな!?」

 

「はい!」

 

「じゃ、じゃあ早くしてくれ! 俺死んじゃう!!」

 

 斧に押しつぶされそうになりながら、アランも叫ぶ。その時、彼のすぐ頭上を黒いかたまりのようなモノがよぎった。

 

「グオアアァッ!?」

 

 直後、オークが悲鳴をあげて斧を取り落とす。ルナがオークの指にかみついていたのだ。振り払おうとする大きな腕にしがみつき、小さなキバを指先に突き立てている。

 

「二人とも、離れて!!」

 

 その時、背後からのダニエルの声を合図に、ルナはすばやくオークから飛び去る。アランもあわてて背を向け、一目散に逃げた。

 入れ替わりに前へ進み出るダニエル。杖をかかげ、今までで一番の引き締まった顔をしてオークを見据えている。

 

 対して、オークはすぐさま斧を拾うと、四人に向かって足を踏みだした。ジゼルは不安げに何かを言いかけたが、真剣なダニエルの様子を見て口をつぐむ。

 すると杖の先に大きな赤い紋章があらわれ、ダニエルはその紋章ごしにオークをにらみつけると、ハッキリとした声で呪文をとなえた。

 

爆炎魔波(エクスプロージョン)!!」

 

 瞬間、オークを中心に赤々とした炎が吹き上がり、四方八方に弾けた。洞窟内に叩きつけるような轟音と熱風が広がり、アランたちは思わず顔を覆う。

 オークは火だるまになりながら、錯乱した足取りで辺りを走り回った。

 

「ガアアァッ!! ウグオオォァッ!!」

 

 濁った叫び声をあげながら、オークはあちこちの壁に体当たりをしはじめる。胴体にくくりつけられていたゴブリンが焼け焦げ、肉盾の役割をはたせなくなっていく。

 それを見て取ったアランは、爆炎の魔法に気を取られていた意識を元にもどし、前へと進み出る。ジゼルに目くばせすると、相手も同じようにカギ爪をかまえていた。

 

 言うまでもないか、とうなずき、アランはダニエルへと振り返って言った。

 

「よくやってくれた。あとは任せとけ」

 

「……す、すみません……。ちょっと魔力を一気に使っちゃって……」

 

 ダニエルはそうつぶやいて、ガクリとその場にうずくまる。魔力……つまり魔法を使うためのスタミナが減ってしまったのだろう。

 「気にすんな」とアランは何て事ないという風に剣をかまえる。そして隣にいるジゼルに向けて言った。

 

「さあ、トドメだ!」

 

「分かってる!」

 

 ジゼルも応じ、二人は同時にオークへと走り出す。敵が気づいて手をのばすよりも速く、炎でもろくなった体へ剣を、あるいはツメをふるう。

 それらは二人の勢いのままにゴブリンの体を突きやぶり、腹の左右へ食い込む。体の勢いが鈍るのを感じながら、アランとジゼルはそれでも脚を踏んばり、攻撃の力をゆるめない。

 

「お……おォらああああぁッ!!」

 

 渾身の力を込め、気迫をもって振り抜いた一撃が、オークの体を切り裂き、大穴をあけた。

 

「グアアアアァーーッ!!!」

 

 オークが洞窟をゆるがすほどの悲鳴をあげる。それが最後の断末魔になった。形を大きく変えた上半身をぐらりと傾かせたかと思うと、その場にどうと倒れこんだ。ズシン、という思い音が周囲に響き、バラバラと小石や砂が落ちて……それから、オークは動かなくなった。プスプスとくすぶりながら、その場に大の字で沈黙している。

 

「や、やった……?」

 

 ダニエルが震える声でつぶやく。暗い中で目をこらし、ぴくりともしないオークを見つめていると、その近くにアランが歩み寄る。そして……。

 

「わあーっ!?」

 

「ぎゃっ!??」

 

 声をあげて飛びのくアラン。それを見て驚くダニエルへ、アランはニヤリ笑って振り向く。

 

「冗談だよ。もう死んでる」

 

「な、なんだ……ビックリさせないでくださいよ」

 

「……アラン、お前ってホントしょーもないな」

 

「ダニエルも動かない相手に怯えすぎじゃろう。情けないの」

 

 獣人たちがそれぞれのパートナーに呆れた視線を向ける。それに苦笑いしながら、ダニエルは立ち上がった。

 

「そ、そうだ。それより手当てをしておかないと」

 

「これぐらい平気じゃ。かすっただけじゃからの」

 

「そうはいきませんよ。一時が万事です」

 

 そう言って、装備をぬがせて治療に入るダニエル。おとなしく包帯を巻かれていたルナだったが、ふと、ポツリとこんな事をつぶやく。

 

「助けられてしまったな……」

 

「ん?」

 

「お主らがいなかったら、ケガだけじゃ済まなかったろう」

 

 そのしおらしいセリフに、アランたちはキョトンとしてルナを見つめる。皆それぞれに貢献があったはずだが、ルナにしてみれば自身がふがいなかったのかもしれない。

 「どうって事ねえよ」とジゼルは笑いかける。しかしその時。

 

「そうじゃ。せっかくじゃから、報酬の取り分はジゼルに上乗せしてやる」

 

「へっ」

 

「くやしいが、トドメを刺したのはお主らじゃからの」

 

 意外そうな顔をするジゼルに、ニッと屈託なく笑うルナ。そもそも勝手に報酬の配分を決めるのも変なのだが、まるでご褒美をやるかのように愛想のいいルナを見たせいか、今度はジゼルの頬が緩みだす。

 

「いや、ルナが多く取れよ。ケガさせちまったし、それこそ詫びとしてさ」

 

「なぬ? ケガはワシの不手際じゃろう。気にする事はない」

 

「遠慮するなって。どうせアランは金にうるさくねえし」

 

「おい。俺はいいけど、一応は話し合いをもって……」

 

「いいから好きにさせろって。喜ぶヤツがいるなら結構じゃねえか」

 

「……あれ? でもジゼルさんたち、しばらく依頼が受けられないんじゃありませんでしたっけ……?」

 

 ……パーティーを組むのに慣れていなかったせいだろうか。四人は謙遜やら親切心やらによってたちまち譲り合いを始めてしまった。

 結局、その場でアレコレと話し合いが行われ、報酬は普通に半分にする事となった。彼らは夜の間にオークとゴブリンの死体を焼却して埋め、朝になってからは村へあいさつして、疲れを残しながら村を後にした。

 

 帰るまでの間、道中ダニエルは少し顔つきに自信が増し、ジゼルとルナは時おり二人で、獣人の言葉でもって会話を楽しんでいた。

 

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