馬車はやがて目的の町、リフレットの町に着いた。
門番らしき兵士に挨拶と軽い質問をされ、早々に入ることが許された。 その間の様子を見ていたが、兵士たちの反応を見るに、ザナックは結構有名らしいというのが分かった。
ガタゴトと馬車が町中を進んでいく。 古めかしい石畳の上を進むたびに箱型の車体が小刻みに揺れる。やがて商店が並び、賑わう大通りに出ると一軒の店の前で馬車が止まった。
「さぁ降りてくれ。 ここで君の服を揃えよう」
ザナックに言われるがまま、俺は馬車を降りる。 店の看板には糸と針のロゴマークが施され、その下の文字を見て、俺は金なしの状況に気づいたときと同じ不安要素に気づいた。
「ヤベェ……読めねぇ……」
そう、看板の文字が読めんのだ。 これはこれでかなりマズいのではないか? 会話は出来るが文字が読めんて……。 仕方ない、ここの文字は誰かに教えてもらうとしよう。 ……教えてくれる奴がいれば、の話だが。
ザナックに連れられ、店内に入ると数人の店員たちが俺たちを迎える。
「お帰りなさいませ、オーナー」
店員たちの言葉に俺は少し驚いた。
「ここのオーナーなのか?」
「あぁそうだよ。 さぁそんなことより! 服を着替えたまえ。 おい、誰か彼に似合う服を見繕ってくれ!」
ザナックは急かすように俺を試着室(前世のようなカーテンで仕切られた部屋ではなく、本当の小部屋)へと押し込んだ。 そして何着かの服を持ってきた。 着替えるためにブレザーの上を脱ぎネクタイを外し、ワイシャツを脱いだ。 その下には黒のTシャツを着ていたが、それを(いつの間にか)見たザナックは目の色がまた変わった。
「き、君、その下の服も売ってくれんかね!?」
「アンタ、本当に服飾店のオーナー? 追剥の間違いじゃねぇよな?」
結局のところ、ザナックには身ぐるみ剥され、全部売る羽目になった。 靴下や靴までもだ。 トランクスまで売ってくれと言われた時は流石に恐怖を覚えた。 敵意とかじゃなくて単に服に興味が湧いているだけにあまり強くも言えないのが質が悪い……。 言われる俺の身にもなってくれ……。
しかも代わりに用意してくれた服や靴は、動きやすく制服よりも丈夫そうで、文句の付け所がないのも歯がゆいものだった。 ……まぁ、無駄に派手じゃなく、シックな感じで中々の服だった。 これなら町中で目立つことはないはずだ。
「それで? いくらで君の服を売ってもらえるのかね? 無論、金に糸目は付けんが、希望額はあるかい?」
「あ~それなんだが…‥俺はこの辺の者じゃないから、相場とかが良く分からないんだよ。 そりゃ、高い方が断然いいんだが……なにせ今の俺、一文無しだからよ」
「ふぅむ、そうか……それは気の毒に。 よし、なら金貨10枚という事でどうだろうか?」
金貨10枚か……高いのか安いのか分からんが、吹っかけて禍根を残すのも良くない。 ここはひとまず頷いておくか。
「じゃあ、それで」
「そうかね! ではこれを」
ザナックから茶色の袋を渡され、受け取るとジャラッと金貨10枚が手渡された。 金貨の大きさは一枚で500円玉くらいでライオンのようなシンボルが彫ってあった。 これがこの世界での俺の全財産……大切に使わんとな。
「よし、金が出来たところで……この町に宿屋のようなところはないか? 日が暮れる前に休める場所を確保しときたいんだが……」
「あぁ、宿屋なら前の道を右手にまっすぐ行けば一軒あるよ。 『銀月』って看板が出ているからすぐに分かる」
「ふむふむ、なるほどな」
まぁ、看板があっても読めねぇんだけどな、俺。
「それともう一つ、その宿屋の一泊は相場でどのくらいだ?」
「そうだね……一泊で銅貨2枚だから、その金貨1枚で50泊は出来るよ」
金貨1枚で50泊……つまり銅貨100枚分の価値があるってことか。
「分かった。 じゃあ俺はこれで」
「あぁ。 また新しい服を手に入れたら、持ってきてくれたまえ」
ザナックに別れの挨拶をして外へ出る。 日はまだ高く、スマホを取り出して電源を入れると午後2時前だった。
「ふむ……昼ちょっと過ぎか。 宿屋に着いたら、そこで飯屋の場所でも聞こう」
そのままマップアプリを開き、町中の地図を表示する。 画面には現在地や店の名前も表示され、ザナックが教えた方向に宿屋『銀月』の表示もあった。 ……にしても。
「この看板……『ファッションキングザナック』って読むのか……」
ザナックの店の看板を見て、彼のネーミングセンスに残念さを感じながら、俺は宿屋へと歩き始めた。
しばらく歩いて宿屋『銀月』の看板が見えてきた。 三日月のロゴマークが見えて、分かりやすかった。 宿屋の見た目は三階建ての建物で、煉瓦と木でできたがっしりとした造りの建物だ。
両開きの扉をくぐり、1階の酒場のような食堂らしき場所の右手にカウンターがあり、左には部屋へと続く階段が見えた。
「いらっしゃい。 食事ですか、それともお泊りで?」
カウンターにいた女性が声を掛けてくる。 赤毛のポニーテールが良く似合う、
「宿泊でお願いしたい。 金貨1枚で……そうだな、とりあえず一ヶ月で」
「はいよ。 一ヶ月ね。 最近お客さんが少なかったから助かるわ。 ありがとうございます。 ちょっと今銀貨切らしてるから、銅貨でお釣りね」
俺が金貨を手渡し、女性が受け取るとお釣りに銅貨で40枚返してきた。 金貨1枚で銅貨100枚の価値で、一か月の宿泊で釣りが銅貨40枚という事は、一ヶ月で銅貨60枚。 一泊で銅貨2枚だから一ヶ月は30日か……転生前と変わらないという事か。
頭の中で計算していると、女性はカウンターの奥から宿帳らしきものを取り出し、俺の前で開いてインクの付いた羽ペンを差し出してきた。
「じゃあここにサインをお願いしますね」
「あー……すまんが、俺は字の読み書きが出来なくてな。 代筆をお願いしたいんだが」
「そうなの? わかったわ。 じゃあ、お名前は?」
「望月だ。 望月冬夜」
「モチヅキ? 珍しい名前ね」
「あぁいや、名前が冬夜だ。 望月は苗字で……家の名前だ」
「あぁ、名前と苗字が逆なのね。 貴方、イーシェンの生まれ?」
「イーシェン……というのは分からんが、似たような所の出だな」
イーシェン……名前からして東の方にあるっぽいが……あとで調べておくか。
「じゃあこれが部屋の鍵ね。 無くさないように。 場所は3階の一番奥。 陽当たりが一番良い部屋よ。 トイレと浴槽は1階、食事はここでね。 あ、どうする? お昼食べる?」
「あぁ、頼む。 ちょうど宿を捜したら飯屋の場所を聞こうと思ってたからな」
「じゃあなにか軽いものを作るから待ってて。 今のうちに部屋を確認して一休みしてきたらいいわ」
「あぁ、分かった」
鍵を受け取って階段を上り、3階の一番奥の扉を開ける。 6畳くらいの部屋で、ベッドと机、椅子にクローゼットが置いてあった。 正面の窓を開けると、宿の前の通りが見える。 なかなかの光景だ。 下を見れば子供たちがはしゃぎながら道を駆けていくのが見える。 子供は元気だねぇ……。
とてもいい部屋に気を良くして部屋に鍵を掛け、階段を降りるといい匂いがしてきた。
「はいよー。 お待たせ」
食堂の席に着くと、サンドイッチとスープ、サラダが運ばれてきた。 手を合わせて「いただきます」と言って異世界初めての食事にありつく。 サンドイッチのパンは少し固いが、中のハムや卵が程よくうまく、スープも肉や野菜の味が出ていて旨いし、サラダもシャキシャキと爽やかな味わいがあった。
……異世界初めての食事としては、かなり良い印象を受け、十分に満足できる味だった。 完食し、再び手を合わせて「ごちそうさまでした」と言ってカウンターまで皿を持っていく。
さて、これからどうするか……ここにしばらく住むわけだし、町の散策にでも行こうか。
「少し散歩に行ってくる」
「はいよー。 行ってらっしゃい」
宿屋の女性(名前はミカ)に見送られ、町の散策に出る。
なにせ異世界、それも狭間の地以外での町だ(まぁあっちは戦争の後だったから、町らしきものなんてローデイルぐらいしかなかったが)。 見るものすべてが珍しいし、興味も惹かれる。 キョロキョロと視線を彷徨わせ、不審に思った人の冷たい視線にハッと我に返って気持ちを正す。 しかし、またキョロキョロと視線を彷徨わせてしまう。 ……これも魅力的な町だからだな、うん。
「さて、まずは稼ぐ方法を見つけんと……。 この世界で生きていく以上、金は必要だしな」
狭間の地ではいろんな人から(強制的に)恵んでもらったりしたからなぁ……しかし、この世界じゃそれは出来んだろうし……。
「……ん?」
あれこれ考えているとどこからか喧騒の声が聞こえてきた。 大通りの外れ、路地裏の方だ。 なにか男女の
言い争うような声が途切れ途切れに聞こえてくる。
「ふむ……何かしらのトラブルか。 行ってみよう」
そうして俺は、裏路地へと足を踏み入れた。
冬夜(憑)「今回は無いんだな」
ん? あぁ、あれはエルデンリング関連の装備類が出てこないとやらないし、今回は相場での説明回だしね~……本格的に出るとしたら次回からじゃないかな?
冬夜(憑)「次回ってことは……あぁ、ついにあの二人が出るのか」
そう! やっと次回であの双子が出てくるんです! やっぱりヒロインとの絡みがないとつまんないからね!
冬夜(憑)「まぁな。 ……さて、それじゃそろそろ挨拶するか」
そうだね。 こほん……あとがきまで読んで下さり、ありがとうございました! 感想と評価、どうかよろしくお願いします~!
冬夜(憑)「じゃあ、またな」