裏路地に入り、狭く細い道を進んでいくと、その突き当りで四人の男女が言い争っていた。 片や厳つい男が二人、対する少女が二人。 少女たちは両方可愛らしい見た目だ。
少女二人の年齢は俺と同じくらいか年下のように見える。 よく見ると少女たちは双子なのか似た顔立ちをしていて、髪の色も同じ銀髪だ。 違うところを挙げるとするなら、目つきやショートカットとロングと髪型くらいだろう。
服装はというと二人とも上半身は黒を基調にした上着と白いブラウスで共通だが、下半身はロングがキュロットに黒の二―ソックス、ショートの子はフレアスカートに黒タイツと違いはあった。 活発さと清楚さ、二人を見るだけでその違いが分かりやすく見えてくる。
「約束が違うわ! 代金は金貨1枚だったはずよ!」
ロングの少女が男たちに向かって声を荒げる。 それに対して男たちはニヤニヤと馬鹿にした薄笑いを浮かべている。 男の一人がキラキラと光るガラスでできた鹿の角のようなものを持っていた。
「何言ってやがる。 確かにこの水晶鹿の角を金貨1枚で買うといったさ。 ただし、それは傷物でなければ、だ。 見ろよ、ここに傷があるだろ? だから金額はこれくらいなのさ。 ほらよ、銀貨1枚受け取りな」
男がポケットから銀貨1枚を取り出し、チャリンと少女たちの足元に転がす。
「そんなの小さな傷、傷物に入らないわよ! まさか、あんたたち始めから……!」
男たちの意図に気づいたのか、悔しそうに睨みつけるロングの少女。 その後ろに隠れているショートの少女も悔しそうに唇を噛んでいた。
……なるほど。 あの少女たちはこの男たちに依頼されて、物は用意できたが見返りの報酬が提示したものと違い、異議を唱えた。 しかし男たちはそれを聞き入れなかったってところか。 ……騙される方もそうだが、騙す方は雑だな。 もっと上手く言いくるめて騙すことはできなかったのか。 俺の知り合いでも騙す奴はいたが、こいつらみたいにセコクはなかったぞ。
「……もういい。 お金はいらない。 その角を返してもらう」
じりっとロングの少女が前に出る。 握りしめた両拳には、少女の腕とは不釣り合いな大きな籠手――ガントレットが装備されていた。 見た目が華奢な割にゴツイ装備を持ってんな……。
「おっと、そうはいかねぇ。 もうこれはこっちのもんだ。 お前らに渡す気は――――」
「あー……お取込み中のところすまんが、ちょっといいか?」
突然声を掛けた俺に、四人全員の視線が集まる。 少女たちはキョトンとしていたが、男たちはすぐさま厳つい顔をさらに歪ませ、険悪な目で俺を見てきた。
「あ? 何だテメェは? 俺達になんか用か?」
「まぁ、お前らにもあるといえばあるが……先に、そこの少女よ」
「え? あたし?」
脅すように睨みつけてきた男を無視し、その後ろのロングの少女に声を掛ける。 声を掛けられた少女は声を掛けられるとは思わなかったのか、少し驚いた様子だった。
「そこの……えっと、角か? この角を金貨1枚で俺に売ってはくれないか?」
俺の提案にしばらくぽかんと話を聞いていた彼女だったが、やがて理解できたようで満面の笑顔で返事をした。
「売るわ!」
「よっし、交渉成立だな」
「って、待てコラァ! テメェらなに勝手な事言ってやがる! これはもう俺たちのもん――――」
「まぁまぁ、兄ちゃん。 そうカッカするなって。 ほれ、兄ちゃんらにも金貨1枚やるからさ」
俺はそう言いながら袋から金貨を1枚取り出し、男二人に見せる。
「ァア”!? だから、これはもう俺達のだって、さっきから言ってんだろうが! ふざけてんのか――――」
「あらよっと」
俺は金貨をコイントスの要領で上へ飛ばす。 突拍子もない俺の行動に俺以外の全員の視線が宙に浮いた金貨に向く。
「テメッ、マジでいい加減に……!」
「オラァッ!!」
ドゴォオ!!
角を持った男がキレて、俺に怒鳴ろうとした瞬間、俺はあらかじめ右手にセットしておいた拳専用武器『セスタス』(『戦技:命奪拳』装備)で男の顔面に叩きこむ。
「うべぇあ!?」
「お、おい!? や、野郎!よくもやりやがった――」
「ホァチャアッ!」
ガシッ! ガシッ! ドゴォッ!
男が断末魔と共に倒れ、もう一人の男がナイフを抜いて俺に襲い掛かろうとしたが、一足遅かったな。
俺はすかさずナイフの男の胸ぐらを両手で掴み、そのまま男を引き寄せてそのままの勢いで頭突きを喰らわす。
「ぐはぁっ!?」
頭突きを喰らい、男はそのまま気を失った。 ……うん、やっぱり血の指の奴らと比べると弱いな。
俺は倒れた男たちを見てぼんやりと思いながら落としたコインを拾い上げ、ロングの少女に手渡した。
「ほい、金貨1枚」
「……いいの? あの角、壊れちゃってるけど……」
「え?」
ロングの少女が指さした方を見ると最初に殴り倒した男の手にはガラス製の角は見るも無残に砕け散っていた。 ありゃりゃ……倒れたときに砕けたのか。 ちょっともったいなかったか。 あの会話からして、結構な値打ちもんだっただろうに……。
「……まぁいいさ。 どうせ俺には価値が分からん物だったし、結果的には俺が買ったしな。 構わねぇから取っといてくれ」
「じゃあ……遠慮なく」
そう言ってロングの少女はガントレットの付けた手で金貨を受け取る。
「助けてくれてありがとう。 あたしはエルゼ・シルエスカ。 こっちは双子の妹、リンゼ・シルエスカよ」
「……ありがとうございました」
ロングの少女――エルゼの後ろにいたショートの少女――リンゼがぺこりと頭を下げて微笑む。
やっぱり双子だったのか。 ……髪型と服装でしか見分けがつかねぇや。
「どういたしまして。 俺は望月冬夜。 冬夜が名前だ」
「へえ。 名前と家名が逆なんだ。 イーシェンの人?」
「まぁ……似たようなところだ」
ふぅむ……やっぱりイーシェンという所は、どこか日本に通ずるものがあるのだろうか。
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「そうかー。 冬夜もこの町に来たばかりなんだ」
果汁水を飲みながらエルゼが俺に話しかける。 正確には、この町どころかこの世界に、なんだがな。
あれから俺たちは彼女たちが宿屋を捜しているという事で宿屋『銀月』に戻ってきて、紹介をした。ミカは客が向こうから舞い込んでくるのでほくほく顔だ。 実に分かりやすい。
そのついでに、時間も時間なので三人で食事をしようという運びとなった。 色々話しながらミカ手製の夕食を食べ終え、今は食後のお茶を飲んでいる。
「私たちもあいつらの依頼でここに水晶鹿の角を届けに来たんだけどね。 酷い目にあったわ。 なーんか胡散臭いなーとは思ったんだけどさ」
「分かってて受けたのか。 無鉄砲と言うかなんというか……」
「……だから私もやめようって反対したのに……。 お姉ちゃん、言うこと聞いてくれないから……」
エルゼの経緯の説明に呆れる俺。 リンゼもエルゼを非難するように睨む。 奔放な姉と真面目な妹、というところだな。 ……エルゼはアレク、リンゼはローデリカといったものかな。
「じゃあ、二人はなぜあいつらの依頼を?」
俺は疑問に思っていたことを聞いてみた。 俺から見てもあれは
「ちょっとしたツテでね。 あたしたち、前に水晶鹿を倒して角を手に入れたんだけど、欲しいって話が来たからちょうどいいやって。 でもダメねー。 やっぱりギルドとか、ちゃんとしたところから依頼を受けないとやっぱりトラブルに巻き込まれるのね」
さっきの事を思い出してため息をつきながら目を伏せるエルゼ。
「この機会にギルドに登録しよっか、リンゼ」
「その方が良いと思う……。 安全第一、明日にでも登録に行こうよ」
ギルド、か……某狩猟ゲームだと、討伐や捕獲、採集とかの依頼を受けて達成すれば、提示した報酬が貰えるアレか。
「……なぁ。 良かったら明日、ついて行っていいか? 俺もそのギルドに登録したいし」
「いいよ。 そんなら一緒に行こう」
「うん……。 一緒に行こう」
俺の誘いに二人は快く承諾してくれた。 ギルドに登録して仕事がもらえりゃ、いくらか稼げるし、この世界で生活していける基盤が出来るってもんだ。
今日の所はその場で二人と別れ、自分部屋へ戻った。 異世界生活の初めての一日が終わった。 ……初日から色々あったな……。
まず、異世界に降り立ったと思ったら制服売って宿に泊まって、トラブルに巻き込まれた少女二人を助けて野郎二人と喧嘩、その後ギルド登録を一緒にする約束を取り付けた……うん、初日にしては起こりすぎたな、色々。
とりあえず、ギルド登録をして依頼を受けるだろうし、武器装備の整理でもしておくか。 そうだな……明日はあの装備を着ていくとするか。
明日の準備を終え、ベッドに潜り込む。 明日はギルドへ行って登録だ。 狭間の地ではなかったモノだからな……どんなところか、楽しみだ。
未知への探求心に胸躍らせながら、俺はそのまま意識を闇へと落とした。
【Tips】拳武器『セスタス』
厚手の革に鉄鋲を埋め込んだ
拳で殴りつけるための武器
両手持ちすると、左右両拳に装備される
入手場所:リムグレイブ北東に位置するストームヴィル城の門衛ゴストークから購入(800ルーン)。
【Tips】爪/拳専用戦技『命奪拳』
気を極めた達人の戦技。人の類にしか効果がない
ゆっくりと気を纏った拳を突き出し
触れた者を昏倒させ、HPを奪う(※)
※本編ではこの戦技は使用しておらず、正確には『命(までは)奪(ばうつもりはないがこの)拳(を喰らえ!)』である。
冬夜(憑)「いやあれ拳と言うか頭だったよな? 拳じゃないよな?」
細けぇこたぁいいんだよ! 異世界来ていきなり殺人はマズいでしょうが! だからこれで妥協してんの!
冬夜(憑)「ま、まぁいいけどさ……んで、次回はとうとう本格的に活動するわけか」
その通り! 君がこの異世界に来て初めてのギルド登録、そして討伐依頼だ! 気合入れたまえよ!
冬夜(憑)「あぁ、怪我はしないように頑張るさ」
ではでは、皆様ここまで読んで下さり、ありがとうございました~! 少しずつですが、お気に入りしてくれた方もいるようで、作者としては嬉しい限りです~!
では、また次回!