皆さんご安全に
人生、生きていると様々な事が起こる。
面白いことや楽しいことはもちろん、辛いこと、悲しいこと、悔しいことといったマイナスな面が必ずある。
自分は、そんなマイナスな面に潰された人間だ。
至って普通で学生から社会人になり、そのまま仕事をしながら結婚して子供が出来て老いていく人生だと思っていたものが狂い始めたのは、ある日から数日間の記憶がぽっかりと抜けた空白が生まれた時だった。
その抜けた記憶に関しては特に追求しようとは思わなかった。就いた仕事は所詮ブラックというやつで、毎日が大変だった事もありストレスでこんなことが起こることもあるのかぁ程度の考えで今日も辛い仕事に行った。
仕事場に行くと自分のデスクがなくなっていた。
ブラックな仕事にいじめのようなものまで加わったのかと思い、どうしようか悩んでいる時に上司が近づいてくることに気づいた。
「お前下崎、この数日間何してやがった!!連絡もなしに仕事休みやがって!」
そう言われて驚いた。
どうやら記憶の抜けた数日間、自分はずっと意識がない状態で深い眠りについていたのかもしれない。
「デスクがないことに驚いたか?当然だろ、無断欠勤だもんなぁ!そんな奴ウチにはいらねぇよ、クビだ!」
「あ...あぁ、そうですか。すみませんでした。」
「退職届も何もいらねぇ!さっさと出ていけ!」
追い出されるように会社をでた自分は少し唖然としながらもこれからについて考えた。
仕事はいい、大きな額ではないが貯金もあるしブラックだった仕事だからいつか辞めようと思いながら働いていたから丁度いいのかもしれない。
問題は自分についてだった。
まさか自分が数日にかけて眠りについていたとは思いもしなかった。
これは少しやばいのかもしれない、そう思い病院に行くことにした。
「健康ですね、ストレスなのかもしれませんが目立った異常もないので大丈夫だとは思います。もし不安でしたら他の病院でも見てもらうのもいいかもしれません。」
「そうですか、ありがとうございます。」
診断結果に不服はなかった。
そういうものなのかもしれない、そう思いながらも疑問に思ったことがある。
数日間音沙汰がなくなれば心配する人がいるのでは?
彼女のミキとは毎日、最低でもひと二言はLINEで会話を行うという自然にできた決まりのようなものがある。
にも関わらずミカが自分の異変に気づいていないなんてことはありえない。
自分は急いでLINEを開く
未読あり、やはりミカからで丁度2日前が最後だった。
内容は大丈夫?と心配したものだった。
そこで途切れているのは、無視されたと思い怒っているのかもしれない。
ミカは優しい、そんな事で怒るよりも先ず自分の心配をして確認しに来るはずだ。
しかし自分は朝普通に目が覚めた。
ミカが見に来ていたのならその時点で起こされるか、病院にでも連れていかれているだろう。
ならばミカはうちに来ていないということになる。
怒っているのかもしれない、そう思いLINEにすぐに返信
[ごめん、数日間意識を失ってた]
[病院にはいって大丈夫という診断だったよ]
[無視する形になって本当にごめん]
LINEに送っておいたが既読はつかない。
そんなに早くつくはずもなく、これに関しては待つしかないと思った。
だがこのまま既読がつくことはなく、数日たったある日のこと。
「ミカさんの彼氏さんですよね?」
そう言って家に警察が来た。
警察の話によると2日前からミカの行方がわからなくなっているという。
丁度LINEの最後の会話と合致している。
...違う、怒って来なかったんじゃないんだ。
見に行こうとしている最中になにか良くないことに遭遇してしまい来れなかったのだ。
たった2日、だが皆から好かれるような優しいミカは普段から色んな人と交流をしている。
そんなミカが誰に対してもLINEの返答を行っていないのであれば確実に異変が起きている。
自分のせいだ、そう思わざるを得なかった。
丁度仕事はクビだ、行かなくても良い。
心配で、罪悪感に満ちた心を抑えながらミカを探した。
家に帰らず、何日も何日も探した。
電話が通じるはずもなく、何も分からなまま探した。
ミカの家に近い場所から自分の家に近い場所、山道などの死体が捨てられててもおかしくない場所。
最悪な結果を常に意識しながら探したが見つかることは無かった。
日に日に罪悪感が増していき、心配な気持ちは絶望感へと変わっていった。
心の底ではもう、諦め始めていた。
一二ヶ月ぶりに家に帰った、貯金も半分を切っていた。
そろそろ仕事に就かなければいけない、だがミカはまだ見付かっていない。
警察ですら見つけられていないのだ、もう諦めてもいいのかもしれない。
「これからどうしようか...」
そう呟いた時、電話がかかってきた。
ミカか、それとも警察が見つけたのか
どちらでも良かった。
直ぐにスマホを確認し電話に出ようとする。
...着信がない、ついに幻聴まで聞こえ始めたらしい。
これはヤバイなと思いながらもその着信音を聞いていると、ふと気づいた。
自分の着信音と違う。
幻聴ならそんなこともあるのかもしれない、だが、この着信音はミカのスマホと同じ音...。
耳を済ませた、家の中のどこかから聞こえる。
嫌な考えが脳裏をよぎる。
震える手を抑えながら、聞こえる方へと足を進める。
......ここだ、洗面所だ、そう気づいた瞬間に着信音が消える。
もしかして、そんなまさか、洗面所を吐き気を催しながら虱潰しに探していく。
見つかった。
充電も残り少しで切れてしまうほどの、新型のスマホ。
ミカが好きなオレンジ色だった。
...............紅い、黒い色が滲んでいた。
「記憶がなかったのはどうやら、酒に酔った自分が、心配になりうちに来たミカを殺した僕の脳が防衛本能で消していたみたいです。」
「ミカのスマホを見て驚きました。音信不通になったあの日、僕から電話をかけている履歴が残っていたんです。」
「なんで自分のスマホではLINEの履歴を見て、電話の履歴を見なかったのか今でも不思議です。無意識だったのかもしれないですね。」
「下崎さんは、自首はしないんですか?」
「しようと思いました。でも、直ぐに謝りに行きたいんです。罪から逃げるみたいにも感じますが、牢屋に入っても同じことをする。遅いか、早いかの問題です。」
「...そうですか、お話ありがとうございます。」
「いえ、いいんです。こちらこそお話を聞いてくれてありがとうございます。最後にお名前を聞いてよろしいですか?」
「左右田 慧《そうだ けい》といいます。また、どこかであえるといいですね。」
「そうですね、また、どこかで」
そう言い、下崎さんはその身を屋上から、ベッドへ倒れ込むようにすっと投げ出した。
僕と話したことで少しでも憑き物が落ちたのか、その顔は穏やかだった。
どっちつかずな心でいるなら止めようと思ったが、いらない世話だったかもしれない。
もしくは僕が話を聞いたことにより定まったのかもしれない。
人生色々なことがあり、こうして人は毎日を生き、死んでいくのかもしれない。
下崎さんの、先に生まれた人の言葉を聞いてそう感じながら僕は家路についた。
書きたくなったらまた書きます
それでは良い一日を