俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜 作:鴨山兄助
時計を見れば、現在午後5時を過ぎたところ。
窓の外からは赤い夕焼け空が見えている。
「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙……流石に疲れた」
波乱もあった文化祭2日目も、どうにか無事に終了した。
既に一般来場者は学園に残っておらず、現在は生徒達が後片付けに勤しんでいる。
ただそれはそれとして、流石にここ数日の諸々によって俺は疲れていた。
今は評議会の執務室にあるソファへ、沈み込むように座っている。
「お疲れさまです、
「
主に警察関係の対応について。
黒崎先輩が主導で動いていたそうだけど、流石にそれじゃあ人手が足りないので奏先輩もフォローしてくれていたそうだ。
ちなみに仕掛けられていた爆弾に関しては、11個全て警察が回収済みである。
起爆プログラムに無力化など、化神絡みの点に関しては
「にしても警察が爆弾を回収したってのに、文化祭を中止にしなかった学園長もスゴかったなぁ」
「当然の結果でしょう。警察が来た頃には何故か真っ白に燃え尽きていましたから」
「へぇーそーなんだー、それはおきのどくですねー」
我ながら変な棒読みをしてしまう。
奏先輩に疑惑の目を向けられている気がするけど、正直心当たりはある。
というか学園長、俺が見かけた時点で有り金全部溶かしたような顔になっていたからな。
あと俺が
「そういえば
「まだ残っている筈ですよ。確か財前君の手伝いをしていた筈です」
「まだ中等部なのに熱心ですね。でもあんまり長く残すのも——」
「心苦しい。それはボクも理解しています。見かけたらなるべく早く上がるよう言っておきますよ」
「よろしくお願いします」
それにしても財前の手伝いとは、相性悪そうだと思っていたから意外な展開だな。
性格のネガティブ化もあるし、あの子の動きは本当に読めなくなってきたぞ。
とはいえ、流石にもう敵に回る心配はないと思うけど。
「他の皆さんもしばらくは戻ってこないでしょう。暴れていた
「あの人まだ暴れてたのか……」
ちなみに今回の音無先輩暴走の理由は、藍のステージを観に行けなかった事である。
どうせ行かせても迷惑なくらい絶叫するのが目に見えていたから、黒崎先輩がずっと事後処理につき合わせていたんだけど……
『
とかなんとか血の涙流して叫んでいるのを、黒崎先輩と
それを今も見張ってくれている牙丸先輩には感謝しかない。
あとグッズはありません。こっちの世界にはステージ衣装版のアクリルスタンドすらありません。
「そういえば、今回は虹帝の妹さんも協力してくれたそうで」
「あぁそれですか。ちょっと牙丸先輩のサポートを頼んだんですよ……代償として明日俺はスイーツ奢る事になりましたけど」
「ご苦労さまです」
ちなみに卯月曰く、牙丸先輩は口説いてこなかったらしい。
流石に起きてる事件が事件だから、そうも言ってられなかったか。
まぁ兄としてはデッキを抜かなくて済んだ事をよしとしよう。
「ボクはそろそろ後夜祭の様子を見に行きますが、虹帝はどうされますか?」
「すんません、流石にもうガス欠なんで……ちょっとソファで仮眠します」
「その方が良いと思います。結局あのステージが終わった後もトラブルの仲裁に奔走していたのですから、少しくらい休んだところで、誰も文句は言いませんよ」
「だとありがたいですよ」
今はデッキの中にいるけれど、カーバンクルが後で伝えたい事があるとか言っていたし。
今日は脳も身体も疲れきっているから、少しでも回復したくてたまらない。
これが高校生の肉体で浮かぶ願望か?
「ではボクはこれで。ごゆっくりと休んでいてください」
そう言い残すと、奏先輩は執務室から出るのだった。
執務室に残るのは俺一人。
急激に静かな空間になってしまったけど、今は好都合かもしれない。
「……寝よ」
なんだかんだで、昨晩は睡眠時間も少なかったんだ。
程よく沈んでくれるソファを贅沢に使って、俺は目を閉じるのだった。
◆◆◆
ツルギがソファの上で横になり、十数分が経過した頃。
夕焼け空が広がる外では、変わらず生徒達が文化祭の余韻を楽しんでいた。
そんな中、廊下に足音が鳴り響いている。
足元は徐々に近づき、評議会の執務室前で止まるのだった。
「お疲れさまです……あれ?」
執務室に入ってきたのは
仕事が一区切りついたので戻ってきたのだが、彼女の視界には誰も映っていない。
だが部屋に入ってキョロキョロと見回していると、すぐにソファで横になっている人物に気がついた。
「あっ、ツルギくん」
ソファの上で目を閉じて、無防備な姿でいるツルギの姿。
それを見たソラは彼の疲労を察して、なるべく音を立てないようにした。
荷物を置いて、いつもなら静かに廊下に出るだろう。
しかし今日は、何故か寝ているツルギの近くから離れたくないと、ソラは思ってしまう。
(……初めてかも。ツルギくんの寝顔を見るの)
寝顔どころか、こうして無防備な姿を晒しているツルギを見るのも初めてかもしてない。
合宿や夏休みなどで泊まりに行く事はあったが、寝床は別であった。
否、そもそもツルギは滅多に弱音を見せてこない。
先の政誠司との戦いの直前、ソラに吐露した弱音が初めてであった。
(いつも頑張り過ぎなんですよ……)
多少はマシになったとはいえ、平気で無茶を引き受けてしまう。
だがそれらを本当に成し遂げてしまう。
それがソラから見た、
誰かに手を差し伸べる事に抵抗はない、だが彼自身はその数に含めない。
自身を消耗して解決するなら、迷わずその道を選ぶ。
誰かを頼るという事に不慣れ過ぎる少年……それがソラの中にあるツルギの像であった。
(いっぱい頑張って……いっぱい無茶をして……ずっと意地っ張りに立ち続けて……)
ソファの上で眠っているツルギの前髪に触れながら、ふとソラは微笑みを浮かべてしまう。
部屋の中には二人だけ。外から聞こえてくる音も細やかな背景音にしかなっていない。
言葉もなければ、感じ取れる音はソラ自身の心臓の音くらい。
今まで以上に、静かな時間が長く引き延ばされて感じてしまう。
二人きりだからではない。
(やっぱり……私……)
ツルギがいたから、ここまで歩んで来れた。
ツルギというファイターに勝ちたいという、目標ができた。
自分が諦めそうになっていた時に手を差し伸べてきて、一緒に歩いてきてくれて。
ずっと我慢していた弱音を、見せてくれて。
この人を知りたいと思っていた淡い気持ちが、今では全部受け入れてしまいたいと心から思えるようになっていた。
ならばきっと……この気持ちの名前は明白なのだろう。
(私……ツルギくんの事が、好きなんだ)
口には出さない。
出してしまえば大きな何かが壊れてしまう気がするから。
だけどソラはハッキリと、自分の中にある恋心を言語化する事ができていた。
何故今になって、この想いを再認識する事となったのだろうか。
それは文化祭の間に、コスモや茉莉花に指摘されてしまったからだ。
(みんな好き勝手言い過ぎなんですよ……私だって、できるんだったら……)
もっと前に踏み出している。
だけどその先が怖くて踏み出せない。
これまでずっとそうだった。そうして理由を作っては何も変わらない安牌ばかり選んできた。
だが今は、自分達以外にだれもいない。
そんなソラの脳裏に何度もチラつくのは、コスモと茉莉花から向けられた言葉。
——誰かに愛されるには、自分から愛さないとダメなんだよ★——
——誰かさんに配慮をしていると未来で後悔しますわ。有象無象が手を出してくる前に刻印でも入れてみてはいかがですか?——
二つを合わせて実行するなら、それはとてもとても悪い事。
きっと今までのソラなら、即座に脳内で却下をしたであろう考え。
(……私、は……)
胸に灯るこの気持ちを、少しだけ前進させたい。
それが自分勝手な願いだとしても、自己満足だとしても叶えてしまいたい。
だからこそソラは、神経を張り巡らせながら周囲に人がいないか確認してしまう。
(ツルギくん……私)
夕焼け空の赤い光が窓から差し込んでいる。
執務室にはソラとツルギだけ。
化神達はデッキの中だから、見ていないだろう。
故に、ソラの想いを止める者は……誰もいなかった。
(ちょっとだけ……悪い子になります)
心の中でツルギに詫びると、ソラはソファの前で膝立ちになる。
そして……自然の音も、外から聞こえる人の声も。
執務室の中に流れる空気の音さえも、スローモーションに感じるような。
そんな一瞬の時間が、二人の唇の上を過ぎ去るのだった。
◆
評議会の執務室へと繋がる廊下。
他に人気のないこの場所を、
「〜♪ 回転焼き美味しい〜」
紙袋に詰め込まれた回転焼きを食べながら、藍は執務室へと向かっている。
その時であった。
向こう側から見慣れたシルエットが駆け足でやってきた。
「あっ、ソラちゃーん! 余った回転焼き貰ったんだけど、いっしょに——」
いつもなら目を輝かせて「食べたいです」と言ってくる場面。
だがソラは頬を朱に染めて、白い長髪を靡かせながら、藍を気にも留めず何処かへ去ってしまうのだった。
意外なスルーを食らった藍は、回転焼きを咥えながら目をキョトンとさせてしまう。
「ソラちゃん、どしたんだろ?」
執務室から出てきたという事は、誰かと喧嘩したわけではない。
きっとお腹を痛めてトイレにでも行きたかったのだろう。
恋愛レベル小学生未満の女子高生、
疑うという考えなど一切浮かばないまま、藍は執務室へと足を踏み入れる。
部屋の中にいるのは、ソファで横になっているツルギのみ。
その姿を見るや藍は、素朴な心配事を口にするのだった。
「ツルギくん大丈夫? 今日はめっちゃ疲れたんじゃない?」
「……だい、じょうぶ」
口元に手を当てながら、ツルギは心ここに在らずといった様子で答える。
顔と耳が熱を帯びている自覚はある。
それは執務室から逃げ出して、離れた階段の踊り場にいたソラも同様であった。
ツルギが本当は起きていた事など、気づく余裕すらなかった。
ソラは口元に手を当てて、自分のした事に心臓が大きく音を鳴らしてしまう。
この顔と頬が朱に染まっているのは、きっと夕焼け空の光のせいだ。
ツルギとソラは互いの唇に残った柔らかさと温もりの記憶を反芻しながら、そんな願望を頭に浮かべてしまう。
文化祭の終わりという、ありふれた青春の1ページ。
しかし二人にとっては何かが一歩踏み出して、何かが前に進もうとしている気がしてならない。
そんな特別な1ページになるのだった。
【第十一章に続く】
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第十章、後書き
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