1-0.死闘の果てに
雨降る秋の荒野に無数の屍の山が築かれ、そこはまさに地獄のような戦場。
咽せる程の血と硝煙の臭い。激しい戦闘が終わり、雨音だけが響く静寂の中に二人の姿が有った。
片や所々血に汚れた金髪、紅い瞳に三白眼をした二十代前半の男は、首にぶら下げたIDタグを揺らし息を荒げながら身の丈程の銃と大剣が組み合わさった特殊な武器ーーガンバスターを片手に歩き出す。
そして雨に濡れた地面に倒れ込み、絹のようにきめ細やかな美しい銀髪を雨と血に濡れた地面で穢れ、近付く男に少女が息を吐く。
まだ幼さを残す十代前半の少女に男ーー傭兵のスヴェンがガンバスターを仰向けに倒れる少女。その細い喉元に刃を突き付ける。
「こいつで終わりだ」
スヴェンの宣言に少女が悔しさに顔を歪めた。
「ここで終わり……私の夢も。貴方は満足?」
少女の夢を潰す。それは他の誰でも無い自分だーー彼女の眩しく尊敬する芽生える夢を。
「……いや、アンタの夢は眩しいよ。戦争屋の外道と違ってな」
スヴェンの受け答えに少女――覇王と呼ばれたエルデはため息を吐く。
「分かってて刃を向ける。傭兵って難儀だね」
エルデの哀れみにも似た眼差しにスヴェンは苦笑を浮かべた。
彼女は今でこそ覇王と呼ばれているが、その本質は単に戦争の無い世界を望んだ少女でしかない。
戦争が無い世界を望んだ彼女は、火種を消すため統一戦争を仕掛けた。結局戦争によって成り立つ平和だが、エルデに統治された国は少なくとも平和を得た。
戦争経済によって成り立つ生活を打ち壊し、全く別の方法による新しい経済を打ち立た生活を自国民に与えた。
偉業とも思われる大業を成した……そんなエルデを今から金欲しさのために斬る。そこに葛藤は有れ何ら迷いは無いーースヴェンは傭兵という名の金に雇われた正真正銘の外道だからだ。
「そうだな、日銭欲しさに戦争する外道だ」
スヴェンは自身の相棒、ガンバスターを振り上げる。
振り下ろしエルデの首を斬る。それで今の戦争は終わり、次は各国の覇権戦争が始まる。
傭兵が覇王の討伐を命じられた背景には、各国が自軍の兵力を消耗せずに覇王を排除したいがためだ。
戦争が有れば同業を含めた傭兵は金に困ることは無い。
ゆえにスヴェンは次の戦争の引き金を引くべく、振り上げた刃を振り下ろす。
エルデの細い喉元に迫る重圧な刃ーーだがスヴェンは寸前の所でわずかに迷いが生じた。
ーー本当にコイツを殺していいのか?
一瞬の迷い。それが悪かったのか突如としてスヴェンとエルデの間に眩い閃光が生じる!
スヴェンは咄嗟に眼を覆い隠すがーー閃光がスヴェンだけを呑み込んだ。
更新頻度に付いては一章は早め更新にしつつ、二章以降は週に2、3話更新を予定してます。