傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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9-5.深夜の語らい

 ベッドに仰向けで寝っ転がると、アシュナを背負ったミアが宿部屋に戻って来る。

 彼女は背負ったアシュナをベッドに寝かせ、自身もベッドに横になるや、こちらに顔を向けて来た。

 

「……スヴェンさん、寝る前に聞いていい?」

 

 ミアの真剣な眼差しの前にスヴェンは、彼女の翡翠色の瞳を見詰める。

 

「手短にな……ま、答えるとは限らねえが」

 

「あなたの過去に相棒が居たのとか、相棒として求める条件とか知りたいなぁって」

 

 過去に相棒は確かに三人ほど存在していた。

 最初の一人は最も長く組んでいた男だったが、とある戦場で子供を相手に躊躇した所をその子供に自身の目の前で頭を吹き飛ばされて死んだ。

 あの時は熟練の傭兵も一瞬の隙で当たり前のように死んでしまえるのだと実感した瞬間だった。

 

 ーーあの時の俺は10歳の未熟なガキだったが、アイツが躊躇しちまったのはガキに情を宿したからだ。

 

 その原因は恐らく自身に有るのだろう。

 身近に子供が居たから彼は芽生えた情に殺された。

 同時に彼の死が自身を含めた子供であろうとも武器を手に持つ以上、年齢も性別も関係ない兵士なのだと決定付ける瞬間でも有ったのはよく覚えている。

 二人目は少し歳上の少女だったが、幾度も戦場を共に渡り三年が過ぎた頃……依頼の行き違いにより所属陣営が敵味方に別れーー傭兵として与えられた仕事は敵部隊の殲滅。ゆえに相棒も含めた敵部隊を殲滅した。

 そうでもしなければ雇主側の陣営は多大な被害を被り、同部隊の死傷が多数出るのは明白だった。

 相棒だとしても戦場で出逢えば敵同士、傭兵にとって相棒同士の殺し合いは別に珍しいことでもない。

 そして三人目の相棒は同い年の女性だった。今までの相棒の中で組んだ期間こそ短いが……。

 阿吽の呼吸で戦場を蹂躙し、ある程度名声を得た頃だ。アライアンスの仲介人から紹介された依頼を請たのは。

 某国で開発されたウィルス兵器の破壊任務を複数の傭兵で部隊を組んで請け、研究所に潜入した所までは順調だったが傭兵の中に別国からウィルス兵器の情報奪取を命じられたスパイが紛れ込んでいた。

 ウィルス兵器の破壊と奪取を阻止せんと開発主任が暴走。

 それによって某国の一都市がウィルス感染により化け物化するという災害が発生した。

 むろん当時のスヴェンも感染し、運良く確保した二本のワクチンの一つを相棒に投与されることで回復。

 化け物に代わりつつあった三人目も自身の手で殺害した。

 

 ーー最後の一本は量産に必要なサンプル。なぜアイツは俺を生かした?

 

 なぜ生かされたのか、その答えも彼女の考えも今となっては知るよしも無い。

 ただ間違いなく彼女は優秀な傭兵で自身よりも価値有る人材だったのは間違いなく、だからこそ芽生えた疑問が答えを得られず彷徨い続けた。

 こうして今までの相棒を簡素に振り返ってみれば全員死んでいる。

 だからこそミアに対する返答は決まっている。

 スヴェンは長めの沈黙から漸く、

 

「居た」

 

 非常に短い過去形の返答にミアは察した様子で瞳を伏せた。

 

「そっか……じゃあ今は相棒が欲しいとかは思わないんだ」

 

 相棒を自身の手で殺すことになるなら最初から組まなけれ良い。

 三度の相棒でそのことを深く胸に刻み込んだスヴェンは、

 

「成り行きで3度組んでみたが、誰かと組んで行動すんのは性に合わねえ」

 

 相棒として誰かと組む気は無い。その意志を告げる。

 

「……それは残念だなぁ、私なら死なない自信も傷も完璧に癒してあげる自信もあったのに」

 

 残念そうに告げるミアの瞳は僅かに揺らいでいた。

 外道の相棒に好き好んで成ろうと考えるとは、いや彼女の場合は後々の依頼のためも有るのだろう。

 

「人ってのはどんなに鍛えようが脆い生き物だ。寿命を500年延ばそうが【死】は平等に訪れる」

 

「そうだよね……ん? 待って、デウス・ウェポンの寿命ってそんなに長いの!?」

 

 そういえばまだ誰にも平均寿命の話をしていなかった。

 だからこそミアの驚愕は当然と言えば当然だ。

 

「うーんと、500年も生きるってなんだか大変そうだね」

 

「だから一生を大事とすら思えねぇんだろうな」

 

「えっと、デウス・ウェポンの最悪の食事で500年も大変だなぁって」

 

 ミアの指摘にスヴェンは言葉を失い思考停止した。

 それは考えたくも無かった現実だからだ。テルカ・アトラスの幸福に満たされる食事に舌が慣れている。

 そこに食事ですら無い食事擬きを生き続ける限り摂取し続けることになる。

 正に生き地獄とも言える苦行が待っているが、帰還時にレーナが記憶を消せば恐らく地獄には堕ちないだろう。

 

 ーー記憶と一緒に味覚の経験も消せねぇかなぁ。

 

 そんな事を切望すれば、

 

「生き地獄を味わいたくない永住も考えたら?」

 

 小悪魔のような笑みを浮かべていた。

 直視しなければならない現実だが、それをわざわざ指摘されたのは腹立たしい。

 残り三つの拷問用にと保存していた劇物をどう処理するか。それはこの際、またあの味をミアに与えるべきだな。

 スヴェンはおもむろに身体を起こし、改めてミアに視線を向ける。

 するとミアは不思議そうに小首を傾げた。

 

「……俺のポーチにまだレーションが有るんだが、先に地獄を味わうか?」

 

 あのレーションの悍ましい味を瞬時に思い出したミアの表情が一瞬で絶望に染まる。

 テルカ・アトラスに召喚されてから既に一ヶ月が経過してるが、ミアの舌に刻まれたあの味は忘れられないようだ。

 

「あ、あー、急に眠気がっ!」

 

 逃げるように布団に潜り込んだミアは、やがて小さな寝息を奏でた。

 彼女は治療師として優秀だが、瞬時に眠れる辺り戦士としての素質も高い。

 スヴェンは呆然とそんな事を考えては死域に備えて眼を閉じる。

 脳裏に異世界の少年がチラつく。透明魔法を使用してまでの覗き決行と執着心。

 異世界に召喚された状況と目覚めた魔力、そして習得した魔法に内に秘めた欲望が刺激された。

 手に入れた力による慢心が招いた結果と言えばそれまでだが、あの歳頃に堕ちやすい歪みの一つとも言えるかもしれない。

 それとも過去にルーメンを訪れた異界人が何者かに唆された件と関係が有るのか。

 何方にせよ少年は温泉宿の係員に捕えられた。あとは通報を受けた魔法騎士団が捕縛するだろう。

 スヴェンは眠気に包まれる意識の中、呆然とそんなことを考えては微睡に身を委ねる。

 

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