傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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10-1.死域の吸血鬼

 ジルニアの守護結界領域を抜けた途端、視界が紅い霧に覆われる。

 同時に下丹田の魔力が意図せず少量ながら勝手に抜けはじめた。

 死域と呼ばれる領域結界に踏み込んだ瞬間にコレだ。この結界内では継続戦闘が難しいければ、何よりも紅い霧のせいで視界が悪い。

 しかし唯一の救いはハリラドンが視界不良をものともせず進むことか。

 荷獣車の屋根から見張りをしていたスヴェンは、周囲から放たれる殺意に警戒心を向け、ガンバスター握り締める。

 

「アシュナ、いつでも魔法を撃てるようにしておけ」

 

「うん、作戦通りに」

 

 温泉宿で話し合った作成。それは荷獣車の速度を維持しながらドラクルを迎撃。それにあたりスヴェンは屋根で警戒しミアの守護、アシュナは荷獣車内部から定期的に魔法で牽制というものだった。

 だが相手はモンスターだ。作戦通りに事が運ぶとは限らない。

 

「作戦ってのは単なる方針だ。大抵は状況に応じたアドリブが大事なんだよ」

 

「……話し合いの意味」

 

 それを言われては元も子もないが、行動の基準は必要だ。

 特に強力なモンスターを相手にするなら事前の示し合わせは、精神的にいくらか余裕を与える。

 

「多少は気楽になんだろ」

 

「ん。ミアは大丈夫? 室内は影響が少ないけど」

 

「私はかなり魔力が多い方だから大丈夫だよ。それにこの子は想像以上に勇敢だからね」

 

 最悪の懸念はハリラドンが怯えて足を止める事だった。

 死域に入りドラクルの殺意を浴びながらハリラドンはいつも通りに走り続けている。

 それは生物がタイラントを除いたモンスターに襲われない事を本能で理解しているからこそか。

 理由はどうあれ勇敢なハリラドンは心強い。

 無事に死域を突破した後にハリラドンには干し草をたらふく食わせよう。

 そう思考した瞬間、突如視界の端に鋭い爪が映り込む。

 咄嗟に三歩退がることで致命症は避けたが、鮮血と共に頬に三本の爪痕が刻まれる。

 

「チッ!」

 

 上空に蝙蝠の翼を広げこちらを見下す人型のモンスター、吸血鬼ドラクルが優美に佇む。

 周囲から分散する殺気に紛れるように奇襲と肌に纏わりつく殺意にスヴェンは笑みを溢す。

 

 ーーコイツァ、良い。

 

 久々の死闘、逃げに徹する状況だが戦場と同じ高揚感が胸を熱く駆け巡る。

 スヴェンはガンバスターを構え、

 

「ミア、アシュナ! ドラクルのお出ましだ!」

 

 二人にドラクルの出現を告げる。

 

「荷獣車の真上を取られた……アシュナ!」

 

「ん、これはどう?」

 

 ミアの指示にアシュナが用意していた魔法を唱える。

 荷獣車から放たれる風の刃がドラクルに飛来した。

 対するドラクルは優美に佇みながら掌に魔力を収縮し、魔力が集う。

 一点に収集させた魔力で風の刃を撫でるように弾く。

 

「そんな防ぎ方もあんのか」

 

 スヴェンはガンバスターの銃口を向け、躊躇無く銃弾を放つ。

 ズガァァン! ズガァァン! 二発の.600LRマグナム弾が飛来する中、同時にスヴェンは動く。

 飛来する銃弾をドラクルは避けるまでも無いと嘲笑うように魔力障壁で防ぐ。

 それは既に想定済みだった。故にガンバスターに魔力を流したスヴェンがドラクルの背中に一閃放つ。

 魔力を込めているとはいえ、刃が障壁に防がれる。

 ガンバスターの刃と障壁の間に火花が散る中、スヴェンの周囲に魔法陣が現れた。

 火炎の熱が漏れ出す魔法陣を冷静に見定める。

 

 ーー失敗すりゃあ灰だな、こりゃあ。

 

 轟々と燃え盛る膨大な熱が魔法陣に現れ、膨れ上がった炎がーー灼熱の一閃が四方の魔法陣から一斉に放たれた。

 その瞬間に合わせてスヴェンはドラクルの障壁を土台にガンバスターの刃で身体を浮かび上がらせ、一気に上空に跳躍する。

 対象を失った灼熱の一閃がドラクルを障壁にごとの呑み込み、スヴェンは荷獣車の屋根に着地した。

 地面に着地するつもりが、落下速度に合わせミアが手綱を操作するのが視界に映った。

 彼女はハリラドンに減速を促したのだ。

 ミアの判断にスヴェンは舌を巻きながら、上空に無傷で見下すドラクルを睨む。

 

「流石に自らの魔力で自爆しねぇか……っ」

 

 突然僅かに視界が霞んだ。

 ドラクルが何かをした様子は無い。なら死域の影響による精神力と気力の消耗か。

 特に魔力は武器に宿す程度にしか使わないが、ミアとアシュナに与える影響力は大きい。

 だからこそ短期決戦が望ましいのだが、

 

「死域突破まで何時間だ!」

 

「この速度維持なら4時間だよ!」

 

 四時間耐えるか、聖装の一撃を試みるか。後者は避けられたら終わりだが、狙う価値は十分に有る。

 スヴェンはポーチの中に入っている聖装を浮かべては、

 

「耐えるしかねぇか!」

 

 ドラクルに向けて告げた。

 言語を理解できる程の知能を有しているならドラクルは人の会話を理解してる可能も有り得た。

 だからこそ聖装の使用は慎重かつここぞという時の切り札だ。

 

 ーー保険は賭けたが、一手で仕留めるに越したことはねぇ。

 

 スヴェンはガンバスターの柄を強く握り込むとドラクルが空に右手をかざす。

 ドラクルの膨大な魔力が意識せずとも螺旋の如く渦巻き、魔力の激流がドラクルの右手を伝う。

 膨大な魔力の影響か、大気が震え空気が凍る。

 ドラクルはにやりと口元を歪ませ、上空に何重にも重ねた巨大な魔法陣を描く。

 ドラクルは詠唱も人語を話すことも無く、ただ無慈悲に魔法を放つ。

 何重にも重ねられた魔法陣から巨大な氷槍が、大気を凍つかせながら大地に向けて振り下ろされる。

 

「ハリラドン! 今だよ!」

 

 ミアの指示にハリラドンが鳴き声を上げると同時に魔法陣がハリラドンを包む。

 

「スヴェンさん! 振り落とされないでよ!」

 

 魔法による身体強化を自ら施したハリラドンが爆速で大地を駆け抜ける。

 荷獣車の屋根に居たスヴェンは腰に力を入れ、足に踏ん張りを効かせながら振り落とされまいとドラクルにガンバスターの銃口を向けた。

 ズガァァン!! 一発の銃声か響き、巨大な氷槍が大地に落下し、落下地点を中心に大地を氷土が侵食したのは同時のことだった。

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