傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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10-5.激戦の傍ら

 スヴェン達が魔法騎士団の遠距離魔法に曝され、ドラクルと死闘を繰り広げている頃ーーわずかな戦力が残された峡谷の町ジルニアでエルロイ司祭は薄寒い笑みを浮かべた。

 アイラ司祭を殺害した異界人の調査及び奪われた封印の鍵の回収、信徒に任せるべき仕事でも有るが個人的な興味と確認のためにエルロイは人混みに紛れ対象に近付く。

 黒髪の少女ーーアンドウエリカ(安藤恵梨香)の背後で囁いた。

 

「アイラ司祭を殺したのはお前か?」

 

 ゾクッ、囁かれたエリカの全身に堪らない悪寒が駆け巡り、同行者の赤髪の女性カトレアが剣の柄に手を伸ばしかけたその時、

 

「辞めとけ。ただ質問に答えればここでは何もしないさ、祭りの余韻に浸る町人を巻き込みたくはないだろう?」

 

 エルロイはこの場所で戦闘が始まればどうなるかを語る。

 そう告げられたカトレアは剣の柄から手を離した。

 彼女の賢明な判断にエルロイは笑みを浮かべる。

 実際に町一つを蒸発させることなどエルロイにとって造作もない。 

 しかし町に滞在する魔法騎士団の主力が不在中にやるべき破壊でも無ければオルゼア王が本格的に動き出せば、現在進行中のあらゆる作戦が無意味になる。

 それは一司祭として好ましく無い状況だから行動に移さないだけだ。

 

「……質問に答えるけど、場所を移さない? それともこんな往来で話して良い内容なの?」

 

 気配を断ち周囲の町人からエルロイは姿こそ正確に認識されてはいないが、会話を聴かれるのも好ましくはない。

 だからこそエルロイはまだ少女のエリカの提案を受け入れた。

 

「質問に答えるなら構わないさ」

 

「なら適当な場所に行きましょう」

 

 エリカとカトレアに先導されるようにエルロイは人気の無い路地裏に案内される。

 

「それじゃあ早速、さっきの質問だが……」

 

「アイラ司祭っていう人を殺した覚えは無いわよ」

 

 馬鹿正直に答えるエリカにエルロイは苦笑を浮かべた。

 多少なりとも剣術を身に付けた少女。それは彼女の歩き方と姿勢、指先の指タコから努力を重ねてきたのは見ただけで判る。

 腹芸の一つも覚えれば死期を先延ばしにできただけに惜しいとさえ思えた。

 それに二人の眼には人殺し特有の闇を一切感じられない。むしろ純粋な色のままだ。

 アンドウエリカは不幸にもアイラ司祭の殺害時期にフェルシオンに滞在していた内の一人に過ぎない。

 

「アイラ司祭を殺したのはお前じゃない……となれば異界人の中で誰が殺したのか、だ。心当たりは無いか?」

 

「例え心当たりが有ったとして、邪神教団のアンタに答えると思ってる?」

 

 なら最後に残ったのが有力候補になる。

 

「まあ答えるわけないか……となればフェルシオンに居たもう一人を当たってみるか」

 

「何か察してるようだけど、探し人は死域に向かったそうよ」

 

 カトレアの言葉にエルロイの眉が歪む。

 死域が齎す影響とそこに潜むモンスターがどれだけ厄介か。

 死域は発生させるモンスターごとに効果が異なり、極め付けは高い知性と膨大な魔力から繰り出される魔法だ。

 特に有効手段が無ければ異界人が相手をするには生存率は絶望的だ。

 それが今までーー例えば目前のエリカのような普通の異界人に限るが、何事も例外は存在する。

 元の世界で殺しに明け暮れた者、絶え間ない鍛錬で一種の境地に達した者など戦闘技術や経験を最大限に活かせる者なら死域の突破は容易だ。

 ただ現在死域の突破を試みてる者は運が悪い。魔法騎士団の遠距離魔法による攻撃、あの面制圧と殲滅力を誇る魔法攻撃から、ましてや死域のモンスターを相手にしながらでは厳しい。

 だからこそエルロイは僅かに眼を瞑る。

 

 ーー計画に利用できるとも考えたが、残念だ。

 

 残りの容疑者が死亡したと判断を下した。

 そしてエルロイはエリカとカトレアに視線を向ける。

 二人は外れだが、いずれ魔王救出に来る異界人なら殺して置いて損は無い。

 

「考え事をしてるようだけど、もう行っていいかしら? これから鉱夫達と採掘作業も有ることだし」

 

 故にエルロイは空間から双剣を引き抜く。

「ああ、逝っていいよ」

 

 そんな空虚な言葉と共に二振りの斬撃を振り抜く。

 二振りの斬撃が二人の胴体に到達する寸前、ガキン! 鈍い音が路地裏に反響した。

 完全に反応が遅れていたエリカとカトレアは剣が振り抜かれたことに漸く気付き、二人は同時に後方に飛び退くことで距離を取る。

 刃を一瞬だけ防いだ銀色の鎖にエルロイは眼を細めた。

 

「……お前の魔法じゃないよな」

 

 カトレアからは魔法を発動させる隙も余裕も無い。だからこそ何者かがこの場に介入した。

 そう判断したエルロイが足を一歩踏み込めば、足元に黒炎の矢が突き刺さる。

 魔法は上空から放たれた。そう判断したエルロイが屋根に視線を向ければ、そこには見知った二人の顔と見知らぬ少年の姿が有った。

 特に前者の二人は邪神教団の本拠地で指導した事もある。

 そんな二人が異端の烙印を施されながらも魔法で介入した。

 まともに魔力も練れない状態でよく魔法を行使できたっとエルロイは笑う。

 

「ロイとエルナか……大人の邪魔をするなんて悪い子だな」

 

「邪魔? 烙印の抜け道を探してたらたまたまだよ」

 

「眼とか既に人間離れしてるヤバげな人だけどよ、この後はどうするんだ? ってか男、女? どっちなんだ?」

 

「ラウル、エルロイ司祭の性別は誰にも判らないんだ」

 

「そんなの下に付いてるか付いてないから確かめれば判ることだよ。なんならズボンを脱がす手段でも考える?」

 

 突然介入してきたかと思えば、雑談を始める三人にエルロイは苦笑を浮かべた。

 殺すのは簡単だ。だが外の世界への自由と宿命からの解放に憧れ、邪神教団に入信することで外の世界へ羽ばたいた二人をどうするべきか。

 ロイとエルナにはそれなりの情も邪神教団から脱退したい想いを理解も出来れば共感も抱く。

 

「ロイ、エルナ……お前達はこれからどうするつもりだ? 奈落の底しか知らないガキが、広い世界で生きるつもりか?」

 

「まだ道は判らないけど、生き方は自分達で考えて迷って、また考えながら少しずつ道を見付ける」

 

 エルナのはっきりとした解答にロイも力強く同意を示し、魔法陣から黒炎の剣を作り出す。

 敵意とまでは行かないが、一先ず危険に曝されているエリカとカトレアの助太刀。それが二人の、いや三人が選んだ答えなのだろう。

 

 ーーいずれわたしも選択する時が迫られるか。

 

 だからこそエルロイは優しい笑みをロイとエルナに向け、

 

「わたしは二人の選択を邪神様に代わり祝福し、祝おう」

 

 ほんの爽やかな祝福という名の異端の烙印の無力化を贈り、双剣を空間に仕舞う。

 二人は突如異端の烙印の効力が失ったことに驚愕を隠せず、なぜ? と言いたげな疑念を向けていた。

 エルロイは二人の疑念に答えず、エリカとカトレアに僅かに視線を向け、背後に振り返る。

 エルロイはそのまま何事も無かったような足取りで、アトラス教会が嗅ぎ付けて来る前にジルニアを静かに立ち去るのだった。

 困惑を残すエリカとカトレア、脅威が去ったことと思わぬ祝福に安堵を浮かべるロイとエルナ、そして正確な状況は飲み込めないが全員が助かったことにラウルは安堵した。

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