傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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間章三
潜む者たち


 ヴェルハイム魔聖国の首都は巨城都市エルデオンと呼ばれ、下層から最上層まで五層からなる。

 魔王アルディアの統治下で魔族が平穏に暮らし、エルデオンの外には広大な牧場と農地が広がる。

 魔族は農地と家畜を慈しむように育て、安寧の日々を暮らしていたーー三年前までは。

 今では魔族に替わりに邪神教団の信徒が巨城都市の町並みを我が物顔で占拠していた。

 一般人の魔族は農業に邁進しているが、魔王に仕える兵士はエルリアの国境線でエルリア魔法騎士団と剣を交える。魔王アルディアの生命を人質にされ、不本意な命令に従う形で。

 そんな中、魔族しか知らない下層の更に下に位置する最下層の地下街の一室で、

 

「君たちを待たせている状態を心苦しく思う」

 

 アウリオンは集った兵士に頭を下げた。

 本来なら国境線でフィルシス騎士団長が指揮する魔法騎士団と一戦交えているが、

 

「いやいや、アウリオン守護兵隊長。アンタこそ危ない橋を渡ってる状態だ。それに比べて俺達はフィルシス騎士団長と八百長鍛錬たぞぉ?」

 

 包帯を全身に巻いた強襲部隊長リンドウにアウリオンは冷や汗を流す。

 いくら邪神教団に悟られないように巨城都市内に反乱部隊を指揮するとはいえ、最前線の兵士を負傷兵として離脱させ死亡偽装した後にこの場に集う。

 これがフィルシス騎士団長と密会した末に立てた計画なのだが、まさか手加減も一切の妥協も無いとは。

 彼女のたった一振りで数部隊が薙ぎ払われ、魔法を放てば天を破り大地を砕く。

 八百長鍛錬とは言うが、魔王アルディア救出の準備にしてはかなり命懸けで有ることは歪めない。

 今ではフェルシス騎士団のお陰で兵は三千人まで集ったが、これ以上は邪神教団に悟られないかねない。

 そもそも邪神教団の信徒に負傷兵として搬送される彼らの精神は決して良いとは言えないだろう。

 いや、それ以前にフェルシス騎士団長の容赦の無さは負傷兵の心を折りかねない。

 

「……それで魔王城の様子は?」

 

 アウリオンは魔王城の様子を偵察に出させた兵士に訊ねる。

 すると彼らは深刻な表情を浮かべ、一つの指令書を取り出した。

 

「こちらが信徒の間に出された指令書のコピーですが、『追跡者』なる者を都市内に放つと」

 

 魔王の間で信徒に指示を出すエルロイ司祭が新たに出した指示書にアウリオンは眉を歪める。

 エルロイ司祭はいまは不在だが、指令書が出されたのは彼が何処かへ出掛ける前だ。

 フェルシオンでアイラ司祭が討伐され、都市の防備を固めたのか。

 

 ーースヴェンに気付いたのか? 

 

 エルロイ司祭がスヴェンの素性と目的に気が付き殺しに向かったとするなら、追跡者と呼ばれる者を放つ真似はしない。

 それとも兵の潜伏が気取られたのか。アウリオンはどちらの可能性も思案しながら兵士の声に耳を傾ける。

 

「この『追跡者』と呼ばれる存在に関して我々で調査してもよろしいでしょうか?」

 

 邪神教団が用意した何か、そんな物は自ら問答無用で消滅させたいが魔王アルディアが人質に取られている状態では行動にも出られない。

 

「邪神教団が放つとなれば無視はできんな。危険も伴うが調査の方は任せる」

 

 アウリオンがそう告げると兵士達は敬礼し、

 

「了解!」

 

 静かにその場を離れる。

 アウリオンはエルデオンの地図に視線を向け、

 

「……フェルム山脈から邪神教団に悟らず潜入するには、やはり地下道を通らせるのが無難か」

 

「丁度あの場所からなら此処に到着できるからな。……にしても信用できるのか? その異界人は」

 

 リンドウが異界人に対して疑心を向けるのも無理はないことだ。

 それだけ異界人は失敗を続けた。

 国境線で魔王救出を邪神教団に対して堂々と宣言し殺害され、エルリア中央部内でモンスターに殺され、邪神教団の諫言に惑わされレーナを裏切る者達。

 フェルシオンで出会ったスヴェンは異界人の中で遥かに異質な存在だ。

 右腕を一本失った時さえ悲鳴は愚か苦痛に顔色を一つ変えず、戦闘を継続した。

 苦痛に耐え不利な状況でさえ戦闘を継続させる強い意志をスヴェンは合わせ持っている。

 

「隙を見て彼と接触するつもりだが、スヴェンの他に魔王様を救い出せる異界人は居ないだろう」

 

「アンタがそこまで言うなら信じるけどよ……そういえばリンはどうしたよ?」

 

「アイツは封印の鍵探索に駆り出されている」

 

 広い国土で情報も無しに当てもなく封印の鍵を探し続けて三年が経過した。

 魔族と邪神教団を動員しても未だ発見に至らず、そもそも封印の鍵の在り方を知るのは魔王アルディアだけだ。

 

「封印の鍵ねぇ〜守護兵隊長のアンタは何か聴いてないのか?」

 

 リンドウの問い掛けにアウリオンは彼を真っ直ぐ見詰める。

 なぜそんな事を問うのか、純粋な興味か。それとも……。アウリオンは薄暗い思考を浮かべながら、

 

「魔王様が俺に語り聴かせるのは、先代魔王の功績とレーナ姫とどんな話しをしただとか……そんな他愛もない話しばかりさ」

 

 彼女がよく語っていた事を彼に告げる。

 リンドウは意外そうな眼差しを向け、

 

「なるほど、これで魔王様以外に封印の鍵の在処は判らないってことか」

 

 残念そうに肩を竦めた。

 

「……なぜそんな事を?」

 

「封印の鍵を譲渡が解放の条件だろ? 魔王様を凍結封印から一刻も早く解放させたい……アンタも判るだろ?」

 

 リンドウの言葉にアウリオンは眼を瞑った。

 レーナや各国の助力を無視して邪神教団の脅しに屈すし、魔王アルディアの勅命を無視するのか。

 早々に兵士や守護兵が諦める。それでは三年も魔族が苦渋に耐えてきた意味が無い。

 

「君の言うことも判るが今は耐えるしかない」

 

 アウリオンは室内の魔法時計に視線を向け、エルロイが指定した時間が差し迫っていることに気付く。

 

「そろそろ時間か。後のことは任せるが……あぁ、リンが戻って来たら保存庫に良い物が入ってると伝えておいてくれ」

 

「分かった伝えおこう。俺も俺で邪神教団が何か仕掛けてないか探っておくよ」

 

「連中は子供さえ人質に取る卑劣な連中だ、そちらの警戒は任せた」

 

 アウリオンはリンドウに任せ、エルロイが待つエルリアの峡谷の町ジルニアに転移するのだった。

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