デリバリー・イーグルの少女は軽快な笑みを浮かべ、大鷲の背中から横長の包みと小さな包み、そして紙袋に三通の手紙を取り出した。
「なにやら死亡したと情報も飛び交っていますが、スヴェン様にお荷物とお手紙です!」
死亡情報が出回っているにも関わらず、デリバリー・イーグルはアンラス関所に到着した。
スヴェンは差し出される受取票にサインを記載し、横長の包みに視線を移す。
まさか、もうガンバスターが完成したのか。パルミド小国に入国前のこのタイミングで。
それとも別の荷物が届いたのか、スヴェンは横長の包みに期待を膨らませながら少女に問う。
「送り主は誰だ?」
「えーと、こっちの武器はエリシェ様から。小さな包みはレヴィ様、紙袋はクルシュナ様からですね。それぞれ三名から手紙も預かってます!」
フェルシオンでエリシェと別れてから十日以上は経過したが、こうも速くガンバスターが完成するとは思ってもみなかった。
期待以上の成果にスヴェンは自然と笑みが浮かび、
「す、スヴェンさんが笑ってる!?」
ミアに驚かれた。
彼女は人を一切笑わない外道だと思っているのか。それはそれで心外だが、笑うことの方が少ないのも事実だ。
だからスヴェンはミアを鋭く睨むことで黙らせ、三人から届いた手紙を最初に受け取る。
最初の一通目はレヴィからだ。彼女がレーナとしてではなく、偽名を使ってまで手紙を出した理由は何か。
考えられることと言えば、依頼か死亡情報に乗っかる形でレヴィの名を使用したか。
スヴェンはそんなことを推測しながらレヴィの手紙に視線を移す。
手紙には彼女の丁寧な文字で、レーナがスヴェンとミアの死亡報告を一部偽造として共有していること。
生存を知る者はオルゼア王をはじめ国の重鎮、ラオ副団長とレイ、クルシュナ副所長、エリシェとブラック。そしてデリバリー・イーグルの職員だけだと。
エリシェとブラック、そしてデリバリー・イーグルを除いた者達は本来の目的を知る者達だけだ。
ーーレーナは既に動いてんのか。
スヴェンは手紙の前半から後半を読み進める。
申請していた二つの転移クリスタルの配達を確実に届くデリバリー・イーグルに頼んだ趣旨と謝罪の言葉だった。
同じ異界人の死亡虚偽がカレン部隊長を通し、真実として拡散されたこと。この件に関してはジルニアに現れたエルロイを二人から遠ざけるための緊急処置だったこと。
そして首都カイデスに到着したらエルリア大使館に立ち寄るようにとレヴィを通した手紙として記されていた。
スヴェンは読み終えたレヴィの手紙をミアに手渡し、クルシュナの手紙を読み始める。
内容は瑠璃の浄炎を入手したら一度、エルリア城に帰還して欲しいとのことだった。
そこで最後の保険を完成させるという短い文章にスヴェンは息を吐き、エリシェの手紙に視線を向ける。
最後の一通は荷獣車の中でゆっくり読めば済む。そう判断したスヴェンは届いた荷物を受け取り、先に横長の包みを開封した。
黒革の鞘に納められた大剣が姿を現す。
「コイツは!?」
赤黒い剣身のガンバスターにスヴェンは眼を見開き、少女に離れるように促す。
そしてガンバスターを握り締める。本来使用しているガンバスターより若干重いがそれも誤差の範囲だ。
二、三度素振りしては振り回し易いように、柄の長さとスムーズに引き金に指が掛かる絶妙な設計にスヴェンは舌を唸らせる。
そして次にいつも通りの感覚で魔力を流し込めば、ガンバスターの剣身が魔力を帯びた。
素材ひとつひとつがテルカ・アトラス製の物に加えて使用された竜血石が容易く魔力を伝達させている。
ーーここまで違うのか!?
あとは素振りと戦闘で新しいガンバスターに慣らすだけだが、今まで使用していた相棒と此処で別れるのは名残惜しくも有った。
だが傭兵として依頼を達成するには、携行すべき武器は既に決まっている。
スヴェンは背中のガンバスターを鞘から引き抜き、装填していた六発の.600LRマグナム弾を取り出しーー新しいガンバスターに装填した。
「コイツとは此処で別れ、か……此処で荷物の配達手続きは可能か?」
「宛先を記入して頂ければ可能ですよ! あと手数料として銅貨50枚頂きます!」
少女に言われたスヴェンは、彼女から受け取った記入用紙にエルリア城の城下町、職人街の【ブラック・スミス】に住むエリシェ宛を記載し、銅貨五十枚を鞘に納めたガンバスターと共に手渡した。
「毎度ありがとうございます!」
ガンバスターが大鷲の背中に有る荷物入れに収納され、それを見届けたスヴェンは残りの荷物を荷獣車に詰め込んだ。
「悪りぃ、待たせたな」
「手紙の返事を返したい時は、【デリバリー・イーグル】の支店までお越しください!」
少女はそれだけ告げると大鷲の背中に飛び乗り、夏の日差しが照らす青空へ飛翔する。
大鷲は南西の空へ飛び去り、そんな様子を静観していた二人の騎士が息を吐いた。
「如何する? また言うか?」
「二度目だからなぁ〜、流石にご自由にお通りくださいだ」
如何やら出鼻を挫かれた二人は、また出発の言葉を告げるのは恥ずかしいようでただ道を譲るばかり。
スヴェンはそのまま荷獣車に乗り込み、いよいよミアがハリラドンを走らせた。
▽ ▽ ▽
パルミド小国との国境を結ぶアンラス関所を通過した荷獣車が確かな足取りで、整備された街道を北に向かって走る。
窓から外の景色に視線を移せば、真っ先に標高一万を誇るフェルム山脈が視界に映り込んだ。
北に聳えるフェルム山脈にスヴェンは思わず息を漏らす。
「パルミド小国はフェルム山脈の麓に位置してると聴いたが、あの高さだがまだ距離はあんだろ」
スヴェンがそう訊ねると、ミアは手綱を片手に地図を広げる。
「えっと、アンラス関所から北に真っ直ぐ、ハリラドンで六時間走ると小さな村レギルスだって。そこから2、3日行くと首都カイデスに到着するみたい」
「なら今はレギルスの守護結界領域ってことか?」
「そうみたいだね……ところで荷物の確認しなくていいの?」
二、三日、レギルスで宿泊するにせよ四日後に首都カイデスに到着する。
エルリアからヴェルハイム魔聖国まで最低二ヶ月はかかる予定だったが、孤島諸島行きを考えれば多少遅れは生じるだろう。
スヴェンは当面の予定を頭の中に描きながら、クルシュナから届いた紙袋の中身を改めた。
「.600LRマグナム弾が30発……全部で37発か。それにハンドグレネードが5に、コイツはスタングレネードか?」
青いパイナップル型のソレが五個。一度使用した際に側にはレーナが居た。
恐らくどんな効果を齎すのか彼女なりに技術開発部門に伝えたのだろう。
スタングレネードの有無一つで潜入は大きく変わるが、スヴェンが求める性能とは限らない。
「何処かで試してみるか」
クルシュナ達の技術は本物だ。あまり心配はしていないが、閃光の効果範囲と持続時間は確認して置かなければ万が一があり得る。
試すなら実戦が好ましいと考えたスヴェンは、ついでに新しいガンバスターの試し斬りを思案した。
「悪い顔してる」
天井裏から覗き込むアシュナに、スヴェンは仕方ないだろ? そう言わんばかりに肩を竦める。
「新しい得物にも慣れが必要だ。特に魔力操作感覚は今までと違えだろしな」
「そういうものなんだ。それよりもエリシェからの手紙を読まないの?」
「私も気になるなぁ〜」
二人に催促される形でスヴェンは思考を切り替え、エリシェからの手紙を読み上げた。
「あーっと、『スヴェン、ミア、アシュナ元気にしてる? この手紙を読んでるってことは頼まれてたガンバスターが届いてるはず。概ねスヴェンの要望通りに何とか完成したけど、何か問題が生じたらすぐに手紙と同封してね?』」
少女らしい言葉使いで綴られた手紙を読み進めたスヴェンは、一旦読むのを止めた。
こう言ってはアレだが、男が少女らしい文章を朗読するのは中々精神的にキツいものが有る。
「俺が読むよりアンタらが読んだ方が良くないか?」
ミアとアシュナにそう告げると、
「え〜? 普段のスヴェンさんが口にしない言葉使いって新鮮だしい? それに私はいま手を離せないから」
「読むのめんどう」
腹立たしい言動だが、ミアは御者としての役割も有る。彼女に関しては仕方ないと言えるがアシュナに至っては面倒臭いときた。
ーーもう少し上等な言い訳はねぇのか?
如何あっても手紙を読まなければならない。覚悟を決めたスヴェンは残りの文章に視線を戻す。
「あー『三人の旅行の目的は詮索しないけど、無事に帰って来たら一度は家に寄ってね? その時は父さんが獣肉のミートパイを焼いてくれるってさ!』ブラックは料理ができんのか」
「おじさんの作る獣肉のミートパイは絶品だよ! これは絶対に生きて帰らなきゃ!」
「楽しみ。でもこの国の料理も楽しみ」
確かに旅の醍醐味と言えば食事に置いて他に無い。
アシュナの声を頭上に読んだ手紙を仕舞い、パルミド小国の地図を広げたスヴェンは地形を頭に叩き込む。
パルミド小国はフェルム山脈の麓に位置し、その山脈から流れる滝がファザール運河を形成した。
パルミド小国のファザール運河は西と南に流れ、西は海へと繋がっている。
海と河口の真上に建造された首都カイデスなら、孤島諸島へ行く船も美味い食事も同時に有り付ける可能性が高い。
この世界は肉も美味ければ、野菜も魚もあらゆる食材が美味だ。
その意味でエルリア以外の国で食べる料理にスヴェンとアシュナは心躍らせるのだった。