傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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11-4.静寂の村

 池と畑、草を撫でる風の音と家畜の鳴き声は聴こえるが人の声は聞こえず、門番すら居ない状態だ。

 小さな村レギルスに到着したスヴェンとミアは、人の気配はするが肝心の姿が見えないことに眉を歪める。

 周囲を見渡しても奇妙な気配は感じられず、

 

「関所から一番近え村がこうも静かじゃあ、観光客はあんま多く無さそうだな」

 

 ただ民家から感じる人の気配が漂うのみ。

 

「関所に向かう宿泊客は多そうだけど、なんか遭ったのかな?」

 

 村人が昼間から出歩からない事から何かが起きたのは間違いないのだろう。

 何が起ころうとあまり関係が無いが、警戒するに越した事はない。

 

「村の入口で止まっても仕方ねえ、一先ず宿屋に行くか」

 

「そうだね……あっ、でも何か起きてたらどうするの?」

 

 ハリラドンを宿屋に向けて走らせるミアの質問に、スヴェンは眼を瞑る。

 王家が発行した旅券で入国してる身だ。表向きは扱いは異界人とその同行者の旅行になっているが、入国許可で出ている以上、それはパルミド小国も許諾した。

 そうで有る以上、パルミド小国の警察組織あるいは軍事組織の面子も有る。下手に事件に首を突っ込むべきじゃない。

 

「ここは他国だからな、法の関係もありゃあ異界人の介入に姫さんの立場も絡む。邪神教団絡みなら介入もできるが、それ以外となれば難しい問題だ」

 

「この国で起きた問題はこの国が解決すべきだもんね。でも襲われたらその限りじゃないでしょ?」

 

「武器や魔法で襲いかかるなら正当防衛は成立すんだろ」

 

 スヴェンがそう答えれば、アシュナの何か言いたげな視線を向けられる。

 

「あん?」

 

「風の精霊に頼んで悪人を探知する?」

 

 それも危険を避けるためには有効な手段なのだが、

 

「一度の使用から再使用まで期間を有するってのがなぁ。2、3日程度なら気楽に頼めんだが」

 

 最使用可能になるまでどの程度の間が開くのか判らない以上、迂闊に使う事はできない。スヴェンのそんな言葉にアシュナは無表情で淡々とした様子で答える。

 

「実は精霊の機嫌次第」

 

 そう言われてしまえば、相手が超常の存在だからだと納得もしてしまえる。

 だからこそなおさら迂闊に使えないのが現実だ。

 

「悪人を読み取りてぇ時ってのは潜入中……特に協力者に裏切り者が居ねえか確認してぇ時だな」

 

「その時は任せて」

 

 静かに淡々と答えるアシュナにスヴェンが頷くと、荷獣車が減速し、やがて村の中心に位置する宿屋の前に停車した。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 宿屋アンギラスに入ったスヴェンとミアは、フロントの床で眠るように倒れている男性従業員の姿に眉を歪める。

 何かが起きたのか、スヴェンはナイフを片手に警戒した足取りで従業員に近付く。

 眼に魔力を意識させ、男性従業員とその周辺に魔力を視認させる。

 従業員に直接魔法陣が施されてる訳でも、周囲に魔法陣が仕掛けられていることも無かった。

 警戒が杞憂に終わったスヴェンは、ゆっくりと男性従業員の身体を仰向けに向ける。

 

「すぅーすぅー」

 

 寝息と口元から垂れる涎、なんとも間抜けな寝顔にスヴェンは呆れたため息を吐く。

 

「おい、起きろ」

 

 軽く肩を揺らし声を掛ければ、男性従業員は僅かに反応するだけで起きる気配が見られない。

 完全に反応が無い訳ではない。スヴェンはナイフを胸の鞘にしまい、それなら話は早いと言わんばかりに男性従業員の頬に掌を振るう。

 バチン! フロントに音が響き渡り、男性従業員は眼を覚ます。

 

「な、なんだぁ!? 人がせっかく気持ちよく寝てるところを!」

 

「おう、目覚めたか? こっちは宿泊客なんだが……なんだってフロント、しかも床で寝てんだ?」

 

 疑問を訊ねれば男性従業員はスヴェンとミアに視線を向け、漸く慌てたように立ち上がり悲しげな眼差しで答えた。

 

「じ、実は……ここ最近になって夜な夜な盗人が村を彷徨くようになりまして」

 

 夜間に徘徊する盗人。夜はその警戒のために見張りや、警戒心から眠れず昼間に寝落ちしてしまったということか。

 スヴェンはそんな推測を立てる中、ミアが続け様に質問する。

 

「えっ、盗人ですか。……その、実際に被害に遭われた方は?」

 

「村長の自宅、農家、釣り師、宿屋のオーナーから彼らが一番大切にしてるものを……」

 

「大切なものか……そいつは金品に関係無くか?」

 

「えぇ、村長の自宅からは五歳のお孫さんが、農家は牛を一頭、釣り師はカヌーを。そしてオーナーはパルミドの英雄像を盗まれてるんです」

 

 村長の孫に関しては窃盗よりも誘拐の線が強いが、そもそも盗人というよりは怪盗という印象を強く受ける。

 特に牛や英雄像ともなれば持ち運びはその重さから難しい。

 それを捕まらず盗むあたり只者ではないのだろう。

 スヴェンがそんな事を考えていると、

 

「うーん、牛と英雄像なんて重い物を人知れずに盗むあたり見境無しですね。そもそもお孫さんに関してはもう誘拐事件ですよ」

 

 事件が別方向に動いているとミアが指摘を入れた。

 彼女の言う通り警察やら兵士の調査がされても不思議じゃない。

 

「まぁ、その点を考えて既にアンラス関所の兵隊が調査に駆け付けてくれましたとも」

 

「じゃあ盗人が捕まるのも時間の問題ですね」

 

 確かに盗人が捕まるのも時間の問題で、この件は関わるべきじゃないことも事実だ。 

 

「この国を訪れる旅行者や行商人には安心して滞在して欲しいです。ああ、宿泊は二名様で、お部屋はどうなさいます?」

 

「別々で頼む。それと今は此処に居ねえが、小せえガキが一人居る。ソイツはそっちのガキと同じ部屋で構わねえ」

 

「かしこまりました。食事はお部屋に届けることも可能ですが、それとも食堂で摂りますか?」

 

 食堂か宿部屋か。一応盗人が出没する以上、警戒しておくに越した事はない。

 スヴェンがそう考えると、こちらの考えを読んだのかミアが告げる。

 

「えっと宿部屋で摂ります」

 

「では、そのように手配しますね。……っと、こちらが其々の部屋鍵になります」

 

 二階のニ〇一号室とニ〇ニ号室の部屋鍵をミアが受け取ると、バンッ! 勢いよく宿屋のドアが開け放たれた。

 三人は何事かと顔を向ければ、息を切らした女性が血相を変え叫んだ。

 

「大変だ! うちに泊まっていた息子……四人の兵隊が攫われた!」

 

 スヴェンとミアは突如舞い込んだ情報に思わず、

 

「「は?」」

 

 口を揃えて唖然とするしかなかった。

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