傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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11-6.囚われのミア

 魔法の副作用か。気を失っていたミアは足元から感じる浮遊感と異臭に目覚めた。

 ミアは辺りに視線を移す。薄暗く周囲がよく見えない。両腕を天井から伸ばされた鎖に吊るされ、おまけに自害を防ぐためにか口元は布で塞がれ両足も拘束されていた。

 

「(動けないし変に臭いなぁ……それにどれぐらい気絶してたのか)」

 

 あれからどれだけ時間が経過したのか。それとも然程時間は経過していないのか。少なくともスヴェンに自身の魔力を送った。

 だから然程時間は経過していないとミアは推測する。仮に時間が経過しているなら行動の速いスヴェンが既に助け出してる筈だからだーー私のことを見捨てなければだけど!

 スヴェンが見捨てる選択肢を取る可能性は決して無い訳では無いが、ミアは彼が助けに来ることを信じて自身の置かれている状況に改めて視線を向ける。

 相変わらず薄暗く周りはよく見えないが、周囲から呻き声に混じって獣の鼻息と啜り泣く声が聴こえていることから少なくとも数人と動物が居ることは間違いない。

 となれば同じように連れて来られた人々か。捕まっている人々から話を聞ければ良いが、塞がれた口ではまともに会話はできない。

 

「(こんな時スヴェンさんならどうやって脱出するのかな)」

 

 スヴェンならどう拘束から逃れるのか。

 彼は戦闘を生業とする傭兵であり、細身だが力は非常に強い。特に自身を脇に抱えた状態で町を走り続ける上にガンバスターも扱える以上、力技で拘束から逃れてしまいそうだ。

 ただ非力な自身には到底不可能な方法だ。

 魔力操作による身体能力活性化なら可能だが、大抵の拘束具には魔力操作を阻害する魔法が施されている。

 ミアはそうと知りながらダメ元で下丹田の魔力に意識を傾ける。

 いつも通りに息を吐くごとく魔力操作を試みるが、案の定拘束具の怪しげな光が魔力に反応して動きを阻害してしまう。

 

「(ダメかぁ)」

 

 現状では自力で脱出することは難しい。

 だからこそスヴェンに助けて欲しいが、こんな無様な姿をスヴェンに見られるのもそれはそれで嫌だ。

 同じ目的に向かう同行者。彼の中でミアを見る目は何処まで行っても同行者に過ぎない。

 仲間や相棒。そう認識されたことは今まで一度も無ければ彼の口からそんな単語が出た覚えが無い。

 この際同行者でも構わないが、いずれスヴェンの相棒という関係になりたい。それこそ彼の拘りや考えを変える程の対等な関係に。

 この状態は何もできないが思考を重ねることはできる。

 

「(服装は小説とかで読む怪盗みたいな格好。盗人と関係性は高いけど目的が不明なんだよね)」

 

 連れ攫われた理由がレギルスを騒がせる盗人騒動と同じなら、対象に選ばれた理由が不明だ。

 スヴェンの大切なものは、エリシェが製造したガンバスターだ。武器を相棒と扱い信頼を置く彼にとって紛れもない大切なものだ。

 

 ーー男は話を何処かで聴いていた? 私の冗談を信じる形で?

 

 そもそもフロントで他の人物が居ればスヴェンとアシュナが気が付く。

 だが自身の宿部屋に訪れたのは怪盗の装いをした男だった。

 鍵を掛けていた宿部屋をさも当然のように鍵で解錠して堂々と入り込まれた。

 それに警戒心を剥き出しに立ち向かったアシュナを一瞬、医者が重症患者に使う麻酔薬で彼女を気絶させたのだ。

 

「(あの薬は医者にだけ所持を許されてるはず。でも材料の薬草は簡単に手に入るから知識さえあれば誰にでも調合ができる)」

 

 医学者なのかと最初は考えたが、教育機関に通っていた者で調合知識を有する者なら誰にでも扱える。

 特にアシュナのような成長期途中の子供には副作用が強く出やすいーーアシュナはたぶん一日か半日はまともに動けないか。

 耐性が有れば話は別になるが、特定の薬に抗体を持つ者は稀だ。

 それに麻酔薬や薬の類、病気は治療魔法が効かない。治療魔法はケガを癒す魔法であって菌を殺す魔法では無いからだ。

 同時に身体に入り込んだ菌も治療対象になることは無いが。ミアは考えが逸れたことに一度眼を瞑る。

 

「(男が使う魔法に付いて考えるべきね)」

 

 ミアはあの男が使用した魔法に付いて思考を巡らせた。

 黒い霧が身体を包むように対象を消失させる魔法。そんな消滅魔法の類は禁術指定されているが、転移魔法に似た魔法なら実在する。

 実際にあの男が使用した魔法は知っている。

 というのも過去にエリシェと見に行った演劇場で役者に黒い霧が使用され、自身と同じように消えた役者が全く別の場所ーー天幕の天井に現れた光景を覚えていた。

 アレは転移魔法を演出用に改良を加えた演劇用の魔法だ。

 人を何処かに飛ばすにも、飛ばしたい地点に出入り口用の魔法陣の設置。そして飛ばしたい対象に印となる魔法陣を印す必要が有る。

 だから舞台の役者は観客に悟られないように魔法陣だと気付かせほど巧妙に仕掛けると云う。

 それに演劇用の魔法は役者達にしか詳細の構築を知る術は無い。

 舞台に使用されるタネが割れては演劇は面白味も欠けるから秘匿されるのだ。

 だからミアはあの男は何処かの劇団の役者だと推測した。

 

「(推測はしたけど、他国だから慎重になるだろうけどスヴェンさんは正体関係なく殺しに行くからなぁ)」

 

 それにとミアは顔を顰める。

 先程から気にしないように意識を逸らしていたが、部屋に漂う異臭は何処から来ているのか。

 腐臭とは違う臭いだが、何かの薬剤による臭いなのかは見当も付かない。

 ミアが頭を悩ませると、カツン、カツン。足音が響き渡る。

 

「ふー!! ふぐー!!」

 

「むー!! むぐぅー!!」

 

「ふっー!! ふぐぅー!!」

 

「ぬー!! ぬぐぅー!!」

 

 足音に反応して静かだった者達が一斉に騒ぎ立てる。

 唸り声から四人とも男性だとミアは推測し、頭の中に盗まれた四人の兵隊が過ぎる。

 ーーじゃあここは盗人の保管場所?

 

 村の中か離れた拠点か。どちらにせよスヴェンの到着が来なければ何もできない。

 ミアが現状に眼を細めると蝋燭に火が灯り、部屋を灯りが照らす。

 蝋燭の頼りない灯りが岩肌を照らし床には、パルミドの英雄像と縄に繋がれた牛、拘束されて口元を縄で塞がれた男の子と四人の兵隊。

 

 ーー牛、随分大人しいなぁ。

 

 異臭の正体は牛の糞尿かと思ったが、牛の周りはそんな痕跡も無く益々ミアは異種の正体に眉を歪める。

 そして自身の足元に石の棺が有ることに気が付き、冷や汗が額に浮かぶ。

 

 ーーここで盗んだ人は始末してるの?

 

 ここで殺されてしまう。そんな不安がミアを掻き立てる中、棺を眼にした四人の兵隊が一様に顔面蒼白で顔を背けた。

 この棺に死を連想したのか、それとも棺に何かあるのか。それはともかく兵隊ならもっと毅然とした態度で望んで欲しい。

 スヴェンなら棺を前にして全く動じない。むしろ持ち上げて武器代わり使用するところまで想像したミアは、不思議と気持ちが落ち着くことに気が付く。

 

 ーー死者を冒涜するスヴェンさんの方が怖いからなぁ。

 

 あくまで想像中での行動だ。ミアは内心で自身に言い聞かせると、

 

「お早いお目覚めようだね。美しいお嬢ちゃん」

 

 怪盗の装いをした男の声に不快感が宿る。

 普段なら容姿を褒められて喜ぶところだが、首を絞められ魔法で連れ攫われた挙句の果てに拘束されている現状で男に浮かぶのは敵意だけだ。

 

「ふむ。身体の自由が封じられた状態で戦意を消失しないとはね。……いや、先ずはこのような茶番に付き合わせたことを詫びよう」

 

 ーー茶番? 一体どういうことなの?

 

 ミアは冷静に男の声に耳を傾けーー同時に四人の兵隊は男に強い敵意を宿した瞳で睨んだ。

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