傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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11-8.予期せぬ足止め

 スヴェン達が小さな村レギルスから逃げるように出発してからはや三日が経過していた。

 夏の陽射しと海風に運ばれる磯の臭いが首都カイデスはもう間も無くだと告げ、

 

「お〜見えて来たよ!」

 

 ミアの掛け声にスヴェンは窓から外を覗き込む。

 首都を囲む外壁と西の港に停泊する木造の大型船、首都の空を跳ぶ怪鳥にスヴェンは眼を細めた。

 テルカ・アトラスの動物はデウス・ウェポンのアーカイブに記憶された動物とは若干異なる進化を告げている。

 パルミド小国の道中で見かけた体毛に包まれたモコモコラドンと呼ばれる恐竜種や四足歩行のサルギツネなど、エルリアでは見かけない動物が大自然の中で独自の生態系で生活していた。

 その中でも犬や猫はデウス・ウェポンと同じ生態系だったが、やはり違いが有るとすれば魔力を操れるところだろう。

 少なくとも首都の街並みよりは動物の方に興味が惹かれてしまうのも事実だ。

 

「カモメに近いが、ありゃあなんだ?」

 

 空を群れで飛び回る白い羽毛の怪鳥に付いてミアに訊ねると、

 

「あれは港町や海に近い町なんかに広く生息してるグリードプテラだよ。漁獲した魚をあの大きな嘴で編みごと持って行っちゃうんだ」

 

 彼女は続けてこう答えた。

 

「でも怪鳥の卵は大きいし美味しいんだよねぇ」

 

「美味いのか、そいつは楽しみだ」

 

 スヴェンは改めてグリードプテラに視線を向ける。

 あれだけ巨大なら食用としても扱われているのでは無いか?

 

「それでグリードプテラは美味いのか?」

 

「あんまりかなぁ〜グリードプテラのお肉はどこの部位もパサパサしてて脂味も無いよ。でも爪は滋養強壮剤の材料になるかな」

 

 あれだけ巨大でたいして美味くないと語るミアにスヴェンは残念そうに肩を竦める。

 

「そうかぁ」

 

「いまは振り向けないけど、声がすごい残念そうだね」

 

「なかなか見れない」

 

 天井裏から覗き込んでいたアシュナの声にミアの肩がぴくりと動く。

 

「も、もう少しで行商人で渋滞してる門に到着するけど、スヴェンさん! その表情をキープしてて!」

 

 果たして人は表情を維持できるほど器用なのか? ミアの言動にスヴェンは呆れた表情を浮かべた。

 

「アンタの言動に表情が変わっちまった」

 

「うぅ〜こんなことなら大枚払ってでも魔道念写器を買っておけば良かった!」

 

 ミアの悔しげな叫び声が空にこだまする。

 そこまで悔しがる程でも無ければ、なぜ人の表情の変化を記憶したがるのかが理解できない。

 ただ旅行者として振る舞うなら魔道念写器で旅の記憶を撮るのも決して悪い選択とは限らない。

 

 ーーまあもう少しで旅も終わるか。

 

「ソイツは別の奴と旅行した時の楽しみに取っておけ」

 

 ハリラドンの速度が徐々に落ち、やがて列の最後尾に着く。

 

「そうだねぇ〜今度はレヴィとエリシェ、アシュナと4人旅行の時にでも計画してみようかなぁ」

 

「それが良いだろ……にしても随分渋滞してんな」

 

 門兵が応対してるが門は硬く閉ざされ先頭の荷獣車から一向に進まず、

 

「うげぇ、まさかトラブルとかぁ?」

 

 げんなりとしたミアの声にスヴェンとアシュナは同意を示すように息を吐いた。

 魔法技術が発展した世界で門の開門に不具合が出た、なんてことは想像し辛い。

 門兵が手続きに不慣れな新入りか、それとも邪神教団の侵入を防ぐために念入りにしているのか。いずれにせよ時間が解決するだろう。

 そう考えたスヴェンは壁際に寄り掛かると、

 

「スヴェンさん……大変、門の開錠魔法陣が欠けてる」

 

「あん? 魔法技術が盛んなテルカ・アトラスでんな事故が起きんのか?」

 

「フェルシオンの時みたいに故意に魔法陣を書き換えたり、定期的なメンテナンスを怠ったら起きるよ」

 

 首都の門がメンテナンス不足で魔法陣に不具合を起こすなんて事は考え難いが、ついさっき浮かべた思考の中で一番可能性が低いものを引き当てた。

 特に魔法陣が欠けてるとなれば別の要因も考えられるが、

 

「メンテナンス不足で魔法陣が欠けるってことはあんのか?」

 

「有るよ。魔法陣に循環する魔力ってたまに外的干渉を受けちゃう時が有って、その時に魔力の循環を正常にしておけば防げるけど放置し続けると魔法陣が綻ぶんだ」

 

「なるほど? なら守護結界も同じ原理で綻ぶ可能性もあんのか」

 

「うーん、守護結界はあらゆる外部の干渉を跳ね除けるからその心配は無いかなあ。でも何が起きるか分からないから守護結界の起点魔法陣は週に4日は調べてるよ」

 

 村や町を護る大事な守護結界だ。それだけ念入りに調べても問題無いが、少なくともスヴェンが訪れた場所で守護結界を構成する魔法陣を見ることは無かった。

 

「守護結界の基点ってのは秘匿されてんのか?」

 

「そりゃあ各国の最重要機密の一つだもん、私でも詳しい場所は知らないわ」

 

 確かに邪神教団が暗躍してる情勢に限らず、モンスターによって地域一帯を壊滅させようなどと目論む輩が決して居ないとは限らない。

 特に戦争ともなれば先に守護結界を解除した方が有利に働く。尤も部隊がモンスターによる被害を被ることになるが。

 スヴェンがそんなことを思案していると、荷獣車の外から徐々に不満の声があちこちで聴こえ始めた。

 

『遅いぞ! こっちは納期期間が迫ってるってのに!』

 

『どうなってるの?』

 

『また開錠魔法陣の不具合か』

 

 何度も起きている開錠魔法陣の不具合。それは首都として問題に思える。特に納期の遅れが生じた行商人には損失分の補填をしなければ国としての信頼も損なう。

 

「それにしても修復部隊は来ないのかなぁ?」

 

 静かなミアの呟きが荷獣車に響き渡り、列に並ぶ荷重車に門兵が事情を説明して周る。

 不平不満の声が響く中、

 

「すみません。補填は必ず致しますのでもうしばらくお待ちください!」

 

 門兵の言葉にミアが問うた。

 

「えっと魔法陣の修復部隊はどうしたんですか?」

 

「そ、それは……旅のお方に説明するわけには」

 

 それだけ告げた門兵は逃げるように門に戻る。

 すると汗だくの兵隊が門兵に耳内し、スヴェンは兵隊の口の動きに眼を細めた。

 

『修復師がまだ見つからない。お前は引き続き場を繋いでくれ……いや、殺気立つ彼ら一刻も解放されたいと思うけどさ』

 

『勘弁してくださいよ先輩ぃ〜今月で何度目ですか? あの修復師に変わってから門が正常に機能しないじゃないですかぁ』

 

『所詮は大金を積んで職に就いたボンボンだ。責任感なんてありはしない』

 

 読唇術で会話を読み取ったスヴェンは呆れたため息を吐く。

 

 ーー質問に答えられねぇはずだ。

 

 金で職を得た者に責任感が有るかと問われれば現状が説明している。

 そんな重要な職を貢ぎ金で売る辺り、パルミド小国の内政が汚職官に汚染されつつ有る。

 レギルスで聴いた貢ぎ金で事件を揉み消している高官の件も踏まえれば、内政に汚職が入り込んでいるのだろう。

 スヴェンは他人事のようにそんな事を浮かべては、ミアとアシュナの欠伸が荷獣車内に響き、時間だけが過ぎ去って行った。

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