傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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第十二章 悪魔の航海へ
12-1.冒険家アンセム


 アンセムが注文した酒がテーブルに並べられ、アシュナのを除いた木製ジャッキに酒が注がれる。

 ミアは注がれた酒に愛想笑いを浮かべ、スヴェンは深いため息を吐く。

 酒を飲んだミアの醜態はメルリアで鮮明に刻まれている。

 またウザ絡みされるのも道端で嘔吐されても困る。特に宿泊中の大使館ともなればなおさらに。

 スヴェンはミアが酒を飲む前に、

 

「頼むからアンタは酒を控えてくれ」

 

 そう頼むとミアは不服そうな視線を返す。

 そんな視線を向けれたところで醜態が目に見えてる以上、止めるのは当然の結果と言える。

 

「おいおい……あー、名前をまだ聴いてなかったな」

 

 何か言いかけたアンセムは思い出したように名を訊ねてきた。

 

「エルリアから来た旅行中のスヴェンだ」

 

「私は彼の案内人兼治療師のミアです」

 

「アシュナ、よろしくおじさん」

 

「俺はまだ27だ! いや、それよりも1人だけハブるのはいかんよ」

 

 自身はまだ若いと指摘したアンセムは、落ち着き払った態度でこちらにミアをハブるなっと言いたげな視線を向けくる。

 それに同調するようにミアは小悪魔のような笑みを浮かべ、ジャッキを持ち上げた。

 

「アンセム、悪いことは言わねえ。その上等な衣服をそいつのゲロで汚されたくなかったら酒を飲ませるな」

 

「ミアはそんな弱いのか? ……ってああー!! もう飲んでるし!」

 

 アンセムの叫び声とグビグビっと酒を飲む音にスヴェンは、恐る恐るミアに視線を向けた。

 そこにはジャッキをダン! とテーブルに置きに既に顔を真っ赤にできあがったミアの姿があった。

 そんな彼女と目が合い、ミアは何を思ったのかおもむろに立ち上がり、覚束ない足取りでスヴェンの隣に座る。

 

「スヴェンさ〜ん? 飲まないんですかぁ〜? それとも飲まないんですかぁ?」

 

 小悪魔のような笑みを浮かべながら同じ事を繰り返し訊ねるミアに深いため意が漏れる。

 そしてスヴェンは驚き眼を見開くアンセムに視線を向け、

 

「分かったろ? コイツの酒の弱さを」

 

 後々の面倒臭さと腕を絡めてくるミアに対する鬱陶しさを視線に乗せてぶつける。

 するとアンセムは申し訳なさそうに視線を逸らす。

 

「あ、あぁ。悪いことをしたな。詫びと言っちゃあアレだが、奢るよ……乾杯の音頭とか台無しだな」

 

「それはクソガキが台無しにしたな。そういや、アンタは船を所持してんだよな?」

 

 念の為船の所有を確保すると、アンセムは何を言ってるんだと言わんばかりに肩を竦め、酒を呷りながら答えた。

 

「ぷはぁ〜! やっぱ酒は麦酒に限るなぁ。……質問の答えは単純明白! 船なら立派なもんを所有してる。それにクルーも少数だが俺を含めて15人ほど居るぞ」

 

 大型船なら些か少ないようにも思えるが、魔法が発達した世界で人手はそう多くは求めないのか?

 スヴェンはそんなことを思いつつも酒を呷り、ついでに顔を近付けるミアの頭を押し退ける。

 

「むぐぅ〜」

 

「アシュナ、コイツをどうにかできねぇか?」

 

「スヴェンなら投げ飛ばせる」

 

「店を荒らすわけにはいかねぇだろ」

 

「それなら任せな。麗しいお嬢ちゃん、俺の隣で酒盛りは如何かな?」

 

 完全に酔ったミアにアンセムは意気揚々と手招きし、隣の椅子に座るように誘う。

 だがミアはぴくりとも動かず、アンセムをただじっと見つめるばかり。

 酔い潰れながら心のどこかでアンセムを警戒してるのか、ミアは次第に訝しげな眼差しを向ける。

 しばし見つめたと思えばようやく小さな口を動かす。

 

「……あれぇ〜? スヴェンさん髭生やしたの?」

 

 どうやら酔いのせいで視覚が正常に働いていないようだ。

 

「オーケー分かった。ミアはスヴェンから離れたくないらしい」

 

 何をどう判断してそんな結論に達したのか、さてはアンセムも既に酔っているのでは? スヴェンが一人そんなことを考えながら酒を呷ると、アシュナがメニュー表に手を伸ばす。

 

「お腹空いた、スヴェンも食べる?」

 

「そうだな、酒場のおすすめを頼む」

 

「ん、じゃあスヴェンはエビとカニのクリームパスタ。わたしはエビのチーズグラタン。ミアは……テーブルに突っ伏してるからいっか」

 

 やけに大人しいと思えば、どうやらミアは醜態を晒すこともなく自然とダウンしたようだ。

 酔ったミアが大人しいならそれに越したことはないが、食事を摂らせないというのも問題だ。

 起こすか、またウザ絡みされるのかーー寝かせた方がお互いのためだな。

 スヴェンはミアをそのままそっとすることを結論付ける。

 

「アンセムは?」

 

 アシュナが短く問うと、彼は酒を呷りながら程よく酔った表情で上機嫌に告げる。

 

「おー、俺は魚肉の包み焼きパイだな。ここのパイは格別だぜ」

 

「それじゃあそれも頼もうかな」

 

「おう遠慮すんな! ガンガン頼め!」

 

 こうして近場の店員にそれぞれの料理を注文し、ほどなくして出来立ての料理がテーブルに運ばれて来る。

 酒の摘みにしては些か合わないようにも思えたが、夕飯となれば腹も減り、食欲が湧くのも必然と言えた。

 スヴェンはエビとカニのクリームパスタに食べ、エビの食感とカニのほぐれた身と絡み合う濃厚なクリームに舌鼓を打つ。

 そして酒を呷りジョッキが空になった途端、不敵な笑みを浮かべるアンセムが酒を注ぎ込む。

 

「酒を飲むのもいいが、そろそろ本題に入らねぇか?」

 

 酒を注ぎ終えたアンセムは不敵な笑みを浮かべたまま、

 

「そうだなぁ、スヴェン達が孤島諸島に行きたい理由までは判らないが、如何してもそこに行く必要が有る。それは間違いないな?」

 

 孤島諸島に向かう意志は本物か。そう眼で問うアンセムにスヴェンとアシュナは頷く。

 魔王救出に必要不可欠な瑠璃の浄炎が無ければ、救出は不可能だ。

 だからこそ無茶をしてでも瑠璃の浄炎を入手しなければならない。

 アンセムは二人の瞳から揺るぎない意志を感じ取ったのか、納得した様子で酒を呷る。

 やがて彼はぽつりと呟いた。

 

「まずは何から聴きたい? どんな些細な質問でも構わないぞ」

 

「ん、冒険家って何をするの?」

 

 最初にそんな質問したアシュナにアンセムは笑って答えた。

 

「国のために前人未到の地の発見と探索、その地に眠る財宝とロマンの追求だな。っつても後者は俺のような冒険家がすることだが、前者は国お抱えの調査団の役割だ」

 

「それを一括りに冒険家って呼ばれてるの?」

 

「ああ、そうだ。遺跡に眠る太古の財宝と封神戦争時代の生活の名残、もっとそれ以前の生活様式を発見した時は興奮したもんさ」

 

「ふーん、楽しそう」

 

 楽しげに語るアンセムにアシュナはそう呟き、ロマンを追い求める冒険家に興味を示していた。

 

「あーってもそういう感動を実際に味わったわけじゃねえ」

 

 そういえばアンセムはまだ何も成していないと語っていた。

 

「だからアンタは孤島諸島の財宝を求めてんのか」

 

「なんせ先祖が大量の財宝を前に持ち帰ることすら叶わなかった心残りってのもあるが、ダチが挑戦して行方不明になっちまったから……責めてアイツの冒険が無意味に終わることだけはしたくねぇのさ」

 

 彼が孤島諸島を目指す動機。

 そこに揺るぎない硬い意志が、何がなんでも成功してみせるという野心が彼の瞳に宿っていた。

 それだけで冒険家としてのアンセムと手を組むのも悪い話ではない、むしろ渡りに船だった。

 

「アンタの目的も理解した。その上で俺達3人を孤島諸島に連れて行ってくれんなら文句はねぇさ、それに財宝もアンタが総取りで構わねぇ」

 

「おいおい悪魔の海域を航海すんだぞ? 死の危険を犯してまで孤島諸島を目指すってのに、何が目的で行くんだよ」

 

「財宝には興味はねぇが、遺跡に用が有る」

 

「遺跡……先祖の冒険記にも書かれてたな『モンスター蔓延る古代遺跡、危険を犯し美しい紫髪の旅人と共に挑んだ死の領域と最奥の試練、あの時の経験は伝説の一端を担ったような不思議な高揚感が胸を駆け巡った』っと」

 

 その旅人がノーマッドなら冒険家テオドールは、天使の試練を突破し瑠璃の浄炎を発見した。

 その存在が実在することはノーマッドから既に確認も取れているため改めて訊ねる必要もない。

 

「つまりスヴェンは最奥の試練に挑みてぇのか?」

 

 アンセムは確かめるように訊ねてきた。

 

「そんなところだ」

 

 そこに確かな目的が有るのは事実だ。共に孤島諸島を目指すなら本来の目的を隠すのは些か不義理にも思えるが、こちらの目的を知る者は少人数の方が都合がいい。

 

「なるほど……孤島諸島までの航海は10日。往復と遺跡の探検を含め、余裕を持って30日分の食糧を18人分用意する必要が有るな」

 

「いや、俺達の食糧は15日分で構わねぇ」

 

「ってことは帰りの宛てが有る……そういえばお前さんらはフルネームで名乗らなかったな。となるとエルリア人、行く宛はないが帰りの宛は有る。なるほど読めてきたぞ」

 

 アンセムはエルリア人という情報だけで、こちらの素性と目的を詮索している。

 それも彼の反応を見るに既にほとんど正解に近付いているのだろう。

 洞察力と鋭い勘にスヴェンは肩を竦めた。

 

「まあ想像に任せる」

 

「へぇ……っと! 忘れるところだった! 船に乗せるにも船上で戦えねえと意味がない。ここは一つ試させてもらうぜ」

 

 確かに船上、特に常にモンスターの襲撃を受けることを考えればアンセムの言うことに同意ができる。

 同時に既に気持ち悪そうに顔を歪めてるミアにスヴェンは深いため息を吐いた。

 

「あー、試すんならコイツの酔いが醒めてからでも構わねえか?」

 

「構わねえよ、なんなら明日にするか?」

 

「食糧、医薬品だとかの用意はどれだけかかる」

 

「俺より部下達はどいつも優秀でな、食糧と医療品の調達に1日とかからねえが……先ずは貸した金の取立ても有る」

 

 資金調達も必要となればアンセムの腕試しは速い方がいい。

 そう考えたスヴェンはアシュナに視線を向け、

 

「ミアの胃の中身を空にして、冷水を頭からかけて来い」

 

「ん、行くよミア」

 

「ぶぇ〜気持ち悪いぃぃ」

 

 小さいアシュナに引き摺られて行くミアに、アンセムはなんとも言えない眼差しでこんなことを呟いた。

 

「見た目は美少女だが、酒を飲ませると残念だな」

 

 それからまもなく酒場の裏手からミアの悲鳴が響き渡り、無表情のアシュナとすっかり酔いも覚めたミアが戻って来る。

 そしてスヴェン達はアンセムに連れられ、一旦港に戻り彼の所有する大型木造船ーー船首に飾れたマーメイド、そして甲板に装備された八つの弩砲にスヴェン達が見上げる中、

 

「ようこそ! 我がテオドール冒険団を果てのない冒険に連れて行く相棒、プリンセスマーメイド号へ!」

 

 アンセムは大手を広げて自らの相棒を紹介するのだった。

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