傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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12-2.船上の試し

 自身の最高の相棒たるプリンセスマーメイド号の甲板で曲刀を引き抜いた。

 部下の船員達が見物に続々と集まる中、刃をスヴェン、ミア、アシュナの三人に向け、

 

「野郎どもを船を出せ」

 

 操舵手に指示を出す。

 

「アイアイ船長」

 

 操舵手が操舵輪を握り、数人の部下の手によって瞬時に帆が張られ、無風の中、部下達が帆に向けて風の魔法を唱え帆に風力を与える。

 プリンセスマーメイド号は出航し、速度も相まって波に船体が揺れ、ミアとアシュナがたたらを踏む。

 そんな中スヴェンだけは平然と背中の大剣を引き抜き、漆黒の剣身にアンセムは眼を細める。

 漆黒の剣身を誇る武器は数あれど、スヴェンの下丹田から流し込まれる魔力を余すことなく最高率で刃に駆け巡る武器の素材などそう多くは無い。

 それにスヴェンが構える大剣はアンセムの知るソレとはかなり違う。

 先ず柄から少し視線を移せば、剣身の腹部分の部品と柄の指をかける出っ張りのような部品に眼が行く。

 

「おいおい、そいつは竜血石か? それに随分と変わった武器だな」

 

「こいつはガンバスター、異世界の技術を知り合いの鍛治師に頼んで鍛造してもらった相棒だ」

 

 武器を相棒と呼ぶスヴェンに、プリンセスマーメイド号を相棒と呼ぶアンセムは少なからず彼に共感抱いていた。

 恐らく彼は背後の二人、下手をすると並の兵隊以上に戦闘慣れしている。

 その証拠にスヴェンの視線はこちらを捉えているが、背後のミアとアシュナをいつでもカバーできる立ち位置だ。

 船の揺れをものともせず、開始の合図を出せば彼は即座に動く、あるいはこちらの出方を窺うか。

 どちらせよ三人が甲板でどこまで戦えるのか試さないことには何も始まらない。

 

「なるほど、ならさっそく始めるとしよう。あー野郎ども、船に傷がいかねえように防護魔法を展開しておけよ」

 

「へへ、そう言うと思って既に魔法陣は構築済みでっせ」

 

「怪我をしたら言いな、治療してあげるから」

 

 部下と船医の言葉にアンセムは頷き、

 

「よし! 手加減無用だ、全力でかかって来い!」

 

 そうスヴェン達に告げれば、ミアとアシュナのこちらを心配するような視線が向けられる。

 その視線はスヴェンに全面の信頼を置いてるからか、それとも彼一強の同行者。となれば狙うは後衛のミアか。

 

 ーー待てよ、アシュナの出かけたが判らねえな。

 

 アンセムはスヴェンとアシュナの二人に警戒を最大限に、先ずはミアを沈めると思考を浮かべる。

 同時に視界に捉えていたスヴェンが既にそこには居らず、刃の風を斬り裂く音が耳をつんざく。

 拙い! 咄嗟にアンセムは身を屈めることでガンバスターの一閃を避けた。

 既に間合いを詰め、横合いからガンバスターを振り抜いた彼はやはり相当の手練れだ。

 魔法を使った素振りもなければ、痕跡も無い。ゆえに彼の単純な身体能力と一種の歩術による組み合わせだと理解が及ぶ。

 そう認識しながらアンセムは曲刀を薙ぎ払う。

 刃は容易くスヴェンに避けられーー想定済みだ。

 アンセムは足元に魔力を巡らせ、甲板の床を蹴り、一気にミアの下に跳ぶ。

 だがそこに同じく跳躍したアシュナが二本の短剣を構え、二本の短剣を振り下ろす。

 曲刀の刃で短剣の刃を滑らせ、空中で体勢が傾いたアシュナの腹部に回し蹴りを叩き込む。

 鈍い音が甲板に響き、甲板に着地するアシュナの恨めし気な視線が突き刺さるーー船員の非難の眼差しも合わさり、アンセムは非常に居心地の悪い心地で彼女から視線を逸らした。

 ミアの下に着地したアンセムは曲刀に魔力を纏わせるも、彼女は微笑みながら一歩退がり、背後に濃密な殺気が迫り来る。

 冷や汗が滲み、振り向きながら曲刀を払えばーーそこには誰の姿も無い。

 

「おいおい」

 

 アンセムは殺気を誘導に利用したスヴェンにため息を吐いた。

 もしも刃を躊躇無くミアに振り翳せばどうなっていたか。スヴェンは背後からガンバスター振り下ろしていただろう。

 逆に何もしなければ背後から斬られ、さっきのように反撃に動けばすかさずスヴェンはミアの前に何食わぬ顔で陣取る。

 現に既にミアの前でガンバスターを構えるスヴェンが警戒心を浮かべているからだ。

 アンセムは踏み込まず、その場で後方に跳び退く。

 あのまま無理に攻めたところでスヴェンとアシュナの挟撃に加えてミアの魔法による援護が入る。

 連携は上手く取れていると問われれば、現状スヴェンが二人をカバーしてるようにも見え、まだ判断が難しい。

 ふと三人の行動を振り返ってみればアンセムは、おかしいことに気が付く。

 

 ーーそういや、まだ魔法を使ってねぇな。唱える隙は幾らでも有ったにも関わらず。

 

 まさか魔法が使えないのでは? そんな疑問が頭に過ぎるも、それはすぐさま否定した。

 スヴェンはともかく、ミアとアシュナはあのエルリア人だ。

 大魔導師ラピスを祖に持つ国民の血筋、魔法大国エルリアの教育環境も合わせればパルミド人の自身よりも遥かに魔力も魔法も、魔法の知識も上回っている。

 いずれにせよ魔法を見ないことには判断も難しいが、少なくともミアとアシュナの下丹田から身体を巡る魔力は洗練されている。

 それこそ無駄の無い魔力操作だ。近接と後衛を同時に熟せるエルリアの戦闘スタイルだからこそ成せる技か。

 そんな思考を頭に浮かべながらアンセムは、

 

「『雷よ身体を駆け巡れ』」

 

 詠唱と共に作り出した魔法陣が、自身の身体を微弱な雷が駆け巡る。

 全身の筋力が雷に刺激され、アンセムは再度軽く床を蹴る。

 魔法による身体能力の活性化によって、アンセムは一瞬でミアの背後に回り込み、魔力を纏った曲刀で一閃を放つ。

 取った! ミアの背中に斬撃が迫る中、そんな確信を抱く。

 

 キィーン!! 鋼鉄よりも硬い何かを斬る鈍い音が甲板に響き渡る。

 そこにはガンバスターを盾に斬撃を防いだスヴェンと杖を構えたミアの姿だった。

 

「危なぁ……スヴェンさん、よく反応できたね」

 

「まだ眼で追える速度だったからな」

 

「はっはー冗談キツいって」

 

 曲刀を一度引き戻し、今度は回転斬りを放つもスヴェンのガンバスターに刃が弾かれる。

 ガンバスターの頑丈さもそうだが、刃が刃に打つかる瞬間にスヴェンの加えた絶妙な力が容易く曲刀の刃を弾く結果を産んだ。

 アンセムはスヴェンの技量に舌を巻きながらがら空きの胴体に眉を歪めーーそして生まれた隙についにミアが動き出した。

 魔力を身体に巡らせたミアがいよいよ魔法を放つ。アンセムを含めた船員の誰しもがそう思った瞬間、ミアは宙に跳んだ。

 宙を跳んだ時には既に体勢を整えたアンセムは彼女の行動に訝しむ。

 そんな中、ミアの回転を加えた踵落としが頭上に迫る。

 咄嗟に後方に退がるも、床に駆り出された踵落としが衝撃波を生み船体全体を揺らす。

 

「ぶ、物理攻撃!?」

 

「あんな華奢な体格で……実はゴリラ族だったのかぁ!?」

 

「私のことゴリラって言った人、顔覚えましたからね?」

 

 ミアをゴリラと語った船員は操舵手の背中に身を隠した。

 だが波を受けて船体が揺れると、ミアは僅かにたたらを踏んだ。

 転ばないあたり上等だが、これも試しだ。そんな言葉を呑み込みながらアンセムは鋭い一閃をミアに放つ。

 鋭い斬れ味を誇る曲刀、ましてや魔力を流し込んだ刃は更に斬れ味が増している。それを木製の杖で防ぐことは叶わない。

 むしろ下手をすればミアの胴体が容易く両断される。だからアンセムは自然と彼女が刃を避けるために退がると読んでいた。

 だがミアは握っていた杖を甲板に突き立て、刃を魔力で弾く。

 また弾かれる刃、そしえ杖を軸に放たれたミアの蹴りがアンセムの腹部に突き刺さる。

 

「てりゃあ!!」

 

 そんな掛け声と共に身体が蹴り上げれ、杖が薙ぎ払われた。

 それは華奢なミアから繰り出された棒術とは思えない重い魔力を纏わせた一撃ーーアンセムの身体が甲板外に飛ばされ、海に落ちまいと船のロープを掴む。

 そしてロープを軸に船の側面を駆け上がり、跳躍力しながら甲板に戻れば着地地点に魔法陣を展開したアシュナの姿にアンセムは冷や汗を流した。

 

「お返し」

 

「ノーサンキュー!」

 

 魔法陣から暴風が発生する直前に、アンセムは曲刀に刻んだ魔法陣に魔力を送り、刃に炎を纏わせる。

 そして刃を後方に向けながら纏わせた炎を刃先に集め圧縮させ、そして暴風が迫り来る直前ーーアンセムは炎を一気に解き放つ。

 圧縮され解き放たれた炎の勢いを利用することで暴風を避け、ようやく甲板に着地した。

 振り向けば魔法を避けられたことに不服そうなアシュナが、

 

「む、避けられた」

 

 息を吐くように二本の短剣に風を纏わせる。

 背後に視線を向ければ、スヴェンが既にガンバスターを構え、その背後にミアが控えていた。

 そんな様子を見守っていた船員が、

 

「船長! 今からでも加勢しやすか!?」

 

「その必要はねぇ、甲板で何処まで戦えるかの試しだ。その意味ではコイツらは合格だ、いやむしろテオドール冒険団に加入して欲しいぐらいだね!」

 

 アンセムの声にスヴェンはガンバスターを鞘に納め、戦闘態勢を解いた。

 そう、魔法の使用はアシュナだけに見られたが、魔力操作を使用した戦闘ーーモンスターの障壁を砕ける戦闘能力、常に波に揺られる足場での戦闘。

 それらを眼にしただけでも三人は及第点と言えた。

 あくまでも合格では無く及第点。近接能力が高くとも魔法が使えなければ海中から襲うモンスターには対応ができない。

 そこはこちらでカバーすれば問題無いが、悪魔の海域に潜む化け物モンスターを相手にするには少々頼りないのは歪めない。

 だからこそアンセムは曲刀を鞘に納め、三人に確認するように問う。

 

「あー、今の戦闘でどの程度動けるのかは理解した。だが、スヴェンとミアは魔法を使えるのか?」

 

「俺は使えねえが……見せた方が速いか」

 

 スヴェンはガンバスターを上空に向け、魔力を流し込むと柄の出っ張りを指で引いた。

 すると剣身の先端、その穴から雷を纏った何かが上空に放たれ雷鳴が轟く。

 

「今のはなんだ? 魔法陣を事前に刻んでるの判るけどよ」

 

「あ〜魔法陣を刻んだコイツを撃った」

 

 スヴェンはそう言いながらサイドポーチから鉛の筒のような物を投げて寄越した。

 その物体を受け取り、掌で転がるソレに視線を移すと、筒の底に細く小さな魔法陣が刻まれている。

 火炎を発生させ纏わせる。魔法陣の術式を読み解いたアンセムは眼を見開いた。

 スヴェンがさっき放ったのは雷だった。つまり彼は魔法は使えないが、数種類の属性を切り替えて撃てることを意味する。

 

「仕組みだとかはさっぱりだが、つまりお前さんは自由に属性を放てるって認識でいいのか?」

 

「いや、情け無い話だが俺は銃弾に刻まれた魔法陣がどんな効果を発揮するか、撃つまで判らねえ」

 

 ーーなるほど、スヴェンは異界人だ。魔法技術が無い世界なら魔法陣を読めないのも納得がいくな。

 

 ただそれも時間をかければスヴェンは魔法陣の術式を理解できるようになるだろう。

 彼の戦闘能力を全て見ることは無かったが、底抜けに冷たい視線は数多の戦いで相対者を葬っていたこと、戦闘の最中に放った濃密な殺気を踏まえれば彼は殺しを生業とする職業に就いてたことは予想に難しくない。

 

 ーー今回は殺し合いじゃないから、か。

 

 次にアンセムはミアに視線を向ける。

 彼女は緊張した様子で愛想笑いを浮かべた。

 

「ミアは今回魔法を使わなかったが、船を気遣ったのか?」

 

「いえ、私は治療師ですので役割りは傷付いた味方を癒すことです」

 

「ん? エルリアの治療師といえば攻撃魔法も結界魔法、防護魔法からなんでもござれだろ」

 

「……実は、その、私は治療魔法以外は使えないんです。その代わり生きてる限りどんな傷も癒せますけどね」

 

 稀に噂に聴く一芸特化型。世の中には特定の魔法の才に恵まれながら他の魔法が一切使えない者が居る。

 ミアもその類なら他の魔法が使えないことに説明も付けば理解も及ぶ。

 特に医療品に限りが有る航海で治療師は心強い味方なのは間違いない。

 だからこそアンセムは三人を歓迎するように笑みを浮かべた。

 

「いやぁ、心強い同行者を得られてラッキーだな」

 

 それに同意を示すように船員は笑い声を、暗くなり始めた甲板で奏でた。

 その後プリンセスマーメイド号を港に停泊させ、

 

「さて野郎共! 出航に向けて準備と行きたいところだが、貸した金は返金されたのか?」

 

 航海の準備に必要な資金、貸した金が返って来たのか問えば渋い顔を返される。

 

「いや、とっくに返済期限が過ぎてんのに一向に返す素振りを見せねえんですよ」

 

「アイツ、町で豪遊してるあたり金は持ってる筈なんだ」

 

「なるほど、バカな奴だ……よし、明日は俺とスヴェンで取り立てに行って来るから野郎共は必要な物質を確保しておけ。いつものババアのところでな」

 

「うっす!」

 

 指示を受けた船員が各々下船を始める中、スヴェン達が訊ねる。

 

「取立ては理解したが、具体的な出航日時はいつだ?」

 

「そうだな、守備良く明日以内に金を回収できれば必要物質はすぐにでも揃う。出航日時は早くとも7月7日、明日の午後14時だ」

 

「えっといくらお金を貸したんですか?」

 

「金貨800枚だな」

 

「そうか、ソイツを強迫すればいいんだな」

 

「おう、詳細は明日の朝に説明する」

 

「面倒だからお金出す?」

 

 アシュナの提案にアンセムは首を横に振ることで断った。

 

「気持ちは有難いが、冒険家としての矜持が俺達にも有るんだよ」

 

「よく分からないけど、ロマン?」

 

「おおそうだ! ロマンを求めるにも資金を自前で用意できなきゃ、ロマンもクソもねえだろ」

 

「そっか」

 

「あー、俺達も一旦戻るか」

 

「はい! 私は何も食べてないからお腹空きました!」

 

「そんじゃあ明日の8時まで港に来てくれ」

 

 こうしてアンセムは一旦三人と別れ、自身の寝室でも有る船長室でブドウ酒の酒瓶を呷りながら航海図に視線を向ける。

 先祖がかつて到達した伝説が眠る孤島諸島。そこに挑むと考えるだけで自然と胸が躍り血が滾る。

 同時にこれまで数々の冒険を繰り広げた部下達から少ない犠牲が、最悪全滅の可能性に葛藤が無いと言えば嘘になる。

 このままテオドール冒険団を悪魔の海域に導いていいものかーー船長が弱気になっちまったら、アイツに鼻で笑われちまうな。

 アンセムは酒を呷ることで葛藤を振り払う。アルコールがほどよく周り始めた頃、船長室の小窓を一羽の黒鷲が嘴で叩く。 

 コツコツっと窓ガラスを叩く音にアンセムは興醒めしながらーー連中も重い腰を上げたか。

 黒鷲の嘴に咥えられた一通の封筒にアンセムは、書類を受け取るべく小窓に歩み寄った。

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