傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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12-4.出航と悪魔の由縁

 ティンギルから金を回収したスヴェンは、アンセムの案内に従い食材屋に足を運ぶ。

 既にそこにはテオドール冒険団の船員とミアが待っていた。

 数台の貨車に山積みになった食料と医療品など必要な物資が積み込まれ、一人の老婆にアンセムが近付く。

 

「ババア、待たせた。こんだけ有ればしばらくは飢えることもねえ……丁度町にはアルセム商会も来ることだしな」

 

 回収した金袋を老婆に手渡した。

 

「別に待っちゃいないよ、この日をね……お前もあのバカも本当に行くんだね?」

 

 老婆は哀しげな眼差しをアンセムに向け、彼は向けられた感情に戯けるように笑う。

 

「次に会う時は大量の財宝を持ち帰った時だ。そん時はまた都合を付けてくれよ」

 

 彼の言葉に老婆は皺枯れた口元を吊り上げ笑った。

 老婆はこれ以上の言葉は野暮だと判断したのか、アンセムの背中を叩き、

 

「行って来な」

 

 短い言葉をテオドール冒険団の面々に告げた。

 荷台は船員達の手によってプリンセスマーメイド号まで運ばれ、その道中でスヴェンとミアは驚くべき光景を目にした。

 町の住人が港に向かうテオドール冒険団に声援を送り、無事を祈る姿を。

 それはまるで英雄の凱旋のような光景で、同時にスヴェンはアンセムという男が首都カイデスでどれほど慕われているのか初めて理解した瞬間だった。

 そしてプリンセスマーメイド号に物資の積込みが終わると、

 

「現在時刻は12時10分か……よーし野郎共! 帆を張れ! 進路は西へ! 孤島諸島に向けて出港だぁー!!」

 

 船長アンセムの号令に船員が雄叫びと共に各々の位置に付き、やがてプリンセスマーメイドは首都カイデスの港を出港した。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 七月七日の晴れ、快晴の青空と大海原を進むプリンセスマーメイド号の船上でスヴェンは海を眺め、ミアの訝しげな視線に鋭い視線を向ける。

 

「なんだ?」

 

「なんかスヴェンさんとアンセムさんから女性物の香水の匂いがしたから、それで少し遊んで来たのかなぁって」

 

「遊んでねぇよ、借金の取立てに立ち寄った場所が女が働く店だったってだけだ」

 

「あー、首都カイデスの貧民街は如何わしい店が在るって聞いたことは有ったけど、本当に有ったんだ」

 

 女性だけが働く店は他にも様々有るが、ミアは香水に含まれた媚薬の匂いを嗅ぎ分けどんな店なのか察したようだ。

 ただミアでも身体に付いた香水はキツいのか、彼女は僅かに顔を顰め、

 

「私に欲情しないよね?」

 

 バカな冗談を口にした。そんなバカなことは万が一にも起こらない。

 そもそも媚薬の類は通じない体質だ。だからミアや他の女性に発情することも特別意識することも無い。

 

「ねぇよ。俺はその類の薬物は効かねえ体質だ」

 

 そんな話をして、ふとアシュナの気配を船内から感じ取ったスヴェンは話題を変える。

 

「そういうや、アシュナは寝てんのか?」

 

「アシュナなら船内を見て回るって。それに守護結界領域を抜けるまで一日はかかるみたいだよ」

 

 明日の昼には悪魔の海域に入る。そこから先は油断禁物だ。特に航海に関しては素人の自分達が彼らの足を引っ張る訳にもいかない。

 スヴェンは船上に散らばる船員に視線を向けると、ミアは思い出したように楽しげな笑みを浮かべた。

 

「実はプリンセスマーメイド号には浴室が備わってるんだって!」

 

「なるほど、船員の衛生面を気遣ってか……悪魔の海域で風呂に入る余裕が有るのか疑問なんだが?」

 

「難しいそうだけど、船医のメルテスさん曰く昨日みたいに帆に風の魔法で風力を与えて速度をあげるんだって。それで並みのモンスターは近寄れないらしいよ」

 

 確かに船の移動速度が増せば増すほどモンスターの脅威は軽減する。

 だがそんな単純な力技で抜けられるほど甘い海域じゃないと嫌でも理解が及ぶ。

 悪魔の海域と呼ばれる由縁、その元凶が海中に潜んでいるならなおさら。

 

「海には死域を発生させるモンスターは確認されてんのか?」

 

「エルリア近海だと遭遇記録は無いけど、デーモンシャークとかはいろんな海域に出現してるかも。……あと未だ正体が掴めないモンスターも深海に居るよ。それに死域はモンスターごとに齎す効果も違うから警戒は充分にね」

 

「あぁ、しかしまあ死域を発生させるモンスターが深海に潜んでんなら対処も困難だな」

 

「そっ、他国の報告例だと魔力を分散させて魔法を封じる死域と海中から襲いくる刺々しい触手の大群、正体不明のモンスターに軍艦が沈められたっなんて話しもあるぐらいだよ」

 

 海上で魔力を分散させる死域。それだけで非常に厄介で対処も難しいモンスターだが、それに加えて触手のみで肝心な本体の詳細さえ不明となればより一層困難だ。

 

「魔力を封じられるってのは詰みに近い状態だな」

 

 スヴェンとミアはこれまでの旅路を思い出しながら、額に薄らと冷や汗を掻く。

 互いに深いため息を吐くと船長室から出て来たアンセムが、こちらを発見しては陽気な足取りで近寄る。

 

「どうした? 2人でため息なんか吐いてよ……もう陸地が恋しくなったか?」

 

「いや、悪魔の海域の由縁だとか死域を発生させるモンスターに付いて聴いていたところだ」

 

「死域を発生させるモンスターはパルミド小国近海にも、悪魔の海域に出現したなんて話は聴いたことねえな」

 

「そうなんですか? てっきり死域クラスのモンスターが出現するとばかり……」

 

「……悪魔の海域と呼ばれる由縁はいつか有るが、尤も船乗りにとっての天敵は無数に近い触手を持つ大型モンスターーキングクラーケンだ」

 

 キングクラーケン。海の怪物と言えば巨大を誇るクラーケンとデウス・ウェポンの創作物でも度々使用されているが、相手はモンスターだ。

 恐らく物語に出て来るクラーケンより遥かに凶悪なのだろう。

 

「えっ? キングクラーケンって軍艦を簡単に海中に引き摺り込むって言われてるあの? おまけに軟体の癖に鋼鉄以上の硬さを誇り、恐ろしい口を持つと言われてる?」

 

「そのキングクラーケンだ。おまけにデビルシャークの群れ、ウミナルカミ、ポイズンサーペント、マインドフレア、ゴーストシップと大盤振る舞いだ!」

 

 名を挙げられたモンスターの数々にミアはどれも知識でその危険度を知っているのか、みるみるうちに顔を青褪めさせた。

 

「……そんなモンスターが一隻の船に殺到するってことですか?」

 

「運が悪ければな。だがプリンセスマーメイド号にはとっておきが装備されてる。だからそこまで気負うほどでもないさ」

 

 アンセムは青褪めるミアを気遣うようにそんな事を告げ、多少は気が紛れたのか、彼女の顔色も徐々に健康な色に戻り始めた。

 

「そ、そうですね! ……三人旅とは違ってこの船には攻撃魔法が使える船員が沢山居ますしね!」

 

 確かにミアの言う通りだ。ここにはモンスターに対する対抗手段を備えた船員が、アンセムを含めて十五人も居る。

 それでも油断は許されない。海上で恐ろしいのは何もモンスターだけでは無いからだ。

 スヴェンが頭の中で海に警戒心を向けると、

 

「嬉しい事を言ってくれるねぇ。たがまあ、俺としちゃあお前さんら三人に期待してるぜ?」

 

 アンセムが陽気に語り、期待されたミアが胸を張る。

 

「うえへへ〜治療魔法に存分に期待してくださいよ」

 

 ミアが上機嫌に笑えば、アンセムも軽快に笑い出す。そんな二人を他所にスヴェンが船内に向かって歩き出すと、

 

「船長、みんな! 少し遅くなったが、昼飯の時間だぞ!」

 

 プリンセスマーメイド号の厨房を担うコックが呼びかけると、船上に居た全員がスヴェンとミア、そして船長であるアンセムを置いて船内に我は先にと殺到する。

 そしてスヴェンとミアはアンセムと共に船内の食堂に向かい、遅めの昼食を摂るのだった。

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