傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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12-5.昼食後の雑談

 昼食を終えたスヴェンが船内を見て周り、偶然医務室の前を通りかかると、

 

「あら、ミアの連れの……確かスヴェンだったわね」

 

 桃色の髪と青い瞳、白衣を羽織った船医メルテスと出会した。

 スヴェンが適当に相槌を打つと彼女は興味深かにじっと視線を向け、何か思い付いたのか笑みを向ける。

 ミアが他者に向ける愛想笑いとはまた違う打算と目的の笑みにスヴェンは肩を竦めた。

 

「何か用があんのか?」

 

「用ならたったいま出来たわ」

 

 何の用事かは判りかねるが、船員と一悶着起こすのは孤立を招く危険な行動だ。そう判断したスヴェンは彼女の用事に応じるべく頷く。

 すると話しが速いと言わんばかりに医務室に招かれ、薬品と消毒用アルコール、まだ未調合の薬草の匂いがスヴェンの嗅覚を刺激する。

 医務室はどこの世界でも変わらない。そんな感想を内心で浮かべたスヴェンは、机に向かい合うように椅子に腰降ろす彼女に問う。

 

「用事ってのは何だ?」

 

「うちの船員も船長も異界人とははじめて接触したからね、単純な興味と好奇心よ」

 

「ミアに聞けば済む話しだろ」

 

「確かにそうよね? でもそれは答える側がスヴェンという人間を何処まで把握してるかで成り立つ問答よ」

 

 確かにスヴェンはこれまで自身のことは必要最低限の情報しか話さず、話したのはデウス・ウェポンとテルカ・アトラスの違い、食事文化や寿命と言った内容だけだ。

 だからミアが他者にスヴェンのことを問われても、異界人の旅行者や戦闘面、彼女が見て知った範囲でしか答えられない。

 同時にミア達に話さない内容を見ず知らずの、ましてや出会って間も無い人物に話すのはそれこそ彼女達に対する不義理にも思えれば、いずれ元の世界に帰る自身の情報などノイズでしかない。

 ただ一つだけ答えられるとすれば、

 

「興味本位で聞かれて話すほど綺麗な体験談なんざ持ち合わせてねぇよ」

 

 人が好奇心で聞くには傭兵稼業の業とも言える戦場と殺戮はあまりにも重い話だ。

 

「そう、ここで根掘り葉掘り質問したいところだけど……ミアが踏み止まってる領域を無遠慮に踏み荒らす性格の悪い女じゃないのよ、私は」

 

「良い女の条件ってのは理知的で配慮深い奴らしいな」

 

「献身的で一途も合わせれば完璧な女ね。……ところで昨日の戦闘は船員達の間でも話題になってるのよね」

 

 メルテスは何か思うところが有るのかため息混じりに、そんなことをボヤいた。

 昨日の戦闘を振り返る。それは別にメルテスが憂に満ちた表情をするほどても無ければ、むしろ互いに得るものが有れば有意義な試しだったと。

 ただ女性として戦闘に夢中になる男共に想う所が有るのか、

 

「なんか問題でも有ったのか?」

 

 航海の事を考えそんな質問をすれば、メルテスはすぐさま口にした。

 

「やれ船長は本気じゃなかっただとか、お互いに本気じゃないだとかそんは幼稚な言い争いよ」

 

 得るものなど何も無かった。得たのは単になる議論と喧嘩だけ。

 スヴェンがなんとも言えない表情を浮かべると、思い出したようにメルテスから訊ねてきた。

 

「それで? 昨日の貴方は本気だったのかしら?」

 

 どっちが本気だとか戦闘に関係が無いようにも思えるが、実は彼女も彼女で船長であるアンセムが遅れを取るのは面白く無いと言ったところか。

 正直に言えば昨日の戦闘はこちらが船上で何処まで動けるのか確かめるための戦闘だった。殺し合いでも無い単なる交流試合のようなもの。

 ただスヴェンは内心でアンセムの戦闘能力を称賛していた。

 

「互いに本気じゃねぇよ。第一優劣を競うってなら頭数を対等にすりゃあ良い……だが対等でもねぇ状況でアンセムはミアまで迫ったろ? 単身で後衛に接近つう判断は中々できるもんじゃねえよ」

 

 同時にアンセムの何処を潰せば良いのか、よく理解した判断力にスヴェンは内心で舌を巻いたことをよく覚えている。

 特に雷魔法による身体強化は目で追えたが、あの時の魔法は試しのために使用された魔法だ。

 彼の下丹田の相当量の魔力を踏まえれば、電光石火の如き動きも可能だったろう。

 そんな事を告げれば、メルテスは自分の事のように口元を緩めーーついでに通路で聴き耳を立てていた数人の船員とミアとアシュナの気配にスヴェンは内心でため息を吐いた。

 

『ん? こんな所で何してる馬鹿野郎共、さっさと持ち場に着け』

 

『おっと船長! じ、実はメルテスとスヴェンが中に居てですね』

 

『なるほど、盗み聴きか。だがまあスヴェンには気付かれてるだろうよ』

 

『やっば! 私はこれで失礼させてもらいますよ!』

 

『おい! いの一番に興味を示しておいてっ! もう居ないし』

 

『あり? アシュナは?』

 

『あれ? いつの間に』

 

 そんな愉快な話し声にメルテスは楽しげに笑い、

 

「うちの船員も愉快でしょう?」

 

 同意を求められたスヴェンは、過去に組んだ愉快な傭兵団を思い起こしながら同意を示した。

 

「確かにしばらくは退屈することも無さそうだ」

 

 同時に愉快な連中でも死は平等に訪れる。明日の昼から突入する悪魔の海域でどれほどの犠牲者が出るか。

 それは自分かも知れないし、ミアとアシュナ。あるいは三人の死か。それとも全滅の可能性にスヴェンは椅子を立ち上がった。

 

「険しい顔しちゃって、もう行くの?」

 

「船の環境に早く馴れたいんでな」

 

 それだけ告げ通路に出ると戯けるアンセムとすれ違う。

 

「まさか、そんなに評価されてるとはねぇ」

 

 しっかりと会話を聴いてる辺り彼もちゃっかりしてる。

 

「さて、社交辞令ってヤツかもしれねえぞ?」

 

 恍けてみせればアンセムは笑みを浮かべながら、

 

「うちの馬鹿共にも見習わせてやりてぇもんだ」

 

 そんな軽口を叩いた。

 スヴェンは通路の角からこちらを覗き込むミア達の姿に気付く。

 ミアとアシュナの何かを期待する眼差しと船員達の視線にスヴェンは鬱陶しいげに眉を歪めた。

 

 ーー連中は俺に何を求めてんだ? ってか暇なのか?

 

 そんな疑問を浮かべながら適度にアンセムと雑談を交えなから甲板に足を運び、海の恐ろしさに付いて話し合うことに。

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