傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

125 / 325
12-6.襲撃と悪魔の海域

 テオドール冒険団と交流しながら一日目の航海を終え、二日目の昼前。

 晴々とした夏の空は嘘のように雷雲に覆われ、荒れ狂う波にプリンセスマーメイド号が揺れる。

 もうすぐ悪魔の海域に突入という時に悪天候に襲われ、

 

「昨日の穏やかな1日が嘘のようだね」

 

 ため息混じりに呟くミアに、こればかりは仕方ないと肩を竦め甲板から周辺の様子に警戒心を向ける。

 進路方向の前方には大渦が見え、遠くの方で鮫に似たモンスターが飛び跳ねた。

 それは鮫と言うよりは、それは姿は人に近く禍々しい鱗に覆われ、握り締められた槍にスヴェンは息を吐く。

 

 ーーあれがデビルシャークか。

 

 守護結界領域の外、悪魔の海域入り口で待ち構えるデビルシャークの群れ。仮に群れを回避しようと進路を晒せば大渦に船が呑み込まれる。

 このまま突っ込むか魔法で迎撃する方法が取れるが、それを判断するのはテオドール冒険団と船長アンセムだ。

 スヴェンは一先ず近場の船員に声をかける。

 

「前方に大渦とデビルシャークの群れを確認した」

 

「どれどれ? うわぁ、出待ちかよ。悪趣味な姿でやることもまた悪趣味とか……よし、船長に報告して来るから引き続き頼む」

 

 駆け出す船員を見送ったスヴェンは、今度は後部甲板に向かうと一隻の船に眼を細めた。

 所々散りばめられた金が埋め込まれた大型船、最近何処で見た悪趣味な邸を連想させる船の甲板には弩砲が装備されている。

 敵対か、それとも単なる冒険心か。スヴェンが後方の船に眉を歪め、そんな様子に小首を傾げながら自身の顔を見上げるミアに告げた。

 

「アンセムに武装船が一隻、後方から接近してるって伝えてきてくんねぇか?」

 

「分かったけど……うわ、悪趣味な成金船……うーん? パルミド小国の成金趣味ってゴールドダイン公爵家の保有船かも」

 

「……一昨日借金を取立てた相手が、その公爵家の御子息様だ」

 

 ミアのマジ? そう聞きたげな視線に頷くことで答える。

 しかし逆恨みでわざわざここまで追って来た? 少なくともティンギルにそんな度胸が有るとは思えないが、自業自得とはいえ追い詰められた人間がどんな行動に出るのか。

 答えは単純明白、報復に出るだ。それに悪魔の海域に近いこの場所なら犯行に及ぼうともテオドール冒険団は無惨な死を遂げたと告げれば、罪を咎められる可能性は低いと言える。

 最悪の方向で推測するスヴェンにミアは杖を握り締め、

 

「急いで報告して来た方が良さそうだね」

 

 それだけ告げて船長室に駆け出した。

 スヴェンはガンバスターの柄を握り締め、徐々に距離を詰める船の速力に眉を歪める。

 臨戦体制を取れば船内からアンセム率いる船員が続々と甲板に駆け付け、船が横合いに接近した。

 船の甲板で槍を構えるティンギルと斧や弓、短剣で武装した荒くれ者共の姿にアンセムが叫ぶ。

 

「何しに来た! ここはボンクラ共が来る遊び場じゃねーぞ!」

 

 海原に響く声と雷雲から落ちる雷、天候が荒れ始める中、ティンギルが敵意を宿した眼差しで吠える。

 

「お前のせいでオレ様の人生は終わりだ。だからよぉ、アンセム……オレ様のために死ねよ!」

 

 逆恨みの声を合図に敵船の甲板に装備された弩砲がプリンセスマーメイド号に向けられ、対するアンセムはため息混じりに操舵手に視線だけで指示を出した。

 一斉に弩砲から放たれる魔力の矢がプリンセスマーメイド号目掛けて降り注ぐーーだが、プリンセスマーメイド号は荒波を滑るように進み、降り注ぐ魔力の矢を避けてみせる。

 逆恨みから始まった敵対行動にスヴェンはガンバスターを引き抜き、隣りに近寄ったミアが、

 

「逆恨みで危険を犯してまで復讐しに来るなんて……」

 

 困惑と戸惑いの感情を浮かべていた。

 無理もないだろう。このまま進めば悪魔の海域にティンギル率いる敵も突入することになる。

 時と場合を選ばない復讐、対象を確実に始末するならベストなタイミングとも言えた。

 絶えず集中砲火のごとき魔力の矢、そして下丹田の魔力を巡らせ詠唱の準備に入る荒くれ者にスヴェンはガンバスターの銃口を向ける。

 いつでもアンセムの指示で動ける。そう彼に視線を向ければ頷き返す。

 

「逆恨みで死ぬこともねぇだろ! いいかティンギル! これが最後の警告だ、引き返すなら見逃してやる!」

 

 アンセムの忠告にティンギルは忌々し気に眉を歪め、やがて視線がミアへと移る。

 一瞬だけ彼は呆け、やがて大声で告げた。

 

「そこの青髪美少女とメルテスを渡すなら見逃してやってもいいぜ!」

 

 話にもならない幼稚な要求にスヴェンはため息を吐き、そんな傍らでミアが頬に手を添え、

 

「モテるって罪だよね」

 

 そんな戯言を口にした。

 

「節穴の方が罪だろ」

 

「……じゃあスヴェンさんは節穴だね」

 

 自分が節穴かはさておき、ティンギルの要求にアンセムが呆れ顔で曲刀を掲げる。

 

「野郎共、このまま悪魔の海域に突っ込むぞ!」

 

「「「「「おおー!!」」」」

 

 アンセムの号令に船員が雄叫び、

 

「帆に風の魔法をかけろ! 前方のモンスターと落雷に気を付けろよ!」

 

 次の指示に船員が魔法を唱え、風の魔法によって帆が追い風を受け、速力を加速させる。

 そしてアンセムはこちらに非情な眼差しで指示を出した。

 

「スヴェン、頼んだ」

 

「了解した」

 

 指示を受けたスヴェンは、横一列に並びに魔法の詠唱に入った荒くれ者にガンバスターの銃口を向け、躊躇なく引き金を引く。

 ズドォォーーン!! 海上に響き渡る轟音、敵船の甲板に夥しい鮮血と肉片が飛び散る。

 魔力を流し込まず撃った.600LR弾の一発が横一列に並んだ荒くれ者達を貫く。

 敵船を襲った惨状に敵は恐怖に慄き叫び声をあげ、ティンギルの表情が青褪める。

 

「く、クソが! 他国の者がパルミド小国の国民を手にかけたんだ! これは外交問題になるぞ!」

 

 先に敵対行動に出たのは果たしてどちらなのか。そんな言葉を飲み込んだスヴェンはガンバスターを構え直し、前方から接近する気配に、前方に視線を向け海中から飛び出すモンスターを告げる。

 

「デビルシャークが来るぞ」

 

「あぁ、進路はそのまま!」

 

 後方から放たれる魔力の矢を避けながらプリンセスマーメイド号は、守護結界領域を抜け悪魔の海域に突入した。

 そこに歓迎する様に五体のデビルシャークがプリンセスマーメイド号の甲板に降り立つ。

 スヴェンは床を蹴り先頭のデビルシャークに迫り、ガンバスターに魔力を流し込み刃を薙ぎ払う。

 すると今までモンスターの障壁に阻まれていた刃は一瞬だけ障壁に止められるが、そのまま踏込み振り抜くと消耗がガラスのように破れた。

 エリシェの手によって完成されたガンバスターの性能に内心で称賛と喜びの言葉を浮かべ、無表情でデビルシャークの肉体を斬り刻む。

 先頭の一頭の肉体から魔力が粒子状に消え、甲板に遺体だけが残される。

 

 そして船員が次々とデビルシャークに立ち向かい、魔法が甲板状に炸裂した。

 デビルシャークの障壁が次々と音を立てながら破れるが、それでも人類を殺すべく槍で船員の横脇を突き刺す。

 

「ぐわ! ちくしょう!」

 

 槍の矛が引き抜かれ、船員の横脇から鮮血が流れ、甲板を血が汚した。

 横脇の出血に眉を歪める船員に、デビルシャークが槍を突きを繰り出すが、スヴェンはガンバスターの刃で弾きながら告げる。

 

「ミアの所に走れ」

 

「わ、悪りぃ、助かった」

 

 スヴェンはデビルシャークの胴体を両断し、視線を僅かに後方に向ければ、ミアの下に駆け寄った船員が彼女の治療魔法で瞬く間に癒された。

 同時にスヴェンは次々とアンセムを筆頭にした船員達によって討伐されるデビルシャークに眉を歪める。

 何かがおかしい。あまりにも簡単に討伐できてることにスヴェンは強い違和感に警戒心を抱く。

 

「どうしたの?」

 

 険しい表情に気付いたアシュナの疑問にスヴェンは周囲を見渡す。

 モンスターとまともに戦えるガンバスターの影響か、それともテオドール冒険団の実力が単純にデビルシャークを上回ってるのか。

 槍を装備した鮫型のモンスター、つまり本来本領を発揮すべき戦場は海中だ。

 うっかり落ちなければデビルシャークの領域に入るにことは無いが、同時に槍で船底に穴でも開けられれば大事になる。

 そう理解した瞬間、スヴェンはデビルシャークにとどめを刺すアンセムに告げた。

 

「船底の警戒はどうなってる?」

 

「あぁ、こんな時に備えて竜骨を含めた船底は強固な防護魔法陣で護られてんだ。その辺は心配しなくて大丈夫だ」

 

 事前に備えられた魔法にスヴェンが納得すると、突如デビルシャークの群れが続々と海中から飛び出す。

 口元に展開された魔法陣にいち早く気付いたスヴェンは、アンセムとアシュナの頭を掴みそのまま甲板に伏せる。

 同時に魔法陣から放たれた水鉄砲が頭上を通過していく。

 

「悪りぃ助かった……被害報告!」

 

「なんとか大丈夫だ!」

 

「こっちは大丈夫ですよ!」

 

 操舵手とミアの無事を告げる声と上手く水鉄砲を避けた船員達の無事の姿にアンセムは安堵の息を吐く。

 だがデビルシャークの攻勢は続き、後部甲板の後方から悲鳴が響き渡る。

 同時にデビルシャークの攻勢が収まり、後部甲板に駆け付けるとミアが悲惨な惨状に決して眼を逸らさず見詰めていた。

 後方から必要以上に追撃していた敵船の甲板に群がるデビルシャーク。

 そして次々と荒くれ者共の肩を食い千切り、血肉を無造作に甲板に吐き捨て、また別のデビルシャークは荒くれ者の腹部を鋭い突きで貫き、見せしめように貫いた荒くれ者ごと槍を空に掲げる。

 デビルシャークは甲板に溢れ鮮血で染め上げると、ついに船内にまで入り込む。

 

「惨いが、自業自得って割り切るべきか?」

 

「選択肢は十分に与えられた……判断を間違えればこうもなるさ」

 

 選択と判断を誤った敵船の結末に視線を向けていると、涙と恐怖に破顔したティンギルがプリンセスマーメイド号の面々に向けて手を伸ばす。

 

「た、助け……助けて助けて! 助けてくれ! 頼むから、頼むから助けてくださいっ!」

 

 必死に助けを乞うティンギルにアンセムが一瞬一歩踏み出すが、既にプリンセスマーメイド号は敵船と距離を引き離していた。

 

「馬鹿野郎がっ」

 

 アンセムの吐き捨てられた声に次々と船員が苦悶の表情に歪む。

 彼らは自身とは違う真っ当な思考と感性を持った者達だ。そんな彼らの隣でスヴェンはただティンギルを無感情に眺める。

 ティンギルの背後に槍を構え、魔法陣を展開したデビルシャークの群れが徐々に近付く。

 背後のモンスターに気付いてか、それでも必死に助けを求めてティンギルが叫び続けーー彼は背後から数本の槍で心臓を貫かれた。

 口から夥しい血を吐き出し、傷口から溢れ出る血。だがデビルシャークの行動はそれで終わらない。

 ティンギルの頭部を魔法陣から放たれた水鉄砲が貫く。

 ティンギルが引き連れた荒くれ者が全滅した瞬間と光景を背後に、プリンセスマーメイド号は依然と荒波を突き進む。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。