傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

126 / 325
12-7.三日目は憂鬱と共に

 ティンギル達が全滅した結果、テオドール冒険団に少なからず影を落とした。

 敵対したとはいえ、目の前で殺される彼をただ見てることしかできなかったことに。

 航海三日目。七月十日の朝、昨日と変わらず絶えず雷が海に落ちる。

 スヴェンは甲板で憂鬱な面で警戒に勤しむ船員達に息を吐く。

 昨日から四、五人組、二時間交代で休憩を交えながら警戒のために見張りに付いているが、自身を除いた全員の精神状況は思わしくない。

 その原因はティンギルの死だ。いくら敵対したとはいえ、彼らは少なからずティンギルを知ってる。だからこそ彼の死に想うところがあり、また結果的にだが見殺しにしたも同然の結果が彼らの心に痛みを齎した。

 この場に常人と外道の明確な違いが表に現れているが、それは悪魔の海域で致命的だ。

 魔法の発動は精神力と集中力に依存する。この状態では詠唱に集中するのは難しい。

 こんな状況だから何も起こらなければ良い。そんな思考は海中から接近する気配に断たられる。

 海中から飛び出す影にガンバスターを引き抜き、

 

「お出ましだ、死にたくなきゃ退がってろ」

 

 まだ気持ちの整理が付かない船員を強引にでも背後に退がらせる。

 そうでもしなければ全身が雷に覆われたモンスター。ウミナルカミに殺されるからだ。

 ただ戦えない彼らを責める気にはなれない。誰だって不安と恐怖、良心の呵責に苛まれ、そこに加えて交代制の見張り。

 精神など休まる筈も持ち直す時間も得られない。それではティンギルの死を忘れることなど出来ないだろう。

 

 ーーいや、他人の死を忘れるなんざ無理か。

 

 スヴェンは内心でそんな思考を浮かべながら、ウミナルカミに魔力を纏わせた刃を振り抜く。

 昨日のデビルシャークとは違い、ウミナルカミが展開する障壁に刃が阻まれる。

 群れを成すモンスターと単体行動のモンスターが展開する障壁の強度が違う。

 刃を受け止めた障壁から火花が散る中、個体ごとの違いに納得しながらそのまま刃を振り切る。

 斬撃が障壁に亀裂を入れ、ウミナルカミの雷が迸った。

 その瞬間スヴェンの頭上と足元に魔法陣が構築され、咄嗟に後方に飛び退く。

 すると頭上と足元の魔法陣から稲妻が同時に放たれ、そこにウミナルカミが全身を震わせると魔法陣から放電が溢れ、甲板に拡散された。

 スヴェンは跳躍することで足元を走る放電を避けるが、戦闘を見ていた船員達に放電が向かう!

 一瞬の判断が遅れた船員達は防御魔法を唱えるが、このままでは詠唱が間に合わない。

 スヴェンはナイフを引き抜き、上空から船員達の間に割り込ませるように投擲し、甲板に着地した。

 甲板に突き刺さったクロミスリル製のナイフが放電を受け止め、船員達は安堵の息を吐き、やがて武器を手にする。

 

「悪いスヴェン! この調子じゃ足を引っ張るだけだよな」

 

「頭で色々考えたけど、結局ごちゃごちゃ考えるより動くのが一番だよな!」

 

 どうやら彼らなりに切り替えられたようだ。

 

「なら援護してくれ……奴が雷雲に干渉しねぇとも限らねえだろうしな」

 

「よし、なら俺達は風で奴を妨害してやる!」

 

 言い終えるのが早いか、船員は詠唱を唱え魔法陣を展開する。

 展開された四つの魔法陣から発生した風がウミナルカミに纏わり付く。

 ウミナルカミの障壁に亀裂が拡がり、そこにスヴェンが再度ガンバスターの一閃を放つ。 

 魔力を纏わせた刃に障壁が砕けたーー刹那の一瞬、ウミナルカミの口元に圧縮された雷がレーザーの如く放たれた。

 雷のレーザーがスヴェンの左肩を貫き、傷口が高電流に焼き爛れ、血管内の血液を通し電流が全身を襲う。

 スヴェンの左肩を貫いたレーザーは後方で魔法陣を展開していた船員達をも襲い、悲鳴が甲板に響き渡る。

 

 ーーあー、久しぶりにレーザーをまともに喰らったな。

 

 彼は無意識の内に魔法によるレーザーの警戒を怠った代償だ。

 戦闘中に反応が一瞬でも遅れればどうなるのか、傭兵として積み重ねた経験がこう語る。

 下手をすれば頭を貫かれ即死、船員も巻き込まれて被害を出していた。

 傭兵として無様な状況を自分自身で自嘲気味に嘲笑う。

 これではレーナの依頼を達成することなど到底不可能だと。

 

「お、おい! 治療するぞ!」

 

 船員の言葉にスヴェンは耳を傾け、また口元に雷を圧縮するウミナルカミにガンバスターを構える。

 

「次が撃たれた瞬間、奴の直線上から離れろ。だがアレが広範囲に拡散、薙ぎ払われる可能性も捨てんな」

 

「お、おう?」

 

 スヴェンはウミナルカミが放つ三つの可能性を告げ、その場を駆け出す。

 対象を中心に周りを駆け出せば、ウミナルカミは身体の向きを変えることでこちらを追う。

 狙いは手負の自身に絞られていると理解したスヴェンは、そのままウミナルカミに接近を仕掛ける。

 その傍ら五人の船員が魔法を放つが、ウミナルカミは自身を放電させることで魔法を掻き消す。

 一瞬だけ意識が他者に向いた隙を見逃さず、スヴェンは距離を縮めた瞬間、また口元から雷のレーザーが放たれる。

 だがスヴェンは真横に跳ぶことでレーザーを避け、ウミナルカミに一閃放った。

 魔力を纏わせた一閃は空を斬り裂き、スヴェンの頭上に現れたウミナルカミが雷のレーザーを拡散させる。

 甲板に降り注ぐ拡散レーザーに船員が息を呑み込む。

 スヴェンは拡散レーザーを避けながらウミナルカミに跳躍した。

 近付けさせまいと絶えず撃ち続けられる拡散レーザーをガンバスターで斬り払い、雷で構成されたウミナルカミに魔力を纏わせた渾身の一撃を叩き込む。

 ガンバスターによってウミナルカミが真っ二つに斬り裂かれ、夥しい雷が放電される。

 雷は周辺に降り注ぎ、落雷がプリンセスマーメイド号を襲う。

 十秒ほど続いた最後の悪足掻きとも言えるウミナルカミの放電が止み、魔力が粒子状に離散し、ようやく雷が止んだ。

 同時に雷雲が晴れ、夏の日照りがプリンセスマーメイド号を照らす。

 戦闘を終えたスヴェンは急ぎ周囲を見渡し、目の前の光景に眼を疑う。

 

「……明らかに雷は直撃してたが、船が無傷だと?」

 

 雷が直撃すれば木造船の炎上は避けられない。

 しかしプリンセスマーメイド号の甲板は、雷を受けた事実などまるで無かったように傷など一つも無かった。

 

「へへっ、これがプリンセスマーメイド号の魔法障壁さ。これのおかげで船は落雷で炎上するなんて心配は無いんだ」

 

「頑丈な船で安心した」

 

 そんな軽口を叩けば、船員が陽気に笑い声を奏でる。

 ふと一人の船員が真顔を浮かべ、

 

「スヴェンには治療と言いたいところだけどよ……その傷は治せないなぁ」

 

 自身には治せないと告げた。

 雷のレーザーが左肩を貫いたが、雷の高温がとっくに傷口を焼き塞いでいる。しかしこのまま放置すればいずれ腐り落ちる

 こんな時こそ頼れるのはミアだ。

 

「ミアの所に行って来る……すぐに戻るがその間、見張りは頼んだ」

 

「任せておけ……結局ウミナルカミを任せてしまったからな、ついでに少し休憩でもして来い」

 

 ここは素直に言葉に甘えるべきだが、まだ一切の油断も許されない状況だ。

 

「いや、今度は単体とも限らねえから休憩は要らねえ」

 

 それだけ告げてスヴェンはミアの元に向かい、治療を受けるついでに小言を貰うことに……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。