航海開始から十日目の昼頃。視界に目的地の孤島諸島が見え、甲板の船員達が湧き立つ。
「野郎ども! ついに孤島諸島が見えて来たな! だが、油断すれば諸島の後ろに在る大瀑布に呑み込まれるぞ」
アンセムの注意を促す言葉に船員達が気を引き締め、スヴェンとミアは孤島諸島を視界に納めながら息を吐いた。
「まだ油断はできねぇが、諸島は目の前だな」
「うん、やっとって感じもするけど……旅の終点も近いんだね」
近付く旅の終点、そう告げるミアの顔は何処か寂しげだ。
まだ上陸すらしていない時点で名残惜しむには気が早過ぎる。
「んな顔するにはまだ早えよ」
それに問題はここからだ。ゴーストシップを襲ったキングクラーケンの存在が未だ確認できない以上、油断はできない。
スヴェン達が警戒を浮かべる中、海面が突如と盛り上がりプリンセスマーメイド号を数本の巨大な触手が囲む。
「噂に聞いてたけど、デカすぎる!」
触手一本一本がプリンセスマーメイド号のマストを遥かに超える太さと長さを誇り、それを叩き付けられれば幾ら魔法障壁で護られてるプリンセスマーメイド号でも沈没は避けられないだろう。
甲板に居る全員が武器を構える中、荒狂う波に船体が揺れ、海面から巨大なモンスター……キングクラーケンが複数の眼球と悍ましく裂け開いた口を開いた。
そしてプリンセスマーメイド号を見下し触手が唸る。
「野郎ども海の悪魔がお出ましだ! いいか? ここが踏ん張りどころだ、弩砲で触手を迎撃しつつ魔力を船首に一点集中させろ!」
アンセムの素早い指示が飛ぶ中、スヴェンはガンバスターの銃口を触手に向けた。
キングクラーケンの触手を一つでも減らし、船の逃げ道を確保する。
まともに相手をせず孤島諸島に上陸を果たしたいが、進路はキングクラーケンに阻まれそれも叶わない。
ならば責めて触手を減らすことが先決だ。
スヴェンは魔力を流し込み.600LRマグナム弾に魔力を込める。
そしてスヴェンはプリンセスマーメイド号の右舷に位置する触手に向けて引き金を引いた。
ズドォォーーン!! 銃声と共に風を纏った銃弾が一本の触手に向かう。
同時に弩砲から魔力の矢が触手に降り注ぐ。
風を纏った銃弾が触手を貫き一本の触手が海に沈む。どうやら触手まで魔力障壁は纏っていないようだ。
スヴェンが様子を伺いながらガンバスターを構える中、魔力の矢が次々に各触手に突き刺さるが--貫通力が足らず触手を減らすことは叶わなかった。
それでも魔力の矢を受けた触手が動きを止めるあたり、決して通りが悪いわけでは無い。
スヴェンが次にキングクラーケンの本体に眼を向ければ、複数の眼球に魔法陣が浮かび上がる。
あれは拙い! 瞬時に理解したスヴェンはアンセムに視線を送り、
「操舵手! 右に面舵! 野朗ども、帆に風を送れ! 全速力で触手の包囲を抜けろ!」
こちらの意図を理解したアンセムの素早い指示に船員が行動で答え、風の魔法が帆に風力を与える。
加速したプリンセスマーメイド号が触手の包囲に空いた穴を抜けた瞬間、キングクラーケンの眼球から大量の赤い閃光が撃たれた。
赤い閃光が水面を掠めた海面が蒸発し、蒸気が立ち昇る。あの場にプリンセスマーメイド号が留まっていれば如何なっていたか。
なおも撃ち続けられる赤い閃光がプリンセスマーメイド号を貫き、船は炎上しながら沈んでいた。
「今の魔法、眼球一つ一つに膨大な魔力を圧縮させてた」
ミアが声を震わせながら、どう放たれた魔法なのか簡潔に告げる。
「でもあの魔法も恐ろしいけど、触手から魔法を使われないとも限らないよ!」
確かにミアの言う通りだ。触手と眼球による魔法攻撃の可能性がまだ残ってる以上、どんな時でも油断は禁物だ。
触手に加えて眼球一つ一つを潰しては埒が開かない。
それは頭で理解してるが、本体を叩こうにも先程の魔法攻撃が接近を躊躇させる。
船の速度、距離とキングクラーケンの赤い閃光の発射速度。接近を仕掛けるには先ずキングクラーケンの眼球を潰すほかない。
「アンセム、とっておきってのは時間がかかるのか?」
「あぁ、魔力が貯まるまで4分はかかる。だが問題はキングクラーケンを直線に捉えねえと意味がねぇ」
キングクラーケンの直接に入れば、逃げ場のない赤い閃光の集中砲火に船がやられる。
しかしこの距離ならガンバスターの射撃も充分に届き、アシュナとアンセムや船員の魔法も合わせれば眼球をある程度減らすことは可能だ。
「なら触手に注意しつつ奴の眼を減らすしかねぇな……あとは海中から触手に捕まらねえようにすることか」
「あぁ、船の速度を維持しつつ、大瀑布の引潮に引っ張られねえようにもしねえとな」
スヴェンとアンセムの会話を聴いていたアシュナ達が素早く動き出す。
「『風の刃よ、斬り刻め』」
「『爆炎よ、爆ぜろ』」
「『水流よ、貫け』」
アシュナ、ヨハン、メルテスの詠唱が甲板に響き渡り、形成された魔法陣がキングクラーケンに向け、魔法を放つ!
風の刃、火炎球、水鉄砲が同時にキングクラーケンに迫る中、対するキングクラーケンは魔法陣を展開させ、三種類の魔法を魔法陣で防ぐ。
巨体だからこそ動きが鈍いのか、それとも様子見で魔法陣による防御に移ったのか? スヴェンはキングクラーケンの行動を観察しながらガンバスターの銃口を向ける。
ズドォォーーン!! 氷を纏った銃弾が真っ直ぐキングクラーケンに飛来し--銃弾がキングクラーケンに届く前に二本の触手が本体の前に割って入る。
銃弾が二本の触手を貫き、断面を凍結させながら弾頭がキングクラーケンの障壁に防がれた。
だが障壁が凍結し、そこにアンセムが炎を纏わせた曲刀の先端を向けていた。
「要は貫通力があればいいんだな?」
曲刀の先端に圧縮させた炎を一転集中させたアンセムが、刺突を放つことで圧縮させた炎の熱線を解き放つ。
キングクラーケンに迫る炎の熱線にまたも触手が割って入り--熱線が触手を蒸発させながら障壁を貫き、高温の温度に曝された水面が蒸気を生じさせる。
蒸気によってキングクラーケンにアンセムの魔法が直撃したのか、隠された結果にスヴェン達は眉を歪める中、プリンセスマーメイド号は速度を維持したまま進む。