傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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12-10.怒涛の悪魔

 アンセムの魔法によって生じた水蒸気が消え、そこにキングクラーケンの姿は見えず。

 彼の魔法でキングクラーケンを討伐できたならどんなに気楽か。

 キングクラーケンが炎の熱線だけで討伐できたなら悪魔の海域で被害は続出しない。

 それをテオドール冒険団の全員が理解していた。

 スヴェン達は互いに顔を見合わせ、即座に水面に警戒を向ける。

 大瀑布に向かって流れる水面、プリンセスマーメイド号を流されまいと操舵手が舵を切る。

 

「奴の触手はあと何本だ?」

 

 アンセムの問い掛けにスヴェンはアーカイブの記録を思い出す。

 通常のイカは触足八本と触腕が二本と言われてるが相手はモンスターだ。それに触手を根本から削ったわけじゃない。

 

「普通なら全部で十本らしいが、モンスターに常識は通じんのか?」

 

 特にあの胴体の眼球と大きな口がもはやスヴェンの知るイカとはかけ離れている。

 そこを含めてミアに視線を向ければ、ミアは杖を握り締めながら答えた。

 

「えっと、触手が全部で十本なのはイカと変わらないよ。それに近年の調査記録によるとキングクラーケンは戦闘中に欠けた触手を再生させることは無いと言われてるわ」

 

 触手を盾にされこちらの攻撃を軽減されることは減ったが、残りの触手は五本だ。

 まだ触手によって防がれ、障壁に阻まれると思えば油断もできない。

 スヴェンはどう攻めるかガンバスターに視線を落とすとアンセムがミアに語りかける。

 

「それを聞いて安心だが、海中であの魔法を使われる可能性は?」

 

「それは有り得るよ。だから水面が沸騰をはじめたら回避するしかないかも」

 

 確かにそれが現実的な方法だが、あの熱線の速度と射程範囲を前に視覚外からの魔法攻撃に対する対応は困難だ。

 特にプリンセスマーメイド号の真下からともなれば。

 嫌な汗が額から流れる。なるべく考えたくも無い状況を前に、アンセム達の頬が引き攣る。

 

「水面は如何なってる!?」

 

 船員の一人が甲板から身を乗り出して水面に顔を向け、

 

「なんとも無い? キングクラーケンは諦めたのか?」

 

 変化が訪れない水面に胸を撫で下ろした矢先、一人の船員の背後にキングクラーケンの触手が揺れ動く。

 アンセムが『離れ!』と告げるよりも先にスヴェンがガンバスターの銃口を向ける。

 そして躊躇なく触手に.600LRマグナム弾を撃った。

 船員の頭上を魔力を纏った弾頭が通過し触手を貫く。

 海面に崩れ落ちる触手、背後から響き渡る驚愕の声と海を掻き分ける水面の音が響き渡る。

 視線を背後に向ければミアに伸びる触手にスヴェンが駆け出す。

 彼女の華奢な身体を貫かんと触手が迫る中、スヴェンはガンバスターを盾にミアの前に割って入った。

 魔力を纏った触手をガンバスターの腹部分で防いだ瞬間、身体が宙に弾き飛ばされ、海上に投げ出された。そう理解した時にはミア達の悲痛な表情が視界に映り込む。

 

「スヴェンさんがっ!」

 

「縄をスヴェンに!」

 

 アンセムが指示を出す中、スヴェンは海中から魔力を巡らせるキングクラーケンと眼が合う。

 

「アンセム! 魔法攻撃が来る、その場から離れろ!」

 

 魔法陣の形成に移るキングクラーケンの行動を告げれば、彼の表情が苦悩に染まる。

 だが、それは一瞬で彼はすぐさま判断を下す。

 

「回避行動に移れ!」

 

 指示を受けた操舵手が舵を切り、海中から飛び出す触手を避けながらキングクラーケンからプリンセスマーメイド号を離す。

 船長として的確な判断とそれに応える操舵手にスヴェンは舌を巻きながら、こちらに振り向けられる触手に身構える。

 幸い身体は上空に投げ出されたおかげで、海面に落下するまで僅かな距離と猶予が有る。

 スヴェンは迫り来る触手に眼孔を鋭くさせ、距離を離すプリンセスマーメイド号の位置と距離を瞬時に測った。

 同時に魔法を放たんと魔法陣を形成させるキングクラーケンに銃口を向ける。

 触手が迫る中、スヴェンはガンバスターに魔力を纏わせ、反動軽減魔法陣を切り引き金を引く。

 銃口から炎を纏った弾頭が放たれ、同時にスヴェンは身体に襲う反動を利用し、空中で姿勢を触手に向ける。

 弾頭がキングクラーケンの胴体を直撃し、炎がキングクラーケンを燃やす。

 そして振り下ろされる触手にスヴェンは身体を大きく拗らせ、寸前の所で触手を避けるが--巨大な触手から放たれた風圧がスヴェンを襲う。

 風圧がスヴェンの腹部を抉り、血飛沫が海面に降る。

 刃で斬られるよりも、より激しい激痛が襲うがそれでもスヴェンは姿勢を崩さず、触手の上に着地した。

 滑る触手に魔力を纏ったガンバスターの刃を突き刺し、そのままプリンセスマーメイド号に向けて足を滑らせる。

 そしてスヴェンは助走を利用し、触手を足場にプリンセスマーメイド号に飛ぶ。

 だがキングクラーケンが海中から姿を現し、眼球に形成した魔法陣をスヴェンに向ける。

 

 --コイツは避けられねえな。

 

 スヴェンがプリンセスマーメイド号と距離が近付く中、キングクラーケンの魔法陣から赤い光が溢れ出る。

 

「本体に集中砲火を浴びせてやれ!」

 

 アンセムの怒声を合図にプリンセスマーメイド号の甲板から魔力の矢と様々な魔法がキングクラーケンに飛来した。

 後方の魔法陣と前方の弾幕にスヴェンは息を吐き、同時に魔法陣を足場に駆け付けるアシュナに度肝を抜かれる。

 

「ん、掴まって」

 

 差し伸ばされた腕を掴めば彼女は足場の魔法陣から暴風を発生させ、風圧の勢いでスヴェンごとプリンセスマーメイド号の甲板まで落下した。

 スヴェンは受け身を取り、アシュナを脇に抱えながら着地した瞬間、抉られた腹部から血が流れ出す。

 

「危ねぇ。魔法陣にあんな使い方が有ったのか」

 

「この間、投げ飛ばされた時に思い付いた方法」

 

 甲板に立ち上がったアシュナが無表情でとんでもないことを口走るが、それを実行に移す知識と機転、そして度胸がアシュナに備わってることに舌を巻く。

 

「スヴェンさん、感心するのはいいけど治療が先だから!」

 

 即座に駆け寄り治療魔法を唱えるミアを他所に、スヴェンは集中砲火を浴びるキングクラーケンに視線を移す。

 炎を纏った.600LRマグナム弾とアンセムの炎の熱線による火傷跡を目に、確実に効いてるのだと判断した。

 だが幾ら軟体とはいえ、水圧で威力が軽減してることも踏まえキングクラーケンの胴体を貫くことは不可能だった。

 過去にデウス・ウェポンの海中に潜む潜水艦アダマンタイトを貫いた火力を有してるが、それはキングクラーケンの胴体が潜水艦アダマンタイト以上に硬いのか、それとも防御魔法による影響か。

 どちらせよキングクラーケンは巨体も含めて頑丈に他ならない。

 

「奴は頑丈だな」

 

 集中砲火を浴びて魔法攻撃を中断してるところを見るに効いてはいる。

 効いてはいるが、決定打に欠けてるのも事実だ。

 

「如何やって倒したらいいのかな?」

 

 未だ健在のキングクラーケンをどう倒すか。そんなミアの疑問にスヴェンは頭の中で浮かぶ方法を口にする。

 

「外が頑丈なら内部を爆破させるか、高い貫通力を持った一撃を叩き込むって手も有る」

 

 前者はまた接近する必要性が有り、ハンドグレネードをあの口に放り込む以上現実的とは言えない。

 後者はそんな魔法が使えれば既に誰かが使用してる。

 ふと魔力が集中する船首に視線を向け、プリンセスマーメイド号のとっておきならどうかと思考が向く。

 治療魔法によって腹部の傷が完全に塞がるとスヴェンは立ち上がり、

 

「アンセム、とっておきの方はどうなんだ?」

 

「魔力は充分貯まってるが、船を奴に向ければ集中砲火が途切れる……ぶちこむにも危険な賭けだな」

 

「確かに奴と真正面から撃ち合いになれば船が無事で済まねえか……触手の方はどうなんだ?」

 

「そいつならお前さんが斬り裂いた触手で最後だ」

 

 また触手に囲まれる心配は無い。そう理解したスヴェンはガンバスターを握り締め、集中砲火を大人しく浴びるキングクラーケンを睨む。

 なぜ海中に逃げない? いくら魔法と魔力の矢によって集中砲火を浴びてるとはいえ、決して動けないわけではない筈だ。

 キングクラーケンの行動の理由にスヴェンはすぐさま船員の魔力に意識を向ける。

 すると減り続ける魔力と討伐できない焦りから精神力が乱れはじめていた。

 同時にキングクラーケンの思惑に、性格の悪さが伝わる。

 

「アンセム、奴の狙いは消耗だ」

 

「……考えたく無かった最悪の状況だな」

 

「あぁ、獲物が勝手に弱るってのは狩人にとって都合の良い状況だろ」

 

「嫌な例えだが、今の状況は正にそれだな……傷は大丈夫か?」

 

「問題ねぇ。傷よか船員の消耗を心配しろ」

 

 そう告げればアンセムは曲刀を構え、焦り出す船員の様子に眼を伏せる。

 ここでどう判断をするにしても行動しなければ状況の打開は困難だ。

 かと言って船長として下手な行動にも出られない。それは単なる同行してるスヴェンに推し量れないプレッシャーが彼に重くのしかかっていることだけは理解が及ぶ。

 判断を誤れば全滅する可能性が付き纏う以上、アンセムが慎重に思考を巡らせるのも無理はない。

 自身もこんな状況で最良の判断が下せるかと言われれば、重責も含めて難しい。

 アンセムが頭を悩ませる間にキングクラーケンに変化が訪れる。

 複数の眼球は充血したのか、真っ赤に染まり胴体が熱気を発しながら紅く染まり出した。

 そして悍まし口を大きく開き、海水を吸引させるように呑み込みはじめ、船が引き寄せれはじめた。

 

「くっ! 賭けに乗るしかねえか! 操舵手! 相棒の船首をキングクラーケンに向けろ!」

 

「っ! アイアイ船長!」

 

 どうするか察した操舵手が面舵を切り、引き寄せられる船の横転を防ぎながら船首をキングクラーケンに回頭させる。

 巧みな舵捌きと波の動きを読んだ操舵手の力量に誰もが脱帽する中、キングクラーケンがついに複眼の魔法陣から赤い閃光を放つ。

 そこにアシュナが駆け出し、

 

「『暴風よ、水面を巻き込め』」

 

 瞬時に魔法を唱え、発動させた魔法が海水を巻き上げ赤い閃光の直撃を防ぐ。

 だがすぐに魔法は赤い閃光によって相殺され、キングクラーケンの魔法陣がまた赤く輝きだす。

 

「この距離なら……」

 

 銃口を構えたスヴェンが魔法陣を形成する複眼に照準を定め、引き金を引く。

 

 ズドォォーーン!! 早撃ちによる射撃によって四発の銃声が響き、キングクラーケンの四箇所の複眼を魔力が纏った弾頭が貫く。

 僅かな間隔を空け四箇所の複眼が潰されたキングクラーケンが咆哮を叫び、海面が激しく波立つ。

 怒り狂ったキングクラーケンが欠けた触手を海面に叩き付けながら再度魔法陣に魔力を流し込む。

 弾切れになったガンバスターのシリンダーを左横にずらし、瞬時に六発の.600LRマグナム弾を再装填する。

 再び銃口を構えれば、アンセムの詠唱が響き渡った。

 

「『圧縮されし魔力よ、いまこそ解き放たれん』」

 

「『我が船の敵を、巨体を撃ち抜け』」

 

 彼の詠唱に船首のマーメイドの魔法陣が圧縮させた魔力を形成させる。

 船員の魔力を集結させ圧縮された魔力が振動し、海面を激しく揺らす。

 キングクラーケンが船を沈めんと赤い閃光を撃つが、スヴェンが撃ち抜いた複眼は全てプリンセスマーメイド号を射程に捉える位置だった。

 失った複眼から赤い閃光が撃たれず、プリンセスマーメイド号に赤い閃光が掠めることも無かった。

 潰された複眼に魔法陣が形成できないと気付いたキングクラーケンが、海中に潜ろうと巨体を沈めだすが、時既に遅く--プリンセスマーメイド号の魔法陣が圧縮した魔力を放つ。

 高密度に圧縮された魔力の閃光がキングクラーケンの胴体を貫き、巨体に風穴を穿つ。

 

「すごい威力っ」

 

 一隻から放たれた魔法にミアが息を呑み、キングクラーケンが魔力を散らしながら海中に沈んでいく。

 巨体を構成する魔力が海面から空へ粒子状に散る様子をしばらく眺め、ようやくそれが治った頃に船員達の歓声が甲板に響き渡った。

 

「しゃぁっ! あのキングクラーケンを討伐したんだ!」

 

「船長! 俺達はやったんだな!」

 

 キングクラーケンの討伐に喜ぶ船員にアンセムは、大きくため息を漏らす。

 

「野郎ども、俺達の目的はなんだ? わざわざキングクラーケンを討伐しに悪魔の海域を進んだのか?」

 

 本来の目的がなんなのか、冷静に問い掛けるアンセムに船員達は落ち着きを取り戻した。

 

「孤島諸島に眠る財宝!」

 

 船員の誰かが叫んだ解答にアンセムが頷き、孤島諸島に視線を向ける。

 

「船の状態を確認後、上陸する。だが諸島の探索は俺はもちろんだが、スヴェン、ミア、アシュナ、この四人で行うとする」

 

 船員の消耗と船の護りを考慮した船長判断に船員は拳を握り締めた。

 共に上陸できず探索にも同行できない悔しさを滲ませる彼らにスヴェンは眼を背ける。

 事実彼らにはもう魔力が残されていない。休息による魔力回復が必要なのは当然とも言えた。

 そしてプリンセスマーメイド号は孤島諸島の海岸に停泊し、スヴェン達は孤島諸島に上陸を果たした。

 視界一面に広がる森とモンスターの鳴き声、そして中央に悠然と佇む古代の遺跡、森を抜けた先に見える大瀑布とその上空に浮かぶ浮遊群、何処を目指すにも先ずは森を突破しなければならない。

 テオドール冒険団の声援を背にスヴェン達は歩き出した。

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