傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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13-2.森の残骸

 無事に孤島諸島に上陸を果たしたスヴェン達は森に足を踏み込み、木々に遮られた道を進んでいた。

 日差しは遮られ、薄暗さと所々に散らばる人骨が不気味な空気を醸し出す。

 見慣れた死体にスヴェンは我感心せずを貫き、モンスターの気配に気を張る。

 

「ここに辿り着いた冒険家か、それとも先住民の遺体か。スヴェン、お前さんはどう観る?」

 

 アンセムに人骨を指差され、意見を求められたスヴェンはようやく人骨に視線を向けた。

 蔦が絡み付いた人骨はモンスターに襲われたにしては、目立った損傷も無い。ただ死亡してから相当年月が経過してるか、少しでも触れれば崩れてしまいそうなほどに風化していた。

 孤島諸島の原住民か、それとも大瀑布の上空に浮かぶ浮遊群が何か関係してるのかは判断材料不足でなんとも言えないのが現状だ。

 だがそれでも考えられることは有る。

 

「運良く辿り着いたは良いが伝染病にやられたか。モンスターか動植物の毒にやられたって線も考えられるな」

 

「なるほど。木に生ってる木の実、果物は見るかに美味そうだな」

 

 アンセムの視線の先を見上げれば、そこには紅い果実と木の実が生っていた。

 一見美味そうには見えるが、毒を持ってる可能性も高い。そう考えたスヴェンは、アンセムにやめておけと視線で訴える。

 

「分かってるよ、毒の有無が確認されない限り食おうなんて考えないさ」

 

 戯れるように語るアンセムを他所にミアが杖で木を叩くことで揺らし、紅い果実と木の実が地面に落ちた。

 彼女はそれを拾い上げ、紅い果実の匂いを嗅ぎ眼を細めてからこちらに向き直ると。

 

「ナイフを貸してください」

 

 言われてナイフを引き抜き、柄の部分を向けて差し出すとミアは紅い果実の枝を摘み、ナイフを紅い果実に突き刺した。

 すると溢れ出した透明な果汁から強い酸性の臭いと地面に垂れた酸が草を枯らし地面を溶かす。

 酷い刺激臭にアンセムとアシュナは鼻を摘み、溶けた地面に眉を歪めた。

 万が一紅い果実を一口でも齧れば口内はたちまち酸性によって溶かされただろう。

 ミアは果汁がこびり付いたナイフを人の居ない方向に振り刃をハンカチで拭き取るが、ハンカチはたちまち溶けて彼女の手から残骸が落ちる。

 

「酸性を含んだ果実か、とんでもねえな」

 

「お気に入りのハンカチが……でも危険だって知れたこととクロミスリル製が耐えられるのも収穫じゃない?」

 

 確かにミアの言う通り、クロミスリル製のナイフには溶けた様子も無い。

 

「スヴェンさんの世界でこういう果実は存在しなかったの?」

 

「流石にそれは記録されてねぇな。ただひと口舐めればあの世逝き確定の果実が何種類か記録されてるぐらいか」

 

「物騒だなぁ。にしてもミア、お前さんも肝が据わってるというか。よくナイフを刺そうなんて思い付いたな」

 

 感心を浮かべるアンセムにミアは愛想笑いを浮かべて答えた。

 

「ふふ、ラピス魔法学院の授業で未知の果物を発見した時の対処法を習ってますから」

 

「へぇ、エルリアの学校じゃあそんなことも教えるのか。魔法だけじゃないんだな」

 

「新しい魔法を作り出すにも雑学や他の専門的な知識が必要になりますからね。要は魔法のために様々な知識も学ぶんです」

 

 確かにラピス魔法学院の教育方針は理に適ってるようにも思えるが、スヴェンは遠くから聴こえる足音に耳を研ぎ澄ませガンバスターの柄に手を伸ばす。

 いずれにせよこの場所で悠長に話しをしてる余裕は無さそうだ。

 

「モンスターと遭遇する前に此処を離れるか?」

 

「そうだな、上陸時に見えた遺跡も気になるが……先ずは大瀑布の方を目指すか」

 

 アンセムは懐から羅針盤を取り出し、針が指し示す方向に歩き出した。

 それに続くように歩みを再開させると、不意に森の奥から奇妙な視線を感じたスヴェンはそちらに視線を向ける。

 向けた視線の先、木々が生い茂り小動物が動き回る程度で視線の正体は見当たらず。

 

 ーー人か? それとも二ヶ月前に此処を目指した連中か?

 

 アンセムの友人という冒険家達が訪れた可能性にスヴェンは、上陸時に船が見当たらないことに生存は絶望的だと考えた。

 仮に上陸できたとしても肝心の船が破壊され、この孤島諸島に取り残された。その可能性を充分に思案しながらスヴェンはミアとアシュナの背後を歩き出す。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 モンスターと遭遇を避けながら森を進むこと一時間が経過。

 荒れた獣道、草木を掻き分け進むと開けた場所に出た。

 そこはかつて人が住んでいた名残りなのか、見る影もないほどに朽ち果てた建物らしきものが至る所に点在し、崩れた古い井戸にアンセムが呟く。

 

「此処は昔村だったのか?」

 

 今では見る影も、かつて人が住んでいた面影もない廃村をスヴェンは静かに見渡す。

 

「廃村と遺跡、いつの時代のもんだか」

 

「うーん、遺跡を調べてみないことには分からないけど、ここで手掛かりはちょっと期待できなさそうだね」

 

 地面に視線を落とせば、人が訪れた足跡らしき物は無く、代わりに小動物らしき足跡から大型の足跡が地面に残されていた。

 

「……アイツの手掛かりも無さそうだな」

 

 何処か彼らの生存を期待していたのか、アンセムは少しだけ落胆気味に肩を落とした。

 単なる足跡なら雨風で流され、他の足跡に踏み消された可能性も充分に考えなれる。

 

「結論を急ぐには早いんじゃねえか? 死体と船の残骸が見つからねえ限り全滅したとは限らねえだろ」

 

「おっ、元気付けてくれてんのかい? まあお前さんの言う通りかも知れないがアイツのことは冒険のついでさ」

 

 アンセムと彼の友人がどんな間柄、何も知らないスヴェンがアンセムの強がりをどうこうする気にはなれず、わざとらしく肩を竦めた。

 

「それで折り合いが付くなら何も言わねえさ」

 

 アンセムにそれだけ告げ、廃村の中を歩き始めるとアンセムがついて歩き、

 

「そういえば傷の具合はどうなんだ?」

 

 キングクラーケンの触手に抉られた腹部の傷に付いて訊ねられた。

 その傷はミアの治療魔法によって完璧に癒え、戦闘に支障をきたすほど血を流したわけでも無い。

 

「アイツの治療魔法のおかげで平気だ」

 

「普通なら何日もかけて治療する傷の筈なんだけどなぁ。……いや、質問を変えるべきか?」

 

 何やら邪推した眼差しにスヴェンは嫌そうに顔を顰める。

 アンセムとは悪魔の海域航海中に酒を飲む程度にはそこそこの交流を重ねたが、彼が改めて何を聴きたいのかは、視線がちらちらとミアに向いてることから彼女に関係したことなのは明白だ。

 スヴェンは地面に埋もれかけた古い羊皮紙を見付け、腰を下ろしながらアンセムに耳を傾ける。

 

「ミアをキングクラーケンから庇ったお前さんを見ると女は惚れちまいそうになるよな。それに彼女は負傷するお前さんを随分と気にかけてる様子だ」

 

 古い羊皮紙を地面から掘り起こしたスヴェンは、穴だらけでまともに読めない文字にため息を吐き、

 

「治療魔法に秀でたアイツは孤島諸島の探索にも必要だろ? それに戦闘中に陣営の被害を抑えんのも普通だ。アイツが無事なら人死は減る」

 

 傭兵らしい思考で答えればアンセムは眼を細めた。

 

「ミアのことはお前さんにとって人材の1人ってことか?」

 

「冷たく言えばそうなるが、アンタが気になるような関係性でもねぇよ。なんなら口説きてぇなら好きにしろ」

 

「いや、俺は巨乳美女が好きでな。ってかお前さんを含めてこのままテオドール冒険団に居て欲しい。自由気儘な冒険ってのも悪い話しじゃないだろ?」

 

 人殺しの外道が自由気儘な冒険家生活を手にしたらどうなるのか。それは何の縛りも無くなった殺人鬼を野放しにすること同義だ。

 そんな外道だからこそ傭兵は戦場という居場所と雇用主に縛られる必要が有る。

 それにレーナの依頼を請けてる最中で彼の誘いに乗る気にはなれない。

 

「そいつは無理だな」

 

 酒場で出会った時にアンセムはこちらの素性をある程度は察していた。

 だからなのかアンセムは残念そうに肩を竦めるだけで、深く勧誘することはせず、

 

「で? 実際にお前さんから見たミアはどうなんだよ」

 

 懲りずにそんな事を聴いてくる。

 それでいて決して周囲に警戒を緩めないあたり流石だ。質問は非常にくだらなく鬱陶しいこのうえないが。

 正直に言えばミアのことは喧しい細胞再生装置だと内心で思ってる。

 ただそれを口すれば背後で聴き耳を立てているミアの反感を買うのは目に見えていた。

 

「どうと聞かれてもなぁ」

 

 だからスヴェンははぐらかすように肩を竦め、ついでに拾ったボロボロの羊皮紙をアンセムに譲る。

 彼はそれを受け取りながら話しを続けた。

 

「何か有るだろ? かわいいだとか色々とこう、な? 例えば尻が小振りでかわいいとかさ」

 

「アイツをかわいいだとか思ったことはねぇが、治療魔法と学院で習った知識は頼りにしてるさ」

 

「あー、なるほどねぇ。……一応聞くがお前さん、好みの女は居るか?」

 

 そんな質問にメモ帳と羽ペンを取り出す音が聞こえた。

 モンスターがいつ襲撃するかも分からない状況でやけに余裕たっぷりだ。

 それとも旅を重ねるうちに妙な方向で度胸が付いたと思うべきか。スヴェンはミアとアシュナの様子にため息を吐きながら自身の好みに付いて思案した。

 

 ーー判んねぇ。

 

 異性に対する好みと聞かれても、そもそもなぜ人が人を好きになるのかが人を観察して表面上でしか理解ができない。

 他人が本来持つ感情の動きと変動、愛情やそれに至る感情の動きが何一つ理解できない以上、アンセムの望む答えは得られないのだろう。

 

「さあ? 好みだとか考えたこともねぇな」

 

「なるほど、恋愛に興味無しか」

 

「あぁ、それよりもそのボロ紙は財宝としての価値はあんのか?」

 

 拾った羊皮紙に付いて訊ねれば、アンセムはにやりと口元を緩めた。

 

「孤島諸島で回収したボロ紙を財宝として観るのは、考古学者なんかだ。そいつらがコイツの価値を決めるのさ」

 

「確かにその辺に転がる物の価値は専門家それぞれだわな」

 

 アンセムは頷き、顔を真っ直ぐと大瀑布の方向に向けた。

 

「そろそろ移動するか。このまま進めば遺跡に到着するが、先に大瀑布を見に行っても構わないか?」

 

 孤島諸島の先に位置する大瀑布がどれほどの規模なのか。それは上陸してから気にもなっていたことだった。

 

「俺は構わないが、2人はどうだ?」

 

「私も構わないよ。あの浮遊群の浮上の時に出来たかもしれないしね」

 

「ん、この島は気になる」

 

 特殊作戦部隊所属のアシュナが気になること。それは先程森で感じた妙な視線のことか?

 

「森で感じた視線。アンタも気付いてたのか?」

 

「人とは違う視線だったから」

 

 アシュナも感じていたとなれば、孤島諸島には何が潜んでいる。

 遺跡の調査と瑠璃の浄炎の入手を妨げる障害の可能性を捨て切れない以上、正体を探るべきか。

 スヴェンはアンセムに視線を向けると、彼は考え込む素振りを見せ、

 

「……人じゃない何かか。モンスターなら真っ先に襲いかかるよな」

 

 彼のボヤキに三人は同時に頷いた。

 人外か、知性の高い動物か。それとも孤島諸島に棲み付いた竜種の可能性も捨て切れない。

 スヴェン達は妙な視線を頭の隅に、大瀑布を目指して歩き出した。

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