傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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13-3.大瀑布の先に見えるもの

 廃村を通り抜け大瀑布を目指しながら森を直進すれば、モンスターが木々を掻き分け目の前に姿を現した。

 虎に似てるが、漆黒の毛並みと凶悪な牙と爪。そして尻尾が剣のように発達したモンスターにスヴェンとアンセムが武器を構える。

 エルリアとパルミド小国で遭遇したことも無いモンスターに自然と警戒心が強く浮かぶ。

 

「他に気配はねぇが、単独か」

 

「頑丈な障壁と森の中……炎と雷は拙そうだな」

 

 まだ全体を把握していない森の中、おまけにモンスターが蔓延る中で火災は避けたい。

 スヴェンはガンバスターに装填した.600LRマグナム弾にうっかり魔力を流し込んで撃たないように注意を払いながら目前のモンスターに駆け出した。

 魔法を撃たれる前に先に障壁を砕く!

 ガンバスターを右薙に払った直後、尾剣が刃を弾く。

 すかさず尾剣による刺突が頭部目掛けて放たれ、ガンバスターで弾き返す。

 スヴェンが一気に間合いを詰め、魔力を込めた一閃を放つ。

 障壁に亀裂が入り、そこにアンセムが魔力を纏った曲刀で障壁を斬り裂く。

 

「グルルル」

 

 障壁が破られたことにモンスターが呻り、地面に魔法陣を形成するもーーそれよりも速くアシュナが魔法を唱え、風の刃がモンスターの胴体を貫き鮮血が舞う。

 それでもまだ動けるモンスターが負傷を厭わず魔法陣の形成に魔力を注ぎ込む。

 させるか。スヴェンは魔力を纏わせたガンバスターの刃でモンスターの首を両断し、鮮血と共にモンスターの肉体から魔力が抜け出る。

 スヴェンがすかさず周囲に警戒を移せば、森を移動する小動物が走り抜けるばかりでモンスターの遠吠えこそ聴こえるが付近に気配は無い。

 そんな中、地面に遺された遺骨の一部をアンセムが拾い上げ荷物にしまう。

 

「随分あっさりだったな」

 

 確かに魔法を抜きにしてもさっきのモンスターはウミナルカミと比較して楽な部類だった。

 二撃で砕ける障壁と詠唱の長さ、何処か人と戦い慣れていない印象すら懐くがーーモンスターに経過不足ってあんのか?

 楽な部類と言えども相手はモンスターだ。三日程度で再び出現するモンスターを相手に安全地帯の無いこの場所で戦闘を続けるのは得策とは言えない。

 

「数で攻め続けられりゃあ面倒だ……そういやキングクラーケンと戦闘から立て続けに行動してるが、アンタらの魔力はどの程度残ってんだ?」

 

 念の為に三人が使える残りの魔力を問い掛ければミアが握り拳を作って見せながら、

 

「私はたいして消耗してないから大丈夫だよ」

 

 まだまだ大丈夫だと告げた。

 

「俺は魔法をあと4回使えるぐらいか」

 

 額に汗を浮かべながら答えるアンセムとは対照的にアシュナは無表情で胸を張って答えた。

 

「ん、まだまだ余裕」

 

「そうか。森ってのも有るがアンセムは魔法を控えた方が良さそうだな」

 

「流石にプリンセスマーメイド号に魔力を注ぎ込み過ぎたからなぁ、お言葉に甘えさせてもらうぜ」

 

 彼の戯けた口調に頷き、確認を終えたスヴェン達は歩みを再会させる。

 

 ▽ ▽ ▽

 しばらく森を歩き続けると次第に滝壺の音が耳に届き始め、音を頼りに進むとようやく森を抜け、既に空が夕暮れに染まっていた。

 孤島諸島の最奥の沿岸部に辿り着いたのか耳に激しく響く滝壺の音。その方向に向かって進むと目の前の光景にスヴェンは言葉を失う。

 夕焼けに染まり、上空に浮かぶ浮遊群と視界一面に広がる大瀑布。

 何処まで大瀑布が続いてるのか。少なくとも空に浮かぶ浮遊群の面積と目前の大瀑布を比較したところで、浮遊群によって出来た大瀑布ではないことが判る。

 スヴェンが一人で大瀑布に付いて考え込むと、同じく言葉を失っていたミアが声を絞り出した。

 

「すごく綺麗な光景……こんな時に魔道念写器が有れば良い思い出と資料にもなったのになぁ」

 

「失敗したな、多少出費してでも魔道念写器を買っておくべきだったか」

 

「言葉にできないけど、なんかすごい」

 

 三者三様の言葉にスヴェンはただ呆然と大瀑布を眺めていた。

 思い出には興味は無いが、大瀑布を超えた先に一体なにが在るのか。

 この先には何も無いのかもしれない。そんな言葉が頭の中で浮かんでは消え、やがてスヴェンは大瀑布の底を覗き込む。

 流れ落ちる滝と水飛沫によって底は到底見えない。

 

「空の浮遊群と大瀑布、もしかして孤島諸島の本来の姿は広大な大陸だったのかな?」

 

 ミアの疑問にスヴェンは視線を真正面に戻し、息を吐いた。

 

「だとすりゃあ、大陸を丸ごと破壊した跡ってことにもなるが……竜王がやったか?」

 

「うーん、封印戦争真っ只中とかだと有り得る話しだけど、アトラス神と邪神の戦闘余波で大陸が跡形も無く消し飛んだなんて伝承も残ってるぐらいだから何とも言えないし、天変地異かもしれないよ」

 

 どの可能性も有り得る話で、幻影とはいえ竜王を見た今では現実味が帯びていて笑えない。

 人類の手に負えない超常的な存在は何よりも恐ろしい。

 

「魔法技術が発展しようが簡単に滅びる要因が有るってのは、何処の世界も変わらなねぇな」

 

「お前さんの異世界にも興味は有るが、ここまで進んで来たけどよ……先祖が持ち帰れなかった財宝ってのは案外この情景かもしれないな」

 

 宝の価値は人それぞれだとアンセムは前に語った。

 確かに彼の言う通り、この光景に対して金を幾ら出すとと問われれば大金を支払う物も居れば銅貨数枚を出す者も居るだろう。

 少なくともスヴェンにとっては異世界で見た光景の一つだが、メルリアの遺跡で見た壁画同様に心が刺激されたのも事実だ。

 それだけに記憶に残せないのは惜しいとさえ思えた。

 ただそれも帰還を目的に動く自分にとっては切り捨てるべき物だ。

 スヴェンはそんな思考を浮かべながらアンセムに訊ねる。彼は次は何処を目指し、冒険に出るのか。

 

「アンタは次の目的が決まってんのか?」

 

「おいおいスヴェン、まだ気が早いぞ? 俺はまだ遺跡を調査してねえ。そこに在る試練や財宝もまだ目にしちゃあいないんだぜ? 次を決めるのはそれが終わった後だ」

 

「珍しくせっかちなスヴェンさんだね」

 

「たまにはそんな時も有るさ」

 

 そんな冗談を戯けるように告げればミアとアンセムが小さく笑い、隣から空腹を告げる腹の虫が鳴った。

 視線を向ければ無表情でこちらに訴えかけるアシュナと目が合う。

 

「……お腹空いた。一度船に戻るの?」

 

 孤島諸島はそこまで広くは無さそうだが、今からプリンセスマーメイド号に戻るとなれば途中で夜になる。

 かと言ってこの場で野営をすれば、モンスターの襲撃時に背後の大瀑布に転落しないよう気を使う必要が有る。

 逆に言えばモンスターに囲まれる危険性は避けられ、警戒範囲も絞り込める点で言えば森よりは気楽だ。

 

「今から船に戻ったら夜になるな。スヴェン、お前さんならどうする?」

 

「灯も無く夜の森を進むのは危険だ。大瀑布から多少離れたところで野営すりゃあ多少の警戒は楽か……大瀑布からモンスターが現れねえとも限らねえがな」

 

 その意味では孤島諸島に居る限り何処にも気の休まる安全な場所など無い。

 だからこそ守護結界の有り難みが強く実感できる。

 

「無理に森を進めば暗い中でモンスターの襲撃か。安全性を考慮してここで野営だな」

 

「安全ってなんですかね?」

 

 ーーモンスターの生息地域にそんなものは無い。

 

 内心で浮かんだツッコミを飲み込んだスヴェンは、早速アンセムと野営の準備に入った。

 その日はアンセムが用意していた獣肉の干し肉、パン、ドライフルーツで済ませ、スヴェンとアンセムの交代でモンスターを警戒することに。

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