広い部屋の中心に佇む大柄な体格に角の生えた半人半牛がこの場所に踏み込んだスヴェン達を凄まじい殺気で睨んだ。
タイラントとも劣らない殺意にスヴェンは口元を歪めガンバスターを構え、
「あのモンスターはなんだ?」
ミアにモンスターに付いて訊ねた。
「あれはミノタウロス、古い遺跡なんかに発生するモンスターの中で取り分け執念深くてしつこいって有名だよ」
こちらが不利な場合、背後の通路まで一旦離脱し誘い込むのも手段の一つか。
スヴェンがそんな考えを頭の中に浮かべると前方と背後から嫌な音が響く。
石が引き摺る音に視線を向ければ、出入り口があっという間に石壁に塞がれていた。
「スヴェンさん、さっき頭の中で作戦でも浮かべた?」
「……あぁ、目の前のモンスターがどれほどの脅威か分らねぇから自然とな」
偶然の重なりか。遺跡に潜む人物による妨害か、だからミアとアシュナからしょうがない人っと言いたげな視線は大変不本意だ。
ただ同時に出入り口が塞がれる利点は有る。
予期せぬモンスターの増援が防がれるだけでも気持ち的には多少気楽になる。
スヴェンは思考と裏腹に目前のミノタウロスに警戒を怠らず、両腕を構えるミノタウロスの魔力に意識を傾けた。
魔力が両腕に流れ込み、やがて魔法陣が形成され、ミノタウロスが魔法陣から燃え盛る斧を引っ張り出す。
斧を形どった炎を両手にミノタウロスが動き出した。
スヴェンはミノタウロスが炎の斧を振り回す前にと、地を蹴り抜き距離を縮めてから魔力を纏わせたガンバスターを振り払う。
魔力を宿した刃が炎の斧によって弾かれ、火の粉と共に炎が周囲に飛び散る。
石床で燃え続ける炎にスヴェンは眉を歪めた。
「チッ! 受け合いは不利だな」
何度も周囲に炎が振り撒かれ続ければ、やがてこの部屋一帯が逃げ場の無い火事現場に変わる。
スヴェンは僅かに腰を落とし、縮地と共にミノタウロスの背後に回り込む。
だがそこを読んでいたのか、スヴェンの視界に薙ぎ払われた炎の斧が迫り来る!
魔力を宿したガンバスターを振り払い、炎の刃に当たる直前にスヴェンは刃に宿る魔力を解き放った。
解放された魔力が衝撃波を生み、炎の刃ごとミノタウロスの身体を弾く。
そこにミノタウロスの背後から接近したアンセムが、雷を纏わせた曲刀の刃でミノタウロスの背中に一閃放つが、背中に当たる直前で突如障壁が生じる。
バリーーン!! 音を立てながら砕けた障壁がアンセムの刃を弾いた。
これまでには無い方法でアンセムの刃を防がれた。
少なくともスヴェンが対峙してきたモンスターは障壁を単純な防御として扱うのみに留まり、目の前のミノタウロスのように工夫した使い方はしてこなかった。
ーー障壁に対する熟練度の差ってことか。
スヴェンはミノタウロスの動きを観察しつつ、奴が立ち上がる前に魔力を纏わせたガンバスターで頭部目掛けて一閃を放つ。
だがまたしても刃は炎の斧によって防がれ、炎が周囲に飛び散る。
「あちぃ! コイツ、随分厄介だな!」
攻防に於いて炎を鎮火する手段を持たない限り、こちらは状況的に不利だ。
同時に密封された大部屋は次第に熱が溜まり、アンセムとミアの額から汗が流れる。
「長期戦も不利か……っと!」
立ち上がりと同時に薙ぎ払われた炎の斧をスヴェンは、その場で跳躍することで避け、反撃と言わんばかりにガンバスターを右薙に払う。
それに対してミノタウロスは角で刃を弾き返すが、アンセムが雷を纏った一閃がミノタウロスの背中を斬り裂き、
「『風の刃よ、炎を巻き込み逆巻け』」
アシュナの詠唱が響き渡り、スヴェンはミノタウロスの頭部を足場にミアの隣に着地した。
振り向きガンバスターの銃口をミノタウロスに向け、同時に炎を巻き込んだ風の刃がミノタウロスを呑み込む。
肉体を炎で焼かれ、風の刃で斬り裂かれた痛みにミノタウロスがもがき苦しむ。
スヴェンは魔力を流し込み.600LRマグナム弾に刻まれた魔法陣を起動させ、そのまま引き金を引いた。
ズドォォーーン!! 発砲音が大部屋に響き渡り、同時にスヴェンの耳に何者かの息を飲む音が届く。
雷を纏った弾頭がミノタウロスに飛来し、ミノタウロスの障壁が発生するが--弾頭が障壁を貫き、ミノタウロスの左上半身が肉片に変わり、雷鳴がミノタウロスを穿つ。
そこにアシュナが発動していた風の刃がミノタウロスの肉体を斬り刻む。
「オーバーキルじゃないかなぁ」
ミアの哀れみの宿った声にスヴェンはわざとらしく肩を竦める。
「戦闘ってのは命懸けなんだ。いちいち手加減なんざしてられるかよ」
アシュナの発動させた魔法が消え、ミノタウロスの死体と肉片が石床に散らばり--スヴェンは眉を歪めた。
「……アンセム、離れろ」
「妙だよな」
瞬時にこちらまで戻って来たアンセムもミノタウロスの死体に激しい警戒心を向ける。
この場に居る全員は気が付いていた。まだミノタウロスが完全に死亡してないことに。
通常モンスターは死亡時に肉体を構成させる魔力が粒子状に散らばり、やがて遺体だけをその場に遺す。
本来ならそれで討伐完了の合図にもなるのだが、未だミノタウロスから魔力が抜け出る様子が無い。
スヴェンは銃口をミノタウロスの頭部に向け、魔力を纏わせたまま引き金を引く。
銃口から放たれた.600LRマグナム弾がミノタウロスの頭部を原形を残さず破壊するも、やはりミノタウロスの肉体から魔力が抜け出る様子が無い。
「ミア、奴は不死身なのか?」
「そんな事ない筈だけど、まさか
スヴェンはミノタウロスの体内を巡る魔力に意識を傾け、ゆっくりと魔力が活性化しつつ有ることに気付く。
まだミノタウロスは現在。そう理解した時だ、前方の石壁が開き通路が現れたのは。
燃え続ける大部屋に留まりミノタウロスと再戦となれば、それこそまた閉じ込められ、蒸し焼きにされかねない。
--それはそれとして復活されても面倒だ。
スヴェンはガンバスターを構えながらミノタウロスに近付き、無造作に刃で肉体を斬り刻み始めた。
「な、なにをしてるの?」
困惑するミアの声を無視して、ガンバスターを振るう手を止めず再度ミノタウロスに流れる魔力に意識を傾ける。
すると斬られる度に魔力が鎮静化していくではないか。
スヴェンは何度もミノタウロスの肉体を斬り付け、その度に返り血が周囲に振り返る。
淡々と繰り返し、肉体が肉片に変わり果てた頃で漸くミノタウロスだった肉片から魔力が粒子状に散りはじめた。
これでミノタウロスが復活することは無いが、背後を振り向けば自身の異常な行動に目を背けずに見続けていたミア達に、
「……恐いか?」
外道の行動として自覚も有れば、三人が改めてスヴェンという異常者に恐怖を芽生えてもおかしくはない。だから訊ねた。
「違うよ、ミノタウロスの復活を阻止するためにはスヴェンさんの行動は正しいよ。そりゃあ最初は驚いたけど、恐怖は無いよ」
肯定の意を示すミアにスヴェンは、じっと彼女の翡翠の瞳を見詰めた。
そこに嘘偽りも無い真っ直ぐな瞳に本心からそう語ってるのだと理解が及ぶ。
「およ、そんなに見詰めて私に惚れちゃったの?」
「戯言はそこまでにして先に進むぞ」
「戯言って酷くない?」
「部屋まだ燃えてる。蒸し焼きミアになりたいの?」
アシュナがそう告げるとミアがようやく歩き出し、四人は大部屋を抜け--スヴェンは大部屋で感じた何者かの息遣いに警戒心を宿しながら新しい通路を進むのだった。