傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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13-8.合流を目指して

 スヴェンとミアとはぐれたアンセム達は、息を乱しながら遺跡の通路を駆け抜けていた。

 ミノタウロスが雷の斧を片手に背後から追いかける。

 ちらりと背後に視線を向ければ斧の雷が激しい放電を繰り返す。

 アンセムはミノタウロスの攻撃を予見し、

 

「アシュナ、跳ぶぞ!」

 

 隣で並走するアシュナを抱え、通路の床を足場に跳躍する。

 同時にアンセムとアシュナが先程まで走っていた場所に稲妻を纏った斬撃が走り抜けた。

 着地と同時に床に帯電していた雷がアンセムを襲う!

 

「ぐわっ! なかなか痺れるなぁ!」

 

「大丈夫? ミアが居ないから無茶はダメ」

 

 確かにアシュナの警告通りだ。

 完全に留めを刺さない限り倒し切れないミノタウロスを二人で相手をするのは厳しい。

 そこに構えてミノタウロスの背後から迫るモンスターの群れ。

 長期戦は元より、ミアが居ない状態で受ける負傷は拙い。

 アンセムはアシュナを抱えたまま、両足に魔力を流し込み、

 

「しっかり捕まってろ!」

 

 床を一踏み抜き、一気に通路を駆け抜ける。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 モンスターから逃げ切ったアンセムとアシュナの二人は通路の壁を背に乱れた息を喩えながら、

 

「2人は無事なのか?」

 

「分かんない。スヴェンは冷徹だから」

 

 スヴェンにはミアを切り捨てる可能性が有る。

 そう告げられたアンセムは信じられないとばかりに眉を顰めた。

 付き合いはかなり短いが、少なくともミアを助けに有無を言わせずに穴に飛び込んだスヴェンの行動は仲間を助けるためのものだ。

 

「切り捨てるなら飛び込まないだろ?」

 

「……助けるかどうかはミアの状態によるよ」

 

 水中に落ちたと思われるミアの状態。それはかなずちの彼女が溺れ、既に助からない状況を指すのか。

 それとも別の状態を指すのかは、無表情のアシュナからは意図が読み取れない。

 同時にプリンセスマーメイド号で見聞きしていたスヴェンとミアの会話が思い出される。

 少なくとも険悪な様子は無い。むしろスヴェンは優秀な治療師としてミアを危機から救っていたことの方が多い。

 そんなスヴェンが此処に来て冷酷にミアを見捨てると言うのは、些か信じられない話だ。

 

「……仲間を信じるのも仲間の勤めと言うだろ?」

 

 やんわりとそう告げるとアシュナは小さく首を横になって振った。

 

「スヴェンはわたし達のことは仲間と見てない。単なる同行者」

 

 スヴェンにとってミア達は単なる同行者と改めてアシュナから言われ、アンセムは考え込んだ。

 まず最初に思い出されるのは、酒場で出会った際にスヴェンは旅行者を名乗り、彼女らを同行者と称したこと。

 そもそもスヴェンの中に仲間という括りは存在しない。そう考えれば同行者と称したことにも自然と納得もできれば、アシュナの疑いにも理解が及ぶ。

 此処に来たスヴェン達は何らかの共通の目的で行動してるに過ぎず、目的さえ果たされれば関係性はそこで終わることも。

 

「単なる同行者、か。寂しい関係もあったもんだな……なんなら3人ともテオドール冒険団に入るか?」

 

「仕事が有るから嫌だ」

 

 アシュナの歳で就職してることは、パルミド小国や他国で珍しいことでは無い--魔法大国エルリアでは非常に珍しいことだが。

 ただアンセムは社交界で何度かエルリアの要人を遠目から見た事が有る。

 そんな彼ら彼女らの側や物陰には必ずアシュナに近い歳の少年少女の姿も。

 最初は要人の家族か親族を推測していたが、既に働いていると言うアシュナがそれを否定し、時たま耳にする噂が真実味を帯びる。

 魔法大国エルリアが要人護衛のために設立した特殊作戦部隊に所属する少年少女達の存在を。

 そこまで思考を巡らせたアンセムは、アシュナに視線を向け--自身の推測を馬鹿らしいと肩を竦めながら否定した。

 幾らなんでもオルゼア王が特殊作戦部隊に所属するアシュナをスヴェンに同行させるとは考え難いからだ。

 

「冒険は夢に溢れて楽しいんだけどなぁ、残念だ」

 

「ん、無職になったら考えておく」

 

 それはそれで良いのか? 思わずアンセムが呆れた表情を浮かべても無理は無いことだった。

 同時にスヴェンは元よりミアとアシュナにも興味が湧く。

 モンスターが居ない遺跡なら世間話を兼ねて様々な問答ができるが、そろそろスヴェンとミアが居る場所へ続く通路を捜さなければならない。

 

「そろそろアイツらを捜しに行くか」

 

 アンセムが曲刀を片手に通路を歩き始めると、アシュナはその場から動かず背後の通路を眺めるばかり。

 モンスターから逃げ切るために駆け込んだ何の変哲も無い通路と分かれ道。

 仮にスヴェンとミアが落ちた穴のように突如として床が消失する可能性も十分に考えられるが、分断されてからというものそういった罠に遭遇することは無かった。

 寧ろ分断された直後、通路の壁が動き出したかと思えば、壁の向こう側からミノタウロスや他のモンスターが出現する始末。

 

 --何者かが遺跡を動かしてるってか?

 

 考えられる可能性だ。少なくともスヴェンとアシュナは何者かの気配を感じ取っている。

 この遺跡に入る直前、もっと前に言えば孤島諸島の森の中で誰かの視線と気配を感じていた。

 アシュナが立ち尽くしたまま背後の通路に顔を向け、

 

「ん? 視線を感じる。そこに誰か居る?」

 

 ダメ元なのか、通路の虚空に向かって問い掛けた。

 依然と返事は返って来ず、何も変化が起こらない。

 するとアシュナはこちらに振り向き、首を横に振った。

 

「視線が消えた……もう居ないみたい」

 

「そうかい。俺達を見てる奴は一体誰なんだろうな」

 

「分かんない。けど、敵意は無いかも……仮に有ったらスヴェンがすぐに斬りかかってるよ」

 

「そんなに容赦が無いのか?」

 

「無いよ。敵なら一部例外を除いて排除する」

 

 淡々と無表情で語るアシュナにアンセムは肩を竦めた。

 スヴェンの元の世界での職業も気になる所では有るが、今は合流を目指すべきだ。

 

「スヴェンのことは後で聞くとしてだな、先ずは合流を目指すぞ」

 

「無闇に捜すよりも最奥を目指した方が良い」

 

 確かに遺跡内部は通路と大部屋といった単純な構造をしてるが、何処へ進めば次の階段が在るのかは判らない。

 それにスヴェンとミアが落ちた先に降りる階段が無いのかもしれない。

 それそれでどうやって合流できるのかという問題に直面するが、闇雲に捜すよりは最奥の前で待った方が確実だ。

 

「そっちの方が確実か……分かった、お前さんの案で進むもう」

 

「ん、ミノタウロスの足音も聴こえる。早く離れよう」

 

 二人はそのまま通路を走り出し、先を進むのだった。

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