探索を再開させたスヴェンとミアは、水面に囲まれた一本道の通路を進んでいた。
この階は壁と遮蔽物が無く灯りも無い暗い道が続くばかりだ。
水没した通路に落ちればまたミアが溺れる危険性も伴う。こんな通路はさっさと抜けるべきだ。
そう判断したスヴェンは暗い道の先を警戒しながら歩みを早める。
ミアが歩調を合わせ、僅かに杖を握り込む音と足音が反響する。
「暗い道だけど、モンスターの気配は今のところ感じないね」
「此処は戦闘に適さねえ通路だ。遭遇しねぇ方が気楽でいい」
ミアに告げると突如としてスヴェンの前方に紅いローブを纏い浮遊する人型のモンスターが姿を現した。
--言ったそばからこれかよ!
ローブを纏った人型のモンスターは杖を携え、その場で小躍りを始め--スヴェンが斬るべく一歩踏み込めば、目に見える障壁がガンバスターの刃を阻む。
障壁によってガンバスターの刃から火花が散り、徐々に拡がる障壁にスヴェンの身体が押されだす!
「もしかして……マジシャンツインズ? っ! スヴェンさん! そいつは2体で一つの存在だよ!」
ミアの警告にスヴェンさんはすぐさまガンバスターの刃を引き戻し、彼女の隣に退がった。
二体で一つの存在。目に見える分厚く拡がる障壁と水面に挟まれた一本道の通路。
そこから導き出される結論が一つだけ浮かぶ。
前方と後方からの障壁拡大、それによる物理的な圧死にスヴェンは舌打ちした。
同時に背後に視線を向ければ既に蒼いローブを纏った人型のモンスター……マジシャンツインズの片割れが杖を携えながら小躍りしている。
「水面に落ちれば圧死は逃れらるか?」
「そうもいかないみたいだよ……障壁を拡大させながら魔力を活性化させてる」
言われてマジシャンツインズの魔力に意識を集中すれば、既に魔法の発動に必要な魔力が下丹田から身体を駆け巡っていた。
魔法を発動され、障壁に圧死される前に突破する。瞬時に結論を出したスヴェンがガンバスターに魔力を纏わせ紅いマジシャンツインズに駆け出すと、同時に杖に魔力を纏わせたミアが蒼いマジシャンツインズに駆け出した。
--二体で一つの存在……そういうことか。
ミアの行動と先程の言葉の意味を理解したスヴェンは、ミアの動きに合わせてガンバスターを右薙に払う。
同時にミアが蒼いマジシャンツインズが展開する障壁の中心の一点、魔力が集中している中心地点に、
「ここ! てやぁ!」
魔力を纏わせた杖の突きが蒼いマジシャンツインズの障壁を粉々に砕いた。
ミアの技量にスヴェンは舌を巻き、同時に紅いマジシャンツインズの障壁を斬り裂く。
マジシャンツインズの障壁が砕け、紅い魔法陣と蒼い魔法陣から炎と氷が同時に放たれる。
前方からの熱気と後方からの冷気。スヴェンとミアは同時に眼を合わせ、同時にその場から跳躍した。
スヴェンとミアを狙った二つの魔法が衝突し、蒸気が通路を覆い隠す。
視界が悪い中、スヴェンとミアは討伐すべきマジシャンツインズの懐に入り込み--二人は同時にマジシャンツインズに渾身の一撃を叩き込む。
マジシャンツインズは断末魔も無く、同時に体内の魔力が粒子状に抜け、遺骸と杖だけが一本道の床に転がる。
スヴェンは討伐したモンスターに息を吐き、改めてミアに視線を移す。
「やるじゃねぇか」
「ふふん! あんまり前に出ることが少なかったから驚いてるでしょ?」
不適な笑みで胸を張るミアの姿に、素直に彼女の体術と棒術を賞賛せざるを得ない。
「あぁ、物質の中心点を見極め破壊できるヤツはそう多くはねぇ。むしろ俺には真似ができねぇ技術だ」
恐らくミアのことだ。魔力を扱った何かしらの技術も体得してることだろう。
そうでも無ければスヴェンの下丹田に眠っていた魔力を呼び起こすことも出来ず、魔力の残滓を残すこともできなかった筈だ。
「そうなの? スヴェンさんは効率的な方法なら体得してそうだけど」
「見極めるよりも先に斬るか射撃した方が早えからな……だが、これからはアンタも前に出して良さそうだな」
「それは、やっと私も信用してくれたってこと?」
モンスターとの戦闘では攻撃魔法が使えないミアを治療要員として退がらせ、人との戦闘ではスヴェンが全てを請け負っていた。
だがマジシャンツインズのような特殊なモンスターを相手にするならミアかアシュナとの連携も必要不可欠になる。
「マジシャンツインズだとか特殊なモンスター相手にはアンタの手も借りるさ」
「そこはさぁ、もっと頼ってくれても良いんじゃないの?」
「アンタの治療魔法は充分に当てにさせてもらってる」
「それは治療師としては嬉しいけどさ、なんかこう……ケガを前提に頼られるのはやっぱり複雑かなぁ」
なるべく怪我をするなっと呆れ顔でそう言われるが、戦闘に負傷は付き物だ。
ただ彼女の言う事にも一理ある。
スヴェンにとってミアとアシュナは単なる同行者だ。
共通の目的で行動してるだけに過ぎず、目的さえ果たせば共に行動する理由も無い。それになるべく二人を死の危険から遠ざけたい。
傭兵として、居場所という名の戦場を本能的に求める自身と行動していてはミアとアシュナのためにはならない。
むしろしなくてもいい経験をする事になる。
--現に二人は人が殺される瞬間を何度も見てる。
まだ二人が純粋なままで以前と変わらない瞳をしてるのは、まだ自らの手で人殺しを経験していないからだ。
例えば間接的に人を殺していようが、直接的とでは感触も感覚もまるで違う。
スヴェンは漠然と浮かんだ思考を内心に仕舞い込み、相変わらず暗い通路を歩きだす。
そこにミアも何も言わずに付いて歩き--程なくしてまた二度目の大部屋に辿り着く。
大部屋の入り口の壁に刻まれた『この先、汝にとって強きものが待ち受ける』の文章にスヴェンは眼を見開き、頭の隅で覇王エルデの姿を思い浮かべた。
「またこれ? もしかして遺跡の試練なのかな……どうしたの?」
思考に集中するスヴェンにミアは上目遣いで見上げ、疑問を訊ねた。
「いや、異界人も対象になんのか?」
「うーん、記憶を読み取る魔法と読み取った記憶から限定的に再現する魔法の組み合わせ次第かなぁ。私が対象だと姫様とオルゼア王、あとフィルシス騎士団長が同時に出現する可能性も……」
召喚魔法を得意とするレーナ、未だ実力が未知数ながらミアが強いと思う二人。
強さとは単純な力だけだ計り知れない要素だ。例えば戦闘技術はからきしだが、決して折れない不屈な精神力の持ち主や何度も立ち上がる執念の持ち主も強者と言える。
スヴェンが強き者に当て嵌まる条件を思考してると、
「この3人に比べたらスヴェンさんはまだまだだけど、私の中でもスヴェンさんは強いと思うんだ」
ミアが笑みを浮かべながらそんな事を語った。
果たして自分は彼女の思う強さを兼ね備えてるのか?
人を生かさず殺し、敵と見做せば容赦なく殺せる外道は心に余裕が無い。
それは他者を受容れる強さが無い臆病者で人を殺すことで
しか身を護れず、自身の生きる場所を確立できない弱者だ。
本当の強者は自身の揺らがない信念と他者を受容れる強さを兼ね備えた者だ。
特に覇王エルデはその条件に当て嵌まり、ましてやデウス・ウェポンを変えようとしている。
「俺はアンタが思ってるほど強くはねぇ、むしろ弱ぇよ」
「そうなのかなぁ?」
強さはとは何か。人によって異なる答えにミアが頭を悩ませる中、スヴェンは大部屋の入り口に振り返る。
この先に何が出ようが、依頼達成の為には乗り越えなければならない。
それが記憶からの再現か、一時的な召喚にせよ。
後者なら覇王エルデをテルカ・アトラスで殺害するチャンスだが、直感がそれは不可能だと告げている。
本人の一時的な召喚なら望むところだが、そう都合のいい話がそうそう起こるわけがないからだ。
それに後者ならテルカ・アトラスで生きる意味と目的を失う。
目的を失ったまま平和の中で三年も暮らすなど、それは生き地獄だ。
「何が出るか……」
「踏み込まないと分からないけど、行こうよ!」
立ち止まり悩んでも仕方ないと言わんばかりにミアがゆっくりと大部屋の入り口に歩き出す。
スヴェンはそんな彼女の背中に続いた。