傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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13-11.知の試練

 大部屋からしばらく直進した先で降り階段を発見したスヴェンとミアはそのまま階段を降り進み、今度は青白い灯りに照らされた階層へと到着した。

 二人はモンスターと罠の警戒を怠らず、迷路のように入り組んだ通路を進む。

 時折りナイフで壁に目立つように印を付けながら進むスヴェンに、天井を見上げたミアが訊ねる。

 

「この階層の上って通路が水没してたよね?」

 

 天井を見上げれば水漏れしたらしい様子は一切無く、あの上層のみに水没した通路が在る。

 だが古い遺跡ともなれば老朽化による水漏れが生じていてもおかしくはないが、それらしい老朽化は見られない。

 

「上層の水が流れ込む可能性は十分に考えられるが、老朽化してねぇのが不思議だ」

 

「単なる石材じゃないのかも、それか魔法で内部構造を入れ替えてるとか」

 

 魔法による内部構造の入れ替え。それに思い当たる節があるとすれば、分断される直前に発生した魔力と激しい揺れだ。

 床の消失は魔法の一種かと思ったが、魔法による内部構造の入れ替え時に生じた副次効果なら?

 そう考えたスヴェンは、警戒すべき事柄が増えたことにわざとらしく肩を竦める。

 

「そいつが事実なら誰が何の目的なのか。それとも定期的にそうなるように仕組まれた魔法なのかも判らねえし、分断されてる状況で悠長に調べられねえな」

 

「気になることは多いけど、スヴェンさんも薄々気付いてるんじゃない?」

 

 大部屋の試練を超えた先に決まって次の階に進む階段が見つかる。

 その前は散々探したにも拘らず発見することは無かった。

 一度目は判断材料不足で気にもしなかったが、二度目となると話は変わる。

 この遺跡を探索するに当たって行動すべき方針もある程度決まると言えた。

 同時に疑問も生じる。先程まで居た階は穴に落ちた結果、進んだ階だ。

 

「大部屋の試練を超え、はじめて下層に進むか? 穴に落ちた俺達は一応進めたが」

 

「うーん、穴に落ちた者と落ちなかった者に対してそれぞれ試練を用意してるんじゃないかな?」

 

 確かにミアの言う通り、その可能性も十分にあり得る。

 同時にミアの推測を否定する材料も無い。

 

「遺跡に詳しいわけじゃねえからな、その辺の推測はアンタの知識を含めて頼りにさせてもらうわ」

 

「任せてよ……特定の魔法を使う試練だったら積みだけど」

 

 それは一番考えたくもなかった可能性だ。

 この場に居るのは魔法が使えないスヴェンと治療魔法以外が使えないミアの二人だけ。

 かといってアシュナも多彩な魔法を使えるわけでは無く、風系統の派生魔法や身体強化魔法、そして精霊召喚魔法と種類だけでみれば少ない方だ。

 

「祈るか、即興で覚えるしかねぇか?」

 

「基礎からとなると最低一ヶ月の学習期間は必要になるかな。それでも初歩的な魔法に限られるけど」

 

「現実的じゃねえな」

 

 世の中に甘い話など無い。特に勉強に関する教養が無いスヴェンにとって何か一つを習得するにも人の倍の努力が必要だ。

 基礎知識すら無い魔法技術ならなおさらに時間を有することになる。

 スヴェンはままならない現実を受け入れながら、曲がり角を進むと--大部屋の入り口と壁に刻まれた文字を発見した。

 

「……『汝らの知恵を試す。未完の魔法陣を完成させよ』これはアンタの出番だな」

 

「任せて!」

 

 胸を張って張り切る彼女に些か不安を覚えるが、今の自分に出来ることはモンスターからミアを護ることぐらいだ。

 スヴェンはガンバスターを片手に付近にモンスターの気配の有無を確認してから大部屋に踏み込む。

 すると大部屋の中心に所々欠けた魔法陣が存在を強調し、ミアが早速魔法陣に近付く。

 

「未完の魔法陣……どんな効果を発揮させたいのかな?」

 

 ミアは完成図を想像するかのように魔法陣に刻まれた魔法式に視線を滑らせ、床に杖を突き立てた。

 

「……四属性の組み合わせと相合干渉による異なる属性の掛け合わせを一度に可能にする魔法……その試作段階の魔法陣ってことかぁ」

 

 彼女が魔法式を読み取ってから然程時間を有していない。

 だがミアは未完の魔法陣の完成図を瞬時に理解したのか、杖の先端に流し込んだ魔力で欠けた魔法陣に魔法式を手早く書き足していく。

 ミアが一切手を休めることなく次々と魔法式を書き足す。

 モンスターを警戒する傍ら徐々に欠けた箇所が埋める魔法陣に、スヴェンは思わず感嘆の息を漏らした。

 

「あとは此処にあの公式と地属性と水属性の複合属性を書き足してっと」

 

 ミアが最後の一文を書き足すと魔法陣が光だした。

 

「……完成したのか?」

 

「私が学んだ知識をフル活用して最適な魔法陣を完成させたけど、あとは判定次第かな」

 

 魔法技術に関して素人のスヴェンにとって、もはや何が何だか理解が追い付かず。

 

「あー結局どんな魔法が発動すんだ?」

 

「同時に属性を掛け合わせて複合属性を発動させる魔法陣……なんだけど実際に発動することはできないよ」

 

「アンタが治療魔法以外は使えねえからか?」

 

「違うの。あの魔法陣は試作段階で起こる現象結果を想定してるけど、発動を想定してない」

 

 魔法は発動を前提に魔法陣を構築するものだとスヴェンは、素人ながらそういうものだと理解していた。

 現象結果のみを追い求めた魔法陣をスヴェンは改めて視線を移し--この魔法陣は単なる化学反応、もとい魔法反応のメモ書き代わりなのか?

 

「発動しねぇってことは、あの魔法陣は単なるメモ書きってことか?」

 

「確かにあの魔法陣は私にとってもメモ書き程度だね。でも魔法陣に刻まれた魔法式が多ければ多いほど、必要な詠唱も必然と長くなるし魔力の消費量も増すんだ」

 

 ミアがそう答えると床に刻まれた魔法陣が突如として消失し、代わりに壁が開き出入り口がその姿を現した。

 

「およ? どうやら正解だったみたいだね」

 

「今回は視線は感じられねぇが、アンタのおかげで先に進める」

 

「……スヴェンさんってさ、前々から思ってたけど私ののことぞんざいに扱ったかと思えば素直に褒める時も有るよね」

 

「普段のアンタがアホなことを抜かせばぞんざいにもなるが、知識面と治療魔法は頼りにしてんだよ」

 

「普段の私って……魔法陣を構築してる時の私は別に見えたの?」

 

 スヴェンはその質問には答えず、歩き大部屋を出た。

 ミアがその後を追い掛け、彼女の不服そうな視線を背中に感じながら一本道を通路を進み続ける。

 何の変哲も無いただの通路を二時間ほど進んだ頃、スヴェンとミアは大扉に閉ざされた部屋の前に辿り着いた。

 その大扉の側で生き絶えた骸が鎮座し、ミアが息を飲み込む。

 ボロボロの布の服と折れた曲刀、砕けた右腕の方と折れた肋骨--何かと戦闘したのは明らかな骸だ。

 

「コイツは何と戦った? ……ん?」

 

 鎮座した骸の側に落ちている書物に気付いたスヴェンは、それを拾い上げた。

 ページをめくったスヴェンは記載された内容に視線を滑らせる。

 何ページか読み進めたスヴェンは途中で本を閉じ、深く息を吐き出す。

 それは二ヶ月前に首都カイデスを出発した冒険家ゾルゲ・ヴァルグラムが遺した冒険記と呼べる内容だった。

 

「どんな内容だったの?」

 

 --コイツの内容を語り伝えるのはアンセムの役目だな。

 

「コイツはアンセムの捜し物だ。内容に関しちゃあ、後でゆっくり読めばいいだろ」

 

「……そっか、じゃあこの人がアンセムさんの友人なんだ」

 

 悲しげな眼差しを骸に向けるミアにスヴェンは頷き、耳に微かに音が聞こえる。

 

「……音が聴こえたな」

 

 それだけ短くミアに伝え、スヴェンは音が聴こえる方向に歩き出す。

 すると壁から二人分の足音が響く。

 スヴェンはガンバスターを構え、近付く足音に顔を向ける。

 だが、顔を向けた先は何の変哲もない壁だけ。

 壁の向こう側に誰かが居る。

 アンセムとアシュナか、それとも別の人物か。

 警戒を浮かべるスヴェンとミアを他所に、突如と目の前の壁が動き出した。

 そこから現れる人影にスヴェンは反射的にガンバスターの刃を振り下ろす。

 人影が咄嗟に身を引くことでガンバスターを避け、そこではじめてスヴェンは人影の正体に気が付いた。

 

「あ、危ねぇ!? 殺す気かスヴェン!!」

 

 床を斬り裂いたガンバスターの側で怒声をあげるアンセムに、

 

「二人とも無事だったか」

 

 スヴェンはガンバスターを背中の鞘に納めた。

 

「おう、危うく死ぬところだったけどな」

 

「そいつは悪かった……だが、なぜ壁から?」

 

「あ〜上の階でモンスターに追い回されながら試練とやらを突破したら、此処に辿り着いたって訳だ」

 

「……疲れた」

 

「ふ、二人ともお疲れ!」

 

 自分達と違ってモンスターに遭遇したアンセムとアシュナが疲れ気味に息を吐き出し、ミアは二人の様子に苦笑を浮かべるばかりだった。

 二人と比べてスヴェンとミアのルートはモンスターとの遭遇は多くは無かった。

 苦労の度合いで言えばアンセムとアシュナの方が遥かに高い。

 それはつまり正規ルートは二人の道で、自身の進んだ道は裏道に相当するのかもしれない。

 

 --試練が用意されてんだ。正規ルートもクソもねぇか。

 

 スヴェンは一旦自身の考えを切り捨て、

 

「ま、合流できたんだ……いや、その前にアンタに見てもらいてぇもんが有る」

 

 大扉の側で鎮座する骸と遺された冒険記に関して伝えると、アンセムは弾けるように骸に駆け寄った。

 そして折れた曲刀とミアから手渡された冒険記を腕に、

 

「お前……こんな所に居たのかっ!」

 

 人目を憚らずアンセムは友の死に涙を流した。

 スヴェン達は友の死を嘆くアンセムが彼に別れを告げるまで静観した。

 通路に彼の慟哭がただ虚しく響き渡る。

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