ゾルゲ・ヴァルグラムの骸に別れを告げたアンセムは立ち上がり、
「待たせたな」
泣き腫らした目元で戯けるように言ってみせた。
「もう良いのか? なんなら此処で待ってても良いんだぞ?」
「バカ言うな。冒険家としてこの先を拝まなきゃ意味がねぇだろ」
財宝は探索した階層かは発見することは叶わなかったが、最奥で何者かに管理されてるとすれば彼が此処で立ち止まる理由も無い。
それにアンセムの眼差しから硬い意思を感じる。亡くなったゾルゲの分まで冒険家として成功すると。
友情から来る死者の想いを背負う。その事にどんな意味が有るのか、むしろ面倒な重荷にしか思えない。
--俺には理解できねぇことだらけだ。
自身にとって死は死、それ以上でもそれ以下でも無い。戦場で当たり前のように訪れる。
友人の死を経験したことは無いが、相棒の死でなぜ自分が生かされたのか未だ理解できない身でアンセムがどんな想いを抱いてるのかは理解が難しい。
だからスヴェンは彼に『そうか』一言だけ告げ、
「準備はいいか?」
ミア達に確認を取るように顔を向ける。
「私はいつでも大丈夫だよ」
「ん、準備万端」
既に武器を構え、アシュナはいつでも魔法が唱えるように全身に魔力を巡らせていた。
様子見していた声の主は、魔力を纏った衝撃波を容易く防ぐことが可能だ。
それに遺跡内部の戦闘を見られていたならこちらの手札もある程度は知られている。
だが、こちらはまだ全ての手札を使った訳では無い。
スヴェンは声の主と対峙することを前提に大扉に手を掛けた。
重々しい大扉を押し開け--大扉の隙間から瑠璃色の炎が溢れ出す。
罠かと眉が歪むが、不思議なことに瑠璃色の炎はスヴェンの身体を焼かず、むしろ熱を感じさせない。
スヴェンがそのまま大扉を押し切りると、一面に広がる星空と祭壇に安置された聖火台で燃え盛る瑠璃色の炎が視界に映り込んだ。
遺跡の下層、その大部屋の天井で輝く星空にミアとアシュナの感嘆の息が耳に届く。
「コイツも魔法の一種か」
「こいつは投映魔法の一種だな。天幕に観客を集めて天体観測に使われる魔法だ」
攻撃魔法の類では無いと話すアンセムにスヴェンは大部屋に踏み込む。
すると突如として目前に--白い衣を着用しているが、顔付きと体格からは男性か女性とも判別が付かない、白い翼を広げた人物が姿を現す。
警戒心を剥き出しにその人物を睨み、ガンバスターを構えれば、
「二ヶ月振りの来訪者達よ! よくぞ試練を突破し此処まで辿り着いた!」
大袈裟な手振りと演技混じりの口調でそんなことを語る。
「はじめて天使を見たけど、演技派なの?」
天使に対してどこか神秘的な印象を抱いていたのか、ミアは目の前の人物にげんなりとした表情で疑問を口にする。
「一万年もこの遺跡を任されたけど、ほんっと! 人が来ないっ! 昔の口調を忘れて感極まるのもしょうがないでしょ!」
逆ギレ気味に叫ぶ天使にスヴェンは構えを解かず、アンセムに視線を移す。
ゾルゲは遺跡で死亡した。それは天使が用意した試練で致命傷を負った可能性も捨て切れない。
その可能性が有る以上はアンセムにとって天使はゾルゲの仇になり得る。
「此処に来たゾルゲ……来訪者はお前さんの試練に敗れたのか?」
「……彼は孤島諸島に上陸した時には右腕も仲間も失っていたよ。そんな状態でも試練を突破して……でも最後には徘徊するミノタウロスに致命傷を負ってしまったのさ」
試練は突破したが最後の最後でモンスターに殺された。天使の語る目から嘘は感じられない。
それにアンセムも気付いたのか、彼は無造作に頭を掻き……やがて単身で最奥まで辿り着くいたゾルゲに誇らしげな表情を浮かべた。
「……アイツはやっぱ凄い奴だよ。それで? お前さんは此処で何を護ってるんだ」
「どんな封印魔法も焼き解く浄炎と莫大な財宝さ……どっちを望む?」
天使の質問にアンセムが先に答える。
「俺は財宝を望む。ソイツを持ち帰って漸く俺達の冒険が始まる」
「こっちは瑠璃の浄炎さえ手に入れば後はどうでもいい」
「両方選ぶか……その選択をしてくれたことに感謝する!」
突如天使は狂気的な笑みを浮かべ、星空の天井に手を挙げた。
「『ガーディアンよ、我が呼び声に応じよ!』」
詠唱と共に宙に魔法陣が形成され、その魔法陣から鋼鉄の騎士--機械仕掛けのガーディアンが鎧の隙間から騒音を奏でながら降り立つ。
同時に土煙りが舞い、ガーディアンの魔力が迸る!
「さあ! 我が呼び声に応じしガーディアンよ! 最終試練に挑みし来訪者を討ち砕けっ!」
声高らかに命じる天使にガーディアンが応じるように大剣を引き抜く。
スヴェンは少なからずガーディアンの存在に驚きを隠せず、同時に奇妙な懐かしさが芽生える。
ガーディアンの間接に露出した歯車とぎこちない駆動音。機械技術と魔法技術を掛け合わせた存在を見れば見るほど、デウス・ウェポンの機械兵器や機械人、アーカイブの兵器記録を思い出す。
--造形は大昔のモンスター駆逐機のプロトタイプに似てるな。
「よく分からないけど……先手必勝?」
アシュナはガーディアンに小首を傾げながら掌を向ける。
同時にスヴェンは大剣構えるガーディアンに駆け出し、間接部分に向けてガンバスターを袈裟斬りに放つ。
だがガーディアンは大剣を巧みに捌き、ガンバスターの刃を弾く。
一撃一撃は対して重くは無いが速い。それにまだどんな機能が備わっているのか予想も付かない。
警戒を浮かべながらアシュナの詠唱が耳に届き、スヴェンはガーディアンの真横に跳びながら刃を振り抜く。
風の刃とガンバスターの刃が同時にガーディアンに届くが、風の刃はガーディアンの装甲に弾かれ--ガンバスターの刃は腕で防がれてしまう。
「硬いな。それに障壁とは違う魔法に対する防御もあんのか」
「硬い装甲と魔力障壁……っ! スヴェンさん! そこから離れてっ!」
ミアの叫びと同時にスヴェンは後方に飛び退け、ガーディアンの頭部の魔法陣に魔力が集う。
魔法陣から熱線が横薙ぎに薙ぎ払われ、床が熱線によって焼き払われる。
「……スヴェン、アレをどう攻める?」
「聞き耳立ててる天使が居なきゃあ、方法を話せるんだがな」
「あ〜天使を警戒してたが何もする様子がねぇよな。……正直邪魔だよなぁ」
「邪魔っ!? 我は封神戦争で誰にも破壊できなかったガーディアンを討ち倒すところが見たいんだ! というかそれが無かったらこんな場所に派遣志願なんてしないから!」
白い翼を鬱陶しく羽ばたかせる天使の様子に、神秘的な印象も無ければさっそく単なる喧しい者にしか見えない。
初めて出会ったミア以下のクソガキという印象さえある。
頭に浮かんだ思考を捨て、スヴェンはその場から動かないガーディアンにガンバスターを構え直し、アンセムに目で合図を送る。
アンセムは静かに頷き、スヴェンと同時に駆け出した。
今度は左右から同時に刃を振り抜き、ガーディアンがその場で大剣を盾に防ぐ。
「硬いがっ!『雷よ我が刃に宿れ』」
アンセムは曲刀に雷を纏わせ、今度は頭部に向けて刺突を連続で繰り出す。
対してガーディアンは大剣で防ぐことは愚か、何もせず雷を纏った刃を受け入れるようにただ立ち尽くした。
雷を纏った刺突がガーディアンの魔力障壁に防がれ、魔法が通じないのだと理解が及ぶ。
魔法の使用を前提とした戦闘に対する対策。テルカ・アトラスにとってこれ以上に無い対策だ。
だからこそスヴェンは魔力を使わない戦闘方法に瞬時に切り替え、力任せにガンバスターを振り抜く。
ガジィーンンン!! 刃が鋼鉄の装甲を打ち付け、ガーディアンが僅かに揺らぐ。
いくら硬かろうと衝撃は伝わる。
「コイツは物理的にぶっ壊した方が速そうだな」
「なるほど、理解した」
ガーディアンは魔力を纏った大剣を横薙ぎに振り払い、スヴェンとアンセムは同時に身を屈める。
刃が頭上を通過する中--魔力を纏った真空刃がミアとアシュナの下に飛来する。
拙い! スヴェンが二人に冷や汗を流す中。ミアとアシュナは武器に魔力を纏わせ、真空刃を防いでみせた。
「くぅっ! 重い一撃っ!」
「……手が痺れる」
二人の武器と筋力では何度も真空刃を防げないだろう。
早めに決着を付けなければ追い詰められるっと判断したスヴェンはナイフを引き抜き、ガーディアンの間接に向けて投擲した。
ガーディアンは飛来するナイフに反応するように大剣で払い落とす。
--魔力を使った攻撃は魔力障壁、物理手段は大剣で防ぐのか。
ガーディアンは攻撃に対する防御手段が決められている。
まだ魔法技術という点から断言はできないが、スヴェンは素早く縮地でガーディアンを撹乱するように動く。
それにアンセムが合わせるように素早く動き、頭部を忙しなく動かすガーディアンに二人が腕の間接部分に刃を放つ。
刃をまともに受けた歯車が砕け、ガーディアンの腕がだらりと退がった。
漸く間接の一つを破壊できたことにスヴェンは息を吐き、今度は右肩の間接部分にガンバスターの刃を突き立てる。
視界の端で焦り出す天使の姿が映り込み、ガーディアンは大剣でスヴェンとアンセムを振り払おうと腕を動かすが、駆動に必要な歯車が壊れた状態では腕も上がらない。
大剣が扱えない状態のガーディアンはそれでもその場から離れようとせず、今度は膨大な魔力を放出した。
その瞬間、大気中に魔力が溢れ--ガーディアンの背中に天使の翼が広がる!
解放された魔力と天使の翼に集う魔力がスヴェンとアンセムに威圧感を放つ。
同時にスヴェンは気が付く。ガーディアンの狙いがこちらでは無く後方に控えるミアとアシュナだということに。
「アンセム、とどめは任せた!」
それだけ告げたスヴェンはミアとアシュナの下に駆け出し、同時に二人に向かって天使の翼から極大レーザーが撃たれる。
スヴェンはガンバスターに魔力を纏わせ、極大レーザーに対して腹部分を盾に構える。
極大レーザーにガンバスターの腹部分で受け止める中、
「スヴェンさんっ!」
ミアの悲痛な声が耳に響く。
何も無策でこんな真似に出た訳ではない。ガンバスターの材質は竜血石を--竜王の竜血石で鉱石と共にエリシェによって鍛造された逸品だ。
竜血石は素材の魔力伝導率と強打を増幅させる。だからこそスヴェンは魔力を纏わせたガンバスターの腹部分に魔力を一点集中させ、その魔力を解放させることで極大レーザーを受け止められた。
質量を受け止められるなら弾くことも可能になる。
スヴェンはガンバスターを打ち上げるように振り上げ、天井に向けて極大レーザーを打ち上げ--同時にアンセムの一閃がガーディアンの頭部を切断した。
天井の星空を極大レーザーが貫く中、鈍い物音と天使の絶叫が響き渡る。