傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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13-13.天使と問答

 頭部を斬り落とされたガーディアンが機動停止し、背中の天使の翼が消え--訪れた静寂にアンセムが深いため息を吐く。

 そして彼は何を思ったのか、スヴェンの下に歩き出し、

 

「お前さんは、少しは自分の身を省みたらどうなんだ!?」

 

 鎖骨を指で突きながら叫んだ。

 確かにミアとアシュナの二人を、ガンバスターの性能に間を任せて庇った。

 それは下手をすれば三人共々まとめて極大レーザーによって分子レベルまで分解される危険性を孕んでいたのは事実だ。

 ただそれ以上にエリシェの技術力に対する信頼も有ったからこそ行動に移した。

 

「竜血石と鍛治師の腕を信頼した結果だ。何も無策に庇った訳じゃねえよ……無理そうだったら見捨てた可能性が高え」

 

「それはそれでどうかと思うが……それにしてもお前さんは、奴の弱点を的確に突いていたが知ってたのか?」

 

「ああいう間接が露出した手合いは馴染み深いってだけだ」

 

 その事を含めて沈黙したガーディアンの側で悲しげに佇む天使に視線を向ける。

 すると天使は涙を流しながら、

 

「ひぐっ! 駆動系統を破壊してから頭部を斬るなんて酷い!」

 

 そんな事を言い出した。

 意気揚々と試練だと謳い、ガーディアンを召喚したのは一体どちらか。

 そもそも戦闘において剥き出しの弱点を突くことは当然のこと。

 スヴェンは右腕を強く握り、筋力と握力で骨を鳴らしながら天使を睨む。

 

「ひっ! よ、よくぞ我が試練を突破した! そちらの人間は財宝を、異界人のお前には瑠璃の浄炎と伝説の竜剣を授けよう!」

 

 最初に出会った頃と印象が違う。初対面時は天使らしい神秘で底が読めない不気味な印象さえ受けたが、今の天使はどこか気弱で喧しい印象だ。

 こうもころころと印象が変わるのも妙な気分だが、天使が空間の穴から取り出した剣に眉が歪む。

 竜王から感じた似た魔力を剣身から放つソレにミアが感嘆な息を漏らす。

 

「スヴェンさん! 一振りで200のモンスターを薙ぎ払うと言われてる伝説の竜剣だってよ!」

 

 戦闘が楽になると喜ぶミアを他所にスヴェンは、天使が抱える竜剣に視線を向ける。

 一振りで二百のモンスターを薙ぎ払うということは、それ一本で軍勢を相手どる。それはもう戦略兵器の類だ。

 そんなオーバーキルにも等しい武器をこれみよがしに使う趣味も無ければ、自分には既にガンバスターが有る。

 

「瑠璃の浄炎は必要だが、竜剣なんざ要らねえ」

 

「えっ!?」

 

 天使が有り得ないと言わんばかりに目を見開き、

 

「ほ、本当に要らないの? 地上の頂点に君臨する竜の遺骨から鍛え上げた竜剣を……この機会を逃したら手に入らないかもしれないのに?」

 

「相棒で充分だ」

 

 それだけ告げると天使はしばらく不服そうに頬を膨らませた。

 要らない物を受け取って売った所で誰かの手に渡り悪用される危険性を考慮するなら、天使に保有させた方がより安全だ。

 スヴェンの思考とは裏腹に、それでもまだ諦めきれない天使を鋭く睨めば怯えながら漸く諦めた。

 天使は竜剣を空間に仕舞い、アンセムの下に眼が眩むほどの金銀財宝、様々な価値ある装飾品が納められた宝箱を大量に出現させた。

 

「こ、こんなにか? これだけ有ればパルミドの経済を立て直してもお釣りが来るな」

 

 莫大な財宝を目の前にしたアンセムが意気揚々と目的に夢想している中、スヴェンは先程から生じていた疑問を晴らすべく天使に質問する。

 

「ところでガーディアンは俺が知ってるプロトタイプに似た造形をしてるが、ガーディアンは機械技術でも使ってんのか?」

 

「あー、お前はデウス・ウェポン出身の異界人?」

 

 天使の質問にそうだと頷いて答えれば、天使は得心を得た様子で肩を竦めた。

 

「デウス神からこちらの世界の素材で製造した四体のガーディアン、それが提供されたのは二万年前だ。我々に整備できる知識も技術力も無いから量産は無理だったけど」

 

 整備ができないから破損した脚部をそのままに放置された。

 本来ガーディアンが推進剤ではなく純粋な魔力を出力に変換し、加速機能が備わっていたなら戦闘はより激化していただろう。

 

「なるほど……道理で魔力が噛み合う訳だ。だが、なぜアトラス神はデウス神からソイツを譲り受けたんだ?」

 

「魔法文明を維持したまま文明を繁栄できるかどうかのサンプルだよ。結果はいずれ機械技術の侵食で魔法文明と魔法技術の低下、モンスターにも対抗できず、遠い未来で星に還す魔力も足りなくなって滅亡するから技術修得は断念したよ」

 

 確かにテルカ・アトラスのモンスターは障壁で物理的な手段を防いでしまう。

 しかし先程のガーディアンの魔力障壁を考慮すれば、そう遠く無い未来でモンスターも魔力障壁を展開するようになるのではないか?

 スヴェンはモンスターの進化の可能性を頭の中で浮かべては、内心で気にしたところで無意味な話だと断じた。

 

「えっと、じゃあ貴重なサンプル体を試練に使っちゃたんだ」

 

「うぐっ……封神戦争時代に誰にも破壊されることが無かったから試しに運用したけど、何千前かに訪れた呪われ子に一体破壊されたし」

 

 もう用済みとは言え、ミアから見たガーディアンは貴重品--古代遺物に等しい価値有る物に見えたのか、彼女の眼がもったいないっと語っていた。

 確かにテルカ・アトラスではガーディアンは貴重だが、

 

「確認しておくが、アレに自立思考プログラムは組み込まれてたのか?」

 

 危険性を考慮して訊ねると天使は小首を傾げる。

 

「なに、それ? 呪文? 召喚者の指示を判別、認識する魔法が使われてるけど……」

 

「いや、使われてねぇなら良い」

 

 返答に不信感を感じたのか、四人がなぜそんな質問をしたのか問たげな視線をぶつけてくる。

 使われていない以上、それは単なる杞憂で余計な情報を与える必要も無い。

 スヴェンは四人から顔を背けることで黙秘権を行使した。

 

「あー、こうなったスヴェンさんは絶対に答えないよ」

 

 ミアのため息混じりの代弁に、アンセムとアシュナの二人が理解を示した様子で頷き、天使は訳が分からないと肩を竦めた。

 ガーディアンに自立思考プログラムが組み込まれていないのは不幸中の幸いとも言えた。

 あのプログラムは機械兵器に思考を持たせ、周囲の情報から学習を重ねやがて最適な結論を導き出す。

 星に巣食う癌--人類の抹殺を導き出す危険性が孕んでいる。

 それで過去にデウス・ウェポンはモンスターと機械兵器の同盟により滅びた歴史が在る。

 同時に機械兵器もモンスターに取り込まれる形で、再誕した人類に機械兵器の開発と発展を抑制させる結果になった。

 尤も戦争時代か極端に少ないテルカ・アトラスで自立思考プログラムが同じ結論を出すとも限らないが。

 

「ささ、今のうちに質問を受け付けるよ」

 

 天使の質問を促す声にスヴェンは思考を切り替え、何を質問すべきか考え込む。

 

「はい! 私からの質問! アトラス神は封神戦争以降は力の大半を失ったって聴いたけど本当なの?」

 

「本当だけど、アレから随分と時が経過したからね。アトラス教会の献身も有ってアトラス神は回復してるよ」

 

「それじゃあ邪神が復活しても安心ってことなのかな?」

 

「…… この星は二度の封神戦争には耐えられない。だから邪神の復活は人の手で絶対に阻止して」

 

 天使の返答に一つだけ質問が浮かんだスヴェンは、

 

「あの大瀑布は2柱の余波でできたのか?」

 

 孤島諸島の奥に広がる大瀑布に付いて訊ねた。

 すると天使は悲しげな表情で答えた。

 

「そうだよ……今では孤島諸島って呼ばれてるらしいけど、元々はテルカリーエ大陸って呼ばれてたんだ。そこは天使と悪魔、人間と魔族が共存していた大陸さ」

 

 広大な大瀑布に付いて理解したスヴェンは、それ以上の質問は無いと天使から視線を背ける。

 そこにアンセムが入れ替わるように天使を真剣な眼差しで見詰め、

 

「お前さん……顔だけ見れば美男子に見えるけどよ、どっちなんだ?」

 

 心底どうでもいい質問を天使に問いかけた。

 

「アンセムさん、他に質問は無かったの? それに天使に性別の概念は無いって聴くけど」

 

「そこの青髪の美男子の言う通り、我々天使に性別の概念は無いよ。むしろ上半身が女、下半身が男。その逆が当たり前に居るのさ」

 

「私は美少女! いくら天使でもそこを間違えたら容赦しないよっ!」

 

 ミアは天使の間違いに殺気を放ちながら警告を放ち、

 

「わ、悪かったよ」

 

 天使は怯えた様子でミアから距離を取った。

 

「……なるほどなぁ、翼が無ければ見た目は中性的な人とたいして変わらないってことか」

  

 確かにアンセムの言う通りだ。

 天使の羽が無ければたまに町中で見掛ける中性的な人にしか見えない。

 スヴェンも天使に半ば納得しながら大部屋の隅に歩き出す。  

 硬い床を歩き、カツン、カツンっと音を立てながら歩くと、

 

「そこの異界人、我が部屋で何をする気だ?」

 

 緊急事態を除けば、無許可に転移クリスタルを設置するほど非常識では無い。スヴェンは天使に振り向く。

 

「ここに転移クリスタルを設置してぇんだ」

 

「……あ〜、記憶を覗き……おえっ!」

 

 自身の記憶を覗き込んでいた天使は急に吐気に襲われ、その場で胃の中に有るものを全て床にぶち撒けた。

 恐らく記憶を覗き込んだのは、エルデ擬きを再現する時だろう。

 その時に自身の記憶を全て覗き込み、人が瞬きする間に肉片に変わる光景でも見て思い出してしまったのだろう。

 

 --他人の記憶を無遠慮に覗き込めば知らなくてもいい情報が入る。アイツはその良い例だな。

 

 スヴェンは汚物をぶち撒けた天使に素知らぬ眼差しを向け、ミア達は心配そうに天使の背中を摩る。

 

「あ、ありがとう……事情は理解したから転移クリスタルだっけ? 設置していいよ、ついでに暇だから我を連れ出してくれるとありがたいなぁ」

 

 許可を得たスヴェンは早速ポーチから取り出した転移クリスタルをその場に設置し、今度は祭壇に向かって歩き出す。

 

「ふ、ふふっ……無視とはつれないなぁ」

 

「スヴェンさ〜ん! 天使の同行に付いて少しだけ考慮してみない?」

 

 ミアの助け舟を背中に受けたスヴェンは、ポーチから封炎筒を取り出した。

 筒を開けると瑠璃の浄炎が封炎筒に吸い込まれ、瑠璃の灯りが封炎筒に宿る。

 これで一旦エルリア城に持ち帰り、保険を用意したのちにヴィルハイム魔聖国侵入を決行するのみ。

 刻々と近付く旅の終わりを実感したスヴェンは、漸く天使に振り返る。

 

「アンタの同行で邪神教団がどう動き出すか読めねえ以上、連れて行く訳にはいかねぇ……ってか外に興味があんならテオドール冒険団に入ったらどうだ?」

 

 同行の断りを入れつつテオドール冒険団の加入を勧めたスヴェンに、アンセムが天使に歓迎だと言わんばかりに頷く。

 

「そいつは良いアイデアだ! 正直に言えば帰りの不安があってな、お前さんが良ければ大歓迎だ」

 

「やった! こんな狭い場所から抜け出せるなら何処でも良いよ!」

 

 大手を広げて喜ぶ天使に遺跡の管理やら細かい部分に付いて疑問が生じたが--俺が気にする必要もねぇし、クルシュナ達が手を加えんだろ。

 スヴェンが内心で生じた疑問を片付け、アシュナと天使の腹から空腹を告げる音が鳴り響いた。

 

「異界人は何か食べられる物は無い? 携行に特化した食べ物……そう、例えばレーションとかさ」

 

 物好きな天使も世の中には居るものだなぁ。感心半分とあんな食事擬きを自ら要求する恐れ知らずに呆れるべきか。

 きっと知らないからこそ好奇心で要求してしまうのだろう。以前のミアのように。

 

「……実は気になってた」

 

「しっ! アシュナは止めた方が良いよ」

 

 好奇心に駆られたアシュナを制するミアを他所に、スヴェンはポーチから取り出したレーションを天使に投げ渡す。

 すると天使は包みを剥がし、レーションを一口で口に放り込んでしまった。

 天使の行動にスヴェンとミアは眼を見開き、咀嚼音を鳴らす天使を思わず心配してしまう。

 

「うーん、変わった食感と味、あじ? あじ……あ、ジ? ゔっ!?」

 

 案の定と言うべきか、天使は有り得ないほど不味いレーションに見る見るうちに顔が青ざめ、食べ掛けのレーションを再び床にぶち撒け、気を失いながら仰向けに倒れた。

 なるべくしてなった結果にスヴェンは何も言えず、アシュナがミアの側で床に捨てられた包みに震えるばかり。

 

「天使を吐かせる……激物?」

 

 消えそうなアシュナの声にスヴェンとミアは頷く他になかった。

 アンセムもレーションに付いて冒険したくは無いのか、惨状に眼を逸らし聴き心地の良い口笛を奏でる。

 

「……アンセム、俺達は回収するもんは回収した。楽な脱出方法は気絶してる奴に聞け」

 

「……あぁそうか、もう別れの時か。案外早いもんだなスヴェン」

 

「そんなもんだろ」

 

 名残惜しむアンセムにスヴェンは肩を竦めた。

 

「アンタとテオドール冒険団には随分と世話になったな。正直に言えば、アンタとあの酒場で出会わなければどうなったことか」

 

 少なくとも足踏みした挙げ句、悪魔の海域を抜けられず終わっていたかもしれない。

 

「それはこっちのセリフでも有るさ。お前さんら三人には随分と助けられた……また機会が有れば共に冒険でもしようぜ」

 

 アンセムから差し出された握手の腕をスヴェンは、拒まずその腕を掴んだ。

 

「そん時はまたよろしく頼む」

 

 アンセムと別れを済ませたスヴェンは横にズレ、ミアとアシュナがアンセムと別れを告げる様子を静かに見護った。

 異世界で船旅の体験と大瀑布の光景、悪く無い体験に自然と笑みが零れたのも無理はないことだった。

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