傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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第十四章 フェルム山脈を超えて
14-1.旅の終点に向けて


 首都カイデスのエルリア大使館に転移したスヴェン達は、グランデ大使に呼ばれて彼の執務室を訪れていた。

 ミアの真剣な眼差しに視線を向けたグランデ大使は感慨深い息とと共に、

 

「その様子を見る限り、必要なものを手に入れたようじゃな」

 

 穏やかな笑みを浮かべた。

 

「テオドール冒険団の協力のおかげでな……だがゴールドダイン公爵の息子が死亡、孤島諸島でゾルゲ・ヴァルグラムの死亡も確認した」

 

 テオドール冒険団に被害が出た訳ではないが、スヴェンは今回の件で死亡した二人の名を告げた。

 尤も悪魔の海域直前まで追って来たティンギル・ゴールドダインに限って言えば完全な自業自得に過ぎない。

 グランデ大使は悩ましげに眉を歪め、

 

「ティンギル殿がゴロツキを雇い、勝手に船を動かしたとゴールドダイン公爵は激怒しておったが……ふむ、この件はテオドール冒険団の帰還に合わせて報告するとしよう」

 

 公的にスヴェン達はテオドール冒険団と共に出航したことになっている。

 それは出航同時に彼らを見送った住民達が目撃者として証言する。

 だから先んじて帰還した自分達と未だ判明していないティンギルの死をグランデ大使が公的な場所で告げることは、小さな疑いの芽を蒔くことになりかねない。

 グランデ大使の決定にスヴェンは一人納得を浮かべながら、

 

「俺達はこのままフェルム山脈に向かうが、呼び出した理由ってのは?」

 

 本題に付いて訊ねるとグランデ大使は控えさせていた騎士に木箱を持って来させた。

 そして自ら執務机の上に木箱を乗せ--丁寧に折り畳まれた非常に見覚え有る衣服に三人の眉が歪む。

 スヴェンは見間違えだ、そう思いながら折り畳まれた衣服を広げて見せる。

 しかし現実は無情で何処をどう見ても見覚えが有り、潜入時の装い以外で着たくない衣服だった。

 

「……コイツは、邪神教団のローブじゃねえか」

 

 同時に確かにこれなら潜入時に役に立ち、ヴェルハイム魔聖国から発せられた招集令に紛れることもできる。

 

「これを着て巨城都市エルデオンに潜入……でも流石に招集令も終わった頃かも」

 

 現在七月十九日、招集令に付いて知ったのはジルニアに居た時だ。

 ミアの指摘通り、あれから経過した日数を考えれば邪神教団の集結が完了してる可能性の方が高い。

 

「その可能性の方が高えか」

 

「懸念は理解しておるとも。しかし潜伏中の魔族から齎された情報では、まだ集結は完了しとらんようじゃ」

 

「それは確かな情報なのか?」

 

 情報の信憑性に付いて疑ってかかるとグランデ大使が笑って見せた。

 

「情報は交戦中の魔族からフィルシス騎士団長に告げられたものじゃ。お主なら戦闘中に情報を伝える、これが如何に危険か判るじゃろ?」

 

 フィルシス騎士団長と魔族が内密に決めた情報交換の方法。

 それが可能な機会が北の国境線の戦場のみ。そして実行を移すには信徒の監視を掻い潜った状況でなければならない。

 戦場という不確かな場で接触するには正に命懸け。その事実と合わせてスヴェンは告げられた情報は信頼できると判断した。

 

「あぁ、命懸けで情報を伝えるなんざ中々できるもんじゃねえ。特に造反を考える連中は我が身可愛さにできないことだ」

 

 稀にリスクの高い方法を承知で賭け感覚で行動する者も居るが、スヴェンは魔族の魔王アルディアに対する忠誠心を考慮してその可能性を最小限に胸の内に留める。

 

「……私達は魔族と合流を目指せということですか?」

 

 巨城都市エルデオンに潜伏してる魔族と合流し情報交換並びに魔王救出に向けて行動を起こす。

 当然そのためには現地の案内人や協力が必要不可欠だ。

 アウリオンが接触出来なかったことを考慮すれば、魔族の中でも高い実力を有する者、要職に就く者は邪神教団に行動を見張られているのだろう。

 

「うむ、既にフェルム山脈に魔族が潜伏中だ。貴殿らはフェルム山脈に向かい魔族と合流するのじゃ……邪神教団に扮してのう」

 

 確かにそれなら他の邪神教団に目撃されても遅れて到着した信徒だと誤魔化しも効く。

 スヴェンは潜伏までの流れを頭の中で浮かべては、不測の事態に備えた方法を思案した。

 

「ん、影から付いて行くけど……着なきゃダメ?」

 

「万が一を考え、しっかり目深に着るんじゃぞ? それに存外通気性と機能性は高いぞ」

 

 笑みを浮かべたグランデ大使に三人は愚か、控えていた騎士までもが『自分で試着したのか』そう言いたげな眼差しを向けた。

 スヴェンは改めて木箱を脇に抱え、ミアがグランデ大使に訊ねる。

 

「そういえばフェルム山脈の登山許可は出たんですか?」

 

「パルミド小国の執政官殿曰く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っと」

 

 パルミド小国もヴェルハイム魔聖国と隣接する国だ。隣国の状況から見て正式な手続きを出すのは立場と内部の腐敗から出すのは難しいといったところだろう。

 それにフェルム山脈はヴェルハイム魔聖国の国土まで続く以上、外交絡みの交渉はまず邪神教団に露見してしまう恐れも有った。

 その意味で邪神教団のローブは外交を交えず、正式にフェルム山脈を登山できる許可証のようなものだ。

 

「そうでしたか、それじゃあローブを3着も確保出来たのは大きな意味がありますね」

 

「うむ、姫様を経由してルーメンに駐屯しておるバルア部隊長からワシの下に贈るように指示が有ったそうじゃ。丁度バルア部隊長も確保しておったしのう、偶然とは時に恐ろしく感じるものじゃ」

 

 スヴェンはあの時、ルーメンの近くに在る森でゴスペルに属する野盗を討伐し、その時に村の襲撃に利用されそうな邪神教団のローブがこんな形で役に立つ日が来るとは思いもしなかった。

 偶然の重なりが時に事態を好転させれば、逆の結果を齎すのもグランデ大使のしみじみと語る様子から強い実感を齎す。

 自分もまた偶然によって助けられた身だと。

 

「そうじゃ、お主に万眼鏡を授けておこう」

 

 グランデ大使はそう言うが速いか、引き出しから双眼鏡を取り出しスヴェンに手渡した。

 魔法陣が刻まれた双眼鏡。これも魔導具の一種だと認識したスヴェンは、

 

「良い道具だ、有効に使わせて貰う」

 

 不器用な言葉を告げた。

 

「うむ。渡す物も渡した。あとは貴殿ら次第じゃ」

 

 グランデ大使の言葉にスヴェン達は頷き、庭で待機していた荷獣車に乗り込んだ三人はフェルム山脈に向けてハリラドンを走らせた。

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