傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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14-5.問答と信頼の価値

 スヴェンはドアを開ける前にミアとアシュナに、中に誰かが居ることを手振りで伝えた。

 氷竜が飛び去り、一時の安堵を得た二人の表情が緊張で強張る。

 一先ず姿を見られて不味いアシュナに、屋根に静かに飛ぶように合図を送ったスヴェンはガンバスターを引き抜く。

 

 ーー敵か、それとも。

 

 ドアに手を掛け、掌に緊張感が走る。

 幸い邪神教団に扮しているため、邪神教団と遭遇したところである程度の誤魔化しは効く。

 問題はなぜ突如気配が現れたのかだ。

 疑念を浮かべるスヴェンは勢いよくドアを押し開け、突進する様に山小屋に飛び込むーーすると頭部に角を生やし、悪魔の翼と尻尾を持つ特徴的な数人の人物が一斉に魔法陣を展開した。

 山小屋に現れた正体が魔族だと気付いたスヴェンはガンバスターを鞘に仕舞い、両手を挙げて見せる。

 魔族はスヴェンの行動に訝しげな様子で睨む。

 

「これはこれは信徒じゃないですか、一体どうしてこの様な場所に? 召集令に応じたのでしたらご苦労なことですね」

 

 素性を邪神教団の信徒と捉えた女魔族が棘を感じさせる口調で警戒を続ける。

 彼女を始めとした魔族は焦っている。僅かに震えた肩と睨みながらも泳ぐ視線ーーお互いに予想外の遭遇ともなりゃあ仕方ねえか。

 此処は素直に素性を明かすべきか。すでに詠唱を唱えるだけで魔法が発動するばかりの魔法陣が向けられている状況だ。

 この状況下で目撃者の口封じは常套手段だ。寧ろ魔王アルディアの安全を考慮するなら尚更に。

 ただ行き違いで殺される訳にもいかない。スヴェンはその場から動かず魔族に真っ直ぐな視線を向ける。

 そして邪神教団のフードを退け、彼らに素顔を曝す。

 

「アウリオンから協力者に付いて何か聴いてねぇか?」

 

 アウリオンがこちらに関する情報を共有してなければ無駄に終わる質問だが、

 

「金髪、紅く鋭い三白眼と底抜けに冷たい瞳……背中の変わった武器ーーもしかしてアウリオン守護兵隊長が言っていた協力者の異界人!」

 

 どうやら容姿の情報が魔族同士で共有してされていたようだ。

 先程まで浮かべていた疑念が杞憂に終わったスヴェンは、外で待機していたミアを手招き。

 

「この格好だから誤解が有ったみたいだね」

 

 フードを退けながら山小屋に入るミアに魔族の一人の顔が驚愕に染まる。

 

「なに? 彼女と顔見知りなの?」

 

 女魔族の問い掛けに男魔族が息を荒げ、興奮した様子で語り始めた。

 

「知らないのか!? 若くして再生治療魔法を編み出した治療魔法の天才を! ああっ! まさか天才と謳われるミアさんがこんな場所に来るなんて夢のようだ!」

 

 饒舌に語り出した男魔族にミアは悪い気はしないのか、もっと照れた様子で頭を掻く。

 ミアの存在で魔族から警戒心が薄れゆくのを感じたスヴェンは、次からは真っ先にミアと顔合わせさせた方が面倒も無くて良いのでは? そんな疑問を内心で浮かべては、それでも自身に対して向けられる警戒心は依然と残ったまま。

 この場合、ミアの確かな実績と功績から噂を聞き及んでいた魔族側も彼女は信頼に値すると判断したのだろう。

 逆に言えばなんの功績も無い異界人のスヴェンが此処で彼らの警戒心を解くのは難しいと納得する。

 

「……ミアさんが協力者だなんて心強いわね。けど、そこの異界人は本当に信用出来るの? 言っちゃあ悪いけど多くの異界人が邪神教団に降った所を見てると信用なんてできないわ」

 

 三年も魔王救出を願い行動に出たレーナと同様に、彼らもまた三年という年月の中で邪神教団に支配されている現状を耐え続けてきた。

 いつか、必ず魔王救出が果たされると。

 だが、実際に居城都市に現れた異界人は既に邪神教団に堕ちた者だった。

 それでも自ら動けず、邪神教団に顎で使われる魔族はレーナに対する信頼から期待し待ち続ける他に選択肢も無く。

 これはあくまでスヴェンの推測の一つに過ぎないが、レーナが異界人に裏切られると同時に魔族も異界人に失望していた。

 だからこそスヴェンは軽々しく信用、信頼しろと言うつもりも無い。

 

「これから巨城都市に邪神教団の信徒として潜入すんだ、俺の事は常に疑っておけ」

 

 寧ろ現状向けられている疑いが、潜伏の助けにもなり得る。 

 

「……スヴェンさんは本当にそれで良いの?」

 

 ミアの問い掛けにスヴェンは何も言わず、それで良いと頷いた。

 

「分隊長……判断を」

 

「判断も何も最優先事項は魔王様の救出よ。それに繋がるなら例え死神だろうと利用してやるわ」

 

「分隊長の判断に自分も納得です……それにミアさんは心強い味方ですし、リン守護兵からあの異界人は無茶苦茶だとも聞き及んでいます」

 

「えっと、一応協力は結ぶっと理解して良いんですよね?」

 

「えぇ、それで構いません。尤もミアさんにとっても些か不服のようですけど」

 

 指摘されたミアはそんな事は無いっと笑みを浮かべて取り繕い、

 

「それで、気配も無く如何やって山小屋に入ったんですか?」

 

 突然山小屋に現れたことに付いて訊ねた。

 すると女魔族は語るよりも早しと言わんばかりに、床の板を引っ剥がす。

 床下に隠された隠し通路にミアは得心したと理解を示し、スヴェンは古典的な隠し通路に感心を浮かべた。

 フードを目深に被り直したスヴェンは、

 

「ヴェルハイム魔聖国の何処に通じてんだ?」

 

 行き先を訊ねると、男魔族が神妙な眼差しで語った『巨城都市エルデオンの最下層、そこに我々の拠点が在る』っと。

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