傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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14-7.巨城都市の最下層

 魔族達の案内によってフェルム山脈の地下道を通り、長い道のりを得てスヴェン達は最下層に続く梯子の前に到着していた。

 地下道は守護結界の影響も有って安全かつ単純な道順だったが、ここまで実に三日が掛かった。

 ミアは単調で変わり映えしない地下道に疲弊した顔付きで、

 

「や、やっと着いた……体力には自信が有るけど単純な道ほど疲れるなぁ」

 

 吐息と共に呟き、そんな彼女に魔族達が苦笑を浮かべる。

 

「元々魔王様の緊急脱出経路だったけど、本来は魔族の同行が無ければ複雑で出入り口が存在しない地下迷宮に変わるのよ」

 

 魔族の協力が無ければ安全に地下道を抜けることは不可能どころか、辿り着けもしないとなれば自身が出す選択肢と解答は慎重に選ばなければならない。

 スヴェンは極めて危うい協力関係に内心ではこのままではダメだっと危機感を募らせながら梯子を見上げる。

 この先は魔王解放のために最下層に集った魔族達が居る。

 依頼のために動くスヴェンと君主のために動く魔族達とではそこに伴う覚悟と重みも違う。

 特に作戦の失敗は魔王を危険に晒しに魔族の弾圧にも繋がる恐れが有る。

 魔族の解説に興味深そうに相槌を打つミアを他所に、スヴェンは傭兵として改めて気を引き締めていた。

 

「……異界人はお気楽思考なおめでたい連中だと思ってたけど、お前は違うのか?」

 

 男魔族の静かな問い掛けにスヴェンは表情を変えず底抜けに冷たい眼差しを向ける。

 

「否定の言葉ってのは幾らでも吐けるが、アンタらが欲しいのは魔王救出の結果だろ。それに異界人ってのは所詮余所者だ」

 

 異界人は結局の所どこへ行こうとも余所者で、不純物でしかない。

 不純物はいずれ取り除かれるものだ。だから邪神教団に組した異界人はそこら辺の隙を的確に突かれたのかもしれない。

 そこにレーナに対する疑念を囁かれれば揺さぶられた精神が思考を狂わせる。

 

「余所者……自分のことをそう評価するヤツとははじめて出会ったよ」

 

 わざとらしく肩を竦める男魔族にスヴェンは、

 

「客観的、第三者から見た異界人の立場を言い表すならこれ以上に簡単な表現はねぇよ」

 

 口角を吊り上げてみせた。

 男魔族は先に梯子を上り、スヴェンが彼に続けば話し込んでいたミア達も後に続く。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 地下道から広々とした一室に出たスヴェン達を、

 

「予定よりも若干早いな……氷竜がフェルム山脈に棲みついたと聴いた時はどうなることかとヒヤッとしたぜ」

 

 包帯を巻いた腹部を露出しながらも防具に身を固める気怠るな男魔族が待ち構えていた。

 男魔族の醸し出す空気とこちらを疑う眼差しにスヴェンとミアは不快感を宿さず、スヴェンは背中のガンバスターの柄に手を伸ばす。

 同時に男魔族は腰の長剣を引き抜き、スヴェンに対して一振り放つ。

 対するスヴェンは刃を避けることはせず、鞘から引き抜いたガンバスターを刃を弾く。

 振り抜かれた刃が軽い。単なる試し感覚で放たれた斬撃だと理解したスヴェンは男魔族が鞘に長剣を納めるのと同時に、ガンバスターを鞘にしまう。

 

「リンドウ隊長! 注意事項4を忘れたんですかっ!?」

 

 リンドウと呼ばれた魔族は、男魔族に咎められながら痛むのか腹部を気怠そうに摩った。

 

「覚えてるよ。傭兵スヴェンとやり合うな……アウリオンとリンから口酸っぱく言われたことぐらいよ」

 

「……アウリオン守護兵隊長とリン守護兵から忠告されてるのに試したんですか、それで傷口が開いたと……バカなの?」

 

 女魔族の冷ややかな口調にリンドウが大袈裟にため息を吐く。

 

「前は上司想いの優しい部下達だったのに、ここ3年で小生意気になっちゃってまぁ」

 

「誰が原因かご自身の胸に手を当ててよく考えてください。……まあ、でも傷のことならミアさんが居て助かりましたね」

 

 ミアは頼まれるよりも早く、彼女は杖を片手にリンドウの腹部に杖の先端を翳そうとして止めた。

 

「えっと邪神教団の監視下に有るあなた達を治療して大丈夫ですか?」

 

「かなり拙いな。連中は戦線から離脱した負傷兵を記録してる」

 

「じゃあ治療魔法はダメですね……スヴェンさん、止血してあげて」

 

 傷口が開いた原因が試しによるもの。それをいちいち面倒を見てやる必要性が無いようにも思えるが、負傷兵の手当は戦場の感覚を刺激させる良いスパイスだ。

 スヴェンはミアが差し出した包帯を受け取り、素早くリンドウの背後に回り込みーー防具を外し、インナーを捲り上げ血で汚れた包帯を解く。

 リンドウが何か言う前にスヴェンは慣れた手付きで軟膏を貼り、強めに包帯を縛る。

 

「身体がブレたなぁと思えば……はやっ!?」

 

 驚愕する男魔族を他所に包帯の交換を終えたスヴェンはミアの隣に戻り、

 

「アンタらその傷……激戦だったのか?」

 

 周囲の魔族が包帯を巻いてることから、その件を含めてリンドウの傷に付いて訊ねる。

 

「連中の目を欺くための方法を実行した結果さ。それよか、アンタらと共有すべき情報も有る……アウリオンとリンは合流できそうに無いからな、先に作戦会議と行こうじゃないの」

 

 アウリオンとリンがこの場には来ない。

 スヴェンはアウリオンと取り決めていた事柄を頭に浮かべながら、先導するリンドウと共に会議室へ踏み込んだ。

 密かにアシュナが気配を消しながらこの場に潜伏してることを認識しながら。

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