傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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14-8.救出へ向けた会議

 円卓に集ったリンドウ率いる魔族達と少し離れた所にスヴェンとミアの二人は、ボードに貼り付けられた事細かな情報に視線を向けた。

 邪神教団の各階層における巡回時間とルートを加えた巡回人数、それだけでもスヴェンにとっては遥かに有益な情報のなのだが、貼り出された地図に記された赤線と追跡者と書かれた一文に嫌でも眼が行く。

 

「色々と疑問は有るだろけどよ、今回の救出作戦の要はスヴェンとミアだ」

 

「この拠点が位置する最下層は地図と巨城都市構造図に記されて無い場所だ。そこから二人は下層の市場区から連中と合流して欲しい」

 

 リンドウの言葉にスヴェンは一旦、追跡者を頭の隅に追い遣り下層部の地図に視線を向ける。

 

「巨城都市の入り口が市場区、か。場所は南入り口……ってことはエルリア側ってことか」

 

「あぁ、エルリア側から来た信徒は外部入信者も多く配属されてる。全員同じローブなら誰が入れ替わっても気付かれ辛いだろ」

 

 潜入作戦で連中の誰かを密かに始末し、所属人数で不信感を持たれないように入れ替わる。

 それは潜入作戦で何度か経験したことも有るが、今回の件で懸念も有った。

 

「中にエルリアの平民が紛れ込んでる可能性はあんのか?」

 

「いや、諜報部隊が調べた限りじゃあ野盗、ゴスペルから引抜きだとかだな。少なくとも同盟国の国民は確認されてねぇ」

 

「なら信徒を二人始末して入れ替わる。死体の処理はこっちでも可能だが?」

 

 スヴェンが傭兵として冷徹な判断のもとリンドウに訊ねると、彼の代わりに一人の女魔族が手を挙げて答えた。

 

「死体は万が一の為の偽装に使いますよ。だから二人程始末したら死体は最下層に運び込んでください」

 

「了解した……潜入方法に付いては理解したが、俺達は隙を見て魔王城を目指せば良いんだな」

 

「あぁ、なるべく信徒に不信感を持たれないように自然な形でだな。……二人共、少し信徒を演じてくれねぇか?」

 

 リンドウの試すような視線にスヴェンはすぐさま自身の思考に自己暗示を施す。

 傭兵として敵兵の捕虜になり、拷問を受けた時に自己暗示で情報を漏らさないために身に付けた技術の一つを躊躇なく実行に移し、これまで遭遇した信徒と彼らの人格を基に演じる人格を形成した。

 スヴェンは人格切り替えの合図として数回喉を鳴らし、焦りに塗れた表情を浮かべる。

 

「……貴様ら! こんな所に集まって何を企んでる!? それに背後のボードはっ!」

 

 声を変え、リンドウを邪神教団に敵と鋭く睨み、ガンバスターの柄に手を伸ばして見せる。

 

「そうか、邪神教団に楯突くと言うのだな。……貴様らは選択を誤った」

 

 そんなスヴェンの急変とも言える言動と声にリンドウのみならずミアまでもが驚愕に染まった。

 スヴェンはミアを視界に入れ、数回喉を鳴らし思考を切り替えた。

 

「……ふぅ。自己暗示と人格の切り替えはあんま使いたくねぇ方法だが、演技には持って来いだろ?」

 

「……魔法でも使った? いや、詠唱も魔力を操作した様子も無い。ミア、ソイツは何者だ?」

 

 異界人としてのスヴェンにある種の戸惑いと疑いを持つリンドウと魔族の視線にミアは苦笑混じりに肩を竦めた。

 

「一言で言うなら異世界の傭兵ですね。自称外道の口も悪いですけど、仕事に関しては根は真面目で義理堅い一面も有る異界人です」

 

「なるほどねぇ……それだけの演技ができるなら心配は要らなさそうだな。じゃあ次はミアにやって貰うか」

 

 リンドウの指示にミアは息を吸い、虚な眼差しを向けた!

 

「邪神様の生贄は本望! 死こそが我ら信徒の祝福! さあ! 共に邪神様の生贄になろうではないか!」

 

 普段の口調から想像にも及ばない男性口調と高めの声に魔族達の表情が驚愕に染まる。

 スヴェンは意外にも演技派な一面を見せるミアに、舌を巻きながら内心で賞賛の言葉を浮かべた。

 ミアの演技は傭兵として培った経験と技術、自己暗示の類いじゃない。

 ミアの人格と思考を維持したまま行われる演技は、役者のそれと同じように思えた。

 治療魔法しか使えないミアなりの努力の一つに過ぎないかもしれないが、メルリアで見せた恋人のフリとは段違いだ。

 

「……アウリオン守護隊長はいい人材と協力関係を取り付けたなぁ」

 

 リンドウがしみじみと感想を呟き、演技に合格を得たミアはこちらにドヤ顔で胸を張っていた。

 

「どう? 必要になると思ってイメージトレーニングを重ねたんたけど、これでスヴェンさんも安心できるよね」

 

「あぁ、文句無しだ」

 

 素直に褒めればミアは照れ顔を浮かべ、ボードに視線を移す。

 

「えっと、潜入方法もこれで問題無いとして……地図に記された追跡者って何なんですか?」

 

 ミアは作戦会議の続きと言わんばかりにリンドウ達に追跡者に付いて訊ねる。

 すると魔族の纏う空気が戸惑いに変わり、追跡者に付いて女魔族が答えた。

 

「邪神教団が放った異形の信徒……いえ、酷く膨張した筋肉と理性を失った瞳、悍ましい呻き声から怪物ね」

 

「ソイツは警備補充員として各階層に配備されているけど、信徒内に出された注意表にはこう記載されていたわ」

 

「『1.追跡者運用の際に辺り、戦闘態勢に入った追跡者から離れるように。2.階層指導者以外は間違っても追跡者に近付かないように。3.追跡者が魔族を敵認定しないように定期的な薬物投与と暗示を施すこと』以上の事を踏まえて留意しておいて」

 

 巨城都市エルデオンに配備された追跡者ーーそれは恐らく薬物投与された強化兵の類か。スヴェンはミアの質問に答えた女魔族に訊ねた。

 

「ソイツは薬物投与以外に何らかの魔法を使われてるのか?」

 

「遠目から視認したけど、邪神から与えられた魔法なのか……どんな効果の魔法かは分からなかったわ」

 

 正体不明の魔法。まだ情報が欠けているが、それでも零よりは遥かにマシだ。

 スヴェンは追跡者を最大限に警戒すべき存在として念頭に置きながら、

 

「アンタらが動けんのは魔王救出後か?」

 

 彼らの実行に付いて質問した。

 

「魔王様を救出しない事には俺達も邪神教団殲滅戦を実行できねぇ。ついでに内部清掃も兼ねってからアンタらは魔王様をエルリア城まで届けてくれ、それがアンタらができる仕事だ、殲滅作戦まで付き合う必要はないさ」

 

「まだ危険が残る自国よかは良いってことか。なら救出の合図は空に魔法を放つ。……そうだな、成功は風の魔法三発、失敗は四発だ」

 

「全部隊に知らせておこう………あ〜ところで、魔王様を凍結封印から解放する手段は有るのか?」

 

「あぁ、こっちで用意したもんを使う」

 

「それってエルリアの魔法技術ですか!」

 

 スヴェンは凍結封印の解呪方法に食い付く若い魔族に視線を向け、

 

「あぁ、()()()()()()()()()()

 

 嘘を吐かず彼にそう答えた。

 そんなスヴェンにミアは一瞬だけ眉を顰め、すぐさま愛想笑いで取り繕う。

 封炎筒の瑠璃の浄炎は万が一に備えて情報をギリギリまで伏せるが、首都カイデス出発時にミアに手渡した瑠璃の浄炎と合わせても秘策としては余裕が無い。

 一度でも邪神教団に瑠璃の浄炎に関する情報が漏れれば、魔王救出は足元に居ながら遥か天上の頂き、それほどまでに遠退く。

 スヴェンは改めてボードに視線を移し、

 

「それで? 他に俺達が注意すべきことだとかはあんのか?」

 

「注意すべきことは無いさ。ただ伝えておくべき情報も有る。まず一つは外部協力者として密かにアトラス教会が潜伏中なこと、各階層でアルセム商会が目撃されてる点だ」

 

 アルセム商会とヴェイグの顔を思い出したスヴェンの眉が歪む。

 

「……アルセム商会だと?」

 

 万が一ヴェイグが巨城都市に居るなら彼の嗅覚で潜入は愚か、この場所も突き止められてしまうだろう。

 

「ヴェイグは来てんのか?」

 

「いや、来て無いらしい。まぁ、アルセム商会の潜入は不本意なんだが……三年も外交断絶となれば必ず不足物資も出るからなぁ」

 

 確かに交易を断たれてる状態では物資に限界が訪れる。

 魔族は限られた物資のやり繰りを強いられる反面、邪神教団は配下の商人から物資の補給が可能だ。

 

「そうか……巨城都市内にモンスターが放たれたってことは?」

 

「……確か、アンノウンとか呼ばれるモンスターが上層の広場に放たれてるな」

 

 まだアンノウンを邪神教団に提供した仲介人は正体不明なまま。

 

「アンノウンを誰が放ったのか知ってるか?」

 

「……何でもエルロイ司祭の個人的な繋がりだとか、エルロイ司祭から専用の召喚魔法を教わっただとか……そもそもエルロイ司祭に個人的な友人が居るのか? なんて情報や疑問も有るぐらいで具体的には判らん」

 

 まだ仲介人の正体は掴めそうに無いが、結局探るよりもエルロイ本人から直接聞き出した方が速い。

 スヴェンはそう結論付けると、

 

「そう言えば、2日ほど前にエルリア各地でアンノウンの遺体が動き出したそうだ」

 

 リンドウが最近起きた情報を口にした。

 人工的に人の手によって産み出されたモンスターは確かにエルリア各地に運び込まれたことをクルシュナから聴いていた。

 そこで調べる内に不審な魔法陣に気付き、解析すればするほどなぜアンノウンがエルリア各地に放たれていたのかが判明したことも。

 未知のモンスターとなればエルリアは対策や研究のために遺体を要所に運び込む。

 魔法騎士団の駐屯所、モンスター研究所、エルリア城、そして技術開発研究所にアンノウンの遺体を運び込ませることが何者かの計画だった。

 それに気付いたクルシュナはオルゼア王に性質と対策に付いて報告した上で、対策を実行に移した。

 アンノウンに施された魔法陣の発動に連動して遺体を結界で密閉するというーー復活した瞬間に圧死させるというある意味で不老不死に対する最適解を。

 クルシュナから聴いた話を頭に浮かべていたスヴェンは、

 

「邪神教団が策略を仕掛けた相手は魔法大国エルリアだ、何らかの対策はしてんだろうな」

 

「ほーん、さては既に何か聞いてたね?」

 

 ミアの問いにスヴェンは彼女を真っ直ぐと見詰め、やがて笑って見せた。

 

「くぅぅ〜普段見せない笑顔、しかも爽やかでいい笑顔なんて!! 誰か魔道念写器持ってない!?」

 

 ミアが魔族に魔道念写器を纏めてる間に、スヴェンはいつもの表情に戻してはリンドウが先払いし、

 

「んっ! これで必要な情報共有も終わったな。以上をもって解散とする!」

 

 彼の解散の号令によって魔族達が会議室から退出を始め、スヴェンはその場に残るようにボードに貼られた地図に視線を移す。

 

「あれ? スヴェンさんはまだ残るの?」

 

「ああ、もうちっと地図を頭に叩き込みてえ」

 

 それだけミアに告げると彼女はリンドウと一緒に会議室を退出した。

 一人残されたスヴェンは天井の通気口に視線だけ向け、そこにアシュナの姿を確認する。

 

「こっそり精霊召喚を使ったけど……ルーメンで感じた悪人が何処かに居るって」

 

 気になる情報を齎されたスヴェンは眼を瞑った。

 ルーメン村に居た悪人が巨城都市エルデオンに居るが、あの村には邪神教団は居なかった。

 調査中にあの村に居たのはアルセム商会だ。

 

 ーー疑うにも判断材料が足りねぇ。

 

 それこそアルセム商会の商人の内の誰かという事も有り得る話だ。

 

「必要な事は伝えたよ。引き続き影の護衛に移るね」

 

 それだけ告げるとアシュナは通気口から姿を消した。

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