傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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14-10.潜入

 邪神教団がフィルシスとアウリオンの攻防に魅入られている頃、下層部の市場区に単独で赴いたスヴェンは山積みの荷物の影に隠れ周辺を窺う。

 巨城都市下層の外壁部分に位置する市場区は、屋台が並び邪神教団が我が物で蔓延る。

 最下層の入り口はハイベルグ精肉店の倉庫に隠されているが、付近の巡回中の信徒と精肉店から距離が無い。

 本来なら離れた位置で邪神教団を始末し、拠点に死体を持ち帰るところだがーー魔族と彼らに認められた者だけが認識できる入り口、か。

 拠点に通じる入り口は行動開始直前に魔族に施された魔法陣の影響で、彼らの案内が無くとも視認可能になった。

 そのため邪神教団に発見できない入り口を心配する必要性も無い。

 同時にスヴェンは行動開始直前に、ミアに刻まれた魔法陣になんとも言えない表情を浮かべる。

 

 ーーアイツも自分で刻んでいたが、発動することがねえようにしねぇとな。

 

 スヴェンはそれだけ注意事項として胸の内に留め、巡回の信徒の人数が少ないことに気が付く。

 

「……(確か、連中は下層だけでも少人数で巡回部隊を20部隊で行動してるとか言ってたいたな)」

 

 一部隊ニ、三人編成、下層の巡回部隊だけでも四十、六十人の信徒が居るはず。

 他にも別部隊が居ることを考慮すれば散漫的に信徒の姿を目撃して良いはず。にも関わらずスヴェンの視界には屋台を興味深げに眺める二人の信徒だけ。

 不審に感じたスヴェンは息を潜め、耳を研ぎ澄ませた。

 

『エルリアのラデシア村の屋台より大きいよなぁ』

 

『ここの装飾品屋は国内で採れた琥珀や浮遊魚の歯を加工してるらしいね。それに巨城都市に入って最初に到着するのがここだから力を入れてるんじゃない?』

 

『巨城都市以外に町も村も無いから力を注ぎ易いってことぉ?』

 

『さぁ? 国の運営だとかさっぱりだよ。エルロイ司祭にはその辺も学んでおけとは言われ……あぁ、あなたは外部入信者だったね』

 

『そっ、両親も熱心な邪神教団の信徒でメルリアで活動してたかな』

 

『メルリア……ということは同志はっ』

 

 メルリアで全滅した信徒の悲報に悲しげな表情を向ける信徒に、少年信徒の眼は輝いていた。

 

『気に病むことも無いさ。父と母は邪神様の役に立った、それは信徒として尤も幸福だろ?』

 

 スヴェンは物影から歩き出し、狂気を浮かべる少年信徒に無感情のまま距離を近付ける。

 無音無呼吸、付近に他の気配が無いか細心の注意を払いつつ対象二名の視界外から徐々に距離を詰める。

 邪神に対する幸福を語り合う少年信徒と少女信徒、二人の表情はいずれ自分達もそうなることを望み、生贄に対する疑問を挟む余地も無い敬虔な信徒として熱弁を繰り広げていた。

 邪神教団のフードを目深に被ったスヴェンの接近に気が付かずに。

 少女信徒の背後ら突如伸ばされる鍛え抜かれた腕が、少女信徒の首をあらぬ方向に捻じ曲げる。

 

 ーーゴギュ、首骨と潰れた呼吸が混じり合った音、目の前で首を折られた少女信徒の姿に少年信徒は漸く気が付く。

 

 何者かが接近して同胞を邪神の元へ送った。床に崩れる少女信徒の姿に、少年信徒は自分も邪神の元へ逝きたい情熱を抑えながら同胞の仇を捜すべく頭を動かす。

 だが、スヴェンは少年信徒の行動よりもいち早く彼の背後に周り込みーーゴキンっ! 少年信徒の首骨を無慈悲に無感情のまま折った。

 スヴェンは始末した十代前半程度の二人の少年少女を両脇に担ぎ、落とし物の有無を確認した上で目撃者が訪れる前にその場を静かに立ち去る。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 始末した少年少女信徒と入れ替わる形でスヴェンとミアの二人は、外壁部分からエルリアの国境線。

 そこで繰り広げられてる剣戟に魅入られる邪神教団に紛れ込んでいた。

 その際にミアが小さく意味ありげな息を漏らしたが、あの場所でアウリオンと銀髪の女性が繰り広げている剣戟を見ればそれも無理は無いように思える。

 

 ーー互いに殺意はねぇな。だが、繰り広げられる剣技と攻防が邪神教団の眼を欺いてんのか。

 

 これが合流も情報共有もできなかったアウリオンなりの支援なのかと察したスヴェンは、一度銀髪の騎士ーーフィルシスに視線を移す。

 ここから肉眼では彼女の顔をはっきりと観れる訳では無いがーー確かな距離が有るにも関わらず、目が合ったような錯覚に見舞われ、フィルシスの口元が楽しげに歪んだように見えた。

 

「(……ミアからある程度の話は聴いていたが、なるべく関わりたくはねぇな)」

 

 彼女の見透かした視線は、もしも自分が狙撃者だったなら眼が合った時点で居場所が特定された挙げ句に精神を揺さぶれ冷静な狙撃は叶わなかった。

 スヴェンは底抜けに冷たい視線をフィルシス達から離し、魅入られる信徒達からミアと共に静かにその場から離れた。

 その際に彼らのポケットから折り畳まれた紙を拝借して。

 二人はアシュナが密かに潜伏してることを確認しながら、次の階層へ続く大階段を目指して下層街へ足を運ぶ。

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