傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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第十五章 巨城騒乱
15-1.中層へ進むには


 巨城都市エルデオンの下層に位置する下層街に足を運んだスヴェンとミアは、足を止めフード越しから民家の窓からこちらを覗き込む視線に眼を向けた。

 魔族の両親が子を背に隠し、敵意に染まった眼差しで睨みながら窓のカーテンを閉じる。

 

「すっかり悪役だねぇ、我ら邪神教団も中々理解して貰えないもんだね」

 

 邪神教団の信徒役に徹したミアが薄らと笑みを浮かべ軽い口調でぼやく。

 しかし、当然と言うべきかミアの翡翠の瞳の奥底は潜入中とはいえ味方である筈の魔族に敵意を向けられたことに対する悲しみが宿っている。

 スヴェンは敢えてその事を指摘せず、レンガの道路を歩き出す。

 カツン、カツンと靴底の音が反響する中、スヴェンとミアの反対方向から同様の足音と気配が近付く。

 スヴェンが背後に振り向けば、二人組の信徒が片手を振りながら駆け寄って来る。

 

「やあ! やあ! 敬愛なる同志よ! 見掛けない顔と武器だけど、外部入信者かな!」

 

 やたらテンションの高い男の信徒がそんな質問をしてきた。

 スヴェンは男の信徒ーー暗く濁った眼を真っ直ぐ紅い瞳で見詰め、

 

「あぁ、邪神様に魅入られてな」

 

 何処から来たかは答えず、尤もらしい解答だけを述べる。

 スヴェンが述べた返答に男の信徒は満足気に笑みを浮かべ、

 

「ということは最近到着したばかりということだね!」

 

 やはり高いテンションで声を張り上げた。

 目の前の男の声はよく通る反面、もう一人の女の信徒は大人しくこちらを観察してるだけだ。

 

「最近来たばかりで指示を乞うために一先ず中層を目指してんだが、誰に指示を仰げば良い?」

 

「外部入信者の出入りは下層までだよ! だから指示は下層の指導者ーーバルキット信徒に聴きたまえ!」

 

 外部入信の中に紛れ込んだ患者に対する対策か。となれば彼と接触した時点で自ずと監視も付けられるだろう。

 スヴェンは一先ず男の信徒の指摘に相槌を打ち、

 

「バルキット信徒だな? ソイツは何処に居る?」

 

 指示を乞うべきバルキット信徒の所在を訊ねた。

 

「今の時間帯は、15時13分か。……今ならバルキット信徒は下層の東、歓楽街に居るはずだ!」

 

 現在地点は下層の中心に位置する下層街だ。そこから東の歓楽街にバルキット信徒と呼ばれる下層の指導者が居る。

 

「分かった、それで……バルキット信徒の特徴は?」

 

「鶏のようなトサカヘアだ!」

 

 ローブを纏いフードで顔を隠す信徒の中からトサカヘアを探すのも中々面倒に思えた。

 

「……全員フードで顔を隠してると思うんですけど」

 

「あーあ! バルキット信徒は自分の髪型に自信を持っていてね! 絶対にフードで素顔を隠さないんだ!」

 

「なるほど、早速行ってみるとするか」

 

 スヴェンが男の信徒に背を向けると、

 

「あっ! 同志よ! くれぐれも追跡者には気を付けよ! 奴は我々本拠組みを見分けられるけど、外部入信者は敵と認識してしまうからね!」

 

 追跡者に対する忠告を語った。

 ここで外部入信者として追跡者に関して質問しなければ不自然だ。

 最下層の魔族達が集めた情報の正確性を確かめる為にもスヴェンは問うた。

 

「その追跡者ってのは?」

 

「我々の秘術によって誕生した僧兵さ! ……ただ禁術や禁薬を自ら投与し続けた結果、異形に成り果ててしまったのは残念極まりない!」

 

 禁術と禁薬で異形に成り果てた僧兵。それが複数人となれば厄介この上ない。

 

「……そうか、襲われた時はどうすれば?」

 

「そうだった! 外部入信者全員に教えておかなければならないことだった! 良いかい? 奴は敵と定めた者を殺すまで追い続ける。だから君達は遠慮せず反撃したまえ!」

 

「えっ、良いんですか? 同志ですよね……?」

 

「大丈夫さ! それよりも君達は追跡者が倒れた隙に逃げる! それが吉だ!」

 

 まるで倒せないと語っているような口振りだ。

 その事に違和感を感じたスヴェンは男の信徒の眼を見てーーそれ以上は追求せず、ミアと共にその場を離れた。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 下層街の東通りを歩きながら、物陰から感じるアシュナの気配を背中に感じたスヴェンは他に気配が無いか確認した上で、隣を歩くミアに視線を移す。

 するとミアはこちらを見上げながら訊ねる。

 

「もっと追跡者に対して聴かなくて良かったの?」

 

「奴の眼は常に俺達を疑っていた。言動や質問、挙動に至るまで。特に背後に居た無言の女はな」

 

「あれかな、外部入信者って一括りにしても彼らにとって私達は余所者だからなのかな?」

 

「それも有るんだろうが、外部入信者は間者が忍び込むには丁度良いだろ」

 

「うーん、やっぱり信徒と接触を続けるのは危険だよね。それに私達ってわざわざバルキット信徒に会う必要か有る?」

 

「さっきの男が後からバルキット信徒に俺達の事を訊ねでもしてみろ。奴の疑いは確信に近付き、巨城都市の邪神教団全部隊に伝わるだろうよ」

 

「はぁ〜すぐに中層に行けるかと思ったけど、やっぱり作戦会議で言われた通りだね」

 

 目的は魔王救出だが、潜入と救出を確実に果たすには先ず敵から信用を得なければならない。

 だからリンドウは二人にこう指示した。中層への道が阻まれたら先ずは信徒の信頼を勝ち取れと。

 

「信徒の注意が最前線に向いてる隙に進みてぇところだったが、潜入の定石に従う他にねぇな」

 

「じゃあ追跡者に気を付けつつバルキット信徒と合流だね」

 

 スヴェンとミアの二人は歓楽街へ続く道路を真っ直ぐと進むと、下層の何処からか重い鋼鉄を引き摺る音が響き渡る。

 それが例の追跡者のものだと判断した二人は同時に地を蹴り、歓楽街へ駆け出すのだった。

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