傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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15-2.歓楽街の信徒

 物静かで寂しげな風が吹く伽藍とした歓楽街に到着したスヴェンとミアの二人は、魔族の視線は感じるが決して店や施設から出ようとしない様子に眉を歪める。

 これも邪神教団の命令、本来魔族が従う理由も無い自由や行動を制限する命令を従わざる負えない苦痛と精神的屈辱。それはまだ魔王アルディアが無事だから保たれている平静に過ぎない。

 スヴェンはいつ爆発するかも分からない魔族の視線に触れず、物静かな歓楽街を歩き始めた。

 物静かなせいか、フェルシオンの歓楽街とはまた違う印象を受けるが一際スヴェンの眼を惹くのが獣肉の霜降りステーキを宣伝する飲食店だ。

 そこには看板に写真付きで掲載された獣肉の霜降りステーキが……。

 

 ーー今度来てみるか。いや、そうじゃねえ! 今は仕事優先だ!

 

 スヴェンは己の食欲に誘惑という名の毒牙を向ける飲食店から離れるように歩く速度を速める。

 第一魔王アルディアを救出しない限り何処の飲食店も休業日だ。

 これは早急に救出を成し遂げ後日獣肉の霜降りステーキを食べに来るしか無い!

 スヴェンは内心でそう結論付けると同時に邪神教団に対する殺意を強めた。

 

「えっと、なんだか殺気が凄いけどさ……大事なこと忘れないでよ?」

 

「バルキット信徒に指示を乞うだろ? 特徴はトサカヘアらしいが……ん?」

 

 スヴェンとミアは歓楽街の広場に集まり、トサカヘアの信徒を筆頭に謎のーー形容し難いポーズを決める信徒達に眼を疑う。

 一体全体広場で何をしているのか、なぜそんなやり切った! 充実感に満たされた爽やかな笑みで形容し難いポーズを保っているのだろうか?

 あそこにハンドグレードを投げ込んでやりたい。早急に中層に向かい魔王アルディア救出の段取りを進めたい。

 そんな欲求をグッと堪えたスヴェンは、

 

「……特徴的なトサカヘア、確かに鶏みてぇな髪型だな」

 

 ミアに向けて探していたバルキット信徒だと告げれば、彼女は嫌な表情を隠さずこう零した。

 

「……無理なんだけど、意味不明でダサ過ぎて近付きたく無いんですけど」

 

 歳頃の少女には受け入れ難い何かを発する信徒の集団は、ミアにとって拒否感を与えるには充分な存在らしい。

 それでも魔王救出は最優先事項だ。そこに近付きたく無いなどと事情を交え、救出に遅れを出すようでは魔族や魔法騎士団のこれまでの苦労が報われ無い。

 それに幾らミアが嫌がろうとも既にバルキット信徒はこちらを捕捉し、ポーズはそのままにちらちらとこちらに視線を向けるばかり。

 

「ほら行くぞ、先から来て欲しいそうに見てんだからよ」

 

「私、これが終わったらあの人(姫様)に甘えるんだ」

 

 意を決したミアと共にソレに近付けば、バルキット信徒はポーズをそのままに口を開く。

 

「見ない同志……あぁ外部入信者か、早速で悪いがどうだ?」

 

 何に対してのどうだ? なのか開口一番に問われた問い掛けにスヴェンは眉を歪め、ミアは愛想笑いを浮かべたまま硬直した。

 

「……そうか、なるほど! この片膝を絶妙な高さまで上げ、翼のように広げた両腕のバランスが素晴らし過ぎて言葉も出ない! そういうことか!」

 

 問い掛けとは一体何だったのか、そもそも問い掛けとは? スヴェンが一人で自分勝手に解釈と結論を出したバルキット信徒に困惑を浮かべる中、

 

「えっと私達は外部入信者なので、その素晴らしいポーズ? って何ですか?」

 

 ミアがポーズに付いて質問した。

 そんなミアにバルキットは狂気、歓喜、熱意、疑念、幸福、様々な感情が乗った形容し難い表情を浮かべ、

 

「これは我らの魔力を神聖な舞と共に偉大なる邪神様に捧げる崇高なる儀式だ! だが、我々の魔力だけでは忌々しいアトラスの封印から解放することは叶わない、叶わないんだ! あぁ! 邪神様よ! どうか我々の舞で狂気と怒りを鎮めるたまえ!」

 

 信徒の集団と共に足元に刻まれた魔法陣によって、魔力を空へ放出しながら踊り始めた。

 バルキット信徒の狂気的な一面は警戒するに値するが、疑問も一つだけ芽生える。

 邪神は狂気と怒りを放ってるのか? それとも意味不明な踊りに対する単純な怒りなのかはスヴェンには理解が及ばない。

 それに早急に指示を受けこの場から立ち去りたいところだが、バルキット信徒達が儀式を終えるまでまともに会話することも叶いそうに無い。 

 スヴェンとミアは少し離れた所で一心不乱に乱さず、踊り続けるバルキット信徒達を虚無感を胸に静かに観察した。

 踊りとポーズ事態は意味不明で共感出来なければ胸に訴えかける感動も何も無い。

 

 そんな踊りを見せ続けられること、二時間が経過。

 

 汗を額に流し、やり切った達成感と充実感を宿した笑みを互いに向け合う信徒達にスヴェンとミアは顔を見合わせ、彼らに握手を送る。

 

「入信したばかりで上手く言えないが、邪神様もさぞお喜びになったんじゃねえか?」

 

「私、こんなに一途で情熱的な儀式はじめて見ました!」

 

 スヴェンとミアの言葉にバルキット信徒はトサカヘアを掻き、

 

「そ、そんなに褒めるなよ。……あーそうだ、新人という事は指示を受けに来たんだろ?」

 

 こちらの目的を察した様子で顎に指を添え考え込む。

 

「うーん、巡回人数は足りてる。魔族に不審な様子も見られない変わらない日常……かといって二人を中層に移すには信頼できない」

 

 バルキット信徒は改めてこちらを観察するような眼差しで、下から上まで舐め回すように見詰めーーやがて得心したのか、

 

「男の方は戦闘慣れ、いや戦闘に向けて鍛錬された肉体と筋力、隙も無い。少女の方は鮮麗された大量の魔力、しかし穢れを知らない綺麗な眼をしてる点で言えば殺しの経験は無い」

 

「であれば適切な仕事は何か……男が戦闘担当、少女は支援担当と見ればバランスが取れた二人組。かといって新人を戦場に送り出す真似はできないなぁ」

 

 バルキット信徒の観察眼にスヴェンは一瞬、内心に浮かんだ彼に対する警戒心を奥底に隠す。

 アトラス教会の司祭といい、教会に属する者は観察眼に優れているのか。

 困惑を浮かべるミアを他所にスヴェンは、バルキット信徒の判断を静かに待つ。

 他の信徒がごくりっと喉を鳴らす中、バルキット信徒は突如眼を見開き、

 

「決めた! 二人は俺と一緒に来てもらう!」

 

 信徒集団の歓声が広場に響き渡る。

 そんな中、スヴェンとミアの二人は歩き出すバルキット信徒に付いて行くことに。

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