傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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15-3.始末

 スヴェンとミアの二人はバルキット信徒に連れられ、歓楽街の賭博場へ来ていた。

 賭博場の中心は十字架に磔にされた邪神教団の男信徒、その側で身体中に包帯を巻き床に座り込む女魔族の荒い息遣いが誰も居ない影響か嫌に響き渡る。

 そんな光景にミアは眉を歪め、バルキット信徒が十字架の前で足を止めた。

 

「君達にはこの裏切り者の粛清を任せたい」

 

 スヴェンは一瞬だけ女魔族に視線を向け、すぐさま恐怖心に顔を歪める男信徒に移す。

 

 ーーまさか邪神教団内の裏切り者が潜伏組みの魔族と通じていた?

 

 それとも女魔族の方が潜伏組みの裏切り者なのか、いずれにせよ行動を移す前にバルキット信徒に質問しなければならない。

 

「裏切り者? その男は何をしたんだ?」

 

 まずは男信徒に付いて訊ねればバルキット信徒は嘆かわしいっと言わんばかりに顔を大袈裟に手で覆い隠す。

 

「この者は彼女に対して幾度も性的な暴行、肉体的暴行を繰り返した悪漢なのだよ。……全くエルロイ司祭が魔族の一般人に手を出すなとあれほど厳命したと言うのに」

 

 バルキット信徒の言葉もエルロイ司祭の指示もスヴェンとミアにとっては意外でしかなかった。

 これがメルリアの子供達を洗脳し人質に取った者達の一人なのか、リリナの全身の皮膚を削ぎ落とし成り済ましたアイラ司祭と同じ組織の者なのか。

 

「意外だな、魔族も等しく邪神様の生贄に過ぎないと思っていたが……」

 

「……魔族は元々祖に悪魔を持つ混血種だ。人、天使の血が混ざった魔族の魂は邪神様が好む味じゃないんだ」

 

「あー、不純物入りの魂は好まないと?」

 

「そうだ! 何事も純正が一番ということだ! ……他に質問は?」

 

「いや、邪神様の好む味も知れたからな。すぐに実行に移すさ」

 

 スヴェンはナイフを抜き十字架に磔にされた男信徒の首筋に刃を向ける。

 此処で始末するのは簡単だ。だが男に話を聞こうにもバルキット信徒が厄介に他ならない。

 彼はこちらの挙動を見逃さず男信徒を逃すのでは? そんな強い疑念を向けているため下手に動けばミアの身にまで危険が及ぶ。

 優先すべき事項はバルキット信徒の信頼を得ることだ。

 スヴェンは恐怖に引き攣る男信徒の頸動脈にナイフの刃を押し付け、

 

「まっ! 待ってくれよ! 俺は有益な……かふっ!」

 

 男信徒が何かを叫ぶ前にスヴェンは躊躇も慈悲も無く、頸動脈を斬り裂き彼の鮮血が舞う。

 血飛沫の飛沫がローブに付着し、女魔族の頬を汚す。

 女魔族は有り得ない者を見るーー恐怖に歪んだ眼差しで、

 

「ひ、人殺しの悪魔!」

 

 スヴェンに人殺しと叫んだ。

 至極真っ当な反応にスヴェンの心は何も感じる事は無く、バルキット信徒の喝采の拍手が賭博場に響き渡るばかり。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 男信徒の死体を処理し、震える女魔族を自宅に送ったあと。

 

「ご苦労さん、君のおかげで粛清も早く終わった。だが仕事はまだ残ってるんだ、頼まれてくるか?」

 

 まだ他にもやって貰いたい仕事が有るとバルキット信徒に告げられた。

 既に時刻は夕方の十七時で、アウリオンとフィルシス騎士団長の剣戟も落ち着いたのか見物していた信徒達が其々の持ち場に戻る中、背後から悍ましい魔力と金属を引き摺る足音にそこに居た全員の足が一瞬止まった。

 背後に確かに居る存在の吐息にスヴェンが背中のガンバスターに手を伸ばした時、

 

「追跡者は歓楽街に来ないはず……」

 

 バルキット信徒の戸惑いの声が耳に響き渡る。

 その時だった、スヴェンが背後に居る追跡者に視線を向けたのは。

 飛び出し肥大化した右眼球と額の眼球がスヴェン、ミア、バルキット信徒を捉え、肥大化した右腕に掴む血によって汚れた処刑剣と呼ばれる武器を引き摺りーー口元を悍ましく歪めさせた。

 

「たーげ、っと……ばる、き……よそ、……よそ……コロス、殺す、殺す、コロス、ころす、ころ、ころころころころすっ!」

 

 突如狂った雄叫びを叫んだ追跡者が周囲の信徒を蹴散らしながら真っ直ぐこちらに駆け出す。

 スヴェン達は同時に駆け出し、オペラハウスを通り抜け路地に逃げ込む。

 その際、スヴェンは曲がり角を曲がる直前にスタングレネードを取り出し魔力を流し込んだそれを追跡者に放り投げた。

 曲がり角から強烈な閃光と追跡者の呻き声が響く中、スヴェンは路地に視線を巡らせる。

 オペラハウスの裏口を通るか、このまま一本道の路地を通るか。

 前者はまだ追跡者を撒ける可能性が有る。逆に後者は土地勘が無い状況で一本道を直進し続けるのは得策とは言えない。

 それにオペラハウスに逃げ込んだ所で狭い場所で戦闘を仕入れることは変わらない。

 それなら第三の選択として、スヴェンは建物の屋根を見上げる。

 建物の屋根伝いに移動を繰り返す方法だ。それで撒けるとも限らないが、

 

「屋根に跳び上がるぞ」

 

 スヴェンはミアを抱え床を蹴り、一気に近場の屋根に跳び上がる。

 それにバルキット信徒は迷うことなく屋根に跳んだ。

 

「全員伏せろ」

 

 ミアとバルキット信徒にそれだけ告げ、スヴェンは僅かに屋根から覗き込む。

 すると追跡者はもうスタングレネードの効果が切れたのか、処刑剣の刃を床に引き摺りながら路地に入り込んだ。

 誰も居ない路地に追跡者は肥大化した右眼を動かす中、額の眼球がスヴェン達の潜む屋根を見上げていた。

 

 ーー気付かれた。

 

 スヴェンはミアに手振りで気付かれたことを告げ、近場の屋根に向かって駆け出しては飛び移る。

 そこにやはりしっかりと付いて来るバルキット信徒に、スヴェンとミアは走りながら問うた。

 

「アンタ、一体なにをやらかしたんだ?」

 

「……邪神教団も一枚岩じゃないってことだ」

 

 組織内部の抗争が巨城都市で行われているとすれば、上手く利用できたなら魔王救出に一歩近付く可能性を秘めている。

 

「私達は外部入信者だから狙われるのは当然ですけど、裏切り者ならあっちの屋根に行った方が良くないですか?」

 

 元々邪神教団に敵意を持つミアはバルキット信徒を切り捨てる方向で、彼に広々とした屋根を視線で示す。

 彼女の選択も間違いで無ければ、追跡者から逃れる為に分断するのも有りだ。

 

「有益な情報、魔王救出に役立つ有益な情報が有る」

 

「……さっきアンタは裏切り者を粛清させたな。そんなアンタが命乞いってか?」

 

「奴は最下層に潜む内通者と通じてるからな……口封じは必要だ」

 

 もしそれが本当なら潜伏組みの内情は既に邪神教団に伝わっている可能性の方が高い。

 同時に魔族の中から内通者を探し出し始末してる余裕も無い。

 

「それに中層に行くには指導者の魔力認識が必要だ……どうする? 君達にとって有益な存在だと自負してるが?」

 

 如何あってもバルキット信徒を追跡者から護らなければ中層には行けないらしい。

 彼が本当にこちら側ならの話しだが。

 

「アンタは俺とミアをずっと観察していた、それにアンタが放つ狂気は信用できねぇな」

 

「……信徒2人が行方不明になった状態で外部入信者が訊ねてくれば疑いもする。それに……邪神様の放つ狂気は長く触れ続けると精神汚染を引き起こすんだ」

 

 彼の狂気が精神汚染によるものなのか、確証は持てないがーー屋根に登り、手当たり次第に施設を破壊しだす追跡者の姿にスヴェンはため息を吐く。

 

「被害額が跳ね上がる前に奴を始末してぇ。何か有益な方法は有るか?」

 

「ちょ! 信じるの!?」

 

 確かにバルキット信徒は信用に値しないが、中層へ進むために彼の魔力認識が必要なら用済みになったタイミングて始末すれば良い。

 スヴェンはバルキット信徒をいずれ切り捨てる方針を描きながらガンバスターを引き抜いた。

 そして槍を構えたバルキット信徒が隣りに立ち並ぶ。

 

「あーもう! 怪我は治療してあげるから死なないでよね!」

 

「……彼女は優しいな。普通邪神教団の言葉に耳を貸す者は居ないってのに」

 

「俺達なりの事情は既に知ってんだろ? ってかどんだけ発覚してんだよ」

 

「いや、君達のことは俺だけが知っている」

 

「なるほど、ならアンタは一体何の為に俺達に手を貸す?」

 

「歪んでしまった邪神教団の解放さ」

 

 スヴェンは今まで接触した邪神教団、そのほんの一部の側面しか知らない。

 追跡者が迫り来る中、スヴェンはバルキット信徒から視線を外しーー追跡者に駆け出した。

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