傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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15-4.追跡者

 無防備な追跡者の首筋にスヴェンが横薙ぎに払ったガンバスターの刃が一閃を描く。

 すぐさま刃から伝わる異様に硬い感触、刃から散る火花にスヴェンの眉が歪む。

 首筋が硬過ぎて刃が通らない。そんな理屈は相手がモンスターやラウルのような硬化魔法なら説明も付くが、少なくとも追跡者に魔力を使用した形跡が無い!

 追跡者が肥大化した右腕で処刑剣を持ち上げ、スヴェンが自身のガンバスターを引き戻し後方に退がった瞬間、追跡者の左腕がスヴェン目掛けて伸びる。

 間接や骨などお構い無しに弾力性の高いゴムのように伸ばされた腕をスヴェンは咄嗟に斬り払うことで、追跡者の左腕を両断した。

 屋根にどさりっと落ちた左腕が蠢き、追跡者の左腕断面図が蠢きだす。

 

「ひっ! いくら何でもおかしすぎるよ!」

 

 ミアの叫び声に槍を構えたバルキット信徒が静かに語り出す。

 

「追跡者共は全員、邪神様の魔力と悪魔の肉片を身体に植え付けられてるんだ。異常な肉体、殺しても死なない不死性を兼ね備えた拠点防衛用信徒が彼らさ」

 

「……裏切り者の処刑人も兼ねてんだろ」

 

 硬い上に左腕が伸びる厄介な存在が不死性も備えているなど何の冗談だろうか?

 しかしバルキット信徒の言う通り、切断した左腕が生え始めている所を見るに追跡者が不死なのは事実のようだ。

 同時に首筋は刃が通らないが、伸びた左腕は簡単に切断できた。

 通じる箇所を見極めて攻め込む他にない。そう判断したスヴェンは、先程から処刑剣を持ち上げた状態で静止する追跡者に違和感を覚える。

 なぜ構えを解くこともせずそのまま姿勢を維持しているのか。それとも肉体改造の影響で知能が低下してるとでとも言うのか。

 スヴェンの疑問はすぐさま解消されることになる。

 追跡者の禍々しい魔力が処刑剣に集い、彼が凶悪に口元を歪め笑う姿に、

 

「全員離れろ!」

 

 スヴェンの警告にバルキット信徒とミアがその場から距離を離すーー瞬間、追跡者は禍々しい魔力を纏った処刑剣から混沌に染まった巨大な衝撃波を撃ち出した。

 空気を震撼させながら屋根を破壊し、魔力の圧力だけで周辺の建物に亀裂が走る中、スヴェンはその場で高く跳躍することで巨大な衝撃波を避ける。

 対象を失った巨大な衝撃波が歓楽街の賭博場へ飛びーー巨大な衝撃波に呑まれた賭博場が跡形も無く消し飛んだ。

 スヴェンは無事な屋根に着地と同時に、周囲に視線を巡らせーーミアとバルキット信徒の無事な姿に小さく安堵の息を漏らす。そしてアシュナが巻き込まれていないか探るも、彼女も既に退避していたようで離れた位置から無事な姿を陰から見せていた。

 

 ーーそれにしてもとんでもねぇ化け物を野放しにしやがって、連中は馬鹿かっ!?

 

 悪態を吐きながら追跡者が放った一撃に巻き込まれた信徒達の姿にスヴェンは思わずため息を吐く。

 自業自得と吐き捨てるのは簡単だ。ただこのままでは追跡者による被害も甚大なのは明白だ。

 スヴェンは多少なりとも信徒を戦力として打つけることを考え、口を開き掛かるも。

 

「冗談じゃない! 追跡者に巻き込まれるぐらいならっ!」

 

「裏切り者を助ける義理など無い!」

 

「戦闘参加よりも区画に防御結界を発動させる方が先決だ!」

 

「ここから近い下層街の住民避難を!」

 

 逃げ出す信徒も居れば、占領している負目からかそれともエルロイ司祭の指示か、区画に防御結界を唱える者、下層街の魔族の避難へ動き出す者と別れた。

 下層の被害が抑えられるならそれはそれで良いと判断したスヴェンはガンバスターに魔力を流し込む。

 同時にバルキット信徒が槍に魔力を纏わせ、

 

「貫通力ならどうだ?」

 

 槍の矛先から鋭く鋭利な衝撃波を繰り出した。

 鋭利な衝撃波が追跡者の右肩を穿ち、傷口から黒ずんだ血が流れ出す。

 だがバルキット信徒が付けた傷もすぐに塞がり、突如として追跡者がスヴェンとバルキット信徒の視界から消える。

 スヴェンの視界に、空気を足場に高速移動で迫る追跡者が映り込む。

 アンバランスな異形とは思えない程の高速移動にスヴェンは縮地でその場を離れ、スヴェンが先程まで立っていた場所に処刑剣の刃が走る。

 追跡者の背後に回り込んだスヴェンは、ガンバスターの銃口を向け引き金を引いた。

 魔力を纏った.600LRマグナム弾が氷を纏い、追跡者の背中から腹部にかけて穿つ。屋根に心臓の肉片と骨の破片が飛散し、更に追跡者の風穴から凍り付き、肉体が徐々に凍りに包まれる。

 

「……心臓はぶち抜いた筈だが、やっぱ死なねぇのか」

 

 追跡者の風穴からミアとバルキット信徒の姿が見えるが、それでも凍り付きながらなお追跡者の筋肉、血液は脈動を繰り返し心臓が徐々に再構築され始めている。

 殺せないならこれ以上の戦闘は無意味だ。そう判断したスヴェンはハンドグレネードを取り出しては魔力を流し込む。

 そしてハンドグレネードを追跡者の身体に埋め込み、ミアとバルキット信徒と共に歓楽街から離脱を開始した。

 

 ーー爆音と追跡者の憤怒の叫び声を背後に三人は中層へ続く大階段を目指す。

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