傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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15-6.浮上する疑惑

 スヴェンとミアが中層に到着した頃、レーナは技術開発研究室。そこで結界に封じ込められ圧死を繰り返すアンノウンに深いため息を零す。

 フェルシオンで運用された人工のモンスターが誰かの魔法を受けて突如復活した。それを事前に察知したクルシュナ副所長の指示によって未然に防がれたが、もしも察知できなければ少なくない混乱がエルリア各地を襲っていた。

 アンノウンによって決して少なくない被害報告も受けている。だから哀れとは思わないが、レーナは目の前のモンスターに複雑な眼差しを向けた。

 

「貴方達を産み出したのは誰なのかしら?」

 

 モンスターに言葉など通じない。いや、モンスターは言語を理解しているが対話など望まない星が生み出した自浄作用だ。

 滅ぼすべき人類の言葉に耳を貸さないのも当然と言えば当然のこと。それだけ神々も人類も封神戦争で星を大いに傷付けたのだ。

 ただ人工的に産み出されたアンノウンはどうか? 彼らは一体何のために産み出されたというのか。

 

「クルシュナ、アンノウンを産み出した人物に付いて何か分かったのかしら?」

 

 側でアンノウンの経過観察をしていたクルシュナは一度視線をこちらに向け、答えるべきか迷ったのかすぐに視線を元に戻した。

 きっと自身にとって良くない報告なのだろう。それでも王家の娘として識り対応する必要が有る。それが例え自国民の仕業であったとしても。

 

「答えなさい」

 

 厳格に静かな声で問えばクルシュナは諦めたように身体をこちらに向ける。

 そして彼は少しだけ息を吸い込み、額に僅かな汗を滲ませながら緊張した様子で口を動かした。

 

「アンノウンから検出された魔力残滓から該当者を割り出すのは実に簡単な事でしたよ。しかし、簡単ながら我々は連中の思惑に嵌ったのではないか? そう感じざる負えないのですよ」

 

 つまりアンノウンの秘密を探った時点で疑心を植え付けられた。 

 クルシュナの口ぶりからそう判断したレーナはそれでも答えを待つ。

 

「……先ず最初にアンノウンから検出された魔力残滓を調べましたところーーエルロイ司祭の物が検出されたのです」

 

 エルロイ司祭の名を聴いたレーナは驚くよりも冷静に思考を巡らせた。

 スヴェンはフェルシオンで討伐したアイラ司祭がアンノウンの存在を認知していなかったと言っていた。

 だからアンノウンを放ったのは、邪神教団とゴスペルの右足を仲介した仲介人なのだとばかり思っていたが実は事はそう単純では無かったようだ。

 アンノウンを放った張本人がエルロイ司祭なら、なぜ彼はアイラ司祭に情報共有をしなかったのか。

 なぜ取引相手はリリナの死体を持参し、ゴスペルに指示を与えたのか。

 

 ーーまさか取引相手とエルロイ司祭が同一人物?

 

 嫌な推測だがフェルシオンに駐屯する魔法騎士団からゴスペルとの取引に関わった取引相手だけを捕えることは叶わず、人身売買に関わっていた仲介業者だけが捕まった。

 おかげでフェルシオン内部の清掃はかなり進んだのは事実だが、もしもエルロイ司祭がアイラ司祭と同じあるいは変装や変身系の魔法が使えたら?

 

「……エルロイ司祭は封神戦争から存在してる邪神教団の司祭ということは知ってるわ。だから国内の誰かに扮しても可笑しくはないのよね」

 

 それだけ大昔の時代から生きる彼なら歴史の闇に葬られた魔法を知っていても可笑しくは無い。

 

「……えぇ、あなた様の言う通りエルロイ司祭はエルリア国民に成り替わり平然と何度もエルリア城のみならず各地を訪れているはずですな」

 

「かなり自由に行動できて入城も出来る。可能性として高いのは騎士団の誰か、執政官、商人。その中で一番可能性が高いのは……」

 

 二十年前にフィル湖畔で発見された男の子の死体と見付からない犯人。男の子の素性は今でも不明のまま、いや誰も何処の誰の子が亡くなったのか知らないのだ。

 それがもしもアイラ司祭と同じ魔法を使用していれば、犯人は二十年の間誰にも悟られず子として生きていた筈だ。

 特に言い上げた中で尤も自由に動けるのは商人ぐらいなもので。それにクルシュナも気付いていた様子で語る。

 

「商人でしょうな。それもかなりの規模を誇る商会……しかし解せぬのはいつでも姫様を毒殺できた機会も有ったはず」

 

 敢えて当該人物の名を伏せる形で告げられた事実にレーナは毅然とした態度で眼を瞑り、ある人物の顔を思い浮かべる。

 その人物とは別に十一年前にエルリア城を襲撃した司祭の顔も浮かぶ。

 彼の顔が頭に浮かぶ度、既に消えた筈の腹部が痛む。

 

 ーー彼のことよりも今は思考を戻すべきね。

 

 レーナは浮かんだ顔を振り払うことで思考を元に戻す。

 問題はなぜ暗殺を仕掛けなかったのかだ。それとも仕掛けるべき時期では無かったと言うのか。

 

「時期にも寄るわね。お父様が行方不明時期、その時期に私に何か有れば凶星を防ぐ手段が無くなる……丁度10年前と8年前、過去2度に渡り凶星が来てるものね」

 

「えぇ、恐らく凶星落下による大地の崩壊を恐れたのかと。凶星による破壊は星を大いに傷付け、強力なモンスターも大量に生まれ封印の鍵の探索どころでは無くなりますからな」

 

「それだけとは限らないかもしれないけど、エルロイ司祭の思惑を今ここで突き止めてもスヴェンに知らせる方法が無いわ」

 

「そうですな。むしろスヴェン殿にとって不要な情報やもしれませんぞ」

 

 クルシュナの尤もな意見にレーナは頷く。

 確かにスヴェンにとって重要なのは敵の思惑よりもアルディア救出の方だ。

 だからスヴェン達は邪神教団に扮して内部に潜入しているのだが、そこで教団内部に関する情報を得ているかもしれない。

 それに関して彼がどう感じて何を想うのかは判らないが、ロイとエルナは邪神教団は組織として決して一枚岩で無い事を語り、日々誰が枢機卿の座に座るのか一部の司祭同士で争うのも日常茶飯事だったと。

 それに二つの派閥に別れている状態でも有るが、それがスヴェンの行動にメリットを齎すとも限らない。

 救出に立ち塞がる邪神教団とエルロイ司祭、それらを乗り越えて漸くアルディアの救出が果たされる。

 

 ーーもう少しだけど、だからってみんな、無茶だけはしないで。

 

 スヴェン達にも今回の作戦に関わる者達全員が無事に帰還して欲しい。

 レーナは毅然とした態度で居ながら内心では、作戦に関わる全員の無事を祈りながら次の公務に移るのだった。

 ヴェルハイム魔聖国の次はミルディル森林国の問題を解決しなければならない。

 本来ならミルディル王家が解決すべき問題なのだが、なぜ兄と慕った自分が彼と婚約の話が持ち込まれたのか。

 南部の国境線から自国に対してミルディル森林国の兵士が攻め込んだ理由も父から聴かされているが、本当にままならい状況にレーナは深々と息を吐き出した。

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