傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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15-8.ヴェイグの行動

 外周区の民家が集中する西外周区に到着したスヴェンとミアは意気揚々と先導するヴェイグに付いて歩いていた。

 ヴェイグは手近な一軒家に向かいドアに小刻みいいノック音を奏で、

 

「失礼、アルセム商会の者ですが少々お時間よろしいか?」

 

 彼の声にドアが開き若い魔族の男性が顔を覗かせては、こちらの存在に最大限の警戒心と訝しげな視線を向けられる。

 スヴェンとミアは一歩離れた所でヴェイグの行動を観察しているが、やはり魔族にとって邪神教団の変装は余計な警戒心を与えてしまう。

 しかし西外周区にはちらほらと他の信徒の姿も見えるため正体を曝す訳にもいかない。

 

「背後の腐ったナメクジ共が如何してアルセム商会の会長であるあなたと行動を?」

 

「彼らは連中の眼を掻い潜る為に変装させた商会の一員でしてね」

 

 尤もらしい嘘を息を吸うが如く語るヴェイグに、魔族の男性は彼の素性と立場を信頼しているのか何の疑いもせずあっさりと信じてみせた。

 

「そうだったのか!」

 

 これが信頼を積み重ねた結果。傭兵として尤も好ましいく望む信頼関係だが、如何足掻いても人殺しは心の底から受け入れられることは無い。

 

「時に必要な物資は有るかな? 下層の商業区に我が商会が物資を持ち込んでいるので是非とも行ってみると良いですよ」

 

「……毎月あなたはそうやって物資を届けてくれる。これもレーナ様のご指示なのでしょうか?」

 

「いいえ、姫様は関係ありませんよ。魔族との取引が絶たれた状況は商会に損失を与えるのでね、わたしなりの連中に対する嫌がらせと言ったところですよ」

 

「そうですか……このご恩はいずれ!」

 

 そう言って魔族の男性は家族に声を掛け、玄関に鍵を掛けてから家族と共に魔法で姿を消しながら他の魔族に呼びかけ、この地区に住む魔族の殆どが下層に移動して行く。

 姿と気配を完全に隠した魔族の移動に邪神教団は気が付く事なく巡回を続けている。

 如何やら魔族の手馴れた行動に毎月物資が届けられているのは事実のようだ。

 

「アンタの目的はなんだ?」

 

「わたしの目的は交易が絶たれた彼らに必要な物資を届けることさ。……まあ、わたしも商会を経営する人間だ。恩を売れば商談も結び安くなるんだ」

 

 本当にアルセム商会の会長として動いているのか? スヴェンの疑念の眼差しにヴェイグは背中を向けたまま、

 

「……他にも上層と中層から魔族を移すことも目的だがね」

 

 そんな事を馬鹿正直に言って退けた。

 

「……ソイツは何の為にだ?」

 

「わたしの目的のためさ」

 

 ヴェイグの目的か何なのか。そもそもそれはヴェイグとしての目的なのか?

 疑問を浮かべるスヴェンとミアにヴェイグは振り向き、

 

「スヴェン、お前は魔王を解放しに来たんだろ?」

 

 正体を隠す事を辞めたのか、真正面から目的を問われた。

 

「さあ? 観光ついでに解放できりゃあ恩の字だろ」

 

「そう簡単にはいかないさ。何せわたしが2人の前に立ち塞がるのだからな」

 

 そう言い放った時、ヴェイグの顔に亀裂が走る。

 亀裂は全身にまで及びヴェイグの身体を破るように男性とも女性とも判断が付かない顔立ちでいながら、爬虫類染みた瞳がスヴェンとミアを射抜く。

 長い年月で培った経験と技術、研鑽され鍛え込まれた魔力が溢れ出す。

 これがヴェイグの正体、エルロイ司祭としての姿ーー圧倒的な存在感と魔力にミアは戦慄を浮かべ、咄嗟に杖を握り込んだ。

 圧倒的な威圧と魔力の差を前にスヴェンは冷や汗を流しながらガンバスターを構える。

 ヴェイグの正体がエルロイ司祭だったのも想定の範囲内で、敵と知らずに酒を酌み交わしたのも傭兵として常に有ることだ。

 だからスヴェンは裏切りや怒りの念を一切浮かべず、排除すべき敵と認識したうえでエルロイ司祭に奥底にしまった殺気を向けた。

 

「……あぁ、この殺気。数多の人間を平然と何の躊躇いも、情けも容赦も無く殺して来た者が放つ殺気だ」

 

 ヴェイグの皮を脱いだエルロイ司祭は武器を構えず、

 

「だからこそ言おう。わたしと手を組まないか?」

 

 ただ右手を差し伸ばした。何の為に彼と手を組むのか、傭兵を口説くには最低点の口説き文句だ。

 だからこそスヴェンの答えも明白だった。ガンバスターの一閃がエルロイ司祭の差し出した腕に走る。

 ごとり、エルロイ司祭の右腕が血飛沫を噴き出しなから床に落ちた。

 エルロイ司祭は不老不死だ。今のあいさつも彼にとって数万年も受け続けた傷の中で些細なものでしかないのだろう。

 現にエルロイ司祭の右腕は既に再生を終え、彼は笑みまで浮かべていた。

 

「傭兵はお前のように堅いのか?」

 

「アンタは俺にタダ手を組む事を提案しただけだ。そいつは交渉の内に入らねえよ」

 

「そうか……ああ安心したまえ、こうして互いの素性や正体を知った所で魔王を砕くような真似はしないさ」

 

「……アンタが大人しく解放すりゃあ済む話だろ」

 

「そうですよ、魔王様を解放して大人しく拠点に帰ってくださいよ!」

 

「そういう訳にはいかないんだ。目の前に封印の鍵も有れば、アイラ司祭の仇討ちも必要だろ?」

 

「……引く理由はねぇってことだな。だがアンタはどうやってアンノウンを産み出した?」

 

「直球だな。……アンノウンに関しては言えば邪神様から授かった魔法の一種さ」

 

 フェルシオンの町中でアンノウンを放ち、歓楽街で何食わぬ顔で遭遇したヴェイグも中々の外道だ。

 彼は何食わぬ顔でゴスペルの取引相手として接触していた。

 そこでヴェイグの姿で行いゴスペルの右足、グラン達を呪いで証拠隠滅の為に葬った。

 その傍らでリリナの死体をアイラ司祭に提供しつつ、アンノウンに関する情報をアイラ司祭に与えず、自ら放ったアンノウンを始末する事で疑いの眼を交わしたのだ。

 

「……ヴェイグさんの正体がエルロイ司祭なら、フェルシオンであなたが行っていた商談って」

 

「当然邪神様の供物に必要な取引。まあ、あの町の港でスヴェンに語った商談の失敗も事実さ」

 

「ソイツはアルセム商会の立場で取引した商談だろ……いや、そもそもアルセム商会も邪神教団の一部ってことか?」

 

「いいや、彼らは何も知らない。前会長の息子が野盗に誘拐され殺害されたことさえな」

 

「……アンタは偶然見付けた死体を利用したと?」

 

 そう問えばエルロイ司祭はどこか哀しみを帯びた眼差しで、

 

「死にゆく子に『家族を悲しませたくない』なんて懇願されてはね」

 

 非常に手短では有るが、二十年前のフィル湖畔で発見された死体の真相を語った。

 

「わたしは長く人の成長を見続けて来たが、やはり邪神の瘴気が渦巻く奈落の底とは違って外の世界の人々は美しい」

 

「じゃああなたはその子の為にアルセム商会の経営を?」

 

「むろん計画に利用するためでも有ったさ。……いや、これ以上の問答は魔王の間で行うとしよう」

 

 そう言ってエルロイ司祭は屋根に飛び退き、

 

「さあ! 敬虔なる邪神様の信徒よ! 魔王の安全を対価にわたしに従う魔族よ! ここに侵入者が居るぞ!」

 

 邪神教団にこちらの正体を告げるために大声で叫んだ。

 同時に集団が駆け付ける地響き似た足音、金属を引き摺る音が耳をつんざくように響き渡った。

 

「スヴェン、ミア。魔王の間で待っているよ」

 

 それだけ言い残したエルロイ司祭が異空間を開き、その中に歩き進んだ。

 スヴェンが彼を逃すまいとガンバスターの銃口から.600LRマグナム弾を撃つもーー銃弾が届くよりも先に異空間が閉じてしまう。

 

「ど、如何するの!?」

 

 焦るミアにスヴェンはガンバスターを片手に、

 

「潜入ってのは存外上手くいかねぇもんさ。ならやる事は一つだろ」

 

 フードはもう不要と言わんばかりに脱ぎ捨て歩き出す。

 そして民家の脇から踊り出す信徒を出会い頭に斬り裂き、重なる信徒の集団に射撃を繰り出した。

 一発の.600LRマグナム弾が十人の信徒の心臓を貫き、スヴェンは足を止めずクロミスリル製のナイフを引き抜き、

 

「こっ……」

 

 信徒が叫ぶ前に投擲したナイフが頭部を貫く。

 西外周区に信徒の死体が転がり、彼等の血肉が巨城都市の床を穢す。

 

「まさか、1人で邪神教団を全滅させよって言うの?」

 

「んな無謀な事はしねぇよ。……なあミア? 集団の戦意を砕くには何が手っ取り早いと思う?」

 

「えっと……圧倒的な戦力差、膨大な魔力による威圧、強力な魔法による一撃。でもスヴェンさんはどれも満たせないよ?」

 

「人ってのは死を恐れるが、邪神教団は死を好む。なら連中の邪神に対する信仰心を恐怖で塗り替えればいい」

 

「スヴェンさん、簡単に言うけどそれがどれだけ難しいのか知ってるよね? それともその楽しげな表情が原因なの?」

 

 確かにスヴェンは生を実感し笑っていた。

 本来居るべき場所に戻れた高揚感がスヴェンの胸の中を駆け巡る。

 だが、それでもスヴェンの感情が大きく動くことも無ければ思考に変化を齎すことも無い。

 居て当たり前の家に帰宅した。そんな当たり前の感覚にスヴェンは片手間で槍を手に迫る信徒を斬り裂く。

 

「手遅れかも知れねぇが、アンタにとっても辛い光景が続く、だからアシュナと合流して構わねえんだぞ?」

 

「私の正体もバレてるんだからあの子と合流したら隠密も保てないでしょ」

 

 尤もな意見にスヴェンは息を吐き、信徒が横並びに魔法陣を形成する光景が映り込む。

 進むべき先に魔法陣を警察する信徒達の姿にスヴェンは、彼等に殺意を宿した鋭い眼孔で睨んだ。

 

「「「「っぁ!?」」」」

 

 自身が無慈悲に無惨に殺される光景が脳裏に浮かび、戦慄した信徒は精神力と集中力を乱しーー魔法陣が離散していく。

 スヴェンはそんな光景にミアを脇に抱え、足を止めずガンバスターを片手に走り出した。

 徐々に加速を加えながら迫るスヴェンに信徒は震えて動けず、二人が通り過ぎるまでその場からしばらく動くことが叶わなかった。

 

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