傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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15-10.迫る対峙の時

 フィルシス騎士団長と斬り結んでいたアウリオンの頭の中に声が響き渡る。

 

「(大至急戻って来い)」

 

 エルロイ司祭の指示にアウリオンは眉を歪め、その様子から察したのかフィルシス騎士団長が自身の剣を鞘に納めた。

 

「あーあ、せっかく乗ってきたところだったのに」

 

 残念そうな表情に何処か幼さも感じるが、それは彼女のまだあどけなさを残した顔立ちが原因か。

 アウリオンは目の前の女性に対し軽く頭を下げ、

 

「この続きはいずれ」

 

 翼を羽ばたかせ空を舞う。

 夏の日差しと乾いた風がアウリオンの赤髪を撫でる。

 巨城都市エルデオンの上層に向かう道中、アウリオンは自身の両腕を襲う痺れに眉を歪める。

 遅れてやってきた腕の痺れ、それほど彼女の繰り出す一撃は非常に重く力のこもったものだった。

 何気ない乱撃から繰り出される剣技とは思えないほどに。それに応える為にもアウリオンもまた自身の磨き上げた剣技を繰り出したのだが。

 邪神教団の眼を惹く為にとはいえ、お互いに熱中し過ぎた。

 全力、本気までとは行かないが魔法まで加わればどうなっていたことか。

 そこまで行けばもう演技の範疇を越えそうだ。

 アウリオンは両腕を2、3度握り直しながら飛行速度を上げる。

 やがて居城都市の外周区を一望しながら目的の場所まで飛ぶ。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 上層に位置する魔王城の空中庭園に降り立ったアウリオンにリンが駆け寄り、

 

「旦那もよくあんなのに付き合えるよね」

 

 長距離狙撃魔法を打ち返された影響か、リンは未だフィルシス騎士団長に怯えた様子でそんなことを告げて来た。

 

「そうでもしなければ意味が無いだろ。……いや、それよりもリン、中層の外周区を見たか?」

 

 此処に来る途中で眼にした信徒の死体に埋まった中層の外周区。

 それをやったのはスヴェンを置いて他に居ないだろうが、それを意味するところはつまり。

 

「スヴェンのヤツがミスを犯したのかな? それで仕方なく暴れ回ったとか」

 

 やけにスヴェンに対して冷ややかな反応を見せるリンに、なぜそんな態度を取るのか僅かに思考を巡らせる。

 思い当たる節が有るとすれば、やはり初対面時の戦闘だ。

 それ以外にスヴェンとリンが接触したのは一度だけ。レヴィと偽名を名乗るレーナ姫を交えた情報提供時だ。

 だが、今はエルロイ司祭から緊急の呼び出しも受けている。此処でリンの不満に付き合う時間は無い。

 

「……慎重なスヴェンがそう簡単に正体がバレるとは思えないが、今はエルロイの所に行くのが先決だ」

 

 状況的に言えば与えられる指示はろくなものでは無いだろう。

 それでもスヴェンとは事前にこうなることを見越した取り決めをしている。

 アウリオンが空中庭園を歩き出すと、

 

「状況的に考えて恐らくスヴェンの始末だと思うけど……」

 

 今にも消えてしまいそうなリンの不安に染まった声に足が止まる。

 

「そんなに不安に思う事も無い」

 

「いや、だって旦那が本気出したらスヴェンが死んじゃうよ」

 

 それは無いと断言できた。いくらこちらが殺す気で挑もうが、スヴェンを殺し切るのは難しいと言えた。

 それを確信したのはフェルシオンの闘技場地下室での戦闘だ。

 そもそもあの時は魔力の扱いに関して不慣れだったが、あれからもう一月以上が経過した。

 その間にスヴェンの身体も自身の魔力に馴染み、武器の問題も解消してるだろう。

 それを抜きにしてもスヴェンという男は、諦めもしなければ折れない。

 

「それは無い。むしろ作戦だからと手を抜けば死ぬのはこっちだ」

 

 それだけ告げればリンは地下室での戦闘を思い出したのか、

 

「……私は間違いなくとどめを刺される状況だったよね」

 

 青褪めた様子で俯いていた。

 彼女とは長い付き合いだ。励ますべきだが、その前にリンは呼吸を繰り返し、魔王様の為にと覚悟を宿した眼差しで頷いて見せる。

 

 ーー元々リンは後衛、スヴェンと直接対峙するのは俺だけで済む。

 

 スヴェンは魔族、魔王救出とレーナの依頼、そして魔族と協力関係を結ぶ関係上、魔族を殺害する訳にはいかなかった。

 しかし、今回は違う。既にエルロイ司祭の眼が届く場所で対峙する戦闘は演技では眼を欺くことは叶わないだろう。

 どちらに転んでもアルディアが無事に解放されるならそれで良い。

 アウリオンはどちらかの死を想定しながらエルロイ司祭が待つ魔王の間に向かう。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 アウリオンとリンの二人は魔王アルディアを封じ込めた氷柱の前で我が物顔で座り込むエルロイ司祭に視線を向ける。

 今まで無いほどに愉しげな笑みを浮かべるエルロイ司祭に薄寒さを感じながら問う。

 

「急に呼び出した要件はなんだ?」

 

「巨城都市内でスヴェンとミアと会った」

 

 笑みを浮かべながら愉しそうに語り出す彼にアウリオンとリンは戦慄した。

 なぜ、いつ生存を気付かれた? そもそも接触する機会が有った? フィルシス騎士団長と対峙してる時はエルロイ司祭の居所は掴めないが、上層から監視していたリンは別だ。

 

「いつ会ったのよ? ずっと魔王城に居たんじゃないの? それとも転移魔法でわざわざ会いに行ったとか」

 

 エルロイ司祭が魔王城の外に出た所を見ていない。そもそも転移魔法の発動は使用する魔力量から判る。

 いや、根本的に違う。エルロイ司祭は空間の孔を開き空間の孔同士を繋げる魔法ーー空間魔法を得意としている。

 彼程の熟練者なら魔法の発動を悟らせないことも可能だ。

 思考を巡らせるアウリオンを他所にエルロイ司祭は愉快そうに答えた。

 

「いいや、わたしはエルリア国内のアンノウンを蘇生したあと一度も魔王城へ戻って居ないさ」

 

「えっ? サボりついでに都市を歩いてたら偶然発見とかそんなアホな理由で……?」

 

「スヴェンは警戒心が非常に強い男だ。わたしがわたしのまま出向けば、先ず気配で悟られるだろう」

 

 確かにスヴェンは気配、視線、音、殺気に非常に敏感だ。その精度はリンの透明化魔法による隠密も悟るほどに。

 だからこそ解せない。どうやって警戒心の強いスヴェンと接触したのか。

 

「実はわたしはアルセム商会の会長でも有るのさ」

 

 それが答えと言わんばかりに言い放つエルロイ司祭にアウリオンは、なぜスヴェンの潜入がこの男に露見したのかに得心がいく。

 アルセム商会の会長ーーヴェイグの姿で接触を続けて行く形で彼の警戒心を削いでいた。

 なら何故、フェルシオンで真っ先にスヴェンを始末し封印の鍵を回収しなかったのか。

 その時は単に気付いていなかった。それならジルニアまでアンドウエリカを封印の鍵所持候補として追ったことに一応の説明は付く。

 知りながら敢えて封印の鍵の追撃を辞めたという可能性も有るがーーこの男にそうする意味が有るのか?

 いずれにせよエルロイ司祭の思惑に付き合う必要は無いと判断したアウリオンは心を無にして、

 

「スヴェンという男と知り合いなのは理解した。それで俺達の任務はスヴェンの殺害か?」

 

 エルロイ司祭の指示を仰いだ。

 

「あぁ、殺して来い。……無いとは思うが手加減するなよ」

 

「魔王様の安全を考えれば異界人相手に手心など加えない」

 

 それだけエルロイ司祭に告げたアウリオンとリンはそれぞれの得物を片手に魔王城の入り口に向かう。

 

 ーー彼なら様々な侵入ルートから内部に入り込みそうでは有るが……。

 

 スヴェンとミアを迎え討つために二人が選ぶであろう場所に足を運ぶ。

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