傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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第十六章 氷結の魔王解放戦
16-1.上層の魔王城


 上層の北外周区に到着したスヴェンとミアの二人は、各階層から響き渡る戦闘音に僅かばりに視線を向けた。

 

「潜伏していたアトラス教会が動き出したか」

 

「そうみたいだね……1人だけ見逃したけど、それはどうしてなの?」

 

 若い信徒の一人が恐怖に呑み込まれて戦意を消失していた。瞳は絶望に染まり、理不尽な光景と地獄を前に砕け散った意志ーー本来なら問答無用で殺すところだったが、背後から複数の気配を感じたから移動を優先させたに過ぎない。

 それにどの道、アトラス教会が動いたとなればあの信徒は運が良ければ生き延びるか、そのまま死ぬかのどちらかだ。

 

「戦闘に時間をかけ過ぎたからな」

 

「……そっか。それで何処から魔王城に侵入するの?」

 

 事前情報によれば上層には魔王城の入り口、上階のテラス及び空中庭園、城外部の城柱から潜入可能だ。

 あとは目指すべき魔王の間は魔王城の下層エントランスホールの最奥に位置している。

 最短距離を選ぶなら入り口から入るべきだが、おそらくそこには見張りも居るだろう。

 それに正体が敵に露見した以上、何処かでアウリオンとリンと遭遇すれば戦闘は避けられない。

 いや、おそらくエルロイ司祭によって既に命令が出されていると考えた方が良いだろう。それならきっとアウリオンとの戦闘は何処を選ぼうとも避けられない予感が有る。

 それを踏まえた上で問題は何処から潜入すべきかだが、スヴェンは近場に在る城柱に視線を向ける。

 そこが魔王城の最上階まで伸びている。その先には窓も在るため城の屋上に続く階段辺りに続いてるのだろう。

 

「外周区の城柱……丁度あそこに良い侵入口が有るだろ?」

 

「お〜結構高いねぇ……本気で言ってるのかな」

 

「アンタを抱えながら壁面を駆け上がっても良い」

 

 その方が無駄な体力をミアに使わせる必要も無ければ、命綱無しの状況を考慮したとしても比較安全とも言える。

 しかし、そんな状況をミアは想像したのか不満気な表情を向けて来た。

 何か別の手段が有るのか。彼女の意見に耳を傾ければ、

 

「中層の時も思ったけどさ、スヴェンさんって私のこと抱えるの好きなの?」

 

 意見とは程遠い質問をされた。

 中層でミアを抱えた状態で戦闘に入ったのも、効率的に敵陣突破するための行動だ。

 それ以上にわざわざ歳頃の少女を抱える理由など無い。ましてや傭兵が行う戦闘行為によって発生する殺害行為、振り撒かれる鮮血を間近で目撃するのはミアにとって相当精神的な負担を与える。

 

 ーー降ろせなかったのは俺の配慮不足だな。

 

「別にアンタを抱える必要が無いなら触れることもねぇさ。時には抱えて移動した方が速い場合も有るからよ」

 

「確かにスヴェンさんって相当足が速いよ……それこそ視界が追い付かないぐらいにはね」

 

 確かに抱えた状態で戦闘していた時にミアは時折り眼を回していた。

 急激な速度の変化にミアの視界が追い付かないのは無理もないことだ。そもそもあの状況下で悲鳴を叫ばないのは上出来だ。

 スヴェンは城柱に視線を移し、改めてミアに訊ねる。

 

「それで……アンタは自力で登れそうか?」

 

「半分ぐらいなら行けそうだけど、でもやっぱり邪神教団に発見されたら恐いかな」

 

 半分までとは言うが、軽く100メートルを超える城柱の半分を何の装備も無しに登れるだけ上等だ。

 

「やっぱスヴェンさんに抱えて貰った方が速いよね。でも壁面に……壁面に? スヴェンさん、人は壁面を駆け上がれないよ?」

 

 ミアの呟いた疑問はデウス・ウェポンの人類が遥か昔に解決した。

 単純に足の指先で僅かな窪みを掴むように駆け上がる。あるいは足場を蹴上がる、その繰り返しで人類は壁面移動を体得し、それが遺伝子に刻まれ続けることで壁面移動は当たり前の移動方法になって永い年月が経つ。

 

「ミア、デウス・ウェポンの人類は縦にも横にも壁面移動ができんだよ。たまに壁走ってるだろ?」

 

「あ〜言われてみれば……でも壁面って垂直に登るんだよね? 首を痛めそうなんだけど」

 

「まあ、そこは耐えてもらいてぇところなんだが」

 

 空気抵抗で首を痛めたとしてもミアには治療魔法も有る。少々ぞんざいな扱いにはなるがそれも今更なこと。

 スヴェンがミアを抱えるべく近寄るっと。

 

「待って! 責めておんぶでお願い!」

 

 ミアの要求にスヴェンの眉が歪む。

 背中に有って当然の相棒を差し置いてミアを背負うなど、そんな選択肢は最初から存在しない。

 

「却下、俺の背中は相棒専用だ」

 

 丁重にお断りした途端、

 

「アシュナは背負ったのに?」

 

 不服そうに不満を言われてしまった。だからと言って彼女を相棒の代わりに背負うなど不本意極まりない。

 そもそもミアを背中に背負い垂直に登るということは、彼女は落ちないように掴まる必要が有る。

 だが、ここで自身の拘りを貫くほどの猶予も少ないことも確かだ。

 スヴェンは息を吐き、背負ったガンバスターを鞘ごと外し、右手に持ち替える。

 そしてミアに背を向け、

 

「仕方ねえ、しっかり掴まって絶対に離すなよ」

 

 そう告げればミアの細い指先が肩を掴む。

 それだけではミアの握力や筋力を考慮しても容易く振り落とされる。

 

「……死にてえのか? 腕を胸筋辺りまで回して掴め、ついでに両足も使え」

 

「うぇっ!? こ、これだけ密着するのも想像以上に恥ずかしいのに……」

 

 確かに既にミアの吐息が首筋に掛かるほど近いが、意を決したのか。ミアはスヴェンの鎖骨の下に両腕を回し、下丹田辺り両脚で挟んだ。

 

「ど、どう?」

 

「これぐらいなら振り落とされる心配はねぇか……ま、いざっとなれば魔力で身体能力でも強化しておけ」

 

「うん、スヴェンさんの骨を砕くつもりで魔力を活性化させるね」

 

 ミアの冗談とも取れる言葉にスヴェンは口元を吊り上げ、両足に力を込めーー床を足場に城柱まで跳躍した。

 そしてスヴェンはミアを背中に、ガンバスターを片手に城柱の壁面を駆け上がる。

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